[KATARIBE 31707] [HA06N] 小説『猫町化する世界・1』

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Date: Mon,  4 Aug 2008 00:51:54 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31707] [HA06N] 小説『猫町化する世界・1』
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2008年08月04日:00時51分54秒
Sub:[HA06N]小説『猫町化する世界・1』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
猫町はとても大好きです。
ちょっと実体験まじりに。
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小説『猫町化する世界・1』
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登場人物
--------
橋本保鷹(はしもと・やすたか)
   :ワーモグラな少年。セレスティアルラボ所属。霞中首席。
初谷千波(はつがい・ちなみ)
   :初谷凪の息子。千華とは双子。脳の一部に『思考する』部分を組み込まれて

いる。
初谷千華(はつがい・ちか)
   :初谷凪の娘。脳の一部と左目に、『情報を得る』為の機械を組み込まれてい

る。

本文
----

 遠い国には雨季と乾季がある、と言った。
 乾季に緑なんてあり得ない、とも。


「うわあ……」
 学校から出てそんなには遠くないスーパーに行く道の、途中にあるその風景
を、異国から来たこの双子は毎度目を丸くして見る。
「見慣れたんじゃないの?」
「ぜんぜん」
 後頭部で高くくくった髪の毛を大きく揺らして、少女が答える。
「見る度に違う。緑が伸びてるし、渡る風が違う」
「描く文様が違う。流れる速さが違う。風の具合も違う」
 同じ肌の色と同じ髪の色。うっとりと見惚れるような色を目に浮かべて、少
年が答える。
「綺麗だよ」
「見慣れるなんて出来ないよ」

 春夏秋冬は無い。あるのは雨季と乾季。
 5月から10月くらいまで、雨の一滴も降らない乾季。
 そういう国からやってきた双子は、この道を通る度に足を止める。

 淡い色合いの髪と、明るい琥珀色の目。
 肌の色は浅黒い。
 顔立ちから何から、一見して異国から来たと判る二人は、手を繋いで田んぼ
を見ている。

「ことばに似ている」
「え?」
「結局はどれもこれも、パターンだ」
 薄い唇からこぼれることばは、それだけでは全く意味が取れない不可思議な
もので。
「ぼくらはその読み方を知らない」
 夢見るようにぼんやりと柔らかく世界を見ている目は、しかし多分他の人々
とは異なる記号をこの世界から読み取っているのだろう、と察せられた。
「たくさんたくさん、見ないと読めないのかな」
 明るい声は少女のもの、大きく見開いた目に鮮やかなほどの笑いと光を宿し
て、ぴょんぴょんと跳ねながら少女は言葉を続ける。
「たくさんたくさん、例外や番外や特例を含んだこの混乱する世界を見ないと
読めないのかな」

 世界が不可思議でならないとでも言いたげに。
 ひょこひょこと絶え間なく跳ねながら。

「風紋は残らないね」
「緑の上だと残らないね」
「あれはどういう文字になるの」
「それともどういう意匠になるんだろう」
「残らないのにとても綺麗」
「残らず、また繰り返すこともない」
「それなんてゆらぎ?」
「ゆらぎはゆらぎさ。マクスウェルの悪魔はとっくに居ない」

 人造の天才なのだ、と、こともなげに言う。
 造られた脳内の一部。それが肥大した情報を抱え込み、そして思考の方向を
設定する。
(一つのきっかけから、3つの発想しかできないより、百の発想ができたほう
が、最終的には新しいことを考え出すに適している)
 
「ずっと見ては記憶してるんだけどなァ」
 ぴょんぴょん跳ねていた少女は、とん、と、最後に踵をぶつけるように着地
すると、にこっと笑った。
「でもパターンが見えない。多分、見えるものだけじゃパターンは作れないん
だと思うけど」
「……緑の海を泳ぐ魚とか?」
 それはこの国の生まれとしては、割と単純な発想だと思う。無論実際はどう
かといえば違うわけだが、しかし『緑の波』から『魚』という発想は持ってゆ
きやすい。
 が。
「うわあそうなのか!」
 ぴょん、と、また飛び上がった少女は、高く笑いながらそう言った。
「魚かあ……あたし、サンドワーム考えてた!」
 なぜそこでそうなる、と、内心突っ込んだ保鷹にはお構いなく、少女は何度
か跳ねた後、またころころと笑った。
「じゃ、保鷹、買い物行こうよ、スーパー行こうよ!」
 
 世界は楽しくて楽しくてたまらない、という顔で跳ねる少女と。
 その世界を一度呑みこんで、ふわりと吐き出す前の少しぼんやりとした顔の
少年と。
 一緒に歩いてスーパーに行く道は、まるで異次元のようで。
「……猫町だ」
「ネコマチ?」
「そういう話があるよ」
 少女はちょっと首を傾げた。
「荻原朔太郎の?」
「うん」
 ふむ、と頷いたのは少年のほうだった。
「読んでみよう」
「読んで見ようね」

 跳ねるように歩き出す双子を案内しながら、保鷹は少しだけ笑った。


時系列
------
 2008年7月あたり

解説
----
 霞中学の3人の風景。
 全く異なる文化圏からやってきた人と一緒にスーパーに行くと、周囲は軽く
猫町化してしまいます。
***********************************

 てなもんで。
 ええ、他の国から来た奥様と一緒にスーパー行って、何故かカタカナが、
その方の国の言葉に見えちゃったとか、それが「いい買い物してるやん」の
意味だったりとか、ちょっとかるーく猫町風景したのを思い出して。

 つまりがとこ次はスーパー編です。

 であであ。
 
 



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