[KATARIBE 31753] [HA06N] 小説『夢魔氾濫・8』

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Date: Tue, 30 Sep 2008 00:31:44 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31753] [HA06N] 小説『夢魔氾濫・8』
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2008年09月30日:00時31分44秒
Sub:[HA06N]小説『夢魔氾濫・8』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーる@をれはひとりの修羅なのだ です。
まあ、5Kずつくらいでもあげていこうか、ということで。

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小説『夢魔氾濫・8』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :ヤク避け相羽の異名を持つ刑事。嫁にはダダ甘だったりする。
 小玄武 (しょうげんぶ)
     :一見亀、しかしよく見ると玄武の姿の、両手に乗る程度の大きさの亀。

本文
----


 戻った家は、どこかしんとしていた。
「ただい……?」
 片手の亀を一旦下ろし、鍵をあける。と同時にぴゅん、と、宙を飛んできた
赤と青の残像が、ぺし、と、相羽の顔にぶち当たってきた。
「何、一体……ん?」
 てとと、と、玄関まで、転びそうな足取りで駆けてきた小さな竜は、口元に
ちんまりとした指を一本立てる。
 一所懸命な仕草に、知らず相羽の口元が微かにほころびた。
「静かにってこと?……真帆、寝てる?」
「きゅ」
 こくこくと頷く縹に、そうか、と、やはり頷き返しながら、相羽は足元の亀
を持ち上げた。そのまま連れて入ると、ベタ達と縹は、不思議そうに相羽の手
のほうを見やりながら付いてきた。
「どうする」
「……寝ているなら丁度いいかもしれない」
 亀……否、小玄武は穏やかな声で返した。

              **

 潰すとはどういうことだ、と、尋ねるまでに少し間があった。
「零課には、色々な部署がある。我々の属しているのは、基本解決することで
全てがこちら側に戻ってくる……そういう事件を扱う課だ」
 それだけ相手の力も弱い、と、やはり小玄武の話は遠回りになる。
「相手の……犯罪者達の異能が強くなればなるほど、事件は『こちら』に回帰
しなくなる。解決の方法も賞金稼ぎなり何なりを利用し、かなり荒っぽいもの
になるしね」
「それで」
 口調が荒くなっているのは相羽も自覚しているが、正そう、という意欲が綺
麗さっぱり無い。
「今のところ、大した被害が無いからこの一件は我々のほうに廻されている。
しかし、あちらの世界から来るモノについては、まだ正体がわからない。下手
をすれば大事になる可能性もある」
 黒い目は、相手の苛立ちを良く知って、しかし焦ることが無い。
「真帆さんが夢を見始めてから、他の被害が少なくなったということは、多分
異界からやってこようとする相手は、真帆さんを『扉』としているのだろう。
ということは」
 胃の深いところに、嫌な黒いものが溜まるような気がする。小玄武の言いた
いことが大概判ってくるような気がする。
「……つまり」
「真帆さんが居なければ、あちら側の異形たちはこちらには入ってこれない。
そう考えるなら、彼女を潰したほうが早い、と、判断を下す可能性がある部署
もある」
「……っ」
「待ちたまえ」
 ぎり、と、拳を握り締めた相羽に、鋭い声が飛んだ。
「だから、我々……栄は真帆さんの件を極力伏せている。血液を調べるのも、
非常勤の職員を使っている。彼らには上に報告する義務が無いからね」
「……」
「それに、真帆さんは実際、我々の部署にとっては非常に有益な人材だ」
 そのことは既に上に報告されている、と、小玄武は言う。
「平和的な解決の手腕は、相当のものだからね。それは既に評価されている」
 情報を抑えつつ、同時に他の部署を牽制する。
「それで、一週間くらいは時間が稼げる、と言ったんだが、無論それより早い
に越したことはない」
「……」
 解決、と口の中で呟く。小玄武の言葉を考えれば『こちら側の世界』に戻せ
ないかもしれない大物が出てくる、ということで。
「それは」
「うん、退治すると考えないほうがいい」
 とんとん、と、前足で相羽の手を叩き、進むように促す。
「向うは……なんというか、ぎゅっと押してこちらに出てき易い相手を選んで
その夢に現れているだろう。それに報告からして、相手はこちらを必要以上に
傷つけようとはしていないらしい」
「それほど相手も、切羽詰っていないってことか」
「多分ね。……まあ、子供が押入れに入って、中のダンボールを漁ってるくら
いの必然性じゃないのかな」
 身も蓋も無い言い方ながら、その内容に相羽は納得した。
「ということは、相手はそこまで抵抗しない、ということか」
「そのほうが可能性が高い。いいかね。君がもし、そう大して行きたくもない
ところに行こうとして」
 ゆらゆら、と、白い蛇の頭が揺れる。
「扉を開いた途端、がーんと頭を殴られたら、そこでやめとうとは思わないか
い?」 
「思うね」 
 頷いて、相羽はふと得心のいった顔になった。

「つまり、出会い頭を徹底的にやるってことか」
「まあ、そうなるかな」
 頷かれて、相羽は少々ほっとした顔になった。
「そういうのなら、得意だよ」
 いや、得意ってのも、と、もし真帆が居たらそれはそれでツッコミが入った
かもしれないが、今回ここに真帆は居ない。
「その程度だ。我々が出来るのは」 
 こくり、と、二つの頭が頷く。
「なるほどね……こちらでできる最善を、って奴か」
「その為の、その銃、だろう?」 
「もちろん」 
 やはりお留守になりがちだった歩を、進めながら相羽は頷いた。
「期待しているよ」
 ひょん、と、小さく頭をすくめて言ってから、小玄武は小さく溜息をついた。
「……栄も真帆さんを消したくはない。多少利己的ではあるかもしれないが、
それは嘘じゃない」 
「わかってる」
「まだ悲観したものでもないのだからね」
 穏やかな声は相羽より確実に一世代は年上の男のもので……だから余計に違
和感があった。

              **

 ベッドに丸くなって、真帆は眠っていた。
「ああそうか、体力勝負という面もあるね」
「え?」
 ベッドの端に降ろしてもらって、暫く真帆を眺めていた小玄武の言葉の、意
味を一瞬取り損ねて相羽が尋ねる。返事はあっけらかんとしたものだった。
「眠っても眠りが浅く、悪夢の連続。加えて異界からの侵入者の入り口になっ
ているのだもの。体力的に相当消耗する筈だよ」
 だからこんなに昏々と眠っているのか、と相羽は思ったが、小玄武はつけつ
けと言葉を加えた。
「放っておけば、体力消耗で、真帆さんが倒れるってぇのもあるか」
 ざっと振り返った相羽には全く構わない顔で、小玄武は首を傾げていたが、
「じゃあ、入ってみようか」
 と、如何にもお気楽な口調で言った。
「入る?……夢に?」
「そうだよ」
 そうか、と、相羽のほうは納得したが、納得していないのがこの場には一名
しっかりいた。
「きゅ、きゅう!」
 ぶんぶん、と手を振り回した縹の方を見やって、相羽と小玄武は、同時にあ
あ、という顔になった。
「そういえば、俺は入れないね」
「ああそれなら、問題はないさ」
 へ、と尋ねると小玄武は黒い頭を大きく頷かせた。
「朱肉はあるかね?」
「は?」
「朱肉。墨でもいいが、朱の色のほうがいいだろう」
「きゅ!」
 ころころ、と、縹がベッドから転がり降りた。そのまま走って棚のほうに行
く。
「きゅ!」
 但し、そこで引き出しを開けられるわけもない。これこれ、と手で叩く引き
出しを慌てて相羽は開いた。
「これ?」
「うん」
 ぽん、と、蓋を開けると、小玄武は片方の前脚に朱肉をぺったりとつけた。
その足でぽん、と真帆の眉間を叩く。
 いびつな円の跡が、そこに残った。

「入れるよ」
「わかった」 

 朱の色が、以前真帆の夢に入った時のことを思い出させる。
 悪夢は何故か、いつも赤い。

 とてとて、と近寄ってくる足元の気配を掬い上げる。頭の上に乗せてやると、
縹はしっかりとしがみついた。それを置いて、相羽はポケットの中の銃を取り
出した。黒い小さな塊を手の中で確かめる。
 ふわり、と、その肩を掠める感触に視線を向けると、三匹のベタがその肩に
乗るところだった。
 ひらひらと薄い鰭が頬に当たる。

「じゃあ、いくよ」 
 きゅ、と、威勢のいい返事と一緒に、相羽の体が真帆の隣に崩れ折れた。


時系列
------
 2008年8月終わりごろ

解説
----
 零課は一枚岩というわけでもない。期限を切られた相羽達の行動は。
***************************************

 てなもんです。
 
 しかしこう……ほんに、真帆をいたぶれなくなったのがほんに大変。
 ぎりぎりと、心理的にでもいじめられたらそれが一番楽しいんですけど。

 そういうときの狂気って、書いていてわくわくしませんか?

 というわけで、であであ。



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