[KATARIBE 31542] [HA06N] 小説『色仕掛けの食卓・2』

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Date: Sun, 17 Feb 2008 01:58:01 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31542] [HA06N] 小説『色仕掛けの食卓・2』
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2008年02月17日:01時58分01秒
Sub:[HA06N]小説『色仕掛けの食卓・2』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
なんかこう、話というより、ログにてけとにたらたら文章をつけただけになってしまいましたが、
根性が無いので今回はこういうことで(滅)

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小説『色仕掛けの食卓・2』
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登場人物
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 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :ヤク避け相羽の異名を持つ刑事。嫁にはダダ甘だったりする。

本文
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 その夜から、下準備をしておいた。
 冷凍しておいた肉(実はこれを買ってしまったので、どうしたらいいか、と
考え込んでいたのもある)を、食器を洗いながら解凍し、そして葱と生姜と一
緒に煮る。
 一晩置いて、浮かんだ油を根こそぎ取って。
 そして味付けをして……って、結局何だか一日がかりで作ってた気がする。


『今から、半時間くらいで帰るから』
「あ、はい」
 電話を切ってから、急いで着替える。黒いしっかりした生地のワンピースに、
白のエプロン。袖のところをしっかりと止めて。
「……きゅ?」
「ああ、今日はね、特別」
 それでも不思議そうに、縹は見上げてくる。
「……変?」
「きゅぅぅっ!」
 ぶんぶん、と、首を横に振ってくれるあたり、有難いことだな、と思ったり、
でもやっぱり変なのかもなと思ったり。
 ヘッドドレスをしっかりと結んだところで、玄関の扉が開いた。

          **

「うん、これしつこいかもだけど、でも脂身も一緒に煮ないと美味しくないか
ら……」
 お皿に豚の角煮を一つ取って、まず脂身を箸でへずる。残りの部分を一口大
に箸で切って。
「こうやったら、少し食べやすいよね……はい」
 箸でつまんで差し出すと、尚吾さんはぱくり、と食べた。
 何だか凄く嬉しそうな顔で、もぐもぐ噛んでいる。
「……おいしい?」
 どう誤魔化そうと、この人の苦手な部類に入るんじゃないかと思う。出来る
だけ味を調えてみた積りなんだけど。
 だけど。
「うん、美味しい」 
 嬉しそうにこちらを見ながら……本当に誤魔化し無しの顔で言っているのが
判るから。
 それが嬉しい。こんなに嬉しいかなって自分でも思うくらい嬉しい。
「ごめんね、あたし一口の量とか適当だから、多すぎたりしたら言ってね」 
「大丈夫、もう一口」 
「うん……はい、どーぞ」 
 食べやすいように、汁が落ちないように、きっちりと切って。
 口元に差し出すと、また尚吾さんはぱくり、と食べた。

 
 考えてみたら結構初めから、この人のご飯を作ってたなと思う。美味しい時
は美味しいというし、ちょっとここが、という時には結構はっきり言ってくれ
て、だから反対に安心してご飯を作ることが出来たように思う。
 その人が、今は苦手な料理を食べている。それも嬉しそうに。
 ……何だろう。なんか本当に嬉しい。
 すごく、すごく嬉しい。

「大丈夫?しつこくない?」 
「うん、平気だよ」 
 表情に嘘が無い。
 この人は絶対に嘘を言わない。
「……良かった」
 ほっとして、ふと気がついた。
 口元に、少しだけど脂がついてる。
「あ、ちょっとごめん」
「ん?」
 手近のティッシュを取って、口元を拭く。ぽんぽん、と軽く拭くと、すぐに
汚れは取れた。
 だけど……
「ね……無理して美味しいって言ってない?」 
 冷えたピザなんて、食べられたもんじゃないって……言っていた覚えがある。
あぶらっこいって点で言えば、絶対これ、負けてないと思うのに。
「ううん、ちゃんと美味しいよ」 
 笑っている顔が、何だか子供みたいだった。
 本当に嬉しそうに食べている、その表情がとてもとても嬉しくて。
 莫迦みたいだけど……涙ぐむほど嬉しかったから。
 肩に手を置いて、身をかがめる。少し驚いた顔の、頬に唇で触れて。
「……よかった」 
 
 そりゃ、別に、毎日のご飯を作る為だけに結婚したとは思ってないけど、で
も、自分でこの人の役に立ってる、と、胸張って言えることの一つだと思うか
ら。
 苦手なものを喜んで食べてくれるって、本当にこんなに嬉しいんだ。

「……嬉しいよ」 
 ふわ、と、手が頬に触れた。
 手を握ると、骨組みのしっかりとした手と指で……なのにふんわりと触れる。
 何度も何度も……頬を撫でる手。
「…………え、ええっとね、じゃ……これもどうぞ」 
 頭に血が昇りそうになって、慌ててお皿のほうに意識を戻す。お肉ばっかじゃ
何だから、次にはチンゲンサイのお浸しを一口分つまんで。
「……ん、食べる」 
「はい」
 唇の近くに持ってゆくと、そのまま口が開いて、お浸しをするりと飲み込ん
だ。


 鳥が、雛にえさをやるみたいに……って言うとものすごく尚吾さんに失礼な
話なんだけど、何だかそんな気がして。
 一口一口、食べてくれるのが嬉しくて。
 ことさらにこまめに、口元に運んでいた……ら。

「きゅう」
 ちょんちょん、とつつくから振り返ったら。
「……なあに?」
 あーんと開いた口を、縹が小さな指でえいえい、と示している。
「ちゃんと一人で食べられるでしょ」 
「きゅーーっ」
 ちたぱたと、短い手足を振り回して縹は抗議してくる。
「あのね……ってこらぁ」
 つくつくと頭をつっつくのは……これはペロとチロだな。
「あのね、尚吾さんはね、嫌いなものを頑張って食べてるからなの」 
 えい、と、つついている二匹を手で軽く囲って縹の横に移動させる。
「縹は、ちゃんと平気で食べられるでしょ」 
 と言うと、むーとふくれて黙るわけだけど。
「ペロもチロも同じ。ちゃんと一人で食べなさい」 
 ぷーっと膨れたベタ達は、そのまま鰭をぱたぱたしている。

 まあ、確かに……尚吾さんだって本当は、自分で食べるし、そんな本当に全
く口をつけないかっていうとそういうことはしなかったかなあ、と思う、と。
(……もしかしたらすっごく恥ずかしいことやってるのかな、今)
 思い当たって……うわあっとなりかけた、時に。
「真帆」
「あ、はい」
「ご飯くれる?」
「あ、うん」
 慌ててお茶碗をとって、ご飯を一口分、何度か箸で押さえて固めてつまむ。
 落とさないように手を添えてそっと口元まで運ぶと、また尚吾さんは一口で
食べた。

          **

 いつもより五割増しの時間をかけて、夕食が終わる。
「ごちそうさま」 
 両手を合わせて、一礼する仕草が、何だか子供みたいで。
 とにかく自分でも、おかしいなって思うくらい嬉しくて。
「……ありがと」 
 自分でも何でだろうって思うくらい嬉しかったから、思わず背中から手を伸
ばして抱きついた。
「ん、美味しかったよ」 
「良かったです、旦那様」 
 背中から、くくっと笑う気配だけが伝わってきた。

 自分でも変かもなあ、とは思う。のだけど。
(だって嬉しかったんだもの) 
 食卓を片付けて、新聞を読んでいる尚吾さんの横に行く。
 縹とベタ達は、その横で何だか神妙に新聞を覗き込んでる。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
 貰い物のとらやの羊羹を、少し厚めに切って、濃いお茶と一緒に渡す。
「やっぱり和菓子とお茶は合うね」
「うん」
 とらやのお菓子って、えらく甘い印象があるんだけど、こうやってお茶と一
緒に食べるとそうでもない。
 もくもく食べていると、何か急に、ぺたっとくっつかれた。
「え?」
 横を見ると、丁度湯飲みを置いた尚吾さんと目が合った。
「……旦那様、そやって、メイドにくっついてるのって……」 
 駄目ですわ、という言い方は、メイドとしてはどうなのかな、とか莫迦なこ
とを考えている間に、
「いいじゃん」 
 伸びた手が、頭を撫でる。
「……だ、旦那様だったらダメかもって」 
「いいの、その旦那様がいってるんだから」 
 食べ終わったお皿を、ひょい、ともう片方の手が受け取って、そのままテー
ブルに置いた。
「そういう意味じゃ……」
「ねえ」
 だからそうやって、何で耳元でこそっと言うのかなって……思ったら。
「また、作ってね」
「え?」
「今日みたいなご飯」
 あ、なんか。
 なんかすごくすごく嬉しい。
「……はい!」
 思わず頷いたら、やっぱり耳元で、くくっと笑う気配がした。



時系列
------
 2008年一月中旬

解説
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 1、2としたけどこれでおしまい。
 なんか先輩、この調子で油っこい料理を頼みそうだ。
*************************

 てなもんで。
 であであ。 
 



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