[KATARIBE 31669] [HA06N] 小説『時効前・4』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Tue, 10 Jun 2008 00:37:45 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31669] [HA06N] 小説『時効前・4』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <20080609153745.17C6F306805@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 31669

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31600/31669.html

2008年06月10日:00時37分44秒
Sub:[HA06N]小説『時効前・4』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
見直しって何?の人です。
……いーんだ絶対どっかに矛盾とかあるんだっ!<おい

******************************
小説『時効前・4』
=================
登場人物
--------
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
 川堀ひとみ(かわほり・−)
     :吹利県警婦警さん。22歳独身彼氏なし。サイコメトリの異能者。
 八坂昭則(やさか・あきのり)
     :死人にして事件の証言者。現在悪霊と化している。


本文
----
 
 この場面を一番冷静に見ていたのは吉野少年であったかもしれない。
 真帆は、この元死人(?)に対峙するだけで手一杯だったし、川堀のほうは
真帆の異能については聞かされてはいたものの、見るのは初めてであったし、
それに落ちてきた八坂を捕らえることのほうに気をとられていた。結果、真帆
達のやりとりをしっかりと聞き取り、観察していたのは吉野少年だった。

 彼にしたら、それは異様な風景だったろう。
 言い争う声、怒鳴り声。それに引きずられるように角を曲がった途端見えて
きたのは、もつれ合うようにして空に落ちてゆく二人の姿なのである。
(飛ぶっていうより、落ちていくように見えた。なんか凄い速さだった)
 吉野少年の観察眼は、相当に正しかったと言える。


(手が)
 地面を蹴りつけ、自由落下の速度で空に落ちてゆく。当然、手を掴んだまま
の男も一緒に空へと落ちてゆく。
「な……なんだあっ?!」
「チキンレースと言ったでしょう」
 このあたり、流石に真帆のほうが慣れている。
「な、なにが」
 空に落ちる、という場合……真帆に言わせれば、その恐怖は割合『弱い』。
何といっても地上に向かうのとは違い、ぶち当たる地面がない。無論、そのま
ま落ちてゆけば、空気も無くなるし、最終的には死ぬしかなくなるのだが。
「貴方はもう死んでいるんです」
 言いながら、ブレーキをかける。うああ、と、裏返った声をあげる男ごと、
空の真ん中で止まり、一度向きを正す。
 空から、地上へと頭を向ける方向に。

「くどいようですが、私達は、貴方を殺した犯人を捕まえる、その為の情報が
欲しいんです。貴方の復讐に付き合う気はありません」
 言い終わると……男がどのくらい聞いているかは、真帆にしても判らなかっ
たが……ふっと力を抜く。
 と、同時に、今度は彼らの身体が、正しい方向へと落下してゆく。
 地面へと。

「うわああああああっ」
 魂切るような男の悲鳴に顔をしかめながら、真帆はそれでもタイミングを読
む。地面までの距離、互いの位置関係、そして何より。
 落下に伴い、風が頬を、それ以上に眼球を叩く。その痛みにか、男は一瞬目
を押さえようとでもいうように、手を動かした。
(緩んだ!)
 その一瞬を捉えて、真帆は握り締められていた手を引き抜いた。もう片方の
手で、男の襟首を捕まえる。同時に、先程よりはゆっくりと……それでも事故
車の手前で踏むブレーキくらいの勢いで、落下速度を落とす。
 目測、地上10mのあたりで、真帆は止まった。
「八坂さん」
 ひう、ひう、と、悲鳴未満の声が返事代わりだった。
「私が手を離したら、貴方はそのまま地上に落ちます。私が貴方を実体化でき
るのは半径5mまで。だから貴方を落としたら、あたしは貴方が地上にぶつか
るあたりまで、付き合って一緒に落ちてあげます」
 裏返りそうになる声を、出来るだけいつもの調子に抑える。
「流石に私も、実体化した人が、もう一度死ぬかどうかは知りません。でも、
怪我くらいは確実なんじゃないですか」

 地上10m。必ず死亡とはいかないが、無傷とは決してゆかない距離。

「や……やめろおっ」
「じゃあ、約束して下さい」
「するよ、するよ、何でもするからっ……」
「県警まで同行願います。貴方を殺害した犯人についてお聞きしたい」
「は、なすから……何でも話すから!」
「復讐なんて要りません。宜しいですね?」
「わ、わ、わ……」
 わかった、と、何とか言い切ったのを確認して、真帆はまず互いの方向を変
えた。地上に足を向け、その上でゆっくりと降下を始める。

「真帆さん、そのまま!」
「……はい!」
 抵抗する気力もなくしたような男が、そのまま地面に降りる。腕を掴んでま
ず彼を降ろしたところで、川堀が彼の腕を取り、確保した。
「真帆さん、上へ」
「……了解っ」
 え、と、声をあげかけた男の手を離し、真帆はそのままとん、と、また空へ
と落ちる。
 5mの距離が、あっというまに開いた。
「えい!」

 視界さえどす黒く染まりそうな、瘴気に変わりかけた男の、その核に打ち込
むように川堀の手が差し出される。
 その手が掴んでいた、小さな箱に、ぎりぎり残っていた男の輪郭と広がりか
けた瘴気が吸い込まれた。


「……はぁ」
 大きく息をついた川堀の横に、ふわり、と、真帆が落下した。そのままぺた
ん、と地面に座り込んでしまう。
「ま、真帆さん、大丈夫ですかっ」
「……だいじょぶ」
 実際、この程度の無茶は昔やったことがある。
 けれども。
「八坂さんは……その中に?」
「ええ、確保しました」
「……そう……」

 大きく息を吐いた途端、がくがくと腕に震えが走り、真帆は一度息を呑んだ。

「真帆さん!」
「……あー」
 それでもその声は呑気だった。
「なんか久しぶりだから……あーびびった」
 一度のけぞるように顔を空に向けた真帆は、あ、と、声をあげて少年のほう
を見やった。
「あ、大丈夫?」
「俺は何にも……大丈夫っすか」
「うん、だいじょぶだいじょぶ」
 にこにこ、と、笑った顔に、少年はほっと息を吐いた。
「あ、でも……やばい」
「へ?」
「……川堀さん」
 不意にえらく真剣な顔になって、真帆は川堀のほうを見上げた。
「は、はひっ?!」
「このこと、絶対に相羽には秘密ねっ!」
「いっ」
「言わないでねっ」
「い、い、言いません言いませんっ」
 顔がよく見えなかった吉野少年にしたら、何でそこまでびびるか、と、少し
疑問だったのだが、とりあえず川堀は大きく頷いた。
「そんな怖いこと言いません」
「……よかった」
 ほう、と、真帆が息を吐いた。


「それにしても、肝心なこと何も訊けなかったね……」
「でも、あれは仕方ないですよ」
 手の中の箱を注意深く持ち替えながら、川堀が怒ったように言った。
「真帆さんに襲い掛かる勢いだったじゃないですか」
「うん……自分で復讐したい、手伝えってなこといってたから」
「それは許されない」
「だよね」
 はぁ、と、もう何度目かの溜息を吐いて、ようやく真帆は立ち上がった。
「一旦、戻ろうか。あの人をここで実体化するわけにもいかないし」
「そうですね……それに吉野君」
「え」
 大丈夫大丈夫というものの、真帆の足取りはどこかしらおぼつかない。心配
そうに見ていた少年は目を上げた。
「県警まで一緒に来てくれる?多分ね、『水』のほうも何か進展があったと思
うから」
「……え」
「大丈夫。君に関係があったかどうか、なんてことは判らないようにしてくれ
る筈。ただ、多分、もう少し詳しくって訊かれると思うの」
「…………でも俺」
「確認なんかが主なんじゃないかな」
 よいしょ、と、えらく年寄りじみた声と一緒に、助手席の扉を開く。真帆は
そこから振り返ってそう言った。
「ほら、いつそういう話を聞いたか、とか、そういうこと。もし『水』の関係
者が捕まってたら、その言葉を裏付ける為に色々訊くようになると思う」
 君だけが知ってること、なんてことじゃないから、と真帆は笑い、少年はよ
うやくほっとした顔になった。
「来てくれる?」
「はい」

 県警まで同行し、そしてそこで少年課の本宮に少年を引き合わせる。
「君が吉野君だね?」
「はい」
「じゃ、こちらへ……お二人は、銀鏡さんが待ってます」
「はい」
「じゃ……」
 こちらに、と、本宮和久が手で示すほうに、少年は大人しく従った。
「有難う。『水』の売人は捕まったよ。あと、彼らから聞きだして、君のクラ
スメイト数人も」
「え」
「ああ、まずは……症状を見る必要があるからね」
「症状、ですか」
「中毒性が非常に高いから」
 それ以上を彼は言わず……それが余計に、その『水』の危険性を際立たせた。


「ねえ、刑事さん」
「何かな?」
『水』のこと。そしてクラスメイトがその水に中毒しているかもしれないこと。
そういったことを聴くと、やはり会話というのは弾まない。けれども沈黙して
いるだけというのも余計に気詰まりで。
 だからこそ、彼は……こんなことを訊いてしまったのかもしれない。
「……ここの刑事さんってさ、飛ぶこととかでけんの?」 
「え?」
 刑事部屋からすぐ近くの、休憩室に行きかけたところで、和久は思わず足を
止めた。
「飛ぶ?」
「うん。空を」
 こっくりと頷いた顔に、冗談を言っている気配はない。
 ということは。
(真帆さん、か)
 彼女の異能については、和久も知ってはいる。
 が。
(これは……)
 どう言うべきか、咄嗟に迷った、ところに。

「……なあ、君。ちょっといいかな」
「うわっ」
 ぽん、と、少年の肩を後ろから叩く手があった。
「せ、先輩!」
「その話、もう少し詳しく教えてくれないかな?」

 振り返った少年の視線の先に居たのは、黒っぽいスーツを着込んだ男。如何
にも刑事、という風情の男は、にやっと笑った。

 いや、笑って、いる筈なのだが。

「え、あ、…………え、おれ、何も見てないしっ、悪いことしてないし、マジ
に!」
 何だろう、と、彼は内心呟いた。
 絶対に、表情自身は笑っているだけなのだ。別に裏があるようにも見えない。
悪党面というわけでもない。むしろ女性にはもてるだろう、と、何となく思う。
 だけど。

(な、なんか……背中から真っ黒な煙が出てそう……)

「いや、その飛んだ刑事さん、て」 
「……え」
「女性で、髪の毛を後ろでまとめてて、眼鏡かけてて、草色のカーディガンに
デニムのスカートだった?」
「え……あ、うん」
 というか、そこまで詳しく真帆の服装なんて見ちゃいなかったのだが、確か
に言われてみればその通りである。
「ねえ」
 ああああ、と、手で顔を覆ってしまった和久を完全に無視した格好で、通り
すがりの刑事……つまりは相羽は、にっと笑った。
「その時のこと、ちょおっとオジサンに話してくれる?」 
「……え……うん、あの……」 
「ああ、お茶でも……豆柴、まだお菓子残ってない?」
「…………残ってますよ」

 その声も、溜息に半ばのっとられるような声で。

「あの……」
「ああいいのいいの。あっちは構わないでいい」
 にっと笑う顔は、充分に惹きつけられるもので。
「どんな風だったのかな?」

 
 この一件を、一番冷静に、そしてきっちりと覚えていたのは吉野少年。
 そういう形の、不運もあったりするのである。
 真帆にとってか、相羽の胃にとってだかは……不明だが。


時系列
------
 2008年4月〜5月

解説
----
 八坂な人確保。
 チキンレースは真帆の勝ちってことで。
*********************************************

 てなもんです。
 であであ。
 
 


 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31600/31669.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage