[KATARIBE 31643] [HA21N] 小説『取引阻止』

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Date: Wed,  7 May 2008 17:57:25 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31643] [HA21N] 小説『取引阻止』
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2008年05月07日:17時57分25秒
Sub:[HA21N]小説『取引阻止』:
From:いー・あーる


てなわけで、いー・あーるです。
生きてますー(へろへろへろ)

*****************
小説『取引阻止』
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登場人物
--------

  六角馨(むすみ・かおる)
     :Drug Queen。極微量の体液を相手の体内に送り込むことで、様々な
     薬物を投入するに等しい反応を与える。


本文
----

 すう、と滑るように歩いてきた女は、やはり当たり前のようにすう、と手を
突き出した。
 そして、たったそれだけのことで、見張りはその場に昏倒した。

             **

 インターネットを利用しようがどうしようが、売るべき品物があり、その代
金がある限り、必ずそれを『引き換える』という作業がある。出来るだけ互い
が接触しないようにする場合もあるが、危険なものだけに『出来るだけ一対一
で受け取りたい』と言い出す顧客も居る。そうでなくとも、品物をどこかに置
く必要はある。
(ドラえもんはまだ居ないものね)
 口の中で呟いて、女は顔を上げた。
 白のブラウスに、黒のスカート。ピンヒールの黒いエナメルの靴は、しかし
音の一つも立てない。遠慮がちに歩いているわけでもない、ただすいすいと歩
を進めているだけなのだが、それでも音の欠片も立たない。
 そのまますいすいと歩いて、ふと彼女は足を止めた。

「確かに、ボトル36本」
 かたり、と箱の蓋が開かれる。開いた男も、それを見ていた男も、部屋の裸
電球の下、ぎらぎらと毒々しいような目をして箱の中身を見ている。
「こいつが……『水』か」
「ああ、だが」
 にやりと笑った男の顔を見て、売り手のほうは少しばかり分別くさい表情を
作って見せた。
「あんたみたいなのは気をつけたほうがいい」
「どういう意味だ」
「ミイラ取りがミイラになるなよってことさ。まあいい、これでいいなら」
 ひゅ、と音がした。そして、一拍置いて、二色の男の怒鳴り声が響いた。
「……なっ」
「どういうことだ!」
 引きあけた箱の中にはペットボトルが6本。同じ箱があと5つあるが、当座
そちらは閉じられている為問題はない。が。
「ふ、触れるな、これは危険だぜ!」
「なああっ」
 六本のうち3本からどんどんと水が吹き出しているのに、男達が飛びのいた、
時に。
 また、ひゅ、と音がした。
「……あああっ!」

 こんどこそ見える。小さな石らしきものがペットボトルの壁を破っているの
が。

「…………野郎!!」
「何をしやがるんでえ!」

 それなりに修羅場を踏んでいるらしく、男達は片手にそれぞれ得物を持って
構え、石の飛んできた方角に向いた、のだが。

「野郎はちょっと間違い」

 寧ろ明るい、楽しげな声に、一瞬だが毒気を抜かれたような表情になった。

「このアマぁ、なら返事してあげたのに」

 小さな顔の、肌は白い。黄色人種の肌色が薄くなったというよりは、それこ
そパレットから出してきた色がそのまま肌の色になったんではないか、と連想
するくらいには、その肌の色は白く、また同時に何とも気色の悪い質感があっ
た。白いブラウスと黒のスカート、そして黒の靴。覆われていない部分は白い
肌に覆われている。その不気味さに、男達が一瞬だが鼻白んだ隙に、女はすい、
と歩を進めた。

「……お前」
 取引をしている以外にも、2人の男が居る。ぐい、と伸ばした手の、丁度手
首辺りを女は一度ぽん、とつついた。
 そして、それで終わりだった。

「…………お、お、おい!!」
「このアマぁ!何しやがったんだよコラ!」
「何って、触っただけだよ」

 くす、と笑うと女はまた、すい、と滑らかな動きで手を上げた。掌を男達の
ほうに受けて……そして女はちろり、と舌を出して、唇を舐めた。

「さあて」
 にやり、と笑った顔には一分の隙も無く。

「極上の快楽、味わってみる?」

         **

「硝子瓶じゃないとこがせこいわ」

 ぶし、と、あんまり景気の宜しくない音と一緒に、ペットボトルに詰められ
た水が解放されてゆく。うう、と唸る声に、彼女はひょいと黒い靴を履いた足
を持ち上げ、男の顎を見事に蹴り砕いた。ぐあ、と一声鳴いて、男はまた昏倒
した。
 水に触れてはならない。ごぼごぼと音を立てて流れ出る水、ゆっくりとコン
クリートの床に溜まりつつある水を、彼女はひょい、と避けて跳ねた。無論倒
れた男達には水の飛沫が遠慮会釈なくかかっているが、それはもう彼女は全く
構う様子はない。かつかつと部屋から出て行こうとした、時に。
「……おや」
 どこかプラスチックの面のような質感の顔の中、強い光を放つ目が、テーブ
ルの上の何かに止まったらしかった。
「これはこれは」
 きっちりと紙のテープで止められた、紙幣の束。最近ではTVドラマでもなか
なかお目にかかれないそれを、女は眺めたが、
「……ああそうだ」
 その白い顔の、口元を僅かにゆがめたかと思うと、ひょいとその束を取り上
げた。
「全てを一つにする水とやら」
 す、と指を滑らせ、紙のテープを引きちぎる。そのまま、そのえらく高額な
紙ふぶきを、その手でふわりと舞わせた。
「この金を一つにしてみな」
 さらり、と、その最初の一枚が、水面に落ちる。その時にはもう、彼女は部
屋から飛び出していた。

(Boost)
 血液の中、瞬発力を押し出す化学物質を増やす。それでなくとも身軽な彼女
の身体は、筋肉から押し出されるような力のまま、たんたんとコンクリートの
階段を駆け上がってゆく。
(……ふん)
 無表情のままの顔に、ふいと表情が浮かぶ。それもまた、何らかの作用なの
か、女はとってつけた上機嫌な顔のまま、地上へと飛び出した。

 
 触れた手から、彼女は相手に特殊な物質を送り込む。それは脳髄にダイレク
トにぶち込まれ、そのまま『酩酊』状況を相手にもたらす。Drug Queenの二つ
名は決して誇大な形容ではない。
(たかが脳髄にぶち込まれた、化学反応)
 白いプラスチックの面めいた顔からは、いつの間にか表情が無くなっている。
(それに呑まれて潰れるなんざ、人間の尊厳なんてどこに行ったんだかね)

 男達を残してきた地下へと、向かう気配を彼女は感じ取っていた。
 このところ、ヤクザといわれる面々の間で、『水』を含むクスリが出回ろう
としていることを知っている。その取引現場を潰すのは、これで3件目。
 潰した現場へと向かう中には、彼らの同類だけではなく、どうやら彼らを
『狩る』立場の面々も居るらしい、と、彼女は感付いていた。確かにこの段階
で取り締まることが出来れば、水を用いたことによる犯罪は激減する。

 が。

(どうでもいい)
 ひややかな表情は動かない。
(潰すだけよ)

 エナメルで固めたような白い顔を冷ややかに上げて。
 女はこつこつと歩いてゆく。


 地下室から現れた、出来損ないの紙粘土のお化けのようなものに、零課の面々
が駆け回る羽目になったのは、それから一時間ほどあとのことである。
 

時系列
------
 2008年4月頃

解説
----
 どらっぐくいーん、ちょいと書いてみました。
 ……おかしいなあ、なんかさりげなくギリちゃんに迷惑かけてるよこの人
(ってそこで指名するなや<己)

********************************

 てなわけで
 であであ。


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