[KATARIBE 31586] [HA06N] 小説『零課仮勤務・6』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Thu, 13 Mar 2008 01:14:09 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31586] [HA06N] 小説『零課仮勤務・6』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <20080312161409.52EA1306819@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 31586

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31500/31586.html

2008年03月13日:01時14分09秒
Sub:[HA06N]小説『零課仮勤務・6』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
とりあえず少しだけ。

理想通りに動かない世界ってのも、まあ、いいかな、と。

*********************************
小説『零課仮勤務・6』
=====================
登場人物
--------
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
 川堀ひとみ(かわほり・−)
     :吹利県警婦警さん。22歳独身彼氏なし。サイコメトリの異能者。

本文
----

 堕胎専門の医師の家を後にし、川堀の運転する車に座る。
 真帆はその途端、がっくりと肩を落とした。



 大丈夫ですよ、と、女は笑った。
「ええ……この子達に会えましたし」
 まるまるとした赤ん坊は、きゃっきゃと笑いながら母親に抱きついている。
それを下から見上げながら、子供もとても嬉しげに笑っていた。
「それで、あの」
 どうやったらここから出てゆくことが出来ますか、と、真帆が訊こうとした、
その機先を制するように、女は笑いながら声を発した。
「この家は、このままでしょうか、当分」
「え……」
 それはまあ、ここ数日くらいは平気だろう、とは思うが、それ以上は真帆に
もわからない。困った顔になった真帆を見て、女は尚更ころころと笑った。
「いえ、そんな長期間じゃありませんよ?ただ……」
 女はふと、周りの子供達を見た。自分の腕の中の子供達を見るのと似た、や
はり優しい、確かに母の視線で。

「この子達が、成仏するまでここに居たいんです」

 子供達が表玄関を護る封印に組み込まれていた一方で、彼女は裏門を護る封
印の一部となっていたのだと言う。どちらも『護り』の一部。だから彼女は、
この子等のことをどこかで『感じ』ながら……いや、だからこそここから去る
ことも出来ず、ずっとこのままで居たということになるのだろうか。

「何か、手伝えることはありますか」
 生真面目な表情のまま、問いかけた川堀に、女は少し考えて、笑った。
「そうですね……どうなったか、教えてもらいたいです」
「それは、無論のこと」
「あ、それと」
 す、と、女は表情を引き締めた。
「その……術師ですか?その者から必ず護っていただきたい」
「それは、確かに」
 言いかけて川堀は、大慌てで携帯を取り出した。
「ちょ、ちょっと待って下さい。今連絡しときますから」
 何度かのやりとりの結果、その点については大丈夫だ、となった。術師の名
前は、県警で保護されると判った途端医師が吐いた、と。
「ええ。そちらはもう大丈夫のようです」
 ほう、と、明らかな安堵の声に、女もまたほっと息を吐いて笑った。


 買ってきた御菓子とジュースを、女もぱくぱくと食べた。
「あーほんと、久しぶりー」
「ねー」
 子供と一緒に笑う女の顔は、改めて見るとかなり若かった。
「もしかして、あたしとあんまり変わらない……かも」
「あら、お幾つです?」
 結論としては、流石に川堀よりも年上ではあったが、上の子供が産まれたの
は、今の川堀よりも若い頃である、ということらしかった。
「…………はー」
「何を溜息ついてるんですか」
 抱き上げているうちにぐっすり寝付いた赤ん坊をそっとソファの上に寝かせ、
次の赤ん坊を抱き上げてやりながら女は笑う。
「まだまだでしょ。貴女の年なら」
「……ま、まだまだ、なんでしょうか……」

 なんてことの無い会話を、真帆は黙って聞いた。

「あ、それと、今度一度、ちゃんとしたもの食べに行きたいですねー」
「ちゃんとしたもの?」
「そう。ちゃんとしたパスタとか定食とか」
「……なんか差が大きい」
「そういう、お昼に食べられそうなものを食べたいんです」
「あ、なるほど」

 話しながら、女は次々と赤ん坊を抱き上げてゆく。散々泣いた赤ん坊達は、
ある意味あっけないほどすぐに寝付いた。

「……もう少し、このままにしておいて貰っていいですか」
 医師が居なくなった家の中のあちこちから、タオルなどを集めて赤ん坊の上
にかけてやる。うにうにと動く赤ん坊達をぽんぽん、と、軽く叩いてやりなが
ら、女は不意にそう言った。
「それは……大丈夫だと思いますけど」
「それなら、このまま、もう少し……せめて、あの男達がどうなるか判るまで、
ここに居ることにしたいと思います」
 どうせ、と、女は苦笑した。
「ここの医師は不気味で何をするか判らないって、もうご近所の噂になってる
んですから、居なくなってここが多少お化け屋敷になっても、皆そんなに不思
議がりませんよ」
「…………お化け屋敷って」
「いえ、赤ん坊の声くらいは聞こえちゃうと思うんで」
「ああ……それくらいは」

 苦笑する二人の声を聞きながら、真帆はがっくりと肩を落とした。

「……真帆さん?」
「あ……え?」
「大丈夫ですか?」
「あ、うん。ちょっと……赤ちゃんを抱っこしてたら背中が痛くなった」
 うんせ、と、背を伸ばすと、女はころころと笑い……そして、ふと表情を改
めた。

「貴女、ですね」
「え?」
「貴女が、解放して下さったんですね」
「解放っていうか……」
「この人は、幽霊を実体化させるんです」
 川堀の言葉に、女は目を丸くした。
「それは凄いわ」
「凄いというか……あんまり自覚はないんですけどね」

 自覚無しに、ただ自分から5mの範囲に入れば自然にそうなるのだ、と、も
ごもご説明した真帆に、女はやっぱりすごい、すごい、と連発した。

「……苦しかったんです」
「え」
「何ていうか……こう……うまく言えないけど、思いっきり捻じ曲げられたま
ま釘付けにされてた……みたいな」
 くるり、と、両手を奇怪な形に捻じ曲げて見せながら、女は言い、そして一
度深く頷いた。

「理屈はわかりませんけど、あたしもこの子達も、助かりました。ありがとう」
「…………いえ」

 ありがとう、と彼女は言うが、しかしまだこの世に未練も恨みも残っている
のは確かである。残っていないならそもそも彼女はここには居ない。
 それに。
「……赤ちゃん達も、そんな風に苦しかったんでしょうかね」
「多分。下手するともっと」

 だからこそ、この子供達は抱き上げられあやされ、そして寝かされてもここ
から消えることが無い、のだろう。

「…………わかりました。また、来ますけど」
「あの、私もまた来ますから……あの、その時にはお弁当でも持って」
 真帆の言葉に、女はころころと、嬉しげに笑った。
「はい。お待ちしてます」



 子供の手を引いた女が、車のところまで見送りに来る。しっかりと母親と手
を繋いだ子供は、嬉しそうに手を振った。
「またね」
「うん」
「今度は……おかし持ってくるね?」
「うん!」

 助手席にまわり、扉を開けて半ば崩れるように座り込む。やはり溜息混じり
に運転席に座った川堀が、エンジンをかけた。


「……今、何時?」
「もう5時です」
「じゃあ、今日はここまで?」
「ええ」
「……ごめんね、大したこと出来なくて」

 本当ならあの赤ちゃん達くらいは自由にしてあげたかった。結局3件のうち、
きちんとかたがついたのはお昼の墓直しくらいではないか。そう、思っての発
言だったのだが。

「そんなことないですよ!」
 川堀の言葉は力強かった。
「あたしだったら、最初の一件で今日終わってますもん。十分です。一日とし
ては」
「……そう?ほんとうに?」
「ほんとにほんとです」
「なら…………少し、良かった」

 肩が痛い。首のあたりがぎしぎしと音を立てるように凝っている。
 それより何より、あの赤ん坊達と女のことが……辛い。
 彼女達があの姿のまま、残っていることが…………辛い。



「お疲れ様です」
 ゆっくりとハンドルを回しながら、川堀がそう言った。



時系列
------
 2007年10月

解説
----
 理想通りには話が進まないのがお約束。
 ある意味、こういう「ぐだぐだ」な終了もありではないか、と。

*********************************************

 てなもんです。
 であであ。




 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31500/31586.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage