[KATARIBE 31735] [HA06N] 小説『夢魔氾濫・5』

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Date: Fri, 12 Sep 2008 00:23:50 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31735] [HA06N] 小説『夢魔氾濫・5』
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2008年09月12日:00時23分49秒
Sub:[HA06N]小説『夢魔氾濫・5』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ほんの少しずつですが、とにかく流していきます。

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小説『夢魔氾濫・5』
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登場人物
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 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :ヤク避け相羽の異名を持つ刑事。嫁にはダダ甘だったりする。
 銀鏡 栄(しろみ・さかえ)
     :県警零課の一員。主に戦力勧誘、交渉を請け負う。

本文
----

 まず登録ですね、と、銀鏡は言った。

         **

「零課メンバーのみ利用可能なデータベースがありましてね」
 かつこつ、と、硬い音が相羽を先導する。
「ある程度、県警のほうに回してよいと判断されたら、そちらに情報を移すこ
ともありますけどね」
「成程」
「そして、私達も、それぞれ閲覧可能な範囲が決まってます」
 こういう事件を扱っていると、事件と関係無い部分で、しかし未来の事件に
必要かもしれない、という情報が残ってくる。そういうデータを確保し、必要
になったら検索可能な領域に入れる。
「だから、奥さんは知りませんよ、ここのこと」
「ふぅん」
「まあ、言っても彼女なら、見たいとは言わないでしょうけど」
 言いかけて銀鏡はくすりと笑った。
「ちょっと変わった守備機能と情報収集機能が付いてましてね」
 かつかつと、幾つ目かの角を曲がって。
「じゃ、登録をそこでやっといて下さい。それと、今回の事件について調べて
みて下さいな」
 他の扉と全く違いの無い扉を軽く触れてそう言うなり、彼女はくるりと踵を
返す。
「登録って」
 如何にも放り出しました、と言わんばかりの無責任さ……それは彼女の振る
舞い以上に、その表情のせいであったかもしれない……に相羽が声をかけると、
銀鏡はちょっと振り返った。
「他人が居たらいけないことになってましてね。大丈夫。そこの中に警備シス
テムがちゃんと入ってますし、一応こちらから、最低の登録だけはしてありま
すから」
 語尾に、かつかつという音が重なった。

          **

「Hello, Sir 」
 部屋の扉を開けた途端の重低音の挨拶に、相羽は少し驚いたように目を上げ
た。
「あんたは」
「program "Gargoyle"」
 灰色の岩を鑿で彫ったような色合いと質感、背中には翼が付いている。どち
らかというと蝙蝠の翼に近いそれは、しかし鑿の跡のせいか、羽根で覆われて
いるような印象があった。前にのめるように曲がった背中、両膝を立てて座っ
た格好、その膝の上から垂らした手の先の尖った爪。それら全ては微塵も動か
ない。
「登録します」
 重低音の声が告げる。
「足元の印までお進み下さい」
 オペラにでも出てきそうな声に、相羽は素直に従った。白のペンキで描かれ
た足跡の上に立つ。
「宜しいです」
 言うなり、ガーゴイルの目が光った。
「網膜識別登録、完了。次に掌を掲げて下さい」
「ん」
 両掌を持ち上げて広げると、またガーゴイルの目が光る。
「指掌紋登録、完了。次にお名前を言って下さい」
「相羽尚吾」
「声紋登録、完了。パスワード登録をどうぞ」
 すっと伸ばされた像の右掌に乗った小型のキーボードで、単語を打ち込む。
「失礼ながら、奥様の名前は、貴方の場合、誰しもが一番最初に思いつく単語
の一つではないかと思われます」
 まるで事実を語るように穏やかな声なのだが……内容はそれなりに失礼かも
しれない。
「別の単語にて登録をお願いします」
「……諒解」
 こつこつ、と打ち込んだ次の言葉に、ガーゴイルは少し首を傾げたが、
「まあ宜しいでしょう」
 感情の見えない、しかし素晴らしく豊かな声が告げる。
「お入り下さい、相羽様」
 言葉と同時に、彼の身体が中央から割れたように見えた。
「こちらをお通り下さい」
「ありがと」
 こういう時に彼は驚かない。というか驚いているのか知れないが、そうは全
く見えない。この時も一つ頷くと指示通りガーゴイルの身体の間の通路を通っ
ていった。
 両側の壁はやはり石の色だったが、時折軟体動物のように、壁の表面が蠢く
のが少々不気味ではあった。


「よぉ、旦那!」
 通り抜けたところに居たのは、身長1mあるか無しかの小人だった。
 つんと尖った鼻に釣り上がり気味の大きな目。ぎょろりと相羽を見やった小
人は、大きな口をにっと笑いの形に曲げた。
「相羽の旦那っすよね」
「うん」
「こちら、プログラム“ピーピング・トム”といいやす。お見知りおきを」
 顔立ちは、アンティークのピエロやピノキオの人形に似ている。その口から
しかし妙に伝法な口調の言葉が出てくるのは、奇妙でもあり、また反対に予想
以上に嵌ってもいた。
「はい旦那ー、どーんな検索かけますかぁ?」 
 部屋の奥行きは、どうもよく判らない。彼の後ろはぼんやりと煙るようなラ
イティングになっており、その向こうに何があるのかは判らないようになって
いるのだ。それを見ていた相羽に、小人は勢い良く声をかけた。
「あいまい検索あり?」 
 考えながら言った言葉に、小人は首をすくめた。
「あいまいの程度が判らないと俺わかんないね。まずほれ、検索語をおくれよ」 
 ほれほれ、と、両手を頂戴の格好に伸ばされて、相羽は手を伸ばし、そこで
困った顔になった。
「キーボードは?」
「言ってくれたらいいから」
 ほれほれ、とせっつかれて、相羽は首を傾げた。
「とりあえずね」 
「ほいほい?」 
「悪夢、夢魔」
 台所で振り向いた真帆。
 傷口からどくどくと流れる血。
「……赤い河」
 思い出して一瞬顔色を悪くした相羽には全く構う様子もなく、小人は大きく
頷いた。
「はい、悪夢に夢魔に赤い河っと……はいダンナちょーっと待ってみそっ」 
 一瞬口を閉じて、そしてすぐに。
「はいなあ、とりあえず赤、に夢魔で一件ひっとお!」 
 おまいは太鼓持ちか、といいたくなるような口調である。
「ん、ちょっと詳細出してみてくれる?」 
「はいよう」
 小人はちょっと唇を丸く開いて尖らせた。小さく息を吸い込んで。
「報告。コード名『赤の夢魔』」
 その唇から、どう考えても女の、それも艶やかな声が発せられる。
「現在罹患中の人数は18。夢に穴が開き、そこから赤の色が染み出し、それ
が流れに変わる、との、被害者による報告あり。伝染性については確定はない
ものの、可能性はあり」 
 すらすらと言いながら、小人は同時に手を動かす。えらい速さで、その手は
紙の上に同じ内容を打ち出してゆく。
「へいダンナ、これが第一次検索さァ!」 
「ほう」
「この情報、結構新しいね……どうやら近日中にUpdateされそうだぜ」
「例えば?」
「人数なんか、まだ変動する可能性アリだろ。こういう場合、また情報が来る
のさ」
 きろり、と大きな目が相羽を見上げる。
「出来ればここ数日、毎日でも来て、確認したほうが良さそうだぜダンナ」
「サンキュ、ちょっと確認して……また追加で調べたいことがあったら利用さ
せてもらうよ」
「そりゃ是非ってもんだぜ。その時ぁ、このガーゴイルんとこから入ってきな
ヨ!」 
「了解」
 ぴっと軽く敬礼する。その仕草を真似て小人はがはは、と笑った。
「また来るよ」
 言うなり、灰色の塊……つまりガーゴイルの背中側……が、またかぱっと二
つに割れた。
「Thank you, Sir」
 重低音の良く響く声が、彼の頭上から響いた。

                **

 短い時間だったと思ったが、登録し調べ終わるまで、結構時間がかかってい
た。その後幾つか簡単な(つまり特殊なデータベースを必要としない)検索を
行い、その他幾つか、零課に関わることを調べる。それだけで結構、午後は潰
れた。
「じゃ、失礼します」
「ええ。今晩、よく奥さんを見ててあげてね」
「はい」
 無論、と頷いた相羽に、銀鏡は少し首を傾げた。
「何か?」
「ああ。この件、相羽君に任せるのはともかく……零課初仕事を一人でっての
は、ちょっと色々大変だと思うのよ」
 確かにその通りだが、人員不足でこちらに廻せる人材は居ない、と、史久が
言っていなかったか。
 不審そうな顔になった相羽に、銀鏡はちょっと笑った。
「一応、明日来たらこちらに廻って。アドバイザーというのも何だけど、一応
零課に属して長いのを一名、用意しておくから」
「了解」
 少なくとも、こういうことを伊達や冗談で言う相手ではない。
 相羽は頷くと、踵を返した。


時系列
------
 2008年8月終わりごろ

解説
----
 零課特製プログラム・ガーゴイルとピーピング・トム。
 正確に言うと、双方、Ver.HA06みたいなもんですか。

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 てなもんです。
 であであ。
 
 


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