[KATARIBE 31662] [HA06N] 小説『時効前・2』

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Date: Fri, 30 May 2008 02:11:37 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31662] [HA06N] 小説『時効前・2』
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2008年05月29日:22時32分56秒
Sub:[HA06N]小説『時効前・2』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
さあ、脱線しまくりですが、少し進んだので。

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小説『時効前・2』
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登場人物
--------
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
 川堀ひとみ(かわほり・−)
     :吹利県警婦警さん。22歳独身彼氏なし。サイコメトリの異能者。


本文
----

「じゃあ、行きましょう」
 その声を合図に、運転席に川堀が、助手席に真帆が座る。
 一ヶ月に2、3度。そう言われて始まったこの『アルバイト』は、それでも
現在、一ヶ月に3度の壁を越えない。それ以上お願いして怒られては駄目だし、
と笑う銀鏡に、真帆も曖昧に笑うばかりである。それ以上になっては、約束が
守れない。

「じゃ、まず……どうしましょう?」
「真帆さん、まずこれを見てもらえます?」
「え?」
 川堀が差し出した地図を、真帆は助手席で開く。ハンドルを握った川堀は、
視線は真っ直ぐ前を向けたまま、言葉を続ける。
「まず、その赤い印のところに行って見ようと思って。赤の、バツに丸つけた
とこに」
「あ、ああ……はいはい」
 運転用に車に常備されていそうな、地図帳。その間にコピーが挟んであり、
そこに何種類かの印がついている。赤のバツはその上でも複数、そのうちの一
つに丸がついている。
「この、バツ印は?」
「今までに幽霊とかそういう異常があったって言われる場所です」
 なるほど、と、呟いて真帆はもう一度地図を眺める。
「その子がもしも……その骨の持ち主に会ったとするなら、こういう印のとこ
ろってこと?」
 可能性は高いです、と川堀は言った。
 暗い声だった。
「そういうところ、何ていうか……あんまり友好的な霊じゃない場合のほうが
多いんです。だから」
「そう、なのかな」
 開いてみた地図はかなり縮尺が大きく、分かり易い。
「……真帆さん、なんか心当たりでも?」
「ううん、今回のじゃないけど……この学校の幽霊は、悪い人達じゃなかった
から」
「え」
「ああ川堀さん、こっち見ないっ」
 運転最中なのだ。
「ああ、ごめんなさい……いやでも、ええっ」
 そういえば、と、真帆は思い出す。そもそもこの零課に勧誘されるに至った
原因の一つが、この学校校舎での出来事だったことに。
(もしかして、そんなに危険だったのかな)
 出会った人々は、それでもあまりに普通の人々だったから。

 それにしても。

 地図にはちゃんと、少年の家と、彼が骨を発見した位置を記してある。現場
と家とは、結構近い。
「じゃ、スコップは自宅から持ってったの?」
「みたいですよ。4時くらいに自宅の倉庫で、がたがたいう音を母親が聞いて
ます。出てみたら息子の姿が見えたんで、何か探してたのか、と」
「……で、通報があったのが、5時くらい?」
「そうなりますね」
「…………」
 何かが、ひっかかる。

 地図をもう一度見る。
「学校が終わったのが3時、だよね……それも、金曜日」
「え?……あ、はい」
「今、学校って、週休二日じゃなかったっけ?」
「ええ」
 吹利第一高校。多少は噂も聞く。
「で、家に、真っ直ぐ帰ったの?」
「と、本人も言ってましたけど……だから、学校と家の途中のその場所、そこ
にまずいってみようかな、と」
「それ、おかしくない?」
「え?」
「金曜日の学校帰り。あたしは高校生としては真面目なほうから数えて1割に
は入った自信があるけど、休みの日の前の学校帰りは、必ず途中で道草食って
たわ」
「あ……確かに」
 年代が近いだけに、そこらは川堀も納得する。うまく親を誤魔化せば、友達
と夕ご飯前までは遊んでいても文句は言われなかった。
「って……真帆さんも、どっか遊びに?」
「うん。本屋に」

 なんかちがう、と、一瞬こけそうになった川堀には気がつかず、真帆は考え
込んでいる。

「友達とどっかに寄る、みたいな会話があったんじゃないかな。そして行きか
けて」
「彼だけが留まった?……でも、それならそれで、何で言わなかったんでしょ」
「……もし、それが、警察には言えない用事だったら?」
「え?」
「例えば……」
 真帆の指がうろうろと動き、あるところで止まる。
「吹利アポロレーンで、『水』を使った麻薬を買いに、なんてどう?」
「え?!」
「いや、想像だけど」
 去年の夏に出会った少女のことを思い出して、苦笑が、意図以上に苦いもの
になる。真帆は続けた。
「学校から家まで、一時間はかからないと思う。真っ直ぐ帰った、その途中で
呼び止められたとしたら、確かにそこからは偉い勢いで帰ったと思うけど」
 真帆の指が一校の周囲を辿った。他にも幾つかある印を突付いて。
「それぞれ近いけど、間違えたらこれやっかいだと思う。一つ一つ、あたしの
仕事になっちゃうから」
 一軒一軒。下手に真帆が実体化した相手は、今までの憤懣ややるせなさをぶ
つける。結果、愚痴を聞くだけでも相当な時間を使うことになるのは、流石に
この数回仕事に出ていると判ってくる。
「もう一度、ちゃんと聞いてみたほうがいいと思う。この子に」
「そうでしょうか」
「そもそも……その、骨の持ち主にしたら、彼の記憶を除く必要があるかしら」
「え、それは、自分がどこに居るか判ったら、封じられる危険性があるからじゃ
ないですか?」
「でも、被害者でしょ?」
「ええ」
「被害者であるから、人を乗っ取ってでも骨を掘り出させている。それくらい
の確信犯が、今更姿を隠すってのは変だと思う」
「……」

 川堀がブレーキを踏み込んだ。
「……まず、その子のところに行ってみます」
「ええ」



「……知らねえよ」
 ぶっきらぼうな言葉を喉の奥から押し出すように呟いた少年は、言葉と裏腹
に青ざめた顔をしていた。
「どこから記憶が無いの?」
「ど、どこからって」
「学校から?それとも道の途中から?」
「が、学校から」
「それはつまり、誰と帰ったかも覚えてないってこと?……あれ、でもおかし
いな、さっきは友達と帰ったって言ったよね?」

 流石だ、と、横で見ていた真帆は思う。
 何度も繰り返し、同じような問いを繰り返す。その度に彼の答えは少しずつ
揺らぐ。充分揺らいだところで、ぽん、と、突き放し、彼の言葉に蹴りを入れ
る。

「…………ああもうっ!」
 何度か繰り返したところで、少年の根気が尽きた。
「何が知りたいんだよ!」
「一体どこで、あなたが声を聞いたのか」
 噛み付くような問いに、全く平然として川堀が答える。
「これは殺人事件の調査なの。骨が出てきたからには、そうやって殺した犯人
を捕まえなければならない。その為に必要なことを調べる。それだけ」
 暗に、それ以上は問わない、との言葉に、少年は一つ息を吐いた。


 つまり、彼は全て憶えていたのである。
「学校を出て……同じクラスの奴がさ、ちょっと行ってみねえかって言うから、
ついて行ったら……なんか途中で、それじゃ俺金足りないってことになって」
「で、うちに取りに?」
「うん」
「じゃ、そこからは自転車で一気だったのね」
「……うん」
 少年の手が、うろうろと地図の上をなぞる。
「ここまで行って……家に戻るから、この裏道通って」
 話しながら、少年の顔が段々と青褪めてきた。
「でも、声が聞こえたのは本当なんだ。これに逆らっちゃいけないって思った
のも、急がないとって思ったのも」
「そこは、本当だと思っているわ」
 地図に線を書き込みながら、川堀はきっぱり言った。
「でも、何で教えてくれなかったの、このこと?」
「…………」
 少年はまたためらったが、今度はその時間は短かった。
「……途中で、俺、離れて……翌日にはさ、俺が骨掘り出したのクラスに知れ
ててさ、そしたら……そいつがさ」
 そいつが誰かの説明は無かったが、そこは川堀も真帆も了解した。
「お前が何言っても、俺否定するからって。一緒にどこか行こうなんて嘘だ、
それはお前が何かやましいことをしようとしてたから、こちらを巻き込むんだ
って言うから……って」
 川堀と真帆は、顔を見合わせた。
「……つまり、警察が知ってはいけないところに誘われていたのね」
「…………」
 少年の頭が、しぶしぶ、というように一度下がり、また上がった。
「何、一体?」
「…………何かよく判らないけど……それがあったら、女が離れなくなるって」
「!」

 川堀の目が、きっと細められた。それは恐らく少年が覚悟していた以上の反
応だったろう。おどおどと目を動かす少年に、今度は真帆が尋ねた。
「それ、もしかして……さびしい子供達の為の水?」
「……あ、そんな風にも言ってた」
「うわ」
「……真帆さん、大当たり」
「あたりたくないそんなもんっ」
 言葉自体はかなりふざけたようなものだが、その表情には欠片もそういった
柔らかさが無い。
「去年の夏、高校生の女の子達が、惨殺された事件を覚えている?」
 その表情のまま、ぱっと振り返って少年を見やった真帆に、少年は少し目を
見開いたが、直ぐに頷いた。
「知ってる」
「その子達は、その水の犠牲者よ」
「!」
 彼女のことは、今でも時折思い出す。こうやって零課の仕事を手伝おうと思っ
た一つのきっかけは確かに彼女にある。
 彼女の悲しみと無念といたみ。
 そういうことを、少しだけでも伝えられることが出来たら、と。

「止めて。あたしは貴方が親にも見せられないくらいひどい姿になったところ
を見たくなんかない。そんな姿になったって、しょんぼりしたところも見たく
ない」
 吐き出すような言葉に、少年はがたがたと震えた。
「……で、でも」
 川堀が、はっとした。
「もしかして、また誘われているの?」
「…………今日、もう少ししたら来るんだ」

 友達の誘いを断れない弱さ。

「ねえ、それ本当に友達?」
「…………クラスの奴だよっ」

 断れば、クラスの中で浮くくらいにはなるんだろうか。

「捜査に協力して頂戴」
 不意に、真帆が言った。
「位置がはっきりしない。案内して下さい」
「あ」

 怯える一方だった少年の表情が、ほんのすこしほっとしたものになる。
 それを確認して、川堀は頷いた。

「ええ、そうですね。一緒に来て下さい」

時系列
------
 2008年4月〜5月

解説
----
 そして発見者をほんの少し巻き込んで。

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 ちなみに、本体、警察の調べるとかなんとかは全然知らないので。
 事実と違いますーとか言われたら「そりゃあ無理ないです」と言うばかりです。

 てなわけで。であであ。



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