[KATARIBE 31821] [HA06N] 小説『夢魔氾濫・12』

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Date: Thu, 16 Oct 2008 22:20:20 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31821] [HA06N] 小説『夢魔氾濫・12』
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2008年10月16日:22時20分19秒
Sub:[HA06N]小説『夢魔氾濫・12』:
From:久志


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小説『夢魔氾濫・12』
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登場人物
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 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :ヤク避け相羽の異名を持つ刑事。過去にトラウマがある。

滴
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 夢の中で目を覚ます。

 かつては、何度となく経験したこと。
 そしてそれは例外なく思い出すのも苦痛なほどの悪夢となることをぼんやり
と心のどこかで納得していた。

 さわさわと、霧雨が降っていた。
 細かな粒が降り積もるように、あとからあとから。

 そして、この後に起こる出来事をおぼろげに予想しつつ。

 一歩、進む。
 ぬるりと、踏みしめた足の裏に感じる違和感。

 視線を落とした先、高低差があるわけでもない平面な地を、さらさらと流れ
てくる、赤い流れ。澱んだ灰色で埋め尽くされた世界の中で、ただ一つの鮮明
な色が酷く違和感を感じる。

 いつも見る夢とは違う。
 霧雨の光景、それは原風景として刻み付けられた……良くも悪くも記憶の中
で馴染みのあるものであった。

 だが。
 足の隙間をすり抜けて、さらさらと流れてくる赤い川の先。

 顔を上げると、はるか前方から細い一本の流れがまっすぐに続いている。

 近寄るべきではない、と。
 理性ではわかっていても、引寄せられるように流れを辿ってゆく。

 一歩、また一歩。
 最初は頼りなく細かった流れが、だんだんとその太さと量を増して。
 腹の底を抉るようなこみ上げる不快感が増してくる。


 真帆の夢の中で、見た赤い河。

『伝染性については確定はないものの、可能性はあり』

 その一旦がこの流れであるならば。
 行き着いた先にあるものを知ることで、何かを得られるかもしれない。

 ぬるりとした足の裏の感触、じわりと湧き上がる生臭い匂い。

「真帆」

 呪文のように、その名を唱えながら。


耳
--

 父の顔は、もうおぼろげにしか覚えていない。
 自ら写真を撮ることを趣味としていた癖に、自分が被写体となることをひど
く嫌った。家にあったアルバムには母と自分の写真、友人らの写真以外で、
父が写真はそれこそ殆ど残っていなかった。

 父の記憶で、鮮明に覚えているのは――


 こみ上げてくる吐き気と、息苦しさ。
 踏みしめた足に感じるぬめった感触、くるぶしを覆うほどの位置まできた
流れは両手を広げた幅よりも太くなっていた。


 霧雨の夜に見た父の姿。
 鮮明に覚えているのは、その耳の形――


 半ば、どこかで予想していた。
 赤い流れの澱む先、膝まで浸かったまま直立していたのは。


 憶えているのは――


 記憶の中と同じ、耳の形。
 そして、耳と繋がった顔、その中央。


 目も鼻も口もない、穿たれた穴。
 爆ぜたような赤い淵と、更にその中心に先の見えない真っ暗な闇が広がって
じわじわと染み出すように、赤い流れが闇の向こうの穴から流れ落ちて――


 糸が切れるように、意識が闇に落ちた。


実体化
------

 声すら、まともに出てこなかった。
 隣で寝ている真帆を起こさなかった分、よかったのかもしれないが。

「…………っ」
 のどの奥で息が詰まりそうになるのを感じながら、きつく胸元を押さえて息
を止める。心臓の音がまるで轟音のようにどくどくと体の中で響いている。

 噛み締めた歯と、握り締めた手。
 息をつめたまま、ひとつふたつ、と数を数えて。

「……ふ」
 20を数えると同時に、深く息を吐いた。
 額ににじんだ汗を拭って――不自然な手触りを感じる。

「…………これ、は」
 薄暗がりの中、広げた指にうっすらと張り付いた汗。しかしその色は不自然
に暗く澱んでいて。

 すり合わせた指先、ぬるりとした感触。

「俺の夢の中から実体化してる……か」


時系列と舞台
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 2008年8月終わりごろ
解説
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 相羽、夢の中で赤い流れを見る。
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以上


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