[KATARIBE 31745] [HA06N] 小説『夢魔氾濫・7』

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Date: Fri, 26 Sep 2008 00:51:46 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31745] [HA06N] 小説『夢魔氾濫・7』
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2008年09月26日:00時51分46秒
Sub:[HA06N]小説『夢魔氾濫・7』:
From:いー・あーる


どうも、いー・あーる@千里の道も一歩から です。
眠いんですけど、とにかく流します。
明日には、訂正あるかもですが。

******************
小説『夢魔氾濫・7』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :ヤク避け相羽の異名を持つ刑事。嫁にはダダ甘だったりする。
 小玄武 (しょうげんぶ)
     :一見亀、しかしよく見ると玄武の姿の、両手に乗る程度の大きさの亀。

本文
----

「ああ、来たね旦那」
 先日と変わらぬ重低音の声の挨拶を背中で聞きながら、二つに割れたガーゴ
イルの間を潜る。出てきたところにぽっかりと空いた場所に所在無げに座って
いたピーピングトムはそう言うとにっと笑った。
「悪いね。何か新しい情報ある?」
「あるんだよ旦那、それが。いい勘してるね」
 尖った鼻の下、口が三日月のように曲がる。


 朝起きた真帆は、夢を憶えていなかった。
(あの……憶えてないの。何も)
(何か、あった?)
 不安そうに言われて……誤魔化した。
(夢を見てたようだけどね)
 憶えていない、何も役に立たない、としょんぼりと肩を落として呟いた真帆
の声が耳に残っている。


「どんな?」
「うん、昨日情報提供してきたとこがあったろ。そこで『伝染性については確
定はないものの、可能性はあり』って出たの憶えてるかい?」
「ああ、書いてたね」
「それがさ、同じ情報提供者からまた情報が来たのさ。一旦被害者から赤の夢
魔を追い払って、その翌日にはどうやら近くの奴に症状が出た。さあもう一度、
と思ったその翌日に」
 そこまで勢いよく言っておいて、ふっと口を噤む。質問者を煽るようなやり
方を、一体誰がプログラムしたものか。
「翌日に?」
「夢魔が消滅したってさ」
 無表情だった相羽の眉が、微かにひそめられた。
「その両方から?」
「両方?ああそういう意味ね、うん両方。最初の犠牲者のほうにも戻ってない
し、次の被害者になりそうなほうの夢にも無い」
「その報告はいつ?」
「昨日。旦那が帰ってすぐ」
 真帆にその夢が移ったのと同時に、それ以前の被害者から夢が消えた。
 これは、偶然なのか。
「どうする?相手にもう少し情報を調べてとも言えるんだがね?」
「そんなこともできるの?」
「俺を誰と思ってますかね旦那」
 ぐい、と、親指で尖った鼻を指し示す。得意そうに彼は言い放った。
「零課特化検索プログラム、別名『ピーピングトム』。旦那が次に何を欲しが
るかくらいは検索できるんだよ?」
「なるほどね」
 とことん風変わりではあるが、それに対して今更驚くような相羽ではない。
「じゃあ、今までに発症した被害者が、今はどうなってるか確認頼めるかね」
「無論さあ。明日になるけどいいかい?」
「頼むね」
 にっと笑った相羽に、彼のほうはぴっと二本の指を伸ばして、額につける挨
拶をしてのけた。
「依頼一丁!任しときな旦那!」

            **

「失礼します」
 検索の部屋から出る前に、銀鏡からの伝言を語ったのは、お喋りなピーピン
グトムではなく、口を開くのもゆっくりのガーゴイルのほうだった。
『失礼ですが、銀鏡から伝言です。先日言ったアドバイザーの件で、部屋に来
て欲しい、と』
 ゆっくりゆっくりと伝えられた声に、判った、と返すと、相羽はそのまま彼
女の部屋に向かった。軽くドアをノックして声をかける。
「ああ、どうぞ」
 返事は男の声、ああ、これがアドバイザーとやらの声か、と、納得して相羽
はドアを開け……て。
「?」
 部屋の中には、誰も居ない。
「……あ?」
 書類の積み重なったデスクの向うに、まさか隠れるところがあるわけはない。
そもそも、返事をしておいて隠れる必要がどこにあるというのだ。
「ああ、申し訳ない。ここだここ」
 がさごそ、と、紙のこすれる音と一緒に、先刻の声がした。声の聞こえる方
向にあるのはデスク、その上の書類の山が、一つがさり、と大きく崩れた。
「どうも。はじめまして」
 穏やかな、初老の男性の声でそう言うと同時に、こっくりと頭を頷かせたの
は。
「……ああ、はじめまして」
 流石の相羽が、一瞬反応を遅らせた。
「驚かせたね、申し訳ない」
 デスクの上の黒い亀のようなモノが、そう言うと微かに笑い声をたてた。

               **

「相羽君ならば言って大丈夫だろう、という栄の判断により、言うんだが」
 数分の後、相羽はデスクの向かいに椅子を置いて座り込んでいた。
 デスクの上では、書類の上に黒い亀が改めて乗っかっている。黒い亀の頭が
丁度相羽の目の高さあたりに位置している。
「鏡の一族というのが居てね。その一族のうちの一部が、栄と同じ異能を持つ」 
「……鏡、ね」 
 黒い甲羅には、白い、丁度亀自身の首と同じくらいの太さの管のようなもの
が絡み付いている。それがどうやら蛇身であるらしいことが、相羽にも見て取
れる。
 蛇の目は赤い。
「さて、ここで相羽君に質問なんだが……栄に触れたことがあるだろうか?」 
 亀の黒い目がぱちぱちと瞬く。
「積極的に触れる、という意味で、だがね」 
「……改めて考えてみるとないね」 
 デスクの上の亀と、真顔で向き合う男。客観的に考えれば相当笑える構図な
のだが、互いに全く真顔のまま、静かに会話が進んでゆく。
「そうだろう」
 こくり、と、亀は小さな頭を頷かせた。
「鏡の一族の異能は、一番近いのは……そうだね、血を吸わない吸血鬼、かも
しれない」 
「ほう」
「鏡の一族のうち、異能を持つのは大体1/3、その子達はごく幼いうちに、
分身を作り出すようになる。最初は単に、子供達の横にぼんやりとした同じよ
うな姿が現れるだけなんだが、そのうちにそれが実体を持ち出し、一般の人々
が見ても実体と区別がつかなくなる」
 但し、と亀は首を傾げた。
「動くのは、片方だけなんだ」
「片方?」
「本体か分身か。分身が動くうちは本体は眠っている」
「どこで」
「まあ……そりゃ昔は、今よりは抜けてるところがあったから、墓なんかを利
用した例が無いとは言えない」
 黒い小さな目がおかしそうに瞬く。
「分身のほうは、小さく崩れて破片が蝙蝠に化すことも可能。本体のほうも、
昼は墓の中、夜は起き上がって動き出すとしたら」
 くすり、と、喉の奥で、小さく亀は笑った。

 太陽には流石に弱くもないが、下手な分身しか作れないうちは、その分身に
影が無い為、自然昼間を避けるようになる。加えて分身の体はある一定の法則
さえ満たせば分解し、別個の個体へと作り変えることも可能。
「分身は、基本は不老不死だ。無論本人が年取って見えたいというなら年を取
ることも可能だろうけれども」
 だから、と、濃い灰色の頭を左右にゆらゆらと動かしながら。
「彼らはこれまで、よく吸血鬼と間違えられてきたのだよ」

 肉体自体は、不老不死などでは、無い。確かに最近になって、鏡の一族でも
『彼らを如何に有効利用するか』を考え出した為、能力を現した連中は出来る
だけ長命を保つようにされている。けれどもせいぜいが200年。
「けれども分身は、撃たれても死なない。本当に殺されそうになったら分解し
てしまえば……否、意識自体を元の身体に戻せば、崩れて消えるだけだ。身体
自体を完全に隠してしまえれば、充分に」
「不老不死に見える、か」
「そのとおり」
 くすり、と、笑った亀に、相羽は少し首を傾げた。
「でも血は吸わない、どうやって生きていくのかな」 
「ああ、肉体は、ごく普通の栄養摂取をすれば済むからね」
 そこらは吸血鬼ほど不自由ではないよ、と、亀は老いた声で笑った。
「まあ、そんなわけでね、君が見ていた栄は、一度たりとして、実際の肉体で
あったことは無い」 
「……つまり、今までのは全て影」 
「影ではないよ。第二の肉体、もしくは分身というやつだ」 
「もし触っていたらどうなっていた?」
「触るぞ、と言われれば自然に実態を錯覚させたろう……いや、栄くらいにな
ると、普通に人に触れられても問題は無いのさ。ただ、四六時中背を伸ばして
いるような疲れが残るだけで」
 一つ頷くと、相羽はふと顔を上げた。
「それで、あんたは何だ?」
 あまりにも直球な問いに、亀は少し困ったように頭を左右に振った。
「彼らは、『実体化』する……なんというかな、肉体の『量』が決まっている」
「え?」
「栄がもし、もっと幼い頃の自分の姿になれば、現在の自分の質量との間に差
異が出来るだろう?」
「そりゃ、出来るね」
「その、差異の質量を利用して出てきたのが、私なんだ」 
 きらきらと、黒い目が光を保ちながら相羽を見る。その目の光が、そのまま
彼の知性と知識を意味するようにも見えた。

「先刻も言ったとおり、この異能を発症する面々は、大体200年がところ生
きることになる」
 亀の言葉は、毎度のように少々遠回りだ。 
「ただ、その間、彼らはその殆どの時間を分身として過ごす。この異能の持ち
主は、恋愛も結婚も基本出来ない」
 黒い目が、一瞬、ひどく乾いたような色を浮かべる。次の瞬間、その目は今
までどおり、穏やかな色を載せていた。
「その状態で200年生きるのは……やはりしんどいのでね。途中で自身では
姿を保つことを辞める連中が出てくる」
 身体は保たれたままだから死ぬわけにはいかないが、生きたくもない。しか
し、覇気も何も消えてしまった状態では、正攻法では彼らの中の知識を他に教
えることすら出来ない。
 それでは、一族にとって益にはならない。
「で、そういう連中が、自分の意識の核をまだ動いている連中の一部に投影し、
知識や経験を詰め込んで、彼もしくは彼女を二重人格状態にする」
 そうやって出てきたのが、と、亀は器用に前足をまげて自分を示した。
「栄の場合、私なわけだな」 
 黒い甲羅の周りを取り巻いた白い蛇体は、時折退屈そうにゆらゆらと揺れる。
「銀鏡さんのいわゆる分身のようなものかね」
 当たらずとも遠からず、と、亀は首をすくめる。
「分身に、もっと年寄りの経験と知識をぶち込んだものだね」 
「なるほどねえ」

 異能。
 不老不死にも見まごうような。
 しかしある意味では……それだけの。

「無論、今も私以外の『栄』は居るが、まだそれは、相羽君には見せないほう
がいいだろうと判断した」 
 知らなければ答えられない。必要の無い答を探る必要はない。
「従って私がここにこうやって居るのだね」 
 黒い目がにっこりと笑った。

          **

 とりあえず一旦真帆に会いたい、そうしないと問題の進行状況がわからない
から、と、黒い亀は相羽と一緒に相羽宅へ向かうこととなった。
「それで、あんたの名前は?」
「ああ……小玄武と呼ばれている」
 そういえば、と、今度は白い首がくるりと相羽のほうを見る。
「あんたのところに、青い竜がいたね?」
「……いるね」
 ふむ、と小玄武は面白そうに目を瞬かせた。
「それは、強力な助っ人だ」
 何故、と小さく問う声に、首をめぐらせる。
「四聖獣のうち二つ。揃えばそれなりの威力はあるだろうからね」
「……そういうものかね」
「そういうものさ」
 かつかつ、と、足早に相羽は家に向かう。
 手の上に、黒い亀がてんと乗っている。


「……相羽君」
「何か」
 ふと、その声の響きに相羽は足を止めた。
 細い路地、人気は無い。それを見込んで今小玄武は口を開いたのだろうが、
しかしそれだけに、その声は彼の足を止めるだけの響きを持っていた。
「この一件、君が担当するのだろう?」
「そうなるね」
「それならば」
 そこで少し言いよどんで、しかし小玄武は口を開いた。
「この一件、期間は一週間と思ってくれ」
「……何故?」
「この一件、大事になれば我々の手を離れる。離れてしまえば」
 声は不吉にこもって。
「……真帆さんは潰されるかもしれないよ」



時系列
------
 2008年8月終わりごろ

解説
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 零課2日目。相羽に託された『アドバイザー』とは。
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 てなもんです。
 今半分寝てるからなあ……この状態で半分以上書いてるから、
あらが出てきたら、ホント訂正します。
 ひさしゃんも……これ、かなり書き込んでいるので。
訂正あったらよろしくです。

 であであ。
 
 


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