[KATARIBE 31833] [HA06N] 小説『泡白兎・4』

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Date: Sun, 19 Oct 2008 00:08:50 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31833] [HA06N] 小説『泡白兎・4』
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2008年10月19日:00時08分50秒
Sub:[HA06N]小説『泡白兎・4』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
傍迷惑にも書いてます。

*********************
小説『泡白兎・4』
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登場人物
--------

 六華(りっか)
  :現世に戻った冬女。本宮尚久宅にて下宿中。
 本宮尚久(もとみや・なおひさ)
  :本宮家の大黒柱、妻を先に無くしている。小池の大学時代からの親友

本文
----
 夜、具合が良くないので食事は、と、断った娘は、朝にもこちらに出てこな
かった。
「ええ……私も、心配で、体温計とかお持ちしたんですけど」
「熱は」
「無いから、ただちょっとしんどいから、と言ってそのまま……」
 部屋に入れてもくれないらしい。

「……ふむ」
 流石にそういう状態の女性の部屋に、入るのには躊躇する。仕事もあるし、
と部屋を出かけた時に。

「すみません……はい、調子悪くて……休みます」
 ぽそぽそと小さな声が聞こえた。
「え、いえ、大丈夫で……すみません。早く治します」
 部屋の隅、電気もつけないまま電話をしている白い姿。ふわりと白いワンピー
スを着込んだ六華が電話をかけている。
 すみません、と、最後に一礼して電話を切り、そして傍らの貯金箱にことん、
と、10円玉を数個入れた。

「六華さん」
「……っ……」
 本当に、気が付いていなかったのだろう。びくり、と、すくんだような顔に
なって、六華は尚久を見やり、おはようございます、と小さな声で言った。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい……」
 小さく頭を下げて、部屋に戻る。いつもと全く違う、ひどく怯えたような動
きだった。
「無理しないで下さいね」
 その後ろから、声をかける。はい、と、小さな返事があった。
 
 具合が悪いとかどうこうよりも、そのらしくなさ、が気になる。尚久は少し
首を傾げ……そして、ふと気が付いて、書斎の中を覗いた。

 倒れる場所にも無く、倒す人も無い筈のスノウドームが。
 静かにぱたりと倒れていた。

           **

「……どうしよう……」
 小さく呟くと、傍らの兎は不思議そうに頭を傾げた。
『何が』
「……なんでもない」

 具合が悪い、というのは、かなり本音である。昨日から寝ようとしても眠れ
ず、目を開くと兎の紅い目がこちらをじっと見ているのだ。
(寝るってことをしないのかな、こいつは)
 内心毒づいている六華をとんと無視して、兎は部屋中をぱたりぱたりと動い
ている。身体に比べて長い足を、扱う様子がどうも不器用そうで、この兎走れ
るのかな、と、六華は思い……そして、はっとした。

「……兎、なのよね」
『そうだ』
「でも、あたしと似ている?」
『そうだ』
「どういうこと?」
『似ているとは似ているということ』
 誤魔化しているのか真剣にそう思っているのか、かなり微妙な言い方では、
ある。
 とりあえず、まともに答える意思が無いことだけははっきりしており……六
華はまたもや溜息をついた。
 だが。

(似てるって……どういうことだろう)

 どんなあやかしなのかは不明だが、その目的がわからない。平穏を与えたい
と言うが、その平穏を与える理由は自分が痛むからだと言う。

(一体どういう)

 自分がこのような姿になったきっかけは、自分が殺され、その目の前に雪兎
があったからである。もし、同じような原因であやかしになったのだとしたら。
(目の前に、この泡のような白い兎が居て……本人は死んだ?)
 それにしては、この兎は
(人間らしさが無い)

『何を考えている』
「……色々とね」
『さみしさを渡さないか』
「だから……まだ考えてるところだってば」
 かなり嘘があるが、この場合そう言うしかない。強気な顔でそう言った六華
を、兎は小首を傾げて見た。
『では、試してみてはどうか?』
「え?」
『お前の過去はとてもとても古くからある。そのうちの一つくらい、消しても
いいのではないか』
「……え、でも」

 一瞬……考える。それでもいいか、と、思い……いやそれでも、とも思う。

「いや、ちょっと待ってほんとに」
 兎は不満そうに黙った。

          **

 昼に、希が持ってきた料理を受け取って、六華はまた扉を閉める。
 彼女のことは良く知らない。けれども彼女に兎が作用しないかどうか、とい
えば。
(そんな危険なことをしたくない)

 結局……自分が手を伸ばさず、諦めたことについて悩むことを、兎は『かな
しみ』と称しているのだろう。
(手なんて)
(伸ばしたりするのは……間違えている)
 咄嗟にそうしか考えられない自分が、曲がっているのか何なのか。
 訳が判らなくなって、六華は布団につっぷした。

 と。

「あの、六華さん、お電話です」
 とんとん、と控えめな音と共に、声がかかる。
「あ、はいっ」
 慌てて飛び上がり、部屋を出る。あちらの電話ですよ、と、希は指差し、す
ぐに離れていった。電話の声を聞かない、という意思表示は、流石にプロのメ
イドさんだけあってきちんとしている……が。
(あれ、誰だろう)
 大慌てで電話に向かったので、多分希としても言う隙がなかったのだろう。
 とりあえず、受話器を取り上げる。

『もしもし、六華さん』 
「っ………あ、こいけ、さん」 
『ええ、尚久くんから具合が悪いとのお話を聞きまして』 
「あ……あ、はい、ちょっと……」
 心配そうな声に、内心しまった、と思う。尚久に知られたら、当然小池にも
話は流れる。
(まさかお見舞いとか言い出さないでしょうね)
 何よりそれが……怖いのだ。

『お加減はどうかと、すみません……お手間をとらせてしまって』 
「あの、具合は……もう少し、休もうと思ってます…あ、でも何か深刻に悪い
わけじゃないので」 
 実際に、自分の声には異常は聞こえない、と思う。少し風邪っぽくしようか
とも思ったのだが
(冬女が風邪ひいたなんて言ったら……笑い話にもなりゃしない)
 風邪を引かない自分の体質を少々恨めしく思いながら、六華は淡々と話す。
『……そうですか……ですが』 
「……あの、うつると嫌なので……お見舞いとかは要らないです」
 心配そうな声を、途中で切って六華は言い、そしてくすっと笑った。 
「って、これ、余計ですかね」 
『……ええ、わかりました。安静にしていてください』 
 それでも、心配そうな声は変わらない。
(……ごめんなさい)
「有難うございます」 
 出来るだけいつものような調子で言いながら、六華は少し眉をひそめた。
『じゃあ』
「はい」
 そしてぷつり、と、切れた電話を……一瞬眺めて、また元に戻した。

(しまった、なあ……)
 
 兎の理屈から言えば、小池は充分に『さみしさを抱えている』となる。彼の
精神の強さを、まさか測ることなど今までに無かったが。
(でも……なんか押しに弱い人だし)
 
 それでも白鬼。ひまわりの家の子供達ほどに危険とは……思わないが。
(だけど)
 兎に会わせないのが一番だとは、思う。
(でも……どうしたらいいだろう)
 ずっとこのまま、兎を閉じ込めるわけにはいかない。今日は仕事を休めても、
そして明日くらいまでは許されても、それ以上は。
(正体を……はやく突き止めるしか)
 自分に引き換えて考える。もし、兎に乗り移ったばかりの頃に祓われていた
ら、多分今まで自分はここに居なかっただろうと思う。
 だから。

(なんとかして)

 ぐ、と、一度、六華は唇を噛んだ。


時系列
------
 2008年10月付近

解説
----
 兎の存在を誤魔化そうとする六華。
************************************

 というわけです。
 であであ。
 
 


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