[KATARIBE 31656] [HA06N] 小説『時効前・1』

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Date: Sat, 17 May 2008 23:26:38 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31656] [HA06N] 小説『時効前・1』
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2008年05月17日:23時26分38秒
Sub:[HA06N]小説『時効前・1』:
From:いー・あーる


てなわけで、いー・あーるです。
こちらは、真帆の話です。

**********************************
小説『時効前・1』
=================
登場人物
--------
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
 銀鏡 栄(しろみ・さかえ)
     :県警零課の一員。主に戦力勧誘、交渉を請け負う。
 川堀ひとみ(かわほり・−)
     :吹利県警婦警さん。22歳独身彼氏なし。サイコメトリの異能者。


本文
----


 きっかけは、ある男からの通報。
 骨を、掘り出した……と。

 全くその必然性もないというのに。

           **

「それで……その人は」
「ええ、それがですね」
 女は手元の書類を何枚かめくった。
「通報が来て……当然、どうしてそこを掘ったかって話になったんですよ。そ
したら」
「そしたら?」
「……わからない、と」
「は?」
 目をぱちくりさせた真帆に、女……銀鏡は苦笑した。
「正確に言いますとね、『判らないんですわからない……』で泣き出しちゃっ
た、と」
「……はあ」
「まあ、そのまま放っておくわけにもいかないし、行ってみたら、その男性っ
てのが高校生で……まあ、『見える』子だったんですよ」
 警察に所属している人間の言葉としては破格なものだな、と、ふと真帆は思
う。
 県警零課。幽霊や怨霊、人外に魑魅魍魎。そういった類の連中の起こす事件
を引き受け、表に出すべき部分は出し、隠すべき部分は隠す。
 だから。
「詳しく聴いてみたら、前日の記憶が一部無くてね……多分、その間に何らか
の形で作用を受けたんじゃないか、と」
「……あ、とすると」
 横で黙って聞いていた川堀が手を上げた。
「その間に、彼がどこに居たかを調べて?」
「そう。その間に……何らかの異常がないかどうかを調べて欲しいのよ」
「はあ」
 頷きながら……真帆は眉根にしわを寄せた。
「どうしました、真帆さん?」
「あ、いえ」
 銀鏡の声に、真帆は少し苦笑した。
「ちょっと意外だな、と思いまして」
「意外?」
「骨が出てるなら、そちらから調べるのか、と」
「……ああ」
 非常に言葉が足りないが、銀鏡は了解したらしい。真帆のそれと似たような
笑みが、その口元を彩った。

 県警零課。
 異能が決して大っぴらにはならないこの世界で、この課は必要ではあるが同
時に或る程度『伏せられる』ことが多い。例えば今回のように骨が出てきた場
合、その骨自体は充分に証拠になるが、その骨の周りに(例えば)その骨の持
ち主が幽霊として留まっていても、彼の発言は証拠にならないのである。
 従って……無論、そういう物証が見つからないならともかく……骨のような、
個人特定が比較的容易なものが見つかった場合、その事件は『県警零課』には
来ない。調べても訴状に加えられないなら、ある意味『非常に無駄』である。

「確かに、非常に反対した人も居ましたよ。骨を組み立てる限り、あの男性は
かなり大柄で、力も強い。真帆さんが実体化したらそれなりに危険じゃないか、
とかね」
「…………」
 なんかちょっと意味合いが違う、と、川堀が呟く。
 あえて真帆は口をつぐむ。
「でもね……」
 言いかけて、銀鏡は苦笑した。
「……実はね、もう人骨から調べては、いるのよ」
「え」

 つまり。
 既にもう、調査は行われているのだと、いう。

「だけどね……なんつか、多分、これ、ミステリファンの犯罪ですかってくら
い、結構丁寧に証拠が無くなってるの。歯と……あと手ね。爪なんかも削られ
た形跡がある」
 ぎゅ、と、真帆が額に皺を寄せ、川堀が心配そうに見やる。銀鏡は淡く苦笑
して続けた。
「どうやらそれなりに健康な男だったらしくて、骨折とかそういう跡が無いの
よね。だから」
 病院に記録が無いのだという。
「何より……そろそろ期限切れの可能性は高い」
 なるほど、と、二人は頷いた。
「だから、まず確認して欲しいんです。真帆さんにね」
「……は?」
「その骨のところに行ってみて下さいな。もしかしたら自分の骨のあるところ
に居るかもしれない」
「あ、はい……あ、でも」
 そう言う銀鏡の表情で判る。
「あんまり脈はない、んですね?」
「ええ」

 掘り出した男……いや、年齢から言えばまだ少年に近いかもしれない……の
証言からして、彼が記憶を無くしている付近にどうやらその霊は居るらしい。
 それもどうやら。

「かーなりたちの悪い状態になって」
 溜息交じりの声に、真帆は頷く。
「だから、私なんですね?」
「ええ、多少は危険であっても……ね」

 ふう、ともう一度息を吐くと、銀鏡はすっと表情を引き締めた。

「やって頂きたいことは二つ。まず、その少年に会って、どこでその霊と接触
したかを調べること。そしてその霊を……つれてくること」
「ここに、ですか?」
「ええ。そちらは川堀に担当してもらいます……ね?」
「はいっ」
 歯切れのいい返事に、銀鏡は目を細めた。
「充分に気をつけて、ね」
「……はいっ」
「気をつけます」

時系列
------
 2008年4月〜5月

解説
----
 ある白骨死体から始まる話。

*********************************************

 てなもんです。
 であであ。




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