[KATARIBE 31667] [HA06N] 小説『時効前・3』

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Date: Sun,  8 Jun 2008 00:59:14 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31667] [HA06N] 小説『時効前・3』
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2008年06月08日:00時59分14秒
Sub:[HA06N]小説『時効前・3』:
From:いー・あーる


というわけで、いー・あーるです。
なんだか眠いので、見直しなっしんぐです。
矛盾がどーした事実に即していないがどーした!<居直るなよみっともない……

というわけで。
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小説『時効前・3』
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登場人物
--------
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
 川堀ひとみ(かわほり・−)
     :吹利県警婦警さん。22歳独身彼氏なし。サイコメトリの異能者。


本文
----

 後部座席に少年を乗せて、川堀は急いで車を出した。
「とにかく、あなたの同級生に見つからないようにしないと」
 そう言い置いてアクセルを踏み込んだ川堀は、その後、少年の指示通りに道
を選んでいった。暫く行ったところで、丁寧に車を停める。
「ちょっと待ってて下さい」
 言いながら携帯を引き出し、手早く何箇所かを押す。すぐに通じた電話口に、
彼女は慌てたように話しかけた。
「本宮さんお願いします……あ、いえそちらじゃなくて……」
 ああ、本宮さん兄かな、本宮さん弟かな。
 そんな莫迦みたいなことを真帆が考えている間に、川堀は携帯を少年に渡し
た。とまどったような顔でその携帯を受け取った少年は、やはりとまどった顔
のまま、携帯の向こうからの問いに答えている。
「今から、本宮さん達が、『水』の売買の場所に向かうそうです」
 小さな声で川堀が真帆に説明した。
「彼の友達からじゃなくて、ってこと?」
「ええ。ある程度の見当はついていたようで」
 どちらにしろ、この少年に出来るだけ迷惑がかからないように、という配慮
があったことだろう。携帯に答える少年の顔も、だんだんとほっとしてきてい
るのが、傍目にもはっきりと判った。最後に何度か頷いて、携帯を川堀に返す。
幾つか返事をして、川堀は電話を切った。
「じゃ、行っていいですか」
「はい」
「…………うん」
 二色の返事に小さく頷いて、川堀はアクセルを踏んだ。


「こちらでいいの?」
「うん」
 順調に進んでいた車は、しかし、目的地に至る手前、路地2本を隔てたあた
りで急に止まった。
「ここ?」
「……いえ」
 バックミラー越しに見える川堀の顔は、いつの間にか真っ青に変わっていた。
「ちょっと、川堀さん大丈夫!?」
「え……ええ……大丈夫吉野君?」
「…………きもちわるい」
 川堀も、この吉野少年も、霊の声を聴き、感じ取ることの出来る……所謂霊
能者としての能力を持っている。この二人が同時にここまで体調を崩すという
ことは。
「あたり、みたいね」
 言いながら真帆は、扉を開けた。
「真帆さん!」
「ごめん吉野君。もう一度地図で確認させて……今ここに居て、目標はここ?」
 判りやすいように大きく広げた地図の上の点を、少年は確認し、うん、と頷
いた。
「判った。じゃ、まずあたしが行くから。出来るだけ早く来て」
「……え、でも!」
「5mのところで止まってるわ」
 にっと笑って、真帆は車から降り立った。
「でも……いえ、ちょっと待ってください、ちょっと!」
「ムリしない。楽になったら、でも出来るだけ急いで来てね」
 最後ににこりと笑うと、真帆はそのまま車の外に出た。

「……あの人、幽霊とか見えるんじゃねえの?」
「見えないわ」
 痛むこめかみを押さえながら、川堀は立ち上がった。後部座席の扉を開き、
座り込んだ少年の横から小さな箱のようなものを取り出す。
「あの人は、幽霊も見えない。霊能力も無い……でも」
「でも?」
 川堀はそこで顔をあげた。
「あの人は幽霊を生き返らせる」
「え……」
「じゃあ、私は先に行きます。君は、楽になったら来て頂戴」
「楽に?」
「なる筈。必ず」
 言い切ると、川堀は片手に小さな箱を持ったまま歩き出した。


 路地2本分といっても、つまり車で入れる路地から2本分ということで、車
の通れない道ならば、結構問題の地点までは近い。スープが冷めない距離とい
うが、どちらかというと『ごみ捨て場までの距離』かな、と、真帆は地図を確
認して思った。
 それにしても。
(……嫌だな、こういう相手は)
 殺された人間が、恨み骨髄に達して祟る。これは理解できる。ただ、それな
らそれで。
(やりようがあるじゃないか)
 霊能者が気分悪くなって近づけないようになっている。それだけの悪意と怒
り。
(吉野君、どうやって近付いたんだろう、ここ)
 それとも、あの少年を呼び寄せたからこそ……ある意味、復讐が射程距離に
入ってしまったからこそ……その被害者は必死になっているのかもしれなかっ
たが。
 どちらにしろ、自分が行かねばならない。行って彼を実体化してしまえば。
(もう、平気な筈)
 路地を横切り、どんどんと近付いて。
(ここか)
 周りは結構立派な家が並んでいる。その中でこの家だけは、家自体がどうなっ
ているかよく判らなかったが、周囲の塀のブロックの幾つかが、欠けたりひど
く汚れていたりするのが判った。
 それが10年という時間のなせる業、というところか。
 一つ息を吐くと、真帆はゆっくりと角を曲がった。

「あ」
 不意に足元が軽くなって、川堀は一瞬たたらを踏んだ。バランスを崩して転
びかけるのを、慌ててコンクリート塀に手をやって止める。
「……真帆さん……」
 先程まで吐き気を伴う頭痛を起こしていた筈の瘴気が、今は全く感じられな
い。

 真帆の異能。周囲5m半径の中の幽霊を、根こそぎ実体化させる。彼らが一
番元気で、出来ればその頃に戻りたいと思っているような姿のまま。
 やりようによっては、役に立つ異能である。しかし。

「真帆さん!」
 今回は、まずい。
 犠牲者の名前は八坂。調べたところ、彼は生前何度も警察の厄介になってい
たことが判った。絵に描いたような悪徳金貸しであったのが無論第一の原因で
あったろうが。
 それ以外に、というか、それ以上にというか、彼が罪に問われたのは。
「……真帆さん!」
 その声に重なるように、男の怒鳴り声が、届いた。


「まだかあっ!!」
 角を曲がると同時に、怒鳴り声が聞こえ、真帆は思わず足を止めた。
「まだきやがらねえあの餓鬼……ああああああっ」
 年齢は多分50代かと思うが、はっきりしない。髪の色こそ結構白髪が混じっ
ていたが、顔立ちは決して老けていない。黙って立っていればそこまでの悪党
面でもなかったろうが、いかんせん現在、空に向かって怒鳴っている姿は。
(うわあ危ないなあ)
 内心の声が聞こえたわけでもないだろうが、男は音がするような勢いで真帆
のほうを見た。
「……ち、ばばあかよ」
「…………甥や姪に言われるならともかく、貴方には言われたくないですね」
 流石に憮然として言うと、男は、目を大きく見開いた。
 かちり、と、音がするように声が、そして動きが止まる。
「八坂昭則さんですね。お話が聞きたくて参りました」


 この時のやりとりを、もし相羽が聞いていたら、さてどちらに難ありとした
かは(いや、片方が真帆であるというところをさっぴいてのことだが)判らな
い。いや、片方が真帆であっても、多分『もう少し自衛するように』と注意は
したことだろう。
 ただ、真帆にしても言い分がある。何より真帆は、彼の『生前』の罪を知ら
なかった。
 生前、彼が何度か引っ張られた、その理由。
 婦女子に対する暴行。それも一度ではない、ということを。


「…………あんたか」
 幽霊実体化。それがどの位異常な感覚であるかは、真帆には判らない。しか
し、この男の立ち直りが異様に早かったのも、また事実である。ぎらり、と、
ぬめる油を被せたような目の光に真帆が一歩後退った時には、男の右手が伸び
ていた。
「あんたが……原因か」
「……っ」
 万力のような力で手首を握られて、真帆が反射的に唇を歪める。相手は構う
様子もない。
「あんたが、なあ…………」
 
 一言の返事もないまま、けれども男は確かに答えを得たようだった。にやり、
と、その口が歪む。その笑いは男の顔を、ステレオタイプの悪党のそれに変え
た。
「そうかそうか、あんたが、なあ」
「……失礼ですがっ」
 近寄ってくる顔から一歩また後ろに下がる。同時に握られた手首がぎしりと
痛んだが、痛い、という代わりに真帆は相手を睨み据えた。眼鏡越しの真っ直
ぐな怒りの視線に、男は初めて、少し気おされたように顔を離した。
「離して頂きたい」
「あんたを掴んどいたら、俺は生き返るんだな?」
「貴方を殺害した犯人を捕まえる為の情報を調べる為に来たんです。犯人を逮
捕して欲しくはないのですか?」
 正直、ぎしぎしと痛む左手を思うと、犯人に是非とも逃げて欲しくなるわけ
だが、真帆としては流石にそうは言えない。
「そりゃ、逮捕して欲しいに決まってるだろう」
「だのに、お訊きしているのに答えないというのはどういうことですか」
 ぴしん、と尋ねた声に、男はまた笑った。嫌悪感を煽るような笑いだった。
「あんたが居たら、俺が相手を殺せるだろう?」

 阿呆か貴様、と言いかけて、真帆はぐっと口を噤んだ。アルバイトであって
も、警察の仕事の手伝いをしている限り、そんな言葉を使ってはいけない(と、
とりあえず彼女は思っている)。その一瞬を突いて、男はもう片方の手を伸ば
して、彼女の顎を捉えた。
「……痛っ」
「俺は生きているよなあ?」
「死んでます」
「今は俺、生きてるよなあっ?!」
「……じゃ、犯人逮捕は必要ない、と」
「あんた、な」
 言いかけた男の手を払いのけて、真帆はまた一歩退いた。
「犯人逮捕に協力願いたいと思ったんですが、協力はして頂けないようで」
「協力はあんたらがしてくれないと困るだろ?普通するだろ?俺は殺されたん
でしょ?だったらあんたら、俺を労わらないと嘘でしょ?」
「労わる?!」
「十年、こんなに気の毒な目にあってた人間に、それが警察の言い方かね?」
 駄々っ子のような物言いと、何度払っても伸びてくる手に、とうとう真帆は
ぷっつりと堪忍袋の尾が切れた。

「……こンの、腐れ外道の乾屎蕨!」
 いつもの声より半オクターブ低いところから始まった罵り声に、男がぽかん
と口を開く。
「聞いてりゃぐしゃぐしゃと、生きたの死んだの、美味いとこ取りしようとす
るかね普通、常識的に、良識的に、一般的に!」
 ついでに日頃の1.7倍程度は早回しの言葉を、一体相手がどの程度聞き取った
かは不明である。ただ、褒められていないのだけは明らかだったから、男は表
情を変えて、掴んだままの真帆の手をひねり上げようとした。

「っ」
「真帆さん!」
 二重に響く足音と、その高い声。
(来た)
 川堀が来てくれた。これなら。

 とん、と、地面を蹴る。その時には既に、真帆の身体は、そこらの運動選手
がやっかみそうなくらい、地上より離れていた。片手をねじろうとした男の身
体ごと、その身体は空へと『落ちて』ゆく。

「……うわっ」
 悲鳴と一緒に、握った左手を、男は双倍の力を篭めて握る。
(畜生)
 内心の声とは裏腹に、真帆は一度にやりと笑った。
「……いきますか、チキンレース」
 足元の透明な大気を、真帆の足が踏み、そして蹴る。
 その動きと一緒に。
 真帆は、男共々空へと自由落下していった。


時系列
------
 2008年4月〜5月

解説
----
 見つかった被害者と真帆のやりとり。
 多分、八坂なおっちゃんには、『乾屎蕨』の意味は判ってないと推測。

*********************************************

 うん。
 先輩と居るとあんまし判らないっぽいけど、真帆ってこういう奴だよね基本。
 理屈っぽくて女らしくなくて、四字熟語やら漢語やら、満載の罵声を浴びせるタイプ。

 てなわけで。であであ。
 

 


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