[KATARIBE 31587] [HA06N] 小説『零課仮勤務・7』(終)

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Date: Sun, 16 Mar 2008 01:06:39 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31587] [HA06N] 小説『零課仮勤務・7』(終)
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2008年03月16日:01時06分39秒
Sub:[HA06N]小説『零課仮勤務・7』(終):
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
一応、この話はこれで終わりです。

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小説『零課仮勤務・7』
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登場人物
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 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :ヤク避け相羽の異名を持つ刑事。嫁にはダダ甘だったりする。
 銀鏡 栄(しろみ・さかえ)
     :県警零課の一員。主に戦力勧誘、交渉を請け負う。
 川堀ひとみ(かわほり・−)
     :吹利県警婦警さん。22歳独身彼氏なし。サイコメトリの異能者。


本文
----

 どんな仕事でも、第一日目というのは、結構疲れる。普通の……例えば郵便
の仕分けのような仕事でも、一日目はくたくたになるものだ。
 であれば、まあ、零課の仕事を手伝って、それでくたくたになるのは、無理
の無い話であるのかもしれないが。

「真帆さん、着きましたよ」
「え……あ、ごめんなさいっ」
 ほんの10分ほどの間にうとうととしたらしい。真帆は慌てて身を起こした。
「いえ。初めてのお仕事ですし……今日はよく休んで下さいね」
「ええ……ごめんなさいね。ほんとうに」
「いえ、全然」

 ぽつぽつと話しながら、県警の玄関を通り抜ける。まずは銀鏡のところに報
告に行きましょう、と、川堀が言い、真帆が頷く。一般の……といっていいか
は不明だが……県警を抜け、零課のほうへと行きかけたところに。

「真帆」

 見上げた途端……いや、傍らで見ていた川堀によると、見上げようとした時
にはもう、真帆の表情はほっこりとほころんでいたという。

「今、戻ったんだ?」
「……はい。今から報告です」


 ああ、こういうことか、と、ふと真帆は納得していた。
 いつもいつも、もうとっくに呼ばれ慣れた呼称、呼ばれ慣れた声。けれども
呼ばれた途端、肩の上の重荷が一気に落ちて解けたような気がした。
 加奈のこと。そしてそういえば名前も聞いていない女と子供達のこと。
 今日廻った3件のうち、完全に解決したと言えるのは一件のみ、あとの2件
は、解決とは程遠い。確かに自分に課せられた仕事は、解決することではなく
彼らから情報を得ることであり、そういう意味では仕事は何とかなったのかも
しれないが。
 けれども。思い上がりだと、自分でも思うけれども。
 思わずにはいられない。もっとどうにかなったのではないか、もっと方法が
あったのではないか……と。
 そんな風に思う度に、肩が重くなった。首がしこるように痛んだ。
 そういったものが。

(真帆)

 その声一つで、するっと溶けてゆく。

 鍵が廻る音に、玄関まで走ってゆくと、相羽の顔の上にいつも見る表情。
 多分今の自分も、そんな顔をしているのだろう……と。
 ふと、真帆は思った。


「じゃあ」
「はい」

 軽く一礼して、真帆は歩き出す。相羽はひょい、と手を上げて見送る。
 とことこ、と数歩歩いて……真帆は振り返った。
「……川堀さん?」
「…………い、いえ……大丈夫ですっ」
 視線の先で、何だか真帆の肩から落ちたものをどーんと乗っけられたような
顔をした川堀が、えい、と、顔を起こした。

           **

「……3件ですか」
 ふむ、と、書類を見ながら銀鏡が一つ頷く。
「はあ……あのう」
「はい?」
「……なかなか、あまり要領が良くないというか……遅くなりまして」

 段々声が小さくなる。銀鏡はくすり、と笑った。

「いえいえ。結構予定以上に進んだんでこちらも大助かりです」
 特に、と、書類でぱたぱたと顔をあおぎながら、何でもなげに付け足す。
「あの医師は、非常に……こちらも役に立ちます」
 必死で色々吐いてますよ、と、やっぱりその表情は何でもなげだった。

 細かい点について幾つもの質問があった。それについては出来るだけ丁寧に
答えたし、川堀からもつけたしがあった。

「じゃ……今のは録音してますから、川堀」
「はいっ」
「あとで、まとめておくこと」
「はい」
「あ、あの私は……」
「これは川堀の仕事ですから」
 あっさりと言い切ってから、女は少し笑った。
「一応、今回は仮勤務なんで、書類なんかは貴女にお願いするわけにもいかな
いんですよ」
「はあ……」
「もし、この調子で仕事をして下さるなら、その時はお願いしますけどね」
 こういう仕事は、どこでも不評ですから、と、女は笑い、真帆も苦笑した。
「それで……どうでした?」
「正直、何もしていないのに、疲れました」
 ある意味率直過ぎる言葉に、女は声をあげて笑った。
「まあそんなもんですよ」
 とりあえずお疲れ様、と、簡単に銀鏡は挨拶を終え、二人はそのまま退出し
よう、とした時に。

「……八ツ島みどり、と言うそうですよ。子供さんは陸」
「え」
 振り返った真帆に、銀鏡は少し唇をゆがめて、言葉を継いだ。

「今日、最後の……奥さんと、子供さんでしたっけ」
「あ」

 そういえば、名前を聞かなかったのだ、と、また改めて真帆は思う。
 思って……一瞬、目頭がつんと痛んだ。

「……有難うございます」

 今度会いに行く時には、忘れず間違わずその名前で呼ぼう。みどりさんと陸
君。その二人の名を。
 静かに復唱しながら、真帆は部屋を出た。

        ***

 机の上の書類を揃えて片付ける。上着に袖を通した上でまた椅子に座り直す。
「……先輩」
「今日はもう、終わったから」
「…………ええそうですね」
 何で即帰る状態になっているのか、とか、そこらを突っ込むことは幾らでも
可能だろうが、突っ込めば突っ込むだけ脱力するのが目に見えているのも事実
である。
「奥さん、お仕事終わったんですか」
「うん」
 何というか……その一言で、何故か全員、それ以上の質問を止める気になっ
たのは不思議である。


「…………ぶ、ですから」
 天使が部屋の隅から隅までスキップで横断するに足る時間の後。
 扉のところで、なにやらごそごそと声がする。少し高めの声と、どちらかと
いうと低い、女性の声。
 そして、そのごそごそとした気配がふつりと途絶えて。
「構いませんから……どうぞ」
 かたり、と、扉が開いて、和久が顔を出し、そしてその後ろから川堀と、最
後に真帆がひょこ、と顔を出した。
「石垣さん、さっきの件なんですが」
 入ってきた豆柴が真っ直ぐに石垣のほうに向かうのと裏腹に、真帆のほうは
入り口でえらく申し訳なさそうに立ち止まっている。
 それに。
「ああ、終わったんだ」
「あ、はい」
「俺もあがるから、真帆一緒に帰ろう」
 言い終わった時には、もう既に戸口の前にまで来ている。はい、と、小さく
呟いて、真帆は傍らの川堀に頭を下げた。
「今日は本当に……最初から最後まで、有難うございました」
「あ、いえ、お疲れ様でした!」
 深々と頭を下げられて、慌てたように川堀が両手を振る。
「そしたら……」
 言いかけた辺りでじゃあ、と、相羽のほうが後ろに声をかけ、そのまま出て
ゆく。慌てたように真帆がその後を追い……そして。
「……お疲れ様、川堀さん」
 奈々の声にようやく我に返った川堀は、はい、と言いかけて……がく、と肩
を落とした。

           **

 県警を出て。
 通りを歩く、その足取りが妙に速い。
「……尚吾さん、何か、急ぐことでも?」
 三歩下がって、を実践しながら真帆が尋ねた。というか実践してしまうくら
い相羽の足が、この場合速かったのだが。
「あ、ごめん……でも」
 妙に切羽詰った顔で、相羽が振り返る。何事か、と、真帆は身構えたが。
「……手」
「は?」
「手、手ぐらい……手ぐらいちょっとつないでも」
「…………は」
 返事の仕様が無いというか、あっけにとられたというか、生返事をしている
間に、二人は路地に入り込んだ。

「駄目?」
 そろそろ暗くなりつつある路地の途中で、やっぱり必死の顔で相羽が言う。
真帆はそろり、と手を伸ばした。
 伸ばした手は、少し痛いくらいしっかりと握り締められた。

「……有難うございます」 
 どれだけ心配をしていたかは、その握る手の強さだけでもはっきりしている。
 ぺこり、と、頭を下げた真帆に、ようやく歩を緩めた相羽が笑った。
「……お疲れ」 
「ううん……」
 手を繋いで、歩いてゆく。
 あまり人気の無い道を、ゆっくりと。 
「でも、尚吾さん凄いね、これ毎日だもの」 
「おしごとだからね」
 苦笑して、答える。本当に他愛の無い言葉に、真帆はほっと息を吐いた。

「……今日は、おでんだよ」 
「うん」
「大根昨日から煮てあるからね」 
「あれは煮崩れるくらいが美味しいよね」

 何でも無い会話。いつもの会話。
 今日一日の出来事が、何だか一気に頭から押し流されるようで。
 真帆は少し瞬きをした。

             **

 相羽君になら、幾ら話してくれても結構です、と、銀鏡は言った。
『真帆さんが彼に話しても、彼から情報は拡散しませんからね』
 普通に秘密を守る積りでも、ほろっと話してしまうことはある。そういう危
険性は相羽君の場合は無いから、と言われ、それは確かにそうだったから、真
帆も頷いた。
 だから。
「……今日ね」

 お茶を淹れて、栗羊羹を出す。少しずつつつきながら、真帆は今日の話をす
る。
 加奈のこと。その友達のこと。くるくると廻る彼女とお目当てのワンピース。
そして小さな子供達と、抱き上げる手。そして女。
 倒れた医師。その男とどうやらその裏にいる術師。

「……働きすぎ」

 ふんふん、とやはり羊羹をつつきながら聞いていた相羽は、ほんの少しずつ
機嫌が悪くなったようで……話しながらも真帆は、時折、もう止めようか、と
言ったものだが、最後まで話して、とすぐに言われて結局全ての顛末を話すこ
とになった。
 うん、と、最後に一つ頷いて……第一声がこれである。

「……え?」 
「それ、絶対働きすぎ。抗議していい」 
「でも……大したことしてないよ?」 
「たいしたことはなくても、疲れてるんでしょ?だったらたいしたことなの」 
 
 そういうもんだいかーと、もし第三者が聞いていたら、突込みがきそうな台
詞なのだが、無論相羽家には、ここで突っ込みを入れる人員は皆無である。

「……だって、服の試着に行って、ご飯食べさせて……あとはお墓を直して…
…なんか結構、ただの世間話のほうが多かったんだけど……」 
「話してるだけっていってもね、その手の仕事っていうのは精神的に疲労する
もんだよ」 
「……うーん……」 
 確かにそういうことはあるだろうが、でも実際、それくらいなら大丈夫、と
真帆としては思わないでもない。
「うん、でも、だいじょぶ」
 えい、と手を伸ばして振り回してみる。大丈夫だよ、を身体で示す積りの動
きは、見事に一言で止まった。 
「だめ」 
「……え」 
「慣れないうちはさ、大丈夫大丈夫って言うもんだけどね」 
 ふわり、と、いつの間にか肩の上に手が乗っていた。その手が何度も肩を撫
でる。
「ぶっ倒れてから疲れていた、大変だったって気づくの」 
「…………」
「経験者が言うんだから間違いない」 
 えらい説得力である。
「……尚吾さんも、そういう無茶やってたんだ」 
 いつもなら、そう言われると少し……少しだが躊躇する相羽は、今日に限っ
ては全くその素振りを見せなかった。
 余程心配し……余程、ある意味ではむっとしているのだろう。
「うん、だから言うの」 
「…………はい」 

 実際、草臥れてはいるのだ。
 草臥れないように、もっと効率よく、と、今更思っても無理だし、仮にそう
思っていたとしても、今日のところはそれどころでは無かったのも事実で。

「……気をつけます」 
「うん、そういうのはさ、仕事こなしていかないとやっぱり身につかないとお
もうから」
 心配そうに、覗き込むようにこちらを見る目。
「…………無理しすぎないように、ね?」 
「……はい」
 大先輩の言葉に、ぺこり、と真帆は頷いた。
 肩に乗っていた手が、ぽん、と頭に乗っかる。何度も頭を撫でて。
 そして、ふわり、と、相羽は身体を傾けた。そのまま真帆の頬に唇が触れる。

「お疲れ」

 その一言に……真帆はほっと息を吐いた。

「……ありがとう……ございます」


時系列
------
 2007年10月

解説
----
 仮勤務の日、終了。

*********************************************

 てなもんです。
 であであ。
 
 


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