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Date: Sun, 5 Oct 2008 23:05:08 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31781] [HA606N] 小説『夢魔氾濫・9』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2008年10月05日:23時05分08秒
Sub:[HA606N]小説『夢魔氾濫・9』:
From:久志
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小説『夢魔氾濫・9』
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登場人物
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相羽尚吾(あいば・しょうご)
:ヤク避け相羽の異名を持つ刑事。嫁にはダダ甘だったりする。
小玄武 (しょうげんぶ)
:一見亀、しかしよく見ると玄武の姿の、両手に乗る程度の大きさの亀。
既落感
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この感覚には、覚えがある。
全身の感覚が薄く広がり、上下左右の感覚が消え、全ての区別が曖昧になっ
ていくような――魚眼のように広がる視界の中、底のない海底にゆっくりと沈
んでいく不自然な落下感。
ゆらゆらと。
だんだん全身が溶けたような感覚から徐々に形を保ってくる。
伸ばした手の感覚、足の感覚。
きゅぅ、と短い声を上げて相羽の肩にしがみつく縹の手の感触。
手を掻くように動かして、戻ってきた感覚を確かめつつ、ゆっくりと降りて
いく。
「……二度目、か」
真帆の夢の中。
以前も同じような感覚を味わったことがある。
意識が明瞭になるにつれて、鼻につく生臭い匂いと眼前に押し寄せる赤。
踏みしめた足の下。
ぐしゅっと、腐った肉塊を踏みつけたかのような胸の悪くなる感触。
そのまま底なし沼かと思われる程にずぶずぶと沈み込み、膝を埋めたあたり
でようやく止まる。
「これはまた」
どこか呆れたような小玄武の声がどこか遠くに感じる。
目の前に波打つ赤い波。
血とは違う、だが生臭く鼻の奥で絡みつく臭い。本物の血以上に精神を内側
から引っかくような不快感を感じる。
「くっ」
奥歯を噛み締めつつ、一瞬襲っためまいを気力で抑えこむ。
「これが……赤い夢魔、ね。心臓に悪いよ」
「きゅ……」
「ああ、大丈夫。行こうか」
肩の上で心配そうに鳴く縹に片目をつぶって見せて、手の銃を握り締める。
「真帆は……」
視界一面に広がる生臭い赤い波。
さわさわと足元を流れる感触が妙に生き物めいた動きで更に相羽の神経を逆
なでする。
「あっちだ」
「!……あれは」
小玄武の鋭い声に顔を上げる。
打ち寄せる波の向こう。
長い髪をざわざわと下ろしたままで無表情に立ち尽くす姿。
「真帆!!」
その声がまるで耳に入った様子もなく、表情のない顔でぼんやりと相羽達に
視線を向けている。
「真帆っ!!」
「……いかんな。夢に囚われている」
叫ぶ相羽に対し、小玄武の静かな声が真帆の状態を分析する。
「たどり着けるか……」
「無茶をするなっ」
まさに駆け出そうとした相羽に鋭い声を飛ばす。
「……く」
「大丈夫。そもそもこれは、彼女の夢だ」
もどかしそうに足を止めた相羽をたしなめるように穏やかな声で続ける。
「それより、彼女が、この夢に意識を囚われているほうが痛い。……相羽君」
「ああ、なんだ?」
足元で蛇と亀、二つの頭がくるりと動いて相羽の顔を見上げる。
「……その銃で、彼女に当たらないよう、すれすれを撃てるか」
「やってみる」
なんにしてもこちらに気を向けて正気を取り戻してもらわないと始まらない
からね、と付け加える小玄武の言葉に頷きつつ。
手にした銃をまっすぐに真帆の立つ方向へと向ける。
銃を向けられて尚、まるで何も視界に入っていないかのように立ち尽くす姿。
「待ってろ、真帆……」
「縹。相羽君の周りの波を、できるだけ抑えて」
「きゅ」
短い声の後に、足元を流れる波が静まってゆく。
「助かるよ、縹」
「きゅっ」
その目はまっすぐに真帆を見つめたまま。
歯を噛み締めて、照準を合わせる。
微かに掠める程の位置へと。
「真帆……」
引き金を引いた。
たぁん、と。音からすれば随分と軽い銃声が響く。
銃口から伸びた白い光がまっすぐに真帆へと飛んでいき、そのすぐ脇を掠め
るように突き抜けていく。
「真帆、気づいてくれ!」
光が走り抜け、真帆の目が見開いた。
「真帆!」
一瞬置いて、靄がかかっていたような真帆の目に光が戻る。
数度瞬きをして、相羽達を見て。
「…………尚吾さん!」
助けを求めるように手を伸ばして。
「よし成功だ!」
「ああ」
しかし。
その瞬間。
伸ばした手が流れを押したかのように、前方から赤い波が押し寄せてくる。
「なんだ……」
「しまった!」
津波のように押し寄せる波が襲い掛かる。
「……真帆っ!」
「きゅううぅぅ!」
何度も何度も、叩きつけるように襲い掛かってくる波に押し流されそうになる。
肩にしがみつく縹の手、襟元にもぐりこんだベタ達の感触。
押し寄せる波の彼方、真帆が何かを叫んでいるのが見える。
「真帆!!」
その姿を覆い隠すように、ひときわ高い波が生き物の口のように目の前に迫る。
「うわあぁぁ」
「きゅうぅぅー」
目の前に迫る赤。
なすすべもなく波に飲み込まれて、相羽の意識が途切れた。
時系列と舞台
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2008年8月終わりごろ
解説
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真帆の夢に潜入。あっさりおんだされました。
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以上
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