[KATARIBE 31730] [HA06N] 小説『夢魔氾濫・4』

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Date: Tue,  9 Sep 2008 00:12:55 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31730] [HA06N] 小説『夢魔氾濫・4』
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2008年09月09日:00時12分54秒
Sub:[HA06N]小説『夢魔氾濫・4』:
From:いー・あーる


どーも、いー・あーる@もしかして修羅 です。
とりあえず、少しずつですが進めます。
……なんか、ログがちょっとちょっとずれてるので、少しずつ書き足したり
してます。
やっぱり見切り発車は怖い<おまいがわるいんだよ!

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小説『夢魔氾濫・4』
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登場人物
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 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :ヤク避け相羽の異名を持つ刑事。嫁にはダダ甘だったりする。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。

本文
----

 ゆっくりして下さい、と、声は告げる。
「うっとおしいかもしれませんが、ちょっとの間、髪の毛洗わないで下さいね」
 かさかさと乾いた印象の声が告げる。節くれだった、細い指が丁寧に真帆の
髪を拭き、ゆっくりと梳く。
「一応、こうやって拭いておきますけれどもね」
「はい」
「髪の毛はまだ痛みますか?」
「…………少し」
 眼を開けて、小さく顎を引く。頷いた真帆にその男は少し笑った。
「毛の先に、封じの為の薬を塗っておきました。暫くはそれでもつと思います
が、洗ったりするとどうしても封じが取れます」
 かさかさと乾いたような皺を刻んだ顔が印象的だった。
「もし、またあの液体が出てくるようだったら連絡を下さい」
「……はい」

 びっとりと、バスタオルに貼りついた髪を外し、血を取る。その途中この男
は幾つもの質問をした。痛みはあるか。それはこの切り口だけか、それとも後
頭部全体が痛むか。他に髪の毛に違和感はあるか。
(痛みは、傷口だけです。後頭部は……少しもやっとしてますけど、痛くはあ
りません)
(髪の毛切る前には、なんか、髪の毛が膨れ上がるじゃないけど、突っ張るよ
うな感覚はありました)
 ふんふん、と頷きながら男は髪の毛を清めてゆく。洗えないんですか、と尋
ねると、それは危険かもしれないね、と、苦笑された。

「それと、こういう傷は体力をどうしても使いますから、とにかくゆっくりと
なさって下さい」
 長い人差し指を真帆の鼻先に突きつける。丁寧に切った爪が、綺麗な楕円を
描いているのが妙に眼に残った。
「疲れている自覚がなかなかありませんからね。充分気をつけて」
「…………はあ」
 思わず頷くと、男も頷き返した。
「相羽君がそろそろ来るから、一緒に帰って下さい」
「え、あの」
「大丈夫じゃありませんからね。家に帰って、今日はゆっくりしていて下さい」
 黒い丸縁の眼鏡の向こうから、きろり、と、眼が真帆のほうを見た。

          **

 たっぷり一日分の心配をしたと思ったのだが、家に辿りついたのはまだ正午
になったばかりの頃だった。そういえば朝が早かった、と、相羽は苦笑した。
「……真帆」 
「はい?」 
「……痛みはどう?」
 真帆の調子を暫く見てから戻る、と、銀鏡には言い、了承を得ている。じゃ、
ご飯を作らなきゃ、と、立ち上がりかけた真帆をそっと引き止めた。
 不思議そうに見返す、真帆の額をそっと撫でる。
「……うん、まだ、少し痛いんだけど」 
 髪を包んでいたタオルのうちの一枚は、零課に置いてきた。分析を行う、と
丸眼鏡の男は説明した。
「でも、あれは、多分血じゃないと思う」 
「うん」
 普通の血なら、今頃真帆がこんな顔をしていられるわけが無い。タオル一枚
をすっかり血染め状態にし、その後包んだバスタオルもかなり血だらけになっ
たのだ。
 真帆は今日、一度たりとして輸血をしていない。

 真帆の髪の毛は、今はゆるやかな三つ編みでまとめられ、幅広のリボンに見
えるものでまとめられている。ただ、そのリボンの表面には一面ぎっしりと細
かい文様が綴られている。守りと封印の文様らしい。その先のほうをゆっくり
と持ち上げて真帆は言う。

「何が憑いたんだろう、と、さっきから考えてるんだけど」 
「……無理しすぎないようにね」 
 ついつい言ってから、相羽は小さく息を吐く。
(何だかんだ言って、多分彼女が一番、謎に近い筈だから)
 あっさりと言った、自分達より10ほど上に見える女を思い出して、相羽は
少々面白くない思いをする。それを押し殺すようにして……無論一切顔には出
さないまま……彼は手を伸ばしてその髪をそっと撫でた。
「何か、思いついた?」 
「まだ、何とも」 
 ちょっと困ったような顔をして、真帆は唇を噛んだ。
「でも、頭に近いもので、あたしが祟られるとしたら」 
「うん」
「……夢、かな」 
「夢?」 
 疑問符付きで言いながら、けれどもその答えには納得するものがある。真帆
が千本の鳥居の悪夢の中で迷ったことは、まだはっきり憶えている。
「悪夢は全て紅いから」
 恐らく同じものを連想したのだろう、真帆がぽつりと言った。

「…………夢は、『あちらがわ』に通じる道」 
 え、というように顔をあげた真帆に、相羽は小さく笑った。
「葬儀屋の兄ちゃんが言ってた言葉、だけどね」 
「うん。彼なら言うだろうと思う」 
「……悪い夢は……」 
 真帆ならばまたそこに引きずり込まれそうになったのか。一瞬だがそう連想
したところで。
「でもまだ判らない」 
 きっぱりとした声に、相羽はふっと息を吐いた。
「……そう」 
 丸い額をそっと撫でる。ほつれた髪が少しだけ指に絡んだ。


 お昼くらいは食べてって、と、真帆が言い、休まなきゃ、と、相羽が主張す
る。さっと茹でた素麺と、蒸し茄子と胡瓜のサラダが妥協点だった。
 いつもはきゃあきゃあと騒ぎながら食べては真帆に怒られる縹やベタ達も、
今日は大人しく、ぱりぽりと胡瓜を齧っている。

「尚吾さん」 
「ん?」 
 改まって呼ばれて、相羽が顔を向ける。視線の先で真帆は少しだけ笑ってい
た。
「それでも……面白いって思うんだよね」 
「……面白い?」 
 虚を突かれた相羽に、真帆は小さく首を横に振って見せた。
「何か……以前の自分のようで」 
 やっぱり訳が判らない。そんな表情の相羽に、真帆はあのね、と、言葉を選
ぶようにして話し出す。
「ほら、あたしの学科って一応理系の、マッドサイエンティストが一番発生し
やすい学部だったと思うんだけど」
 確かに物理というのはそういう面があるかもしれない。
「誰かが言ってたんだよ。『科学の為には己など惜しくない、まして他人の身
など!』……って」
「一歩間違えると危険人物だよね」 
 くすりと笑って言うのに、真帆もやっぱりくすりと笑った。 
「うん、ほんとに」
 だから、と、言葉を継ごうとして、真帆が少し考え込む。言いたいことは何
となく判った。 
「……でも、興味がひかれるっていうのは……やっぱりあるのかな?」 
「それはそうだよ」 
 というより、それこそが真帆の『以前の自分』と称したところなのだろう。
「あたしは知りたいもの。これがどうして起こったのか」 
「うん……俺も」 
 何よりも、この異変を食い止める為に。

「……尚吾さんは、いいの?」 
「そりゃ心配だよ」 
「そうじゃなくて……」  
 言いかけて、真帆は口を噤んだ。小さく息を吐く。
「大丈夫?」
「あ、うん」
 気が付くと、真帆の器の中には、まだかなりの素麺が残っている。
「真帆、また痛む?」
「ううん、そうじゃないけど……」
「きゅ!」
 ちるちると両手で素麺を掴んでは啜っていた縹が声をあげた。めんつゆでぺ
たぺたの両手を振り回す。
「ああ、判ったから、縹はそうやって手を振り回さない」
「……きゅぅ」
 しゅん、として両手を前に出す。その手をごしごしと濡れたタオルで拭いて
やりながら、真帆は苦笑した。
「何だか食べたいって思わないんだよね」
「真帆」
「大丈夫」
「いいから……休んでて」
「きゅ!」
 畳み込むように縹が頷き、ベタ達がぷくぱたと跳ねる。
「……はい」
 食器を洗い桶に入れ、水を張る。
「尚吾さんは、じゃ、また県警に?」
「うん。早めに帰るよ」
「はい」
「ご飯の用意はしなくていいから」
「……」
 困ったように笑いながら、真帆は頷いた。


 零課に入ったことは、後で言おう、と思う。このまま言い置いて県警に戻っ
たら、多分真帆は一人っきりで考えて考えて、どんどんと悪い方に行くだろう
から。
(楽しみだ、って言っていたから)
(多分、言ってしまった、と思うだろうから)
 玄関まで見送りに来た真帆の頭を一度撫でる。いつものように、真帆は少し
照れたような顔のまま、笑った。

「いってらっしゃい」
「うん」
 
時系列
------
 2008年8月終わりごろ

解説
----
 この一件、楽しみだという真帆は、先輩が零課に入ったことを知らない……

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 てなもんです。
 ちょこちょこ書き足してるので、問題があったら訂正お願いします>ひさしゃん

 であであ。
 
 




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