[KATARIBE 31826] [HA06N] 小説『ヌシになった少年』

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Date: Fri, 17 Oct 2008 23:18:04 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31826] [HA06N] 小説『ヌシになった少年』
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2008年10月17日:23時18分04秒
Sub:[HA06N]小説『ヌシになった少年』:
From:久志


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小説『ヌシになった少年』
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登場人物
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 村人1・2・3
    :ずるい大人。(CV:常田富士男&市原悦子)
 清(きよし)
    :親を亡くした少年。(CV:市原悦子)
 ナレーション
    :(CV:常田富士男)
 験者
    :(CV:市原悦子)

昔々
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 むかぁし、昔。吹利のあるところに、早瀬川という大きな川があったそうな。
 この川は毎年毎年長雨の時期になる度に、水が溢れて田畑を荒らし近隣の村
を水浸しにするたいそうな暴れ川じゃった。

「また……畑が水浸しじゃぁ」
「困ったもんじゃのう」
「何とか、川のヌシさまを鎮められんもんかのう」
「このままじゃや、ワシら、安心してくらしていけん」
「なんか、いい案は、ないもんかのう」

 村のもんはほとほと困り果て、各々相談しあった末に、ある高名な験者に
相談に行くことしたんじゃとさ。

「ほほう、荒れる川をなんとか沈めたい、とな」 
「なんとかならんもんかのう」 
「祠をつくって祭ったんじゃが、まーるで効果がない」 
「もうワシらほとほとまいっとるんじゃあ」 
 村人の話を聞いた験者どのは、大きく頷いて村人達を見回すと、ぽんと膝を
手で打った。

「ならば、ここは一つ。川に人柱を捧げるのは、どうじゃ?」
「人柱?」 
「そうじゃ、村から人柱としてヌシさまに捧げる、新しいヌシさまとしてこの
川を護ってもらうのじゃ」 

 験者どのの言葉に村人達は顔を見合わせた。
「人柱、ちゅうてもなぁ」
「わ、ワシは無理じゃ、10を頭に四人の子がおってのう……」
「ワシだって、む、無理じゃぞ。かかあと子供が……」

 村人達がしり込みする中、一人が口を開いた。

「……なあ、清の奴は、どうじゃろう?」
「あの、清か」
「去年の増水でおとうとおかあを亡くして……ひとりきりはさびしかろう」
「そうじゃのう、家族の元に送ってやるちゅうのも、優しさかもしれんのう」

 清ちゅうのは、去年の増水で両親を亡くした気の毒なはなたれの小僧のこと
じゃった。

「なあ、話ってなんじゃあ?」 
「ああ、大切な話でなぁ、お前に大事なお役目を務めて欲しくてなぁ」 
「川のヌシさまを祭るお祭りでな、お前さんにちょっと頼みたいことがなぁ」
「そうそう、大切なお役目じゃからのう、しばらくこの部屋で身を清めて大人
しゅうしとるんじゃぞ」 
「わかっただぁ」 

 後ろめたそうな村人連中のことも知らず。

「ほれ、清。たーんと食え」 
「わあ、白いご飯、こんなに一杯、全部たべてええんか?」 
「ああ、しっかり食え。うまいか?」 
「うん、こんなうまいメシ喰ったの初めてじゃあ」

 どんぶり一杯の白いまんまを頬張って、清は幸せな気持ちで一杯じゃった。

 それから三日経ったこと。
「なぁ、お役目ってここに入ってるだけでいいんかぁ」 
 大きなつづらの中から顔をだして。
「……おお、すぐに……終わるでな」
「なーに、心配するこたあない、すぐに…………あえるさね」 
「あえる?」
「さ、蓋しめるぞ」
「うん」

 なんも知らん清は、つづらの中でうずくまって静かに目を閉じた。

「みなの者、さ、ゆくべ」
「……すまんなぁ」
「……すまん、すまんの……」 

 村人達が見守る中、清を入れたつづらは川へと運ばれた。

「なんまいだなんまいだなんまいだ」 
「なんまいだぁなんまいだなんまいだぁ……」
「……すまんのう、すまんのう……」

「ゆくぞ……」
「……ああ……せぇの」
「そおい!」

 祈る村人達に見守られながら、若い衆に担がれたつづらが勢いよく川へと放
り投げられた。

 投げ込まれたつづらの中。おとうーおかあーたすけてーと叫ぶ、清の悲鳴は
誰にも届かんかった。


 そして、沈められた清の名をとって、この川は喜由川と呼ばれるようになっ
たという。
 それから、毎年長雨の度に荒れ狂った川はぴたりと大人しくなったという。
 村人達は川を祭り、碑を立てて毎年感謝を絶やさなかったという。

時系列と舞台
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 300年くらい前らしい。
解説
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 喜由川、その発端
 http://kataribe.com/IRC/HA06-02/2008/07/20080706.html#010000
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以上




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