[KATARIBE 31724] [HA06N] 小説『夢魔氾濫・3』

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Date: Mon,  1 Sep 2008 00:32:09 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31724] [HA06N] 小説『夢魔氾濫・3』
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2008年09月01日:00時32分09秒
Sub:[HA06N]小説『夢魔氾濫・3』:
From:久志


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小説『夢魔氾濫・3』
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登場人物
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 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :ヤク避け相羽の異名を持つ刑事。嫁にはダダ甘だったりする。
 本宮史久(もとみや・ふみひさ)
     :人間戦車の異名を持つ刑事。兼任零課所属でもある。相羽の親友。

本文
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 かつかつと響く足音の後に、聞きなれた声が聞こえた。
「先輩、こちらでしたか」
 足をとめた相羽が振り向いた先。心持ち顔をこわばらせた史久が立っていた。
「史か」
「真帆さんのこと、銀鏡さんからお聞きしたので……」
 最後の言葉を噛むように、口をつぐんだ。
「ああ、悪いね。あっちの方はどう?」
「卜部課長に調整していただきましたから、それに」
 言葉を切って史久が相羽の顔を見る。
 何かを聞こうとしつつ、それを押しとどめるような表情で。

「そそ、俺、こっちの課でお前の後輩になるから、よろしく」
 片手を挙げて笑う姿に、疲れたように史久は小さく息をついて肩を落とした。
「予想はしていましたけどね」

 長年つきあいのある史久は相羽が何を思ってどう行動しようとしているか、
大体予想がついていた。
 かつて一人きりだった相羽が、どれほど妻の真帆を大切にしているか。
 真帆のこととなると、史久でさえ想像もつかない程の行動力を発揮するか。

「本気で、こちらへ来るつもりなんですね」
「ああ、そだよ」

 今まで――史久が零課に兼任になった頃から既に相羽にも何度か兼任で零課
にスカウトがいっていたことは知っている。そしていずれも相羽が断っていた
ことも。
「真帆さんの為に?」
「つまりは俺の為でしょ?」
「……そうですね」
 呆れるほどの切り替えの早さに、逆に戸惑ってしまう。

「それで、この件は相羽さんが担当ということになった、と」
「そうだね、まあ新人なりに頑張るつもりだよ」
 こんなふてぶてしい新人がいるか、と、史久は内心思いつつ言葉を続ける。
「ええ……応援は出せるように、と銀鏡さんと調整していますが……なにぶん、
この件は僕や川堀では戦力になりませんから……」
 額に指を当ててため息をついた銀鏡の言葉を思い出す。

 だってねえ。史久君じゃあ相羽君と基本変わらないし。

 今、真帆の身に起こっている異変
 特殊な異能を持たない史久や、サイコメトリ以外は常人と変わらない川堀で
は対処には向かない。かといって他に人員を呼び寄せるには常に人手不足の
零課には厳しい話だ。

「先輩」
「ん?」
 手にした紙包みを相羽に差し出す。
「これを」
 手渡された紙包みを見て史久の顔を見る。
「これは?」
「僕からできるのは、これくらいですから」
「ふぅん、開けるよ」
 紙の擦れる音、幾重にも包んだ赤茶けた紙をめくった下に現れたのは、黒い
光沢を帯びた掌にすっぽり収まるサイズの小さな――拳銃。

「銃?」
 本来なら仕事上扱いなれているはずの銃。
 右手にとってグリップを握りこむ。
「ふぅん」
 かすかに眉をひそめる。
 見間違いようもない金属光沢、伸びた銃身、握りこむグリップの感触。
 しかし、見た目とそぐわない奇妙な軽さが気にかかった。
「随分軽いね」
「ええ、普通の銃とはちょっと違いますね」
「そっち向けのシロモノか」
「……まあ、僕らのような特殊な力がない者向けの品なので」
「使い方は?」
 手に取った銃の重さを確かめるように何度かグリップを握りこんで、軽く
左右に動かす。
 普段、銃を手に馴染ませる時の相羽の癖。
「流石というかなんというか……」
 物事に動じない、というのは史久自身にも言えることだが。それ以上に相羽
の動じなさと切り替えの早さには感心を通り越して気が抜けそうになる。
「この銃は弾丸ではなく、『念』を込めて撃つといったものです」
「念?」
「イメージを持ってもらう必要がありますが、この銃に強い『念』を送るもし
くは『念』を集中できる触媒を詰めて撃つ、この二つです」
「ふむ」
「気持ちの強い者ほど、威力を持たせることが出来、また強さもコントロール
できます。先輩に向いているのではと思いまして」
「ふぅん、じゃエターナルフォースブリザードみたいなの撃てる?」
「……気の持ちようじゃないですか」
「それはいいや」
 くつくつと笑って銃を撫でて、ふと急に真面目な顔になる。
「正直、助かるよ。本音でいうとね……俺も何ができるもんかなって思ってた
ところだから」
「……珍しいですね、先輩が僕にそういうところを見せるのは」
「おかしい?」
「いえ、それだけ深刻だということですから」
「じゃあ、これは当分預かってもいいってことかね?」
 既に慣れたように銃をくるりと回して握りこむ。
「ええ、今後も兼任であるならばそれは必要なものでしょうから」
「助かるよ」
「……はい」
 銃を紙包みに戻すと、相羽が踵を返した。
「真帆の様子が落ち着いたら一旦、家に戻すらしいよ。その前に現状を抑える
為にあれこれ手配してもらってるから、俺も付き添う積もり」
「わかりました」
 史久に背中を向けて軽く片手をあげる。

「……お気をつけて」

 遠ざかる背中を見送りながら、ぽつりと呟いた。


時系列と舞台
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 2008年8月終わりごろ
解説
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 相羽の零課兼任で、史久からのささやかな協力。
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以上



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