[KATARIBE 31578] [HA06N] 小説『零課仮勤務・5』

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Date: Mon, 10 Mar 2008 00:25:22 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31578] [HA06N] 小説『零課仮勤務・5』
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2008年03月10日:00時25分21秒
Sub:[HA06N]小説『零課仮勤務・5』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
半年遅れていますが、順調にまだまだ遅れます。
……居直った。

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小説『零課仮勤務・5』
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登場人物
--------
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
 川堀ひとみ(かわほり・−)
     :吹利県警婦警さん。22歳独身彼氏なし。サイコメトリの異能者。

本文
----

 ゆらゆらと。
 時折空気が揺らぐように見える。
 ゆらゆらと……静かに。


 玄関を入った時から、子供の様子は変だった。
 いや、考えてみれば変でもないのかもしれない。何をしたかは具体的にはわ
からないが、文字通り『わかりたくも無い』ことを、この医師にされたのだろ
うから。
それにしても。

「……大丈夫?おいで?」
 手を伸ばしてまだパンを掴んでいた手に触れる。それでようやく子供は少し
安心したような顔になって部屋の中に入ってきた。
「にしても……」
 川堀が顔をしかめて子供達を見やった。

「……どうしましょう、この子達」
「ほんとにね」

 赤ん坊は6人。
 子供が1人。

「ジュース飲む?」
 医師は部屋の隅に、両手両足を拘束されたまま転がっている。そちらをあか
らさまに見ないように振舞いながら、子供はこくり、と頷いた。
「はい……っとと、どうぞ」
 片手で赤ん坊のうちの一人を抱っこしながら、もう片手で紙パックを持ち上
げる。注いだジュースを子供は、ぐいっと飲み込んだ。

 本当ならば、捕らえた男を県警に連れてゆくべきである。そしてこの子供達
を連れてゆく義務は、川堀には無い。
「川堀さん、先に帰る?」
「いえ」
 しかし彼女はきっぱりと答える。
「私は、真帆さんと行動を一緒にすることになってますから」
「……にしても」
 捕まえた男がこのままでいるとは限らないのではないか、真帆はそう思った
のだが。
「この子達をそのまま置いていったら……そりゃ、今まで見たいに『障壁』と
しては戻らないかもしれませんけど、ここが幽霊スポットになるばかりです」
 そう言われると確かにその通りかもしれない。
「思う存分、やりたいことをやって下さい」
 そう言われて、返って真帆は頭を抱えた。

 のてのてと、ようやく泣き止んだ赤ん坊達はあちこちを這いずり回っている。
見たところ7ヶ月から8ヶ月、そろそろ立ち上がりそうな子も居る。
「……ひどいね」
「え」
 川堀のほうはあちこち写真を撮りながら、書類等を捜している。そのせいか
返事は半ばあやふやなものだった。
「この子達。普通に堕胎できる時期を過ぎて、無理に堕胎したんだわ」
「え」
 今度ははっきりと、川堀は真帆のほうを見た。
「どういう意味ですか?」

 以前、相羽のところに娘が戻ってきた時。
 彼女は、元々は『水子』であったという。けれども真帆の手元で、赤ん坊は
大体6,7ヶ月、少なくとも『生後』の姿で現れた。
「生きている時の元気な姿」で現れる場合、どうやら水子たちは、胎内で過ご
した日数だけ生まれてから育った姿で、この世に現れるらしい。

「8ヶ月や……この子なんてもうすぐ歩くくらいだよ」
「普通に……生まれますね」
「下手すると、そういうことかもね」

 どうせお湯なんてなさそうだから、と、真帆が買い込んできた乳児用のお茶
やドリンクを飲んで、とりあえず赤ん坊達はおなかが一杯になったらしい。毛
の長い絨毯をえい、とつまみ、引っ張った毛を口に入れかけたのを見て、真帆
は慌てて取り上げた。
「はいはい、そういうの食べない……はい泣かない泣かない」
 口を大きく開けて、さあ泣こう、の状態になっていた子供は、抱き上げられ
て、そのまま笑い出した。

「ねえ、ぼく」
 笑っている赤ん坊をとんとん、と揺すりながら真帆は一人だけ、座り込んで
いた子供に声をかけた。びく、と顔を上げた子供に、出来るだけゆったりとし
た声で話しかける。
「ぼくは……ここに、誰と一緒に来たの?」
「………………おかーしゃんと」
「おかあさん?」
 こく、と、子供は頷いた。
「おかあさんと来て……どうしたの?」
「おかーしゃん、ね、びょうきだからなおいて、ってね、いたいけど、なおる
ねってね、で……で」
 子供はゆるゆると顔を動かして、今まで真帆が気が付いてなかった扉のほう
を見た
「あそこにおかーしゃんはいってって……」
「そして?」
「そいだら、ずーっとおかあしゃんこなくて、おかあしゃんどこっていったら
その、その」
 段々子供の顔がひきつってくる。
「……おじちゃんが、おかーしゃんはここだよっていって」
 子供はそこで、ぷつん、と言葉を止め……そして破裂するような勢いで泣き
出した。

「ごめん。おばちゃんが悪かった……ほんっとごめん」
 驚いたのか釣られたのか、一緒に赤ん坊達もわんわんと泣き出す。気を失っ
ていた男がその騒ぎで目を覚まし、それで子供が尚更怯え……結局川堀が、ご
ん、と医師を当て落として、当座の騒ぎを収めた。
「……ごめんね」
「いえ……まあ、怪我にはなってませんから」
 でもひみつだよ、と、川堀は子供に、少し大仰な身振りと共に言い……そこ
でやっと子供は少し笑った。
「でも、そうすると、お母さんもここらに居ていい筈なんだけど」
「もしそうだったら凄く助かるんですけど」

 無論、亡くなった人の発言に、何かしらの公的な意味があるわけではない。
しかし、彼らの言葉を元に証拠を探すのは、それらの発言無しに探すよりも相
当効率がいいのだ。
「お母さん、どこに居るか判る?」
「…………わかんない、おかぁしゃん……」
 くちの両端がぐっと下がり、そのままへの字になる。ぼろぼろと泣き出した
子供を慌てて抱きかかえながら、真帆は困ったように周りを見回した。
「ね、ね……そしたらちょっと、周りを見てこようか?おばちゃん一緒に行く
から、おかあさん居たら教えて?」
「……うん……」
 まだ目をこすりながら頷いた子供を抱きかかえて、真帆は、玄関に向かう。
重い扉を開こうとした、その時に。

「……っ」
 扉が、向こうから開く。
 引き開けられた扉の向こうから、細い白い手が差し伸べられる。
「真帆さん、どうしましたっ!」
 気配に気が付いたのか、後ろから川堀が声をかける。その声を、真帆は半ば
聞き流していた。
 何故なら。
「おかあしゃん!!」
 高く、泣き叫ぶような声を放った子供が、一杯に手を伸ばしてその手に縋り
付いていたから。


 目を覚ました医師を、今度は川堀も真帆も『落とそう』とはしなかった。

「……て、手違いだったんだ、わざとじゃなかったんだ」
 言い募る男を、女は片手に赤ん坊を、片手に子供を抱きかかえながら聞いて
いる。白い顔に浮かぶ表情は揺らぎもせず……そのことが余計に、彼女の怒り
を第三者の真帆達にも悟らせることとなっていた。
「生まれそうだから助けてくれって言われて……助けようとしたよ!この子は
堕ろせって言われてないんだから。助けてくれってその女が来るから……!」
「ということは、この方と赤ちゃんが亡くなったのは医療事故、なんですか?」
 やはり冷静な口調で川堀が問い、男が一瞬顔を引きつらせる。
「……それは」
 言いかけた男の言葉を引き取って、女が静かに口を開いた。
「この子は、そう。だけどあたしは違ったわ。助けようと思えば助けられたわ」
 ふぅ、と、女は口元を捻じ曲げた。上に釣りあがった口の端は、けれども笑
いと言うには程遠い何かを表している。
「面倒だ、誰も知らない、身寄りも無い……って……言ったわね?」
「ち、ち、違う違う!!」
 医師はがくがくと震えながら、手を……手錠の許す限りの範囲で……振った。
「俺じゃない!俺じゃなくて……術師だ!」
「術師?」
「お、俺はね……普通、の……普通の産婦人科なんだよ!そりゃ、非合法なこ
ともしたよ。だけどそれは、そういう連中が居るからだよ!頼まれるからだよ!」
 居直ったのか、男はどんどんと言い募る。
「頼むのはこいつらなんだ。俺じゃないんだ……そ、そりゃだから、水子も居
るさ。ここに溜まるさ……そしたら、そいつが……」
 薄汚れた男の顔が、青褪める。本当に怖い、というように。
「……この水子を使ったら、封印が出来る、と。……そいつがこの人の子が死
んだのを見て言ったんだ。『この女と子供も封印に組み込む』って!」
「…………わかりました」
 す、と、川堀は立ち上がった。
「相手については、後でお聞きします」
 言いながら、ポケットから携帯を取り出す。
「……すみません、川堀です。一名、より詳細な質問をする必要がありますが、
ここでは危険です。できれば……あ、はい!」
 何度かうんうん、と、頷く。
「お願いします。はい」
 一方的な(電話の向こうの声が聞こえないのだから仕方ない)会話の後に、
川堀は一つ息を吐いて真帆のほうを見た。
「あと10分ほどしたら……この人を護送していってくれるそうです。それま
では」
「ええ……守らないといけないのね」
 女が首を傾げる。それに真帆は小さく息を吸うと、告げた。
「貴女にはとても不本意だと思います。でも……この男をここで問い詰めると、
多分、その術師がこの男を消す可能性はあります」
「この男も悪いですけど、その術師のほうが……だから」
「……わかりますよ」
 言い募る二人に、ちょっと手をかざすようにして、女は答えた。うっすらと
苦笑を浮かべて続ける。
「ええ……判りますよ。大丈夫。あたしたちもこの子達も」
「すみません……」
「いえ。じゃあ、せいぜい」
 ふわ、と、女は笑った。
 その笑みに、医師はがたがたと震えた。
「守ってさし上げますよ……せんせい」


 援軍は本当に十分で来た。
「川堀!」
「あ、豆し……和久先輩、こちらです!」
 扉を開けてやってきた援軍は、真帆を見ると、一瞬、ぎくり、と肩を揺らが
せた。
「あ。援軍って……本宮君だったんだ」
「どうも」
 何となく、二人して頭を下げてみたりする。
「それで……どちらですか」
「ええ、こちらの……この男」
 一緒に玄関から部屋へと引き上げる。相変わらず柱にくくりつけられたまま
の医師の横に、女が黙って座り、身じろぎもせずに医師を見ている。
「……判りました。で、川堀。他には」
「あ、はい、こちらを」
 いつの間に集めたのか、川堀は書類の束と、同時にカメラを渡している。
「保護の必要な理由は?」
「この子達を封印にした術師が居るとのこと。これ以上尋ねると、どんなトラッ
プがあるか判りませんでしたので」
「確かに」
 ぴしぴしと、豆柴……もとい和久は質問をし、川堀は答えてゆく。ああ、こ
の人もしっかり先輩なんだなあ、と、真帆はどこかしら呑気に考えていたもの
だが。
「それで、この子供達は」
「あ、封印に使われていた子みたい」
 えらいはきはきとした声をかけられて、真帆もびっくりして答えたのだが、
「あ……いえ、すみません、川堀に尋ねた積りだったんですが」
「あ、あ、あの……すみません」
「いえ、あたしが答えちゃったのが悪いのかな、この場合……」
「そういうことじゃないんですが」

 何となく三人三様、わたわた、とした挙句……一度咳払いして、和久が改め
て声を発した。

「……真帆さん」
「はい?」
「この子供達が、皆?」
「そう、みたい」
 そうですか、と、声は口の中で半ば消えた。
 ああ、そういえば、この人のところの子供達も、この子達と大差ない年齢だっ
たな、と、真帆はぼんやり思う。
「……それで、この子達をどうしますか?」
「もう少し、付き合って……このままだと、少しまずいかな、って」
 どうまずいか、は、口にはしなかったが、その内心は和久にもよく判ったら
しかった。
「判りました。じゃ、川堀」
「はい」
 必要最低限の言葉が、けれども素っ気無いものではなく、本当にそれで「必
要十分」なのだ、と判る響き。
 諦めていたのか、それでも保護という言葉に少しは安心したのか、医師は大
して逆らうことは無かった。あちこち拘束されたまま、黙って玄関から出てゆ
くのを見つつ、真帆はふと、口を開いた。
「……ねえ」
 え、と、和久と医師とが真帆のほうを見る。
「ねえ。話すべきことは話してね。じゃないと彼女達があたしについてきちゃ
うから。あなたのところにまで」
 目を見開いた男に、女はにっこりと笑うと頷く。腕の中の赤ん坊もまた、きゃ
きゃ、と小さな声を立てた。
「あなたがちゃんと協力してくれないと、この人達だって……ねえ」
「ついてゆきたいわけではありませんのに、ね」
 二つの目を、こぼれそうなくらいに見張った男を、和久がぐい、と引っ張っ
て歩き出させる。その足元が格段におぼつかなげに見えたのは、真帆の目のせ
いでは決してなかったことと思われる。

時系列
------
 2007年10月

解説
----
 午後の案件続き。というか午後はここでつぶれる予定。
 子供達がどうなるか……

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 てなわけで。
 であであ。
 
 



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