[KATARIBE 31709] [HA06N] 小説『猫町化する世界・2』

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Date: Tue,  5 Aug 2008 00:00:34 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31709] [HA06N] 小説『猫町化する世界・2』
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2008年08月05日:00時00分33秒
Sub:[HA06N]小説『猫町化する世界・2』:
From:いー・あーる


というわけでいー・あーるです。
もそもそ続き書いてます。
つーても、とりあえず話はここでおわりなんですが。
(2じゃなくて前後にすりゃ良かった)

***************
小説『猫町化する世界・2』
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登場人物
--------
橋本保鷹(はしもと・やすたか)
   :ワーモグラな少年。セレスティアルラボ所属。霞中首席。
初谷千波(はつがい・ちなみ)
   :初谷凪の息子。千華とは双子。脳の一部に『思考する』部分を組み込まれている。
初谷千華(はつがい・ちか)
   :初谷凪の娘。脳の一部と左目に、『情報を得る』為の機械を組み込まれている。

本文
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「……このしろいのなに?」 
 ねえねえ、と、両手をぱたぱたさせて質問してくる少女のほうを見やって、
保鷹はああ、と言った。
「イカだよ」
 スーパーには色々面白いものがあるから教えてよ、と、このところ買出しに
は初谷のこの双子がもれなく付いてくる。だって面白いじゃないか、と、二人
は主張するし、確かにそうなのかもしれないが。
「……おお!!」 
 ところで、保鷹の返事に、千華は目をまん丸にした。
「じゃ、じゃ、ね、この周りがなんかむらさきっぽいのは?」 
「え?」
「も、もしかしてタコ?!」 
「うん、タコ、だよ」 
 急に興奮して問いかけてきた少女に驚きつつも、保鷹が頷くと、千華はぴょ
ん、と一つ跳ねた。
「……うっわあ、これがそうなんだー!」 

 繰り返すが、スーパーである。
 一見して異国の人間とわかるからまだ周囲の目は優しい(初めての日本なの
ね、色々珍しいのね、というフィルター付き)が、それにしても相当に目立つ
し、現に非常に人の目を引いている。

「……どしたの?」 
 次の棚にまで行っていた少年がその声に振り返り、足早に戻ってきた。その
鼻先に、寿司のパックが突き出される。
「千波千波、これがイカでタコ!」 
 きらきらと目を輝かせた少女の次の言葉に、しかし保鷹はこけそうになった。
「やっぱり日本人は、クトゥルーより強い!」 
「く、くとぅるーって」 
 寿司を掴んで「クトゥルー」と叫ぶ少女がおかしいのはともかくとして、ク
トゥルーで速攻判る12歳もどうかと思われるわけだが、それはともかく。
「へえ?」
「だって、クトゥルーって、ほら、こういうタコだし」 
 ふにゃふにゃと手まねで『口から触手』を示してみせる。
「それに……ねえ、この紅いのは、インスマウスだよねっ」
 いやだからなんでマグロがそーなるのだ。
「え、ええと、それはちが……」 
「……え?だってこれ、ま、ぐろ、だよね?」 
 そこで切るな、と、恐らく周囲で聞いていた数人が心中突っ込んだと思われ
るが、無論千華は平然としたものである。
「え、あの……」
 周囲の視線の痛さに、あわあわと保鷹は視線を千波に動かしたが、こちらは
こちらで悠然としたものである。
「ごめんね保鷹。千華はちょっと変な風にクトゥルーが好きなんだ」 
 にこにこと笑ってその一言で、済ませて良いのか大いに疑問があるわけだが。
「……そ、そう、なんだ……」
 とにもかくにも視線が痛い。いや、基本、痛いような視線は千華に注がれて
いるわけだが本人がとにかく気にしていない。従って視線は反射して保鷹に向
かうばかりである。

「ねえねえ、千波、これ食べようよこれ!」
「えっと、じゃ、じゃあ……ちょっとつまむ用で買って帰ろうか、二人分で」 
 一刻も早くこの場から去らせないといけない。その一心で保鷹はパックを受
け取る。
「これとこれでいい?」
「うん!」
 ぴょん、と飛び上がった少女は、そこでまた、保鷹が頭を抱えるような発言
をかましてくれる。
「うわあいっ、これで旧き者達に勝てるー!」 
(食べることが勝つこと?そういうこと?) 
 うーむーと唸った少年の内心に答えるように、双子の兄のほうが軽く笑った。
「弱肉強食、食物連鎖では勝つことになるね」 
「そうなのそうなの!」
 買い物の籠に入れた寿司のパックを見て、少女はにこにこ笑う。
「わーいクトゥルーにインスマウスー」 
「……じゃあ、この、お寿司セットで」 
 よし買ったからいいよね、と、慌てて寿司の売り場から離れる。双子の妹は
スキップで、兄はゆるやかな足取りで、その後を追う。
「日本って凄いねえ」 
「そう?」
「豚肉はあるし、イカもタコもある!」 
「……そうかな、うん……海産物とか、良く食べるから」 
 くすくす笑って通りすがるおばさんの視線に、少し肩をすくめて保鷹は言う。
 少女は全く構った様子がない。
「保鷹も好き?イカとタコ」 
「うん、好き。玉子も」 
「タマゴ?ああ、この黄色いの?」 
「うん、卵焼きを巻いてるの。あとこっちはアナゴに」
 何だかんだ言いつつ、丁寧に説明するあたりが保鷹であり、この双子が彼に
くっついて買い物に行く理由だったりするわけだが、本人あまり自覚が無い。
 ところで。
「アナゴ?」
「長い長い魚だよね?」 
 首を傾げた少女に、兄がやはり首を傾げながら応じる。
「ウナギ目の魚だね」  
 ふむ、と少女は顎に手をやり、考え込む顔になった。
「……見たことあるけど、あれいつも不思議なの」 
「不思議?」
「ウロコはあるの?」 
「鱗はないはずだよ」
 確か、と、言いかけたところで、少女はまたぴょん、と跳ねた。 
「すごいーっ」
「……へ?」
「日本人はとても強い。すごいね!」
「…………そう、かなぁ」 
 脈絡の無さと大きな声、過剰な動き。保鷹は首をすくめる。
「だってだって、写真で見たことあるけど、あれを食べるのはすごい人達だと
思ってたの!」
 ホヤについては、『最初にこれを食べた人は偉大である』と、エッセイでも
あるくらいだから、まあ確かに似たようなことが穴子でも言えるのかもしれな
い、と、少しだけ保鷹が納得しかけた、ところで。
「日本人だったら、リュウグウノツカイでも食べちゃえるね!すごい!」 
「…………」
 何でその単語が出てくるのだろう、とかどっから突っ込むべきか、とか、一
瞬にして色々考える。そりゃもうえらい勢いで考える。
 が。
「……そ、それは……」 
「おいしいかどうかは知らないけど、日本の人が、もし捕まえたら食べそうだ
ね」 
 あっさりと言ってにこにこ笑う。兄の言葉に妹も、そっくりの笑いを浮かべ
て頷いた。

 何でまたリュウグウノツカイなんだ、とも思うけれど。
(でも食べれる機会があったら食べそうな気もする)
 結局はまずいかもしれないけど、その機会があったら、確かに日本人なら一
口食べそうな気がするのだ。
(すごいかどうかはわからないけど)
 ぴょこぴょこと跳ねそうな勢いで、少女は周りを見ている。彼女の目には、
この普通の風景がどれだけ不思議なものに写っているのだろうか。

 猫町。
 いつも通る町を、道を間違えて違う方向から入っただけで、異なる町と見て
しまう方向音痴の男の話(と言えば身も蓋も無くなるけれども)。
 二人の視線から見る風景は、確かにいつもの世界と少しだけ違うようで。

「これも買っていい?」
 レジの手前に並んでいた一口羊羹を、ひょいと摘んで千波が笑った。


時系列
------
 2008年7月あたり

解説
----
 猫町化、スーパー編。
 これは留学中に感じたんですが、初めての国でどこいきたい?と問うと、
「すーぱー(^^)」という人は結構多いです(特に女性)。
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 そしてスーパーで買い込みすぎて、これどうするのよーと言われる人多発(笑
 というわけで、終わりです。
 であであ。
 
 


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