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Date: Tue, 22 Apr 2008 19:51:17 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31617] [HA21N] 小説『 Drug Queen 』(修正)
To: kataribe-ml@trpg.net
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2008年04月22日:19時51分17秒
Sub:[HA21N]小説『Drug Queen』(修正):
From:いー・あーる
すいません、連続ですが。
流し終えた時に、直ってないのに気がついた(爆滅)
……直した積りだったんだよーっ(わーん)
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小説『Drug Queen』
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登場人物
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薬袋光郎(みない・みつろう)
:薬袋の一族、分家筋に当たる一名。他者の心の声を聴く異能者。
平塚花澄(ひらつか・かすみ)
:鬼海の家在住。四大に護られる血筋の持ち主。
本文
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奇怪な、噂がある。
(夜の街を歩く時、女に出会うことがある)
(白い肌はどこかプラスチックのような質感で)
(顎の線あたりで定規か何かで切りそろえたような髪は、こちらが痛くなるほ
ど真っ直ぐで)
(漆黒の、無表情な目がこちらと視線を合わせた時に)
その話をした青年は、ぶるりと身を震わせた。
(手を、伸ばしてくるんだ)
(あくしゅ、と、言われたんだ)
(握った手から)
がたがたと震える身体は、恐怖のみを示しているわけではない。
強烈なほどの……
(……あんなん、初めてだった)
(握った手から……張り合わせた掌から、一気に)
体中を駆け巡る快楽と、視野を埋め尽くす幻覚。
(……言われたんだ)
(『水』なんて止しなさいよって……)
がたがたと、震える腕を握ったまま、こちらを見下ろして。
笑わない筈の大きな黒い目に、にやり、と笑いを浮かばせて。
女は全く飾りの無い格好をしている。
容赦なく白い、恐らく綿のきっちりとアイロンのかかったブラウス。やはり
真っ黒な、Aラインのスカートは長い。その白と黒の色合いを崩すことがない
ほど白い肌は非常に滑らかで……しかし同時に、奇妙に人肌の印象を欠いてい
る。
奇怪な、ビニールの触感がしそうな……肌。
大してかかとの高くもない靴は黒。かつこつ、と、小さく踵でアスファルト
を打ちながら、彼女は歩いてゆく。
(どんな顔って……美人?あ、いや……どうなんだろう)
(すげえ好みだったよ。小さい顔に目だけが尖るようで)
(だけど……人形……?いやあれだ)
目を輝かせて言う言葉かどうかは、少し疑問なわけだが……しかし彼は、身
を乗り出すようにして言う。
(デスマスクだよ、デスマスク)
そういうお前は、デスマスクが好みなのか、と、訊く気も起こらず、ただそ
の言葉を聴く。
「それで、会いたいのかい」
問いかけに、彼は一瞬躊躇して……頷く。
「……会いたい」
触れ合わせた手を、握ってまた開いて、彼は何かに憑かれたように呟く。
「会いたい……あのDrug Queenに」
**
「……敵対は、しないのだろうと思う」
「そう、みたいですね」
言いながら、しかし年齢不詳の女性の眉間にはしっかりと縦皺が居座ってい
る。なんなんだろうなあそれ、と、小さく呟く声は、おっとりとした見かけに
よらず、結構伝法な響きを伴っていた。
「うちの店に来てくれると、僕も本当にありがたいんだが」
「そうですね……でも、ここ結構穴場だから」
餌でも撒いておきますか、と、結構真顔で彼女は言う。冗談に聞こえないあ
たりは……つまり本気なのだろう。
「そうだね。水を利用する気は無いのなら、こちらで出来ることもあるだろう
し……何より」
「あの水に関わる人間は減らしたい」
霞ヶ池の水は、何よりまず『麻薬』として加工されることが多いらしい。
副作用は想像を絶する形での死、もしくは死にたいと願うほどの死未満。そ
れでもそれを手に入れたいものだろうか。
「……MOUSEって連作集、知ってます?」
ふ、と、問いかけられた声。少しあやふやな響きに、笑って答える。
「知っているよ。SF系では結構有名だろう」
ああ、そういえば、と、相手は笑う。そのまますっと視線が店内の本棚に向
かうあたり、この相手もよく判っている。
「いつもここ来ると思うんです。あの本棚から本が消えたら大変だろうなーっ
て」
「モノによっては、泣くかもしれないね」
「わかります」
SFとミステリ。下手に感想を言えば散々責め立てられて逃げ出したくなるよ
うなコアなファン達が多い。その人々から言えば互いに『ファン』と大手を振っ
て言うわけにはいかないものの……それでもこの程度はわかるのである。
それで、と、ずれかけた話を、彼女は元に戻した。
「あの中に、18歳になって、ネバーランドから追い出される人々が居る、とあっ
たんです。子供達は死んだがマシだと思うような現実から逃げて、マウスにな
るけど……でも、数年で、またもとの世界に戻る」
さらり、と長い髪の毛を後ろに払いながら、彼女は言葉を続ける。
「そちらのほうが……一度は逃げた世界に戻るほうが、余程辛いと思うのに、
『水』を使う人々は、そんなことも忘れるんですかね」
生真面目な……しかし一方で、それ故に世界の一面については疎い彼女の言
葉は、ある意味では残酷なものだった。
「……人は皆、貴方のように未来を考えるわけじゃないよ」
衝動のままに逃げたり、傷つけたり。
そういうことを自らに許さない彼女は……その分極自然に惨い、のかもしれ
ない。
オンザロック、と言うのもちょっと気が引けるような、控えめな氷と大量の
ウィスキー。それを水割りのようにするすると呑みながら、そうですか、と、
小さく呟いて、彼女は息を吐いた。
「それにしても、考えてみたら」
「はい?」
「MOUSEの登場人物に少し似てないかな、その彼女?」
「……あ……ああツクヨミがそんな感じで」
「そういう名前だったっけね。ドラッグ漬けの少年の」
「そういえば」
プラスチックの色と質感の、白い肌。
痛むほど真っ直ぐに切られた髪。
「どういう人なんだろうね」
「と、言うと?」
「他人にドラッグを……もしくはそれに酷似した何かを与えられるわけだ。そ
れは自分にも作用可能なんだろうか」
「…………」
ああ、そういう風に、と、小さく彼女が呟いた。
所謂『副作用』は無い、という。
ただただ……強烈な快楽。それをもう一度、と、出会った者は思うらしい。
それこそが、副作用ではないか、とも……思う。
「薬袋さん……本当に、ここのことを少し撒いていいですか?」
「うん。そうしてくれるかな」
「はい。そしてもしこちらに来られたら、また連絡下さいますか」
「無論です」
有難うございます、と、立ち上がった彼女を見る。
或る意味で、彼女とは対極的な異能者なのかもしれない、と、ふと思う。
「Drug Queenってのは、また結構な命名だと思うよ」
「ええ……そういう意味では、ちょっと……」
苦手かもしれませんね、と、彼女は笑った。
時系列
------
2008年4月頃
解説
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前述した、「MOUSE」を読み直していて、ばっと出てきたこのDrug Queen。
手を握ることで、相手に麻薬を服用した際と同じ状態を生ぜしめる異能者です。
で、これがどうなるかは……とりあえず引っ越してからということで(滅)
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ほんとすいません。
であであ。
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