[KATARIBE 31716] [HA06N] 小説『夢魔氾濫・1』

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Date: Tue, 26 Aug 2008 23:51:40 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31716] [HA06N] 小説『夢魔氾濫・1』
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2008年08月26日:23時51分40秒
Sub:[HA06N]小説『夢魔氾濫・1』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ログからおこしてます。
ひさしゃん、有難うございました。

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小説『夢魔氾濫・1』
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登場人物
--------
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :ヤク避け相羽の異名を持つ刑事。嫁にはダダ甘だったりする。

本文
----


 夢を覚えていない時点で、おかしかったのかもしれない。

            **

 頭が重い、と思いながら目が覚めた。
 時計を見ると、まだ起きる時間よりも半時間ほど早い。かと言ってもう一度
目を閉じたら確実に眠れない、と、判っている。
 ゆっくりと真帆は身を起こした。
 隣に眠っている相手を、起こさないように。そろりそろりと起き上がって、
出来るだけ静かに着替える。
(……なんか変)
 ブラウスを着て、襟に入り込んだ髪の毛を払う。軽く払った筈が何だか髪の
毛が重く、少し首が後ろに引っ張られるような気がした。
(っかしいな)
 髪の毛が濡れているならともかく、普通はこんなことはない。後ろで束ねた
髪を、肩から前へと垂らし、手の上で弾ませる。
 何だか妙な触感があった。
(伸びたのかな)
 髪の長さはほぼ腰まで、それを大概三つ編みにして垂らしたり、くるくると
巻きとめていたりする。髪の毛を切るのは自分で出来るし、そもそも美容室に
行ったことなど十年単位で無い。
 だから。
(不揃いだし、丁度いいか)
 台所の隅の引き出しに入っている鋏を取り出し、不揃いに伸びている先っぽ
を切る。揃えるくらいだから一番長くても7cmくらい、それこそ大したこと
のない作業だった。

 のに。

 切った瞬間、眼窩の裏に光が焼きついたかのような痛みが走った。
「…………っっ」
 切ったのは小指の半分ほどの太さの束。ざくり、と刃が横切る手応えと共に、
全く憶えの無い痛みが後頭部を襲った。
 そして。その切り口から。
「……うそ……」
 もしも、小指を半分切ったらこれくらいは出るだろう、という勢いで、血が
ぼたぼたと零れだした。
 
 慌ててタオルを取って抑えた。
 ブラウスの胸のところ、そして抑えた手から零れる赤い色。出来るだけぬぐっ
てから髪の先を押さえる。
 びりびりと痛みが走ったが、それどころではない。
(止まってよ……こんな時に!)
 標準の厚さと大きさのタオルは、すっかりと血を吸い込んでずくずくとして
いる。抑えている手の間を、赤いものがゆっくりと細い筋をつけて流れ出す。
(ああもうっ)
 そもそも、髪の毛を切って血が出るというのが異常な事態で。それに加えて
朝のこの時間、いつもならご飯の支度をしている途中である筈なのに。
(止まらない……っ)
 抑えても抑えても、血が止まらない。タオルから染み出した血は、腕を伝い、
いつのまにか床にまで落ちている。
(洗ったほうが……でも)
 この状態で先を水に晒したら、絶対に痛い。それに洗ったからとて、この血
が止まるかどうか判らない。
(どうしよう……どうしたら)
 時間が無い、隠しようがない、こういう症状をどこの病院に持っていくべき
か判らない、病院で治せるかどうかも判らない。
 恐らくは多少パニックになっていたのだ。そのことは後で思い返せばわかる。
 けれど無論その時は、そんなことを考える余地も何もなく。
(止まって、お願い……止まって!)
 ぎゅっとタオルの上から押さえた時に。
「おはよ、真帆」 
 声が……かかった。
 それはとても普通の声だった。


 それは本当にいつもの朝だった。
 朝は大概、起きた時にはご飯の匂いがしている。台所に行くと、真帆がお玉
を持っているところだったりする。
 だからいつものように、台所に向かって、声をかけた、ところで。

 ひっと小さく息を呑むような声がした。

「ま……」 
 台所の戸口から覗き込んだところで、彼の表情は凍りついた。

 怯えたように振り返った顔。胸のところで何かを支えるように持っている手。
その手からぽたりぽたり、と、したたる赤の色。
「真帆!!」
 ほんの2m程度の距離がひどく長いものに思えた。
 伸ばした手の先で、彼女は泣きそうな顔をした。

「どうした、真帆!血が」 
「…………髪、なの」 
 額に細くついた赤い色。両腕は真っ赤に染まっている。戸惑った、そして泣
きそうな顔のまま、真帆は呟くように言った。
「髪の毛、切ったら……」 
「……髪?」 
 押さえ込んでいた真帆の手をそっと開き、髪を手に取る。
 途端にべたり、と、粘るような感触が掌に伝わった。
 
「!」 
「そこから、血が……っ」 
 言葉を聴きながら、そっと髪の毛をたぐる。伸びた毛先に手を触れると、真
帆はびく、と、身体を震わせた。
 指の先の、ぬるっとした感触。


「……どう、しよう……」 
 うわごとのように呟いている。
 先程まできりきりと空回りする勢いで考えていた一つのこと。この人にどう
言おう、どう伝えよう、と、それだけをきりきりと考えていた思考は、そこか
ら離されてもまだ、どこかしらくるくると同じところを廻っている気がする。
どこか呆然と立ったままの真帆の髪の毛を、相羽はそっと掬った。
「……」
 たらたらとこぼれる血。それは身体の他の部分からは流れていないことを確
認してから、相羽はそっと真帆の身体を支えるようにした。
「真帆……動ける?」 
「……え……うん」 
「……じゃあちょっと今から移動するよ」 
「え?」
 髪の毛を見ていた真帆は、目を丸くしてこちらを見上げた。
 どこか子供のような表情だった。
「どこに、いくの……?」 
「……零課へ」 
 あてはその一つだけ。
「…………零課」
 ぼんやりと呟く真帆に、箪笥から取り出したバスタオルを数枚渡し、今まで
掴んでいた血まみれのタオルを受け取る。
「移動するまで、ちょっとこれでくるんで」 
「……うん」 
「しばらく我慢して」 
「…………うん……」 
 一度そっと頭を撫でると、相羽は部屋に戻る。着替えてタクシーを呼び、県
警に一報を入れる。
『わかりました』
 短い応えにほっと息を吐いて携帯をポケットに戻した時に。
「……きゅ?」
 それまで暫く、全く忘れていた小さな竜が、ベッドの枕元でむくりと起き上
がって目をこすっていた。


 ねぼけまなこに大あくび。
 けれども縹は一緒に行く、と言い張った。
「きゅうーー」
 あくびをしたものだから涙目になった顔に、眠気に負けないような頑固な色
を浮かべて主張する。その後ろでは三匹のベタ達がぷくぱたとなにやら主張し
ている。
「わかった、わかったからお前らまとめてここにはいっとけ!」  
「きゅ!」
 いつも真帆が持ち歩いている籠の中に皆をまとめて放り込む。ころころん、
と、青いボールのように縹が転がり込んだ。
「真帆、じゃ、これを持って」
「うん」
 タオルで頭を幾重にも包んだ真帆の肩を抱くようにして早足で歩き出す。
「……零課に、でも、こういうのもそうなのかな」
「そりゃそうだよ」
 少々ほつれたような日本語を、的確に判断して返す。
「こういうことこそ、あそこの専門なんだから」
 うん、と頷いて、真帆は少しだけ安心した顔になった。

時系列
------
 2008年8月終わりごろ

解説
----
 朝一番に相羽家にて起こる異常。

***************************************

 さあどうやって風呂敷を畳むか。

 であであ。
 
 


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