[KATARIBE 31813] [HA21N] 小説『叛乱』

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Date: Wed, 15 Oct 2008 18:38:33 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31813] [HA21N] 小説『叛乱』
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2008年10月15日:18時38分32秒
Sub:[HA21N]小説『叛乱』:
From:nagisame


ML投稿は久しぶりです。NaggyFishでございます。
最近ちょっと書いてなかったので、リハビリがてら。

注意! 雰囲気で読ませる文章なので、
    かっちりしたの好きな人は読まないでね!(笑)

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小説『叛乱』
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登場人物
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輪廻乃捻理(りんねの・ねんり)
 :魔術完全保護協会の特殊部隊のリーダー。逆行の魔術師。

逃走
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 ぬかるんだ道に、足跡が深く沈む。
「ちっ。縁起がわルい」
 巻き舌に絡まった唾を吐き捨てつつ、少女はひたすらに駆けていた。
 アジトの雑居ビルより脱出して数十分。インドア派の少女には酷なマラソン。
行き先もわからず走り続け、今、どこに居るのかさえもわからない。
 両脇から迫るビルの壁面。料理屋の排気口から、油臭い熱気が吹き付ける。
たまらずせき込んだ拍子に、粘つく喉奥が、限界だと悲鳴を上げた。
「ひ、ひい、ひいッ」
 膝を突き、両手で顔を覆う。いつも、その顔を覆っている眼鏡は、一緒に持って
行く暇さえ与えられなかった。
「なンで」
「でしょうね」
 聞き慣れた部下の声に振り返らなかったのは、その一言に仕込まれた、寄ら
ば切らんという鬼気のせいだろう。
「どうして」
「隊長には、一生かかってもわかりませんよ」
「協会に逆ラった者が、どんな目に合うか」
「知ってますよ。僕らが、この手で始末してきたんじゃないですか」
「じゃあ」
「うんざりなんですよ。協会も、あなたも、この身体も」
 そう言って笑う部下の顔が、少女の脳裏にありありと浮かぶ。
 “サンドマン”流散男。全身が亜麻色の砂で構成された、部隊の諜報担当。
自在に散り集う身体は、移動や防御に優れる反面、攻撃には向いていない。
 なのに。背後で笑う彼には、怖気を誘う殺気が漂っていた。
「そうそう。隊長に、ひとつお知らせがありますよ」
 明るい声とともに、彼の片腕が、ぴとりと、少女の首筋にかかる。
 いや。砂の腕の感触は、もっとざらつき。乾いたものだった。これではまるで、
水か何かで湿らせたような。
「チルヲ、あンた」
「これからは、マッドマンと呼んで頂きたい」
 泥色に淀んだ冷たい指先が、少女の肌をじわじわと汚す。じわりと感じる
焼け付く痛みは、酸の質を伴ったものか。
 こんな変質をもよおすモノは、あれ以外には考えられない。
「水に、手を出シたね」
「この力はすばらしい。もうあなたに、貧弱な坊やとは言わせませんよ」
 低い声とともに、酸の痛みが強さを増した。顔をしかめる少女の耳元に、
生暖かい呼気が吹きかかる。
「みンなも、あンたが誑かしたの」
「小人も霧助も、電太郎だって、この力に満足していましたよ」
 共に任務にあたった配下たち。彼らが水の力を受け入れたことに、動揺しない
はずはない。螺旋状の瞳が、上下に揺れる。
「悔しいですか、裏切られて」
「すぐに戻してあげルよ」
「ははは! さすが逆行の魔術師。そういう負けず嫌いなところ、僕は好きですよ」
 ささやく声が、耳元にまとわりつく。首筋を泥まみれにした彼の手は、
ずちゃりと音を立てながら、少女の胸元へ潜り込んでいく。
「ずっと思い描いていた。触覚を取り戻して、あなたの身体に触れることを……」
 熱っぽい台詞。服に黒い染みを広げつつ、彼の腕が蠢く。大きく突き出た双丘
に、痺れるような、かすかな痛みが伝わってきた。
「ぁ……」
「こうしましょう。あなたは僕を受け入れて、共にあの方に従う。その代わり、
あなたが今までしてきたことは、すべて水に流しましょう。文字通りね」
 甲高いふくみ笑い。ざわめく指先の動きに、少女の吐息がかすかに混じる。
「いいでしょう? 今の僕なら、あなたを歓ばせることができますよ」
 その問いに応えるように、少女が大きく首を揺らした。見下ろす先には、
胸の上で踊る泥の腕がひとつ。
 ――この瞬間を、待っていたのだ。
「廻レェ!」
「なっ」
 間髪入れず。少女の両の瞳が、きゅるきゅると音を立てながら回転し始める。
 それに呼応して。延び広がっていた泥の腕が、ビデオを巻き戻すように、
後方へと飛び退いていった。
「グアッ!」
「甘い! だかラあんたは、貧弱な坊やなンだよ」
 しばしの余裕。振り返った少女が、かつての部下に引導を渡そうと、双眼を
カッと見開き。 
 ――背後にあるのは、ただの空間。
「甘いよ。だからあなたは、独りよがりの小娘なんだ」
 低い声。見開いた目めがけ、背後より。

 ずるり。

「――っ!」
「そんな瞳は、こうしてしまおう」

 じぅ。

「ッギャアアアアアアアアアア!」
 絶叫と共に、崩れ落ちる身体。両手で押さえた顔の隙間からは、目隠しの
ように、赤く爛れた肌が広がっていた。
「はははははッ。仲間? 誘う? 元よりあなたは勘定に入ってないさ!」
 少女が振り返る瞬間、彼は一瞬のうちに正面へと回り込んでいた。半固形の
肉体だからこそ出来る、異能の芸当。
 ――だからこそ。
「いいかい隊長。僕はあの方の下で働いて、水の敵を倒し、あの方に認められて」
 一拍置いて。彼は呟く。
「そして。ニンゲンになるんだ」
 瞳のみが変異した少女には、そこまでの執念は抱けないだろう。だから彼は、
同じく異形となった仲間たちを説き伏せ、離反することにしたのだ。
「でも……その身体は、少し惜しいな」
 そう呟く彼の姿は、人の姿を象った、毒々しい色の泥の塊だった。穴にしか
見えない目が大きく開き、口の形をした隙間が、ぱっくりと広がる。
「どうせ見えないんだ。最期に、存分に気持ちよくさせてあげるよ」
 にたり笑う格好をして。彼の身体が、少女に多い被さる。
 ――その、直前。
「グアラァ!」
 声にならない叫び声。横合いから飛び出した人影が、泥の身体を切り裂き、
少女の前に立ちふさがる。
「グアウ!」
 耳障りな声で威嚇する人影は、美しい顔立ちの、少女の姿をしていた。しかし。
四肢を地につけ、髪を振り乱してうなる姿は、獣かなにかにしか思えない。
「どこに行っていた、“ハウンド”。魔法も使えない、出来損ないの牝犬が」
「グルルルルッ。オマエ、リーダー、ウラギル、ワルイ!」
 牙のような八重歯を剥き、威嚇する犬少女。相対するのは、泥造りの男。
 にらみ合う怪物たち。その後ろで、少女がツバを吐き捨てた。
「ハチ、逃げなサい」
「アタシ、イヤ!」
「ハチ!」
「はッ。美しい主従愛じゃないか。涙がちょちょぎれそうだ」
 やれやれと手を挙げ。不意に、泥の人型はきびすを返した。
「まあいいさ。魔法の使えない魔法使いと、出来損ないの犬。二人仲良く震えて
過ごすがいい」
「そう言ってラレルのも」
「いいや! 僕らは絶対にニンゲンになってみせる。絶対に、ね」
 執念の篭もった一言。それは、少女たちの耳にこびりつき、動く意志を奪い取る。
 声の余韻が消える頃。彼の姿は、影も形も無くなっていた。
 一瞬の静寂。少女が、ぐらりと横に傾ぐ。
「マスター!」
「ちょーっとやばいかもネ。ハチ、あと少し、付き合ってくレル?」
 残された唯一の部下は、しっかりとうなずくと、主に肩を貸し、かつての
仲間が去った方向とは逆に歩き出す。
「知ラせないと、ネ」
 ツテは無いわけではない。問題は、そこにたどり着くまで、自分の身体が
持つかどうか。
 不揃いの足音も。やがて、壁面で回る、換気扇の駆動音に紛れていく。

 全ての役者が去った後。かき乱された泥は、歪んだ模様を夜闇に象る。
 それはまるで、大口を開けて笑う、崩れた人間の顔のようだった。

時系列
------
 2008年10月半ば頃。

解説
----
 部下の裏切りにより、異能の瞳を失った捻理。
 唯一の仲間、ハチと共に、依るべき場所を目指す。

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過去の遺物を精算しつつ、次につなげるということで。
21のラインをまだ見極めてないので、ちょっと自重しつつ。ではでは。


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