[KATARIBE 31673] [HA06N] 小説『時効前・5』

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Date: Fri, 13 Jun 2008 00:26:00 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31673] [HA06N] 小説『時効前・5』
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2008年06月13日:00時26分00秒
Sub:[HA06N]小説『時効前・5』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
短いは進んでないはですが、とりあえず流します。

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小説『時効前・5』
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登場人物
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 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
 銀鏡 栄(しろみ・さかえ)
     :県警零課の一員。主に戦力勧誘、交渉を請け負う。
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :ヤク避け相羽の異名を持つ刑事。嫁にはダダ甘だったりする。


本文
----

 その人の役に立ちたかった。
 その人が喜ぶことをしたかった。
 でも、もしかしたらそれは、何時も何時も先に立って行ってしまうその人が
何をしているかを知りたいだけのことだったのかもしれなくて。
 それなのに、知りたいと思った途端に迷惑をかけている。
 ……なんでそうなるんだろう。

           **
 
「……困ったなあ」
 真帆の話を聴いて、肺腑の中を全て空にする勢いで、銀鏡は息を吐いて……
そしてそう呟いた。
「あの」
「ええっとですね、今の話を聞くと、まずは相羽君がやばい」
 刑事課の全員がうんうん頷きそうな台詞である。
「ただ、問題はそこじゃなくて」
「……」
 怪訝そうに顔を上げた真帆に、銀鏡は困った顔のまま告げた。
「真帆さん、ちょっとお聞きしたいんですけどね」
「はい?」
「八坂が掴みかかって、それを防いだところに、川堀が来たんですよね?」
「ええ」
「その時、どう思いました?」
「え?……あ、来てくれた、良かったこれで大丈夫だって」
「…………あのねえ」
 はぁ、と、銀鏡が溜息をつく。
「もしもそこに来たのが、相羽君だったら、貴方どうしてた?」

 数秒の沈黙。
 そして……あ、と、真帆は口を小さく開いた。

「…………多分、待ってたと思います」
 真帆、と呼ぶのが彼であったら。
 来てくれることを待っただろう。詰め寄る力にぎりぎりまで抗いながら、で
も必ず来てくれることを知りつつ。

「確かに、川堀はまだ未熟なところもありますし、経験も万全とはいきません
が」
「いえ、そんなことは!」
「そうでしょうねえ……貴方の場合、もしそれが本宮君……本宮の兄のほうで
あっても、同じことをしそうですしね」
「…………」
 考えてみる。
 史久のことは、真帆は信頼している。実際、相羽との間に何かあった時には、
一番に頼るのが彼かもしれない。
 けれど。
「…………そうかも、しれません」

 どうして、と、確かに考えてみれば思う。
 川堀が自分よりも、逮捕術に優れているのは当たり前だ。確かに大柄な男で
川堀一人だと大変だったろう、と、思うが、だけど彼女が対峙している時に、
自分だって手伝うことは出来たろうし、そういうことを今なら考えられるのに。


「一ヶ月ほど、そちらに仕事を回すのは止めておきます」
 跳ね上がるように、真帆は顔を銀鏡のほうに向けた。
「真帆さん。非常に……こう、冷たい言い方をしますとね。川堀に何かあって
も、それは一応仕事の一環なんです。だけど貴方に何かがあったら、そのまま
不祥事になる……ね?」
 ちょっと首をすくめるようにして、銀鏡は笑う。
「貴方が本当に警察の……捜査員だったらこんなことは言いません。だけど、
貴方はそうじゃないから」
「…………」
「それがどうこうってことじゃないです。こちらは本当にそれでも助かってい
るし、今回だって貴方が居なければ、あちらの捜査員は何日無駄にしたかわか
らない。でも」

 でも、と、言ってこちらを見る目は、笑っていない。

「守られることを容認出来ないなら、この仕事はきついです」
 

 護られ続ける自分がやりきれなくて、せめて相羽の為にと思って。
 そう思ったことが……やっぱりここでもうまくはいかないのか。


「まあ……こちらも、情報を渡してなかったってのがありますけど」
「え?」
「あの八坂って男。以前に逮捕歴がありましてね」
「え……って、他にも?」
「ええ。婦女暴行の前歴でね」
「……は」
 ぎゅ、と、真帆は眉をひそめた。
「……もしかして、加害者も、そういうことで」
「そっちは判らないんですけど……貴方だってそういう意味では」
「あ……それないですないです」
 ぱたぱた、と手を振って真帆はようやく笑いを口元に浮かべた。
「八坂さんに言わせると、私はばばあだそうですから」
「…………ひどいこと言うなあ」
 銀鏡はあきれたように真帆を見て……そしてやっぱりようやく、笑いを口元
に浮かべた。

          **

 真帆が川堀と一緒に休憩室に消えてから、銀鏡はもう一人を呼び出した。
 呼び出された相手は、非常に不満げな顔のまま、やってきた。

「奥さんと話しました」
 怒っているとは言えない。しかし非常に不本意そうな顔のまま、彼は銀鏡の
口元を見ている。
「一ヶ月ほど、こちらの仕事は流しません」 
 デスクの端に、ちょっと背中をもたせかけるようにして彼女は言い、そして
少し表情を引き締めた。
 
「それと、川堀に譴責は、私がしますから」 
 この場合、責任という点で考えると、川堀に責任がゆくことになる。
 無論、無茶をしたのは真帆であり、突っ走ったのも真帆である。但し、もし
も彼女が怪我をしていた場合、責任を負わされるのは彼女であったろうことは
確かである。
 彼女は悪くない。全く悪くない。
 けれども責任は彼女にある。いや、あることになっている。
 そこらを知っている銀鏡としては、釘を一応なりと撃っておこうと思ったの
だが、幸か不幸か彼は、その点については表情を変えなかった。
 つまり、そこの部分は、怒るまではいっていないらしい。

 しかし。
 
「……で、苦情は?」
 デスクにもたれかかったまま、銀鏡はくっと笑って、向かいに立ったまま、
むっとしている男に尋ねる。 
「……いえ」
 彼は莫迦ではない。寧ろ充分に聡明なのだ。恐らくこの事件に真帆が絡んで
いなければ、彼もこんな顔はしていなかったろう、が。
「できるならば、捜査員でなく一般人だということ理解して、もう少し配慮し
ていただきたいところですね」 
「ええ、一般人なんですがね……」

 護られたいと思っていない相手が突っ走る時に、それを庇うことまで川堀に
要求するのは、銀鏡にしたら少々『妥当でない』という気分がある。もともと
真帆のほうが川堀より年上で、そういう意味でも川堀にしては、きつく注意を
しにくかったろうし。
(それにしても)
 銀鏡は小さく息を吐く。
 助けが見えない時に、そうやって無茶をする人間は幾らでも居る。でも。

「……相羽君、よくあの奥さん、結婚したね」 
 あの奥さんと、ではない。あの奥さんが、と……これは本当にそう思う。
 なぜなら。
「自分ひとりで何とか生きていくことに慣れていて、本当に辛いときには一人だと染み付い

てて」 
 独り暮らしの長い人間の癖だ。
 風邪を引いて熱を出しても、薬を買って粥を炊くのは自分だ。
 
「なまじ、他人に『大丈夫』って信じ込ませる人柄だけに……一人が板についている」 
 ふう、と、相羽は息を吐いた。
「……そういうとこ、俺も似てましたから」 

 独りで突っ走り、そしてどこに行くか判らない。
 そういう人間だ、と、それは最初から知っていた。そういう人種なのだと納
得していた。
 何より自分がそうだったから。

「ああ、それはほんとに確かに」 
 えらくしみじみと銀鏡は頷いて、くすりと笑った。
「……真帆さんは、あの八坂って男に掴みかかられて……で、川堀が来た時に
思ったって。ああこれで大丈夫だ、八坂を捕まえてくれる人が来たって」 
 ほっとしたんです、と真帆は言った。
 これで大丈夫、この人を捕まえられるって……と。
「それだってのに……自分が空に落ちて、八坂を反抗不可能にしてしまう」 
 川堀が、彼を投げ飛ばすことが出来ないと、せめて見くびっているなら楽だ
と思う。けれどそうではない。
 
「川堀が本宮君でも、多分同じことだったろうしね……」 
「……でしょうね」 
「流石にね、それが相羽君だったら、と言ったら、ああそうかって納得された
けど」

 あの返事を聞いて、内心どれだけほっとしたかは……顔には出ていなかった
ろう、と、銀鏡は苦笑し……そして一つ、思い出した。
 
「……確かにこちらも、一つ、情報を渡してなかったってのはしくじったんだ
けどね」 
 ぽつり、と言った銀鏡の言葉に、相羽はちょんと眉をあげて彼女のほうを見
やった。
「……ふぅん」 
「八坂の逮捕歴。婦女暴行ってのを言っておけば少しは気をつけたかしらんと
は思うけど」

 少女達に手を出すような性癖については無く、その点だけは安心できたのだ
が、女性については遠慮なし、金貸しという立場を利用して、無理を言った回
数は恐らく告発された回数よりはるかに多いだろう。

 が。

「……おたくの奥さん、そこも多少微妙だもんなあ」 
 
(だって私は)
 くすくす笑って真帆は、その点だけは否定したのだ。
(だって私は……)

「…………それは、まあ」

 ぶすっとして答える男の顔に、銀鏡は苦笑し……そして彼が理解しているこ
とを確認する。

「あ、そだ。相羽君が八坂に言われたんだって。多分相羽君彼が大嫌いになる
よ?」 
 くすっと……それを話してくれた真帆の、不本意そうな顔を思い出して、銀
鏡はやっぱり不本意そうな……けれどもこの話についてはぜひ聞きたい、とい
う顔になった男に、言う。
 
「なんだばばあか、って、最初、言われたんだって」 
「へぇ」 

 軽く言った男の、目は笑ってない、けれども。

「ある意味では……彼女は、八坂にすら、「女性』じゃなかったのかもね」

 襲い、自分の言うことを聞かせるべき相手、というより。
 ばばあといい……つまり自分の暴行の目的にはならない、と規定してしまう
ような相手。

「……とりあえず、今日は真帆さんと一緒に帰ってあげて。相当落ち込んでる
から」
「…………はい」

 短く言うと相羽はさっと身を翻した。


時系列
------
 2008年4月〜5月

解説
----
 突っ走る真帆の本性と、組織への不適合。
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 てなもんで。
 なんつか……無意味に長いんですが、とりあえず。
 先輩大丈夫よ。次はおうちだから!!<なにがだいじょぶなんだ。
 
 ……であであ。


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