[KATARIBE 31692] [HA06N] 小説『百足の百本の足の如く』

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Date: Sat, 12 Jul 2008 01:23:57 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31692] [HA06N] 小説『百足の百本の足の如く』
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2008年07月12日:01時23分57秒
Sub:[HA06N]小説『百足の百本の足の如く』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ねむいです。
見直してないです。
ぐー<こらまてや

というわけで、『時効前』の一件のサイドの話。
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小説『百足の百本の足の如く』
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登場人物
--------
 銀鏡 栄(しろみ・さかえ)
     :県警零課の一員。主に戦力勧誘、交渉を請け負う。
 川堀ひとみ(かわほり・−)
     :吹利県警婦警さん。22歳独身彼氏なし。サイコメトリの異能者。


本文
----

 一応、こちらは後は報告書だけか、と呟いて、銀鏡は小さく肩をすくめた。
「……困ったなあ」
「え?」
「真帆さんのことよ」
 手に丸めた書類をこつこつ、と、肩に当てながら、溜息をつく。何となくそ
の表情が伝染して……というか、本人もかなり同感なのだろうが……川堀もま
た溜息をついた。
「ああ、確かに……」
 一応彼女の為に注意はされたのだが、その注意は妥当であると川堀も納得し
ている。……が。
「それなりに役に立つから困るわ」
 細い糸のような声だが、その表現は相当に微妙である。
「これで役に立たないなら、そりゃあ私も仕事をお願い、とは言いませんけど」 
「……ええ」
「出来ないことを割と楽にやっちゃうからねえ」 
 白骨の被害者を、殺した犯人の名は、彼女のおかげで実質半時間で判った。
お祓いの手間も無く、通常の県警の面々にも即伝わる。不可能なことではない
が、確かに彼女に託すことは、今回かなり効率が良かった、と言える。
「……そうですね、実際役に立つから……」
 一緒に組んでいる川堀は頷く。確かにそのことについては、彼女が最もよく
実感する立場に居るのだろう。
 けれども。
「でも……役に立つからで、真帆さんみたいな普通の人が関わるのは……正直
微妙、ですね」 
 一緒に居るからこそ、辛さは判る。少し困ったように言った川堀の言葉に、
ふうん、と、銀鏡は口元をゆがめた。
「まあ、そうだけど……零課って、そういう面は大いにある部署なのよね」

 人格や訓練をさておいても、その異能によって嘱託のような形で雇われる者
が、零課には結構居る。異能による犯罪者に対抗する組織としては、仕方が無
い面もあるのだが。

「だから、辛いのが相羽君の胃だけなら、我慢してね、で終わるんだけどねー」 
 うわあそれは、と、内心川堀は思ったが流石にそれは口に出さない。
「だって、周りの人が味わった胃痛のほうが、まだ多いと思うんだよね」
「…………」
 一瞬頷きかけて、ぐっと堪えた川堀である。

 真帆のことに関しては、相羽を考えないわけにはいかない。が、今回はそこ
に一旦目をつぶって考える必要がある。

「でも……思うんです。」 
「ん?」 
「真帆さんは、自分の異能のすごさとか、特別さを……よくわかってないんじゃ
ないかなー、と」 
「ああ、あれは……判ってないでしょうねえ」 
 丸めた書類を、今度はとんとん、と顎の先にぶつけながら銀鏡が頷いた。
「……なんだか、それが怖いなぁ、って思います」 
「確かに、ね……」
 半径5mの、異動する結界。生と死はその中で、区別も無いままきょとんと
して存在している。そのことは役に立つといえば立つし、しかし同時に非常に
危険なことでもある。特に今回のように、どうしても生き返りたいとだだをこ
ねる相手に、その異能のことが知られてしまった時には。

「だから、これからもまた仕事をするのなら……その特別さを真帆さん自身が
知らないといけないんじゃないかな、とか」
 すっと細めた目が川堀を見やる。その視線からほんの少し身をよじるように
しながら、それでも彼女は最後まで言い切った。
「そう思います」 
「特別さ、ねえ」
 表情と口調からして川堀の言葉に賛成とは言い切れない、と、わかる。かす
かにしかめた顔をそのままに、銀鏡はぼそりと呟いた。

「……諸刃の剣だわよ、それは」 
  
 え、と、目を見開いた川堀に、銀鏡は形をすくめて見せた。
「彼女は今、多分意識せずに幽霊を実体化しているでしょう」
「はい」
「それを、もし……意識して、気をつけろ、と言ってしまったとしたら」
 とことこと歩く、本当にどこにでも居そうな女性。ついでに言えば腹芸だの
常時付き続ける嘘だのが、相当に苦手に見える……相手である。
「彼女にとっては、世界中が幽霊である可能性のある相手になってしまう」 

 幽霊達は、その多くが生き返りたいと思っている。
 恨みを晴らしたい、だれかれに会いたい。そのどちらも突き詰めれば『生き
返りたい』という願いに収束する。だから確かに、彼女は多くの幽霊に狙われ
てもおかしくはない筈。なのに。

「真帆さんの周りを、幽霊が取り巻いてないのって不思議じゃない?」
「え?……あ」
 きょとん、として一瞬考え込んだ川堀は、すぐにこくりと頷いた。
「確かにそれは、不思議ですよね」
 半径5m。無論下手に実体化したとしたら、恐らくはあの旦那が永久的に追
い払う。それは無論だが、それにしても彼女が追われていないこと自体、かな
り変かもしれない。ううむ、と、考え込みかけた川堀に、にっと銀鏡は笑いか
けた。
「……真帆さんって、歩きながら本読んでるの知ってる?」
「え……あ、はい」
「多分、あれもフィルターの一つね」

 歩きながら本を読む。彼女の周囲で幽霊は実体化し、そしてまた解けるよう
に元に戻る。
 5m。決して長い距離ではない。もし彼女が普通に歩いていたら、唐突に宙
から人が現れ、そしてまた消えるというシーンを見ることになったろう。
 しかし、本を読みながら歩いている場合、当たり前だがそういうシーンは見
えない。従って彼女は自分の異能に感付かない。
 恐らく、そんな他愛の無い方法で、彼女は自分の身を無意識に守ってきたの
だろう。

「気が付かない、というのも一つの処理の仕方で、それで今までうまくいって
いたのは確か。で、それが確かに貴方の言うように、これから危険なのも確か」 
 だけど、と、銀鏡は頭を一つ振る。
「危険だよ、ということは出来ても、それに対処する方法は真帆さんしか編み
出せない。編み出すまでは彼女は疑心暗鬼に陥る可能性もある」 
 最後にこん、と、額を紙の筒で叩いて、銀鏡は溜息をついた。
「……ちょいと頭が痛いわね」 

 ムカデが百本の足を、どうやって動かすか考え出したら歩けなくなった。
 莫迦げて有名なそのたとえどおりのことが……起こりかねない。

「あー、彼女が独身だったらねえ」 
 ぐん、と握りこぶしを天井に向かって突き上げる。伸びをする勢いと一緒に
銀鏡はぼやいた。
「え?」 
「そしたら、零課に正式に引き抜いても文句言われないでしょ」 
 何かそういう解決方法は、考えてもなあ、とか思っている川堀に、
「今、仮に、正式に入りませんか!とか言った日にはああた」 
 ぶるぶる、と、大げさに震えてみせる。
「相羽君が怖いわよ」 
「……わたしがにらまれるんですけど」 
 仮に結婚前であったとしても、そしてもし、零課に入った後で出会ったとし
ても、最終的にあの二人の行く末は同じようなものになったろうし、だとすれ
ばとにかく、彼女と組んでいる限りは絶対睨まれる。
 恨めしげに言った川堀に、しかし銀鏡の言葉は至極あっさりとしたものだっ
た。
「それは、ねえ」 
 仕方ないことよ、とばかりに軽く頷かれて、ううう、と、川堀は唸った。


「さて、川堀さん」
「あ、はいっ」
「後は報告書。頼むわね」
「はいっ」
 失礼します、と、一礼してから部屋を出て行く娘を見やって、銀鏡はもう一
度溜息をついた。いつのまにか癖のついてしまった書類を手で伸ばしながら、
小さく呟く。

「……一ヶ月、頼まないって言ったのは正解だったかもね」

時系列
------
 2008年4月〜5月

解説
----
 『時効前』の直後。
*********************************************

 てなもんで。
 であであ。


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