[KATARIBE 31721] [HA06N] 小説『夢魔氾濫・2』

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Date: Sun, 31 Aug 2008 00:13:35 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31721] [HA06N] 小説『夢魔氾濫・2』
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2008年08月31日:00時13分35秒
Sub:[HA06N]小説『夢魔氾濫・2』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
また書いてます。
とろいです。

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小説『夢魔氾濫・2』
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登場人物
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 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :ヤク避け相羽の異名を持つ刑事。嫁にはダダ甘だったりする。
 銀鏡 栄(しろみ・さかえ)
     :県警零課の一員。主に戦力勧誘、交渉を請け負う。

本文
----


「……予想してたと言うと嘘ですけど、驚きませんね気分的に」 
 さばさばとした口調で言うと銀鏡は肩をすくめる。
「……正直、俺も思ったより驚いてないね」 
 心なしか青い顔でソファに座った相羽が、やはり小さく頷いた。

 県警、零課。
 銀鏡の指示の元、真帆は他の部屋に運ばれた。
「寝ててください。暫く」
 その指示の通り、真帆は眠っている。その間に髪から採取した液体(血とは
銀鏡は言わなかった)を調べ、治療なり封じなりの方法を考えるという。
「異界とこういう風に関わるのって、体力使うんですから。寝といて下さいな」
 そう言われて、真帆は素直に従った。
 それだけ、疲れているのかもしれない、と、相羽は小さく唇を噛む。


「そういうことが起こっても不思議じゃない奥さんだから、ですかね」 
 口元をゆがめるように笑った女の言葉に、相羽は直接は答えなかった。
「……正直、今真帆に何が起こってるか……見当もつかない」
 そりゃあそうでしょう、と言うように銀鏡は頷いた。
「こちらだって、今すぐにはいはいこうですと言えるわけじゃありませんから
ね」 
 それは無論そうなのだが、相羽にしてみれば『そうなのだがしかし』と、言
いたくなるのだろう。小さく唸った声に、銀鏡は苦笑した。
「とりあえず、真帆さんは、今すぐどうこうなるってわけではなさそうだし」 
 余裕が無いわけじゃありませんよ、と言いかけた言葉を遮って、ゆっくりと
相羽が口を開いた。
「……銀鏡さん」 
「はい?」 
 小首を傾げた銀鏡に、相羽はぽつり、と言った。
「こっちに……首突っ込む覚悟、決めた」 
 刹那、銀鏡の目が鋭く細められた。


 実のところ、彼を零課に、と声をかけたことがある。その時にはきっちりと
断られた。別に零課に偏見があるというわけではなく、まず普通の(というと
妙だが)犯罪から対応したい、ということだったのだし、彼の過去を考えると
それもむべなるかな、で、諦めていたのだが。
「無関係ではいられないからね、今も、これからも」
 その言葉の語られない部分を、ゆっくりと銀鏡は口にする。
「……真帆さんは、境界上の人だから」 
 もしも真帆が居なければ、彼の立ち位置は変わらなかったろう。そして真帆
が居る限り、彼の立つ位置もまた境界線の近くになるのだ。
「真帆が俺の嫁で、多分これからも真帆には境界のごたごたは付きまとうだろ
うから」
「確かに」 
「知らぬことではすまない」 
 噛み締めるようにゆっくり言うと、彼は口元を微かに笑いの形に曲げた。
「で、片足じゃなくてつっこむなら首まで突っ込む覚悟でいくよ」 

 真帆の立つ位置。
 一歩転げれば、あちら側に容易く行ってしまうだろう。そういうあやうさを
常に纏っている彼女の位置に、相羽が立つということ。

「こちらにはとても有難いことですがね」 
 ちょっと笑ってから、銀鏡は口元を引き締めた。
「奥さんをこちらに引っ張り戻して封じる、ということも手としては無いでは
ないかもしれませんよ」 
 ひどく持って回った言い方に、それでも相羽は首を傾げた。
「……引っ張り戻す手段は、あるのかな」 
 それが出来るなら、と、言いたげだった相羽の表情は、次の瞬間に変わった。
「その代わり、彼女はもう……多分縹ちゃんは見えなくなる」 
 ふわり、と、右の手を彼の横に置いてある籠へと伸ばす。その中に、今は緊
張し切った小さな竜と魚達が居ることは、彼女もよく判っている。
「境界の上に或るのが普通の人間をこちらに引き戻せば、彼女の向こう側の属
性は全て断ち切られる」
 真帆にとっては、それはある意味では耐えられないことだろう、と。
 それを十全に知った上で言うあたり、銀鏡も性格の悪さがよくわかる。 
「そういう、ことでしょうね」
 念を押すように言った銀鏡の視線の先で、相羽は腕を組んだ。
「じゃあそのやり方はなしだね」 
 うちの子だもの、と言うように、軽く籠の縁に手を置く。
「そしたら、確かに相羽君がつきあうしかないかね」 
 苦笑した銀鏡に、相羽は一つ頷いた。
「つきあうよ、とことんまで」 
 きゅ、と小さな声がした。
 

「……真帆はどういう状態で、俺はどう対処すればいい?」 
 ですからね、と、銀鏡は苦笑した。
「今すぐにはいわかりました、と言えるなら、我々零課が真帆さん巻き込まな
いわけなんだけど」 
 でもね、と、指を折ってみせる。
「県警のトイレで煙草を吸っていた子、多菜ちゃんの両親の事件、学校の幽霊」
 折られてゆく指に、相羽は居心地悪げに頭をかいた。
(どっかの魚とかもね)
 本当にそう考えると、真帆に関わるあやかしの数は多い。 
「真帆さんは、今までこちらの世界に居るのに、あちらの世界を遠慮なくこち
らに引っ張ってきていた」
 遠慮も何も、彼女がその触媒であったのだが。 
「そのせいで、あちらの世界が真帆さんに近くなることはあると思う」 
「……あちらの世界と……繋がっている、とでも?」 
「わからない。でも、もしも、あちらの世界とこちらとを混沌とさせたいなら、
彼女の異能はとても面白い触媒になる」 
 くつ、と、小さく笑った声を、相羽はむっとした顔で受け止めた。
「面白いね、全く」 
「……不愉快だね」 
 腕を組んで言い放った言葉に、銀鏡は肩をすくめた。
「現状が不愉快ではない、と言った覚えはないわよ」 
 多少なりと、とりなす言葉だったのかもしれないが、それくらいでは収まら
なかったのだろう。相羽はきっぱりと言い放った。
「真帆はあちらの世界の触媒でも道しるべでも面白い道具でもない、俺の妻だ」 
「それならね、もう少し自分の奥さん信用しなさい」 
 間髪入れずに言い放つと、彼女は溜息をついた。
「何だかんだ言って、多分彼女が一番、謎に近い筈だから」 
「……信用してるよ。ただ……それだけじゃどうにも割り切れないこともある
し、ね」 

 割り切れない世界を、真帆は割り切ろうとする。
 それが割り切れるならいい。割り切れなくなると真帆は、唯一自分の自由に
なる己の心をねじ伏せ、思うことを殺し、そうやってあやかし達に対峙しよう
とする。
「そういう割り切れないことを、あいつは割り切ろうと無理をするから」 
「まあ……それでなけりゃ、あちらに転がってるでしょ。今頃」 
 素っ気なく言うと、銀鏡はふっと目を細めた。
「相羽君。こういう謎はね。時々、その謎に我々が関わることで変化すること
がある」 
 相手が了解してるかどうかを確認もせずに、彼女はどんどんと言い募る。
「認識によって相手が固定され、それによって対処する方法が変わることが結
構あるのよ」 
 ひらひらと指先が、その変わってゆく問題を突付くように動いた。
「完全にこの世界のモノでない以上、真帆さんの観測、相羽君の観測が、相手
を変えることがある」 
 相手を第三者として関わる犯罪の捜査とは違う。捜査することで相手が変わ
ることだってある。
 それが零課。

「言葉でも認識でも捉えられない相手を、形を与えて排除する」 
「……そういう、事件、か」
「そういう事件の可能性もあるってこと」
 口を引き結んだ相手から、銀鏡は目を逸らした。 
「とりあえず、サンプルは取った。奥さん連れて帰っていいわ」 
「……わかった」 
「それと、この件、相羽君が取り扱う積りでしょうけど、一応こちらは初めて
だから、後で助っ人を送るわ」
「有難いね」
「真帆さんをよく休ませてあげてね」
「無論」


時系列
------
 2008年8月終わりごろ

解説
----
 ぴょん、と境界を飛び越えて零課に関わろうとする先輩。

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 というわけで。
 であであ。
 
 



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