[KATARIBE 31742] [HA06N] 小説『夢魔氾濫・6』

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Date: Thu, 18 Sep 2008 01:21:08 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31742] [HA06N] 小説『夢魔氾濫・6』
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2008年09月18日:01時21分07秒
Sub:[HA06N]小説『夢魔氾濫・6』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーる@ねむいねむい です。
少しずつですが、書いてます。

********************************
小説『夢魔氾濫・6』
===================
登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :ヤク避け相羽の異名を持つ刑事。嫁にはダダ甘だったりする。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。

本文
----

 実際、どれだけの間一緒に居られるだろうか、と、考えることがある。
 そして一緒に居ることで、相手は何を得るようになるのだろうか、とも。
(真帆が居ればいい)
 そう言って笑うことは、判っているけれど。

              **

「……え」
「今日からね」
 脱いだ上着を渡しながら、相羽はごくごく何でもなげに言う。
「俺、零課兼任になったから」
 さらりと告げられた言葉に、受け取った上着を握り締めたまま、真帆は蒼白
になって立ち尽くした。

 何故相羽が警察に勤めるようになったか。そして何故彼が、以前はおネエちゃ
ん情報網、という、相当に悪辣な情報網を使ってまでヤクザを、そして麻薬を
取り締まる仕事をしているか。
 その要因の一つが、彼の父親の死だ、と、真帆は思っている。麻薬中毒のヤ
クザに撃たれて、全くのとばっちりで殺された彼の父のことは、本人がどう言
おうと彼の進路を決める原因になったのだろう、と。
 だから。

「……あのね……あたしもう、平気だから」 
「ん?まあ、史と似たようなもんだよ。あくまで兼任」 
 一瞬噛み合わない会話を、しかし真帆は強引に押し通した。
「平気だから……ほんとに」 
 少し困った顔になった相手に、それでも必死に言い募る。
「だって尚吾さんは……麻薬とかそっちのほうで」 
「決めたから」
 すっぱりと断ち切るように言った相羽は、けれども真帆が次の言葉を捜す前
に重ねて言った。
「俺がね」 

 彼が真帆を責めたことは、少なくとも一緒に暮らし始めてからこちら、無い
と言い切っていい。どれだけ真帆が無茶をしようが、どうしようもないことで
悩もうが、そしてそれがどれだけ彼の迷惑になろうが。
(俺が決めたことだよ?)
「…………でも」 
 実際、多少のあやかしには、驚いた素振りすら見せない相手だ。直接幽霊や
妖怪を見る目こそ無いが、これだけ動じないだけでも、零課が欲しがるのは判
る。
「それでもそれは」 
 どう言えばいいか判らない、けれどもそれが正しいことだとは思えない。
 上着を握り締めたまま、必死で言葉を探す真帆の頭に、ふわりと手が載った。
「……決めたのは俺だから、真帆が気にすることじゃないよ」 
「…………でもあたしが居なかったら」
 ここにこうやって、半分、として居なかったら。
「こちらの世界には、関わらない、のに」 
 手が、何度も何度も頭を撫でる。
「今は、違うでしょ」 
 優しい声が、言い聞かせるように。
「真帆がいて、こいつらがいて……」 
 動いた視線の先には、眠たそうにころんと転がっている縹とベタ達がいる。
「みんな、家族でしょ?」 

 竜の母親から、公認で預かっている小さな小さな雨の竜。
 相羽が心配で、現世に残った赤と青とメスのベタ。

「でも、こちらは」
 周囲、半径5m。
 地獄の釜が開く、というが、その周囲では常時地獄の釜が開きっぱなしにな
る。だからこそ今、相羽は、幽霊であるベタ達を見ることが出来るのだ。
「……尚吾さんの居るべき世界じゃない、し……」
「いるべきとか、そういうのは関係ないよ」 
「……でも、尚吾さんは、何だかんだ言って、普通の人だから」 
「俺だって史だってギリちゃんだって……普通っちゃ普通だよ」 
 時折出会ったことのある同期の男の名を、相羽は言った。確かに彼もまた、
零課の一員であった。偶に会う時の反応は、確かに普通のものだったし、そう
いう意味では零課に居るのが不思議な人だ、とは確かに真帆も思ったことがあ
る。
「それはそうだけど」 
 だけれども、と、口ごもった真帆を、相羽は静かに見やった。
「あいつ……史の奴が零課にいった理由」 
 目を大きく開いた真帆に、少し首をすくめるようにして。
「……まあ、弟連中のことか、ね」 
 早くに亡くなったという二番目の弟については、無論真帆は知らない。けれ
ども後の二人が現にどれだけのものを見ているかについては、多少知っている
から。
「……それは、そうかもだけど……」
 史久は、自分の為ではなく弟達を守り、理解する為に零課に加わった。
 であるならば……と、相羽の言いたいこと、その道筋がわかる、だけに。
「そうじゃなくて」 
 そこまで言って……言葉は尽きてしまう。どうやって説得すればいいのか、
説得は無理でも……と、うろうろと考えていた真帆の頭に、ぽん、と手が乗っ
かった。

「また……前みたいに真帆が寝入ってどうにもならないときとか、何もできな
いのは嫌なんだよ」 
 その言葉が、ざっくりと胃の腑を抉ったような気がした。
「…………それって、あたしが、こういうことに巻き込まれなければ大丈夫っ
てことかもしれないって」 
 頭の片隅で思う。これが昔なら、巻き込まないように離れよう、と断言して
いたろう、と。
 けれど。
「……真帆をこちらにひきこんでしまうこともできる、って。銀鏡さんに言わ
れたよ」 
 巻き込まない、ということの意味を突き詰めると……突き詰めたくない事実
にぶち当たる。言葉を途中で飲み込んだ真帆に、やはりふわり、と、声がかけ
られた。
 穏やかな声だった。
「え」 
 それでも、その内容は非常に……自分の求めていた解決に近いもので。
 どうして、どうやって、と言いかけた、その時に。
「でも、そうなったら……境界に立つものじゃなくなったら」 
 細めた目は表情を見せてはいない筈なのに、ひどく哀しいものに思える。そ
の表情のまま、相羽は言い切った。
「縹は、見えなくなる」 
「!」 

 眠そうに目をこしこしとこすっていた小さな竜は、どうやら殆ど話を聞いて
いなかったようである。ただ、呼ばれた名前に反応したのか、むくりと起き上
がって、またころんと丸くなる。ころんころん、と、相羽の膝元まででんぐり
返しで近付いて、頭を膝に乗せた。そのまま両手両足をうんと広げて、気持ち
良さそうに目を閉じる。

「こいつはそういう存在だから」 
 ぽわぽわと頭に生えている鬣をそっと撫でながら、相羽が言う。
 真帆はうなだれた。
「それは嫌だよ……わがままだけど」 
「…………あたしもやだ」 
 本当に偶然、空から落ちてきた小さな青い竜。
 もうすっかり自分達の娘のようなこの子から離れたくない、と、泣いたこと
をまだ忘れてはいない。
 多分、と、真帆は思う。
 自分の能力が封じられれば、三匹のベタ達も、見えないものになる。飼い主
の孤独を案じ、この世に蘇った健気な彼らもまた、肝心の相羽には見えない存
在になってしまう。
 ……でも。

「……でも、一方的に尚吾さんに迷惑かけっぱなしじゃないか」 
 くしゃくしゃ、と頭を、大きな手が撫でる。
「俺がそうしたいんだよ」 
 握り締めていた上着を、苦笑しながら受け取る。反動で泣きそうになった真
帆に、それでも視線を逸らすことなく、淡々と言葉を続ける。
「半分片足突っ込んでるようなものだし、しっかり俺も知りたいよ。真帆が関
わる世界を、もう少し、ね」 
 
 死者が蘇り、あやかしが顔を出す世界……というと、それはとても異常に聞
こえる。
 けれども、それは、真帆にとっては普通の世界。八百屋のおじさんに胡瓜を
まけてもらう現実と、幽霊から飾りピンを貰う現実は、全く異なる様子が無い。

「尚吾さん」
「ん?」
「本当は、あたしも、自分の世界がどう変わっているのかわからない」 
 黙ったまま促すようにこちらを見ている相羽に、真帆は小さく呟く。
「あたしに見えている世界は、この一つだけだから」 
「うん」 
「…………だけど」

 だけどその世界は、貴方の馴染んでいる世界とは違う。
 貴方と私とは、一部ではあるけれども、異なる世界に属していて。
 だから。

 ……だから……?

「……おいで」
 苦笑交じりの声と共に、抱き寄せられる。
「言ったでしょ。俺が決めたんだって」
 ワイシャツに押し付けられた額。何度も何度も頭を撫でる手。
「大丈夫」
 ね、と、念を押される前に、真帆は声をあげて泣き出していた。


 
 どれだけの間一緒に居られるだろうか、と、思うことがある。
 どれだけ相手の役に立っているのだろうか、と、辛くなることがある。
 ごめんなさい、と謝っても、謝る必要なんかない、と、断言する声。
 何より、これだけ相手を巻き込んでおいて……それでも自分は、相手から離
れようとは思わない。思えない。
 離れたいともし口に出したら、相羽は悲しむだろう。怒りもするだろう。
 けれどもそれ以上に……もし相手が悲しみもせず、怒りもしなくても。

(……離れたくない)

 何度も何度も、大きな手は頭を撫でる。
 喜んで欲しいだけなのに。何も面倒なことは望んでいないのに。

         **

 泣き疲れて眠りこんだ真帆を、そっとベッドに寝かせる。
 どうして泣くのか、その理由は判る。どうして自分を許せずに、こうやって
ほろほろと黙って泣くのか、そのくらいは。

(いいのに)
(全然、そんなことは問題じゃないのに)

 疲れた顔で、真帆は眠っている。
 
(あちらの世界が真帆さんに近くなることはあると思う)
(あちらの世界とこちらとを混沌とさせたいなら、彼女の異能はとても面白い
触媒になる)

 ここに居るだけで、真帆の廻りにはあやかしが増えた。縹にベタ達、そして
六華。相羽が居ない間にも『真鍮製の魚と陶器の鳥』の間の争いに巻き込まれ
たこともある。
 ここに居るだけで。
 それは……とても辛いことかもしれないのに。

 すうすうと眠る真帆の額にそっと触れ、額にかかる髪の毛を後ろへと払って
やる。真帆が改めて寝息を立てだした、時に。

「!」
 ぱちり、と、真帆の目が開いた。
「…………真帆」
 同時に、今までぐっすりと……ビーズクッションのように体中の力を抜いて
眠っていた真帆の背中が、ぐっと伸びた。
「……真帆」 
 開いた目は、何も見ていない。目の前で手を振っても、全く反応が無い。両
肩はこわばって、ぎりぎりと力が入っているのが判る。
 それ以上に。
「真帆!」
 絶望したような、何一つ見ていない、何一つ期待していない目。肩を揺すっ
てもその表情には微塵の変化も無い。
「……真帆」
 いつもなら、こんなことは起こらない。
 寝起きは互いにいい。ちょっと揺すれば真帆だって起きる。ましてこんなに
声をあげて呼ばなくても。
 こうやって覗き込んで、反応が無いなんてことは、絶対に、無い。

「真帆!」

 その声が引き金になったのか……それとも単に時間切れだったのか。
 真帆は、ふうっと目を閉じた。


 気が付くと、シーツの上に広げたタオルは、またぐっしょりと血に濡れてい
た。
(念のため、敷いておいて良かった)
 摘み上げた毛先からは、今は全く血が流れていない。しかし現に、タオルに
は丁度コップ一杯の色水をぶちまけたくらいの血のしみが出来ている。
「…………」
 そっと額を撫でる。5分間の沈黙の後、真帆はぐったりと疲れた顔のまま眠っ
ている。 
「……要因は内にある」 
 頭をそっと持ち上げ、敷いてあったタオルをはがす。念のため、と近くに置
いてあった替えのタオルが非常に役に立った。
 摘み上げたタオルの、ねっとりしとした手触り。

「あるいは……」
 決して慣れることの無い、その手触りに顔色を悪くしながら、考える。多少
現実逃避気味の思考は、しかし一つのポイントを捉えた。

「実体化をしてる?」 

 異界から流れ込む、全くこの世界とは異質なモノを。
 真帆、という……存在が。

 ぐ、と一度、相羽は唇を噛んで。
 ぐっすりと眠る真帆を、抱き寄せた。


時系列
------
 2008年8月終わりごろ

解説
----
 先輩が零課に加わった、と聞いた真帆の反応。
 そして容赦なく夢はやってくる……

***************************************

 てなわけで。
 訂正がある場合は、明日します。
 ……ねーむーいーーー<そういう状態で流すなよ

 であであ。

 


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