[KATARIBE 31580] [OM04N] 小説『狐の嫁入り』

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Date: Wed, 12 Mar 2008 00:13:12 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31580] [OM04N] 小説『狐の嫁入り』
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2008年03月12日:00時13分12秒
Sub:[OM04N]小説『狐の嫁入り』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ふきらんの以前書いた話を読んでいて、ふとこいつが出てきましたので。
ちょっと書いてみました。

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小説『狐の嫁入り』
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登場人物 
--------- 
  妙延尼(みょうえんに) 
   :綴る手の持ち主。鬼を祓う刺繍を綴ることが出来る。 
  お兼(おかね) 
   :妙延尼の乳母の子。非常にしっかり者で、ついでに怪力の持ち主。 
  秦時貞(はた・ときさだ)
   :鬼に懐疑的な陰陽師。厄介事の最後の行き場。
  すすき(−)
   :あやかし。むじな。妙延尼の作った頭巾を常に身に着けている。



本文
----

「あのやまに、ひとがはいらぬようには、できませぬか、妙延尼さま」
 唐突な問いに、妙延尼は首を傾げた。


 すすき、と名乗るあやかしは、未だにその姿を明らかに見せることはない。
無いがしかし、なんだかんだとあった挙句、余程に妙延尼に懐いたらしく、こ
うやって度々庵を訪ねてくる。秋には栗や木の実、春には山菜、その他何くれ
と無く持ってくる。この時も長く掘った芋を何本も持ってきて、妙延尼とお兼
に菓子でもてなされているところだった。米の粉を水で練ったものを茹で、甘
葛汁を煮詰めたものを少し絡めた菓子はお兼の得意で、それを縁側の影の辺り
でもぐもぐと嬉しそうに食べていたすすきは、ふいと顔を上げてそう言ったの
だ。
「あの山に?」
「あのやまにの、今きつねたちが、あつまっておるのじゃ」
「狐?」
 重湯を碗に注いで、縁側に差し出したお兼が、不審げに言った。
「お前、狐と仲が良いの?」
「……なかがよいというのでは、ないのだぞ」
 ぶす、とした声で答えたすすきの顔は、しかしその輪郭だけがはっきりと見
えるだけで、どのようなあやかしの手口なのか、その細かい表情は分からない。
その割に彼の表情は声からも、そしてその輪郭からも分かるのである。
「しかし、よめいりがでけないのは、かわいそうなのだぞ」
「嫁入り?」
「せっかく、よめとりのやまに、みなが、あつまっている、のに、そこにひと
がくるかもしれないのだぞ」
「……はぁ……」
 妙延尼は答えに困ったのか、溜息のような相槌を打ったが
「あ、もしかしたら」
 ぽん、と、お兼が手を打った。
「あの山に入る者を化かしては困らせたせいで、陰陽寮の式神に追い払われた
のは」
「それじゃそれじゃ!」
「そんなことがあったの?」
 ぽん、と、手を打ち合わせた厚みのある音と一緒に声をあげたのはすすき、
おやおやと目を丸くしたのは妙延尼である。しかし次の言葉を発したのは妙延
尼のほうが早かった。
「でも、入る人をまとめて化かしていては、確かに追っ払われますよ」
「そ、そうかの」
「ええ。人というものは、扉を閉められれば今まで入ろうとしなかった場所に
も入ろうとするものですからね……ねえ」
「ああ、そういうところはありますね」
 菓子の御代わり分を作って、酒精の娘に差し出しながらお兼は頷いた。嬉し
そうにもこもこ菓子を食べている酒娘の顎の下に皿を突きつけながら言葉を続
ける。
「あの山を通らなければ、都までとても遠回りになる人たちも居ますから、そ
れは確かに追い払われます」
 ううむ、と、すすきは短い腕を組んでうなる。少し考えてから、妙延尼はほ
んのりと笑った。
「すすき。その……狐達は、山の中、狩られるのが困るのでしょう?」
「そう、なのじゃ。こまる、のじゃ」
「では……もし、人が、一本の道を外れずずっと歩いてゆくなら、問題は無い
でしょう?」
「…………ふむ」
 妙延尼の作った頭巾を包む頭を、こくりと傾けてすすきは考え込んだが、し
かしその時間は決して長くなかった。
「それは、そうじゃ」
 頷いてから、すすきはぱっと頭を起こした。
「そ、それなら、妙延尼さまは、たすけてくれるか、の?」
 身を乗り出しても、その表情はとらえどころが無く、その顔立ちも良くは見
えない。しかし真っ直ぐにこちらを見ている気配の元に、妙延尼はにっこりと
笑った。
「そういうことなら、手伝えると思いますよ」

                 ***

「おや、この狩衣もですか」
「ああ……この袖口が」
「あ、本当だ。これはいけませぬね」

 すすきと庵の住人達が、頭を集めてああのこうのと考えてから数日後のこと
である。

「都に鬼でも出ましたか」
「生成りの鬼が出た、と、惟任が」
 頷いた時貞の言葉に、妙延尼は眉根をひそめた。
 その名前は、この狩衣を着ていた陰陽師の名前である。つまり、この袖口が
これほどほつれた理由は、その男自身が鬼に出会ったからなのだろう。
「……それは、哀れな」
 生成りというなら、それはかつては人であった者であろう。
 鬼になる身が、幸福であった筈もない。

「ところで、妙延尼殿」
 その声が、思考に沈みかけた妙延尼の意識を元に戻した。
「なんでしょう?」
「最近、あの山のことをお聞きになってはいませんか」
「……は?」

 時貞が示した山は、『狐の嫁入りの山』である。皆で考え合わせたことが、
裏目に出たろうか、と、一瞬妙延尼は肩に力を入れたものだが。

「何でも、あの山を夕方通り抜けた者が驚いたそうです。少しずつ薄闇の増す
中、道が淡く光って見えて、迷うことがなかったそうで」
「まあ」

 要は、道から外れることなく、そのまま山を越えてくれればよい。従って、
『道から外れず、山の入り口から出口まで進む』為の呪いを、道に沿って貼り
付けるよう、すすきに呪符を渡したのだが。

「それはこの季節……ようございましたね」

 いよいよ秋が深まり、冬となる。日が落ちるのも早まるから、そうやって道
が光って見えるのならば……妙延尼としては意図して呪符(布に刺繍をしたも
の)をこさえたわけではないが……それはそれで役に立っていると言えそうだ。

「まあ、良かったと言えますか」
 少し肩をすくめるようにして時貞は言った。
「ただ」
「ただ?」
「道から逸れることも、また難しくなったようですが」
「…………はぁ」

 まあ、もともと狙ったのはそちらの効果であるから、それは仕方が無い。

「冬の間はともかく、春になってもそのようだと、山菜を取るにも苦労かとは
思いますがね」
「それは、大丈夫ではありませんか?」
 
 一応、嫁取りが終わったら呪符を回収する、とすすきは言うが、そこらは妙
延尼もお兼もあてにはしていない。回収しないほうが、あの山に住まうあやか
しにとっては余程安全なのだ。
 その代わり、妙延尼は呪符を荒い目の布で作った。一冬越せばぼろぼろにな
り、その効果も減る、と踏んでのことである。

「冬の雪も、風も、そのようなあやかしを清めるものと思いますもの。大丈夫
でございましょう」
「……成程」

 切れ長の目を、尚更に細めて時貞が頷く。
 異形は見えないくせに、こういうところの勘はいやになるほど鋭いことは、
流石によく知っているのだが。

(黙って騙されていて下さると、ほんに良いのに)

 小さく息を吐いた妙延尼に気が付いたかどうか、時貞は重湯を一口飲んだ。

「まあ、山を越える者達は、出来ればこのままであって欲しいと思っているよ
うです」
「それは……」
「ようございましたね」
 甘葛の汁で甘みをつけた団子を出す、というよりも突きつけながら、お兼が
妙延尼の言葉を横から受け継ぐ。さあ文句があるか、どうだ、と、言外に告げ
る勢いの言葉に、時貞は少し笑った。
「全く」

 そこで、時貞は黙る。
 お兼も一つ頷いて黙る。
 庵からよく見える山を見やって、妙延尼は……一つ大きく息を吐いた。


解説
----
『狐退治』の数日後の話。どうして狐が人払いをしようとしたかといいますと……

*************************

 てなもんです。
 問題等ありましたら、がすがす書き直しお願いします>ふきらん

 であであ。
 
 


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