[KATARIBE 31615] [HA06N] 小説『女性名と男性名』

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Date: Tue, 22 Apr 2008 19:24:45 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31615] [HA06N] 小説『女性名と男性名』
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2008年04月22日:19時24分43秒
Sub:[HA06N]小説『女性名と男性名』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
現在、家からつなげないので……
とりあえず、最近嵌ったきゃらくたーをネタに。

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小説『女性名と男性名』
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登場人物
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  相羽真帆(あいば・まほ)
    :自称小市民で、なぜか怪異に懐かれる。六華の友人。
  六華(りっか)
    :冬以外にも現れるようになった冬女。相当美人だが口が悪い。

本文
----

 女性名詞と男性名詞。
 そういう区別の無い国語で育った身としては、そういう知識はある意味後付
で、だからこそ個人個人でその判断が違うと、そういうことも判っている。
 ……の、だけれども。

「で。真帆サン」
「……へ?」
「急に、出来の悪い本での俄哲学者みたいな言い草してるのって何で?」
「…………へ?」
 こちらがぼけっとしているのをどう思ったか、漆黒の髪に抜けるほど白い肌
の美少女(いや年齢から言えばとても少女ではないのだが、見たとこは確実に
少女である)は、つけつけと言葉を足した。
「だからね。ぼけーっとした挙句、そんなわけわからないこと言われても、あ
たし反応できないんだけど?」
「ある意味してるじゃん。反応」
「……そういうのって、揚げ足取りって言うと思うんだわ。それもきっちり墓
穴掘りの」
「…………ほんっと容赦ない……」
 これで尚吾さんが居た日には、六華はこの程度では収まらない。『あったし
十全に無茶言ってますけど、真帆サンその無茶に値するからね?』と言ってく
れるのは、非常に……分不相応に有難いことなのかもしれないけど、しかし。
……この口の悪さは何なんだ。

「えーっと……じゃ、六華に訊きたいんだけど」
「はい?」
 ぞくりとするほど白い肌。その肌の上に影を落とす、ぱさりと切られた前髪。
額の辺りで揺らぐ髪を無造作に払ってこちらを見た彼女に、あたしは問う。
「ティエリアって、女性名詞?男性名詞?」

「…………………真帆サン」
 天使往来。ついでにその天使が一足ごとに何か落として、それを拾いながら
のたのた異動している。
そんな印象のある沈黙の後、六華が押し出した声は……まあ、その沈黙に比例
するようなものではあった。
「それ、真帆サン見てるの?」
「え?……ううん見てない。全然。でも、ネットで色々やってて、あ、この子
好みだなーと思ったから」
 勢い込んで言った言葉は、はぁ、と、えらく重い溜息に遮られた。
「ティエリア・アーデ。絵柄は姫君ってくらいに美人なのに、声は凄く男前な
キャラクターでしょ?」
「……何よ六華、見てるのあのアニメ?」
 そもそもあたしは、この家でテレビってあんまり見ない。このアニメも2回
くらいは見たが、そこで尚吾さんの帰宅時間とぶつかったこともあって、以降
全く見ていない。
「うん。本宮のおじさまと一緒に見てる」
 ………………おじさまってああた。
「でもね、真帆サン。あのキャラ、名前がどうこう以前に、見かけが女性なの
に声が漢ってとこが、曖昧の原点かなーと思うんだけど」
「あ、そういうことじゃないのよ」
 ただ。
 有能で無茶苦茶に自尊心が強固で。
 でも泣き虫で融通が利かなくて、多分仇を討たないとそもそも死ねないとか、
ほんとに普通に信じてそうなキャラ。
 これがまた相当の美人で、華奢で、でも声優さんはとても男前っていう……
……尚吾さんに同人誌贈ってる面々だと、それこそ何冊話を書くんでしょうっ
て設定のキャラクターなんですけど。

「でも、そもそもあの名前って女性名詞に聞こえたのよ」
「……へ」
 六華が目をぱちくりとさせる。
「だから、誰かがそういう論点で書いているかと思ったら、今のところそうい
う記述に出会わなくてさ」
「それは、うん」
「だから、それには理由が二つあると思ったの」
「二つ?」
「うん。一つは、男性に女性名詞の名前をつけることで『まぎれ』を作成して、
正体をよりわかり難くする、ってことか」
 実のところ、最初は、この第一の考え方に決まっている、と思っていたのだ
が。
「で、もう一つは……あたしの女性名詞の定義が、平均的日本人とちょっと違
うかも、ってこと」
「って?」
「あ、で終わる名前は女性名詞」
 今度こそ、六華はきょとんとした。

 先に言っておくと、あたしの留学した国は、中近東の中でも孤立無援な国で
ある。この国についての細かいことはこの際どうでもいい。ただ、この国の名
詞には一つの法則があって。
『名詞には女性名詞と男性名詞がある』
 そして、それらの区別の際の目安の一つに、
『最後がある文字で終わる場合は常に女性名詞』
 というのがある。
 Hに近い音であるこの文字は、文末につくと母音の『あ』の音の代用(アク
セントの無い音)となる。
「……はあ」
「だからね、日本語の『侍』が、向こうでは『サムライ、サムライーム』って
男性複数形を取ってたし、反対に『忍者』は『ニンジャ、ニンジョット』って
女性複数形になってたんだよ」
「何でまたサムライにニンジャなわけ」
「あの頃、ツァベィ・ニンジャ、もといミュータントタートルズは流行でした」
 ありゃ日本の漫画じゃないよーと、まっとうなる日本人としては何度も否定
したものだが、それにしたってニンジャとかサムライは日本のものだろう、と
言われれば、まさにその通りである。
「他にも、例えば、モレーって言ったら先生なんだけど、女性の先生だとモラー
だとかね。だから名前でも、最後が『ア』音だったら女性の場合が多かったの。
サラとかリフカとか」
「……でも……」
 さらり、と黒い髪が肩の辺りでわだかまり、またするりとこぼれる。六華は
何やら記憶をかき回しているような顔のまま、こちらを見た。
「旧約聖書だっけ?居たよね、ヨシュアとかイザヤとか『ア』音で終わる人達」
「……あんたよく知ってるね」
「冬にはクリスマスがつき物なんで」
 ひょい、と肩をすくめる。
「教会なんかにひっぱって行かれて、一緒に読んだりしたことあるよ。結構面
白いし、あれ」
 
 色々あって、今のようになるまでは、彼女は冬だけに現れる『異形』であっ
た。
……まあ、今も異形であるといえばそうなのかもしれないけれども。

「にしても、イザヤなんて『ア』音で終わってないの?」
「終わってるけど……現地でもイザヤって名前の人居るんだけどね、読みが違
うんだよ」
「読み?」
「イシャヤウ、って呼ぶね。最後に『ウ』の音が追加される。これは『彼』の
意味が含まれる……他にもエレミヤウとかもね」
「ヨシュアは……ヨシュアウ?」
「あ、あれはね、ヨシュア、でいいけど、最後の音にアクセントがある。綴り
としては別の音の『ア』なんだよ。……ティエリアだと、真ん中の『エ』にア
クセント無い?」
「んーと」
 口の中で何度かその名前を繰り返してから、六華はうんそうだね、と頷いた。
「つまり。最後の音がアで、アクセントはそこになくて……というわけで、あ
たしは名前だけで、あ、この人女だよなーと思ったんだけど、案外そういう意
見なさそうなんで、日本人的にはどっちでもありな名前なのかなーと」
「………………」
 考えてみたら。
『ラケル』という名前は、聖書を少しでも知っている国では、完全に女の名前
である。姉妹の妹、それも非常に美しいと称された、創世記の登場人物。
「なんだけど、友人、その名前で日本の学校に行ったら、『あれ、名前から男
だと思ってた』って言われたらしい」
「……はあ」
「そういう意味では、やっぱり先入観て駄目だねー。なかなか難しい」
「…………」
 何なのだその顔は。
「……真帆サンて」
「はい?」
「いや……いいけど、それが真帆サンだけど」
 何か一人で納得してるし。

「でも、真帆サンあのキャラクター好きだろうと思ったわ」
 淹れ直した緑茶と、どら焼きを前に、六華は少し肩をすくめる。
「……そうやって人の好みを的確に判断しないで欲しい……」
「だって分かりやすいもの」
 当然、という顔で彼女は指を折る。
「美人ではっきりしてて、でも莫迦で、ごーんと殴ると折れるばっかりで元に
戻るってことを知らないで、融通利かない上に勝負に出る時は自分の命なんか
ひょいっと放り出す。ついでに無意識で毒舌全開」
「……うーわー」
 なんつう容赦の無いまとめだ、と思っていたら。
「変なとこ真帆サンと似てるのよねー」
「…………ちょっとまて」
「ごーんと殴ったら曲がる人だっけ?」
「……いやそういうこともあるかもなとか」
「器用に人の間を渡ることとか出来たっけ?」
「…………いあその、渡る必要性があるときは」
「必要性のあるところを歩いてる?」
「う」
「融通利かないでしょ」
「む、昔よりはかなり……」
「まだ酷かったの?」
 そこまで言いますかーと言いたいが、確かに……と思うと胃が痛い。
「で、誰かに無茶言われると、すぱーんと命賭けるから怖いよ」
「……だってほかに賭けるもんがないから」
「…………」
「……すみませんあたしの負けですその顔止めて下さいっ」

 はぁ、と息を吐いて湯飲みを持ち上げる。
 白く整った顔と、痛いほど真っ直ぐな髪の毛を見てふと思う。

「……六華も相当だと思うけど」
「へ?」
「似てる。結構」
「……外側を見て言ってくれるなら褒め言葉。中身までって言うなら、それ全
然褒めてないからねっ」
 口の悪さは似てるかもしれない、と、本編見てないけど思ったりする。
「いや、中身というか……それも多少そうだけど」
「けど?」
「六華って、ツンデレだよね、多分」

 沈黙。
 そして。

 すぱーんと、いっそ小気味良い音があたしの頭の上で鳴った。

「……六華ーーっ」
「そういう発言する前に、あたしの手元に新聞紙置いとく真帆サンが悪いっ!」

 むしろ轟然と。
 そんな形容詞の似合う顔が、こちらを見ている。

「……何」
「いーえ別に……あ、お茶、お代わり淹れてくるね」

 何であのキャラクターが気に入ったか、自分でも少しだけ納得がいって。
 あたしはお茶っ葉を入れ替えながら……少し笑った。

時系列
------
2008年3月末あたり

解説
----
 いや実際、本体がそう思ったから……という話なんですが。
 実際、ああいう莫迦で融通の利かない人間は好きですが、隣に居たら殴ります。
 でも書いてみて思った。真帆ってツンデレじゃないよね。六華はそうだけど。

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 てなところで。
 すみません。現在、こちらにつなげるのが火、水くらいで、それも夜は無理〜
……なので。
 結局、引越しの後までは、こちらに来れなさそうです。
 何だかばたくさしてます。現在。ですが生きてます、だいじょぶ。

 であであ。
 
 



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