[KATARIBE 31654] 小説『間奏曲〜はいむにて』

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Date: Sat, 17 May 2008 21:48:03 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31654] 小説『間奏曲〜はいむにて』
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2008年05月17日:21時48分02秒
Sub:小説『間奏曲〜はいむにて』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーる@復活 です。
……でも話は復活しとんのかって感じです<まて

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小説『間奏曲〜はいむにて』
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登場人物
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  薬袋光郎(みない・みつろう)
   :薬袋の一族、分家筋に当たる一名。他者の心の声を聴く異能者。
  平塚花澄(ひらつか・かすみ)
   :鬼海の家在住。四大に護られる血筋の持ち主。

本文
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『水』を憎むなら、そこへ行くといい。
 そう、静かに耳元で鳴った声。

           **

「一応、伝えた、とか言ってましたけど」
「それは有難い」
 相変わらず、オンザロックというには濃すぎるグラスを傾けながら、いえ、
と、彼女は苦笑する。
「相変わらず強い」
「あ、これですか?」
 彼女はちょっと笑うと、何だか湯のみのような手つきで持っていたグラスを
少し掲げて見せた。
「井伏鱒二さんの真似です、真似」
「へえ?」
「さだまさしさんのエッセイ本にあったんですよ。がぼがぼっとグラスにウィ
スキー淹れて、それをまたがぼがぼっと呑む、みたいな表現」
「ああ……なんとなく判るね」

 根拠は厄除け詩集。
 そう言うと彼女……鬼海の家の当主は、ころころ笑い……そしてふと息を吐
いた。

「……霞ヶ池の水を、呪術に使うってのは絶対誰かがやると思ってたんですけ
ど、こんな風に麻薬扱いになるとは」
「思ってなかった?」
「ええ。というか……十年ほど前はそうじゃなかったでしょう?」

 そう以前でもない頃、一度、この魔の水を狙った組織が動いたことがあった。
水自体、この世に属しているとは言えない。この世に多少近づき、また離れる。
そういう繰り返しが、恐らく数年もしくは数十年の間隔で起こっており、そし
て結果として、こうやって波のように水の影響は吹利に押し寄せるのかもしれ
ない。とにかく以前の『波』の際には、こんな使われ方はしていなかった、と、
花澄はまた溜息をついた。

「全てを一つにする。それを呪術として……呪いとして使うことはしても、こ
うやって麻薬として使うことはしなかった」

 さびしいこどもたち、と、マスコミで手ずれのするほど使われた言葉は、し
かしそう考えると嘘では無いから厭なものだ。別に子供に限らず、さびしいと
思う人間が増えているのかもしれないが。
 さびしいひとたちが増えている。もしくは、さびしいと思うひとたちが増え
ている。

「増えてはいないかもしれないけど、そう発することをためらわなくなってい
るってことはあるかもしれないね」
「ああ……そうも言えますか」
 言うこと。言葉にすること。言葉にして本当になってしまうこと。
 ひどく論理的で、その癖きらきらと感情に光る言葉が、彼女の周りで鳴る。


 鬼海の家というのは、元を正せば薬袋の家を成立させた家でもある。
 かつて蛟がこの地を襲った時、たった一人、蛟が心にかけた少女。その少女
が薬袋の家の最初の一人だとすれば、彼女を見出し、それまでその異能により
村八分状態だった彼女を『蛟からお前達を護る者である』と宣言したのが鬼海
の家の者だったという。
(この娘を護れ)
(この娘だけが、蛟を留めるのだから)
 それがいつの間にか、『この血を護れ』という言葉に置き換わって以来、薬
袋の家は少しずつ歪んだのではないかと光郎は思う。
 それから考えると、鬼海の家は彼の目には非常に健やかに見える。実際、彼
らの異能は血によって伝わるわけではないらしい。
(異能、じゃないんですよ)
 目の前の彼女も、そしてその先代の当主もそう言った。自分達が四大の力を
使えるように見えても、それは決してそういうことではないのだ、と。
(あ、異能といえば、確かに四大と話せるってのは異能ですけれど)
 地に縫いとめられた蛟を護り、蛟から護られる薬袋の家とは対照的に、彼等
は四大に護られ、また四大を護る。自由な四大は自由に彼らを護り、自由な彼
等はやっぱり自由に四大に護られる。そのせいか、この家の異能者達は、妙に
暢気なところがある。
(もしかしたら、造られた異能者に、私達は一番近いのかもしれません)
 四大に護られた親から生まれた子は、やはり四大に護られる。お節介なおば
さんが妹のように可愛がっていた女性の子供を可愛がる、そういう感じなんで
すよ、と、この当主はこともなげに言ったことがある。
(愛されているというのは、怖いもの知らずだね)
(ああ……そういうのはあるかもしれません)
 軽やかにそう言って笑う彼女に、光郎はタカの未来を思う。
 彼女のように、笑いながらこの異能と折り合ってゆく。そういう未来がタカ
に訪れてはくれないだろうか、と。


「そう言えばこの前、お金のバケモノが出たらしいんですけど」
「ああ……それは聞いた」
『水』を元に造られた麻薬。その中に紙幣をぶち込んで放置する。その前にど
うやら水の中に倒れたらしい男達を呑み込んで、それはなかなか怖ろしいモノ
へと変じたらしい。
「直接見た人が、『あれは円谷プロが喜びそうだった』と言っていたけれども」
 言った途端、花澄が吹き出した。
「……カネゴンですか?」
 ひとしきり笑って、ようやく笑いやんで言う。光郎は少し首をすくめた。
「あれの、紙幣版……だったのかね」
「それならそれで可愛い気がしますけど」
 一つ息を吐いて、ウィスキーを一口含む。そして花澄は少し笑った。
「……それがどうやら、彼女のやったことらしいんです」
「ほう」

 ペットボトルに開いた穴。流れ出る『水』。
 そしてそこにぶち込まれた紙幣の束。

「……家族か誰かがやられたかな」
「何となくそういう感じですね」

 どこがどう、というわけではない。けれども。
 司法の手に任す積りもなく、水の作用に相手を任せる、その方法が。

 からん、と小さくなった氷が、花澄のグラスの中で鳴る。
 小さく溜息をつくと、光郎はグラスを引っ張り出した。

「……声は聞こえませんか」
「今日は駄目かもしれないね」

 言いながら、グラスに氷を幾つか放り込み、花澄同様がぽがぽと酒を注ぐ。
 つん、と、一瞬、ウィスキーの香りが鼻腔を突く。

「……早く、来てくれるといいんですけどね」
「そうだね」

             **

 かつん、と、ことさらに踵を叩きつける。
 かつん、と、アスファルトの上で、その音は響く。

(行くといい)

 その声は静かに深く。
 自分の異能と、全く異質な……そういう響きを伴っており。

 ふう、と一度息を吐く。
 考えてみたら、そういう相手には……初めて会うことになるのかもしれない。

 かつん、と、もう一度、踵を鳴らし。
 馨は扉に手を伸ばした。

時系列
------
 2008年4月頃

解説
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 どらっぐくいーん、はいむの一歩手前。

********************************

 てなもんで。
 六角馨さん。この二人と一緒だと、大分リズムが狂いそう(笑

 であー




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