[KATARIBE 31539] [HA06N] 小説『色仕掛けの食卓・1』

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Date: Tue, 12 Feb 2008 00:50:00 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31539] [HA06N] 小説『色仕掛けの食卓・1』
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2008年02月12日:00時49分59秒
Sub:[HA06N]小説『色仕掛けの食卓・1』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
少しずつ話にしよう頑張ろうな状態です。

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小説『色仕掛けの食卓・1』
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登場人物
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 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :ヤク避け相羽の異名を持つ刑事。嫁にはダダ甘だったりする。

本文
----

 偏食、とまではいかないけれども、好き嫌いの結構はっきりしている相手に、
好きじゃないものを食べさせることは難しい。子供でもそうだろうのに、大人
ならば尚更。

「……尚吾さん」
「ん?」
 そりゃ、酢豚ってのは確かに味が濃いしあっさりとは遠いところにあるけど、
だから出来るだけ野菜を多くして、肉も出来るだけ揚げたあとしっかり油を切っ
てって……やった積りなんだけど。
 さっきから、お肉が全然減らないのは気のせいじゃないと思う。
「…………あーん」
 いや、子供相手じゃないって言われるの半分覚悟だったんだけど。 
「あーん」 
 そういうところ、この人は本当に素直なんだな、と改めて思いながら、ぽん、
とお肉を口に入れる。
「……ね、お肉とか苦手なのは知ってるけど……酢豚のお肉も食べようよ」

 確かに。
 年齢とか考えるとあっさり目は身体に良いし、基本はそれであたしも全く構
わないんだけど。
 尚吾さんは野菜大好きだし魚好きだし、和食が好物だし、とても身体に良い
食生活だなあ、と、これは本当にそう思うんだけど。
 でも。
「うん」 
 ぽん、と口に入れたお肉を食べながら、尚吾さんは頷くけど。
「やっぱりお肉苦手?」 
「……嫌いじゃないよ」 
「でも、お魚のほうが嬉しいよね……」 

 確かにあたしの料理のレパートリーが狭いから駄目なのかもしれないけど、
お魚で和風で、となると、どうしても作る料理が偏ってくる。魚でも揚げたり
すると苦手かな、と、躊躇していたら本当に……毎度煮魚か焼き魚になりそう
で、それだと本当に毎度同じじゃないか、とも思うんだけど。
 でも、それが一番好物ならそれでいいのかなとも思うし。
 ……でもたまーに、3ヶ月に一度くらい、豚の角煮とか作りたくなる。一緒
にほうれん草の茹でたのを添えて、残った煮汁で煮玉子作って……

「野菜と魚が好き、でも真帆が作るなら美味しい」 
 その言葉は、本当に嬉しいんだけど。
 でも、現実、目の前で、酢豚のお肉を微妙に避けてお野菜だけ食べられると、
やっぱりお肉は無理なのかな、でもこの人が美味しいって食べてくれるように
作れないものかな、と思うわけで。
「……尚吾さんが美味しいなって食べてくれないと、あたし作る理由ないから」 
 そういう意味では、無理にお肉を出そうとするのが間違えているのか、それ
とも多少はお肉とか食べてもらえるようにするのがいいのか……と。
 考えている、のに。
「ん、美味しいよ」 
 なんかその言葉には、絶対……あたしが作ったからって、点が甘くなってる
ところがあるに違いない、と思うんだな。
 それじゃ、意味が無い。
「……いや、そうじゃなくて、お魚とお肉の間の『美味しい』の差を埋めるに
は……」 
「……うーん、こう、しつこさ?とか」 
 一緒に作った中華風の茶碗蒸しをスプーンで掬い取りながら、尚吾さんは首
を傾げる。
「でも……あたしとか、豚の角煮とか結構一人の時に作ってたけど、多分尚吾
さんしつこいって食べないんじゃないかな」 

 かといって、あれは脂身を取った状態でやってもぱさぱさになるし(豚ヒレ
でやったらしみじみとぱさぱさだった)、せいぜい出来上がった角煮から脂身
を取って、野菜を多めによそって出す、とか……でもそれでもどう考えても、
魚よりかは脂っこいし、多分しつこいといえばしつこいし。

 後から思うに、どうしてそういう莫迦なことを思いつくかな、と言われても
仕方ないのだけれども。
 でも、実際……何だかもう、あちこちどうしていいか判らなくて。
 それにあくまで冗談の積り、だったんだけど。

「……あたしがメイド服着て、一口ごと、あーんと食べさせたら美味しいって
思ってもらえるのかなあ」 

 いや、丁度、あーんとやったら食べてくれたので、そのせいもあったんだと
思うんだけど。
 だけど。

「え!?」 
 だけど。
 だけど、流石にその……座ってたのが食卓に手をついて、乗り出すほどに本
気に取られるとは……ちょっと流石に思わなかった。
「やってくれるの!」 
「……へ?」 
 正直、あまりの勢いにこちらは……少々のけぞったのだけど。
「うん、俺なんだって食べるよ、トンカツでも油こってりラーメンでも」 
 何だかもう、きらきらした目で言われて……でも気がついた。
「…………てか、そいえば、トンカツとか嫌いなんだっけ」 

 そういえば、一緒にこの家に住み始めて、トンカツって作ったことないや。
 天ぷらが今のところ限度、それも帰ってくるのを見計らっての揚げたて限定。
確かにトンカツなんてそうそう毎週食べたいものじゃないし(それこそ3ヶ月
に一度以下で結構だ)、お肉を揚げたりしないのか、と言われたらそうじゃな
いし。鶏ささ身に梅を潰したのを塗って巻いて揚げて、くらいはお弁当用に作っ
てるから、トンカツを作りたいと積極的に思ったことはあまりないけど。
 あーでも、なんか考えてみたら、作ってみたくなってきた。

「よし!そしたらやってみよう!」 
「うん」 
「てか、そりゃ、毎日食べたいって思う必要はないとあたしも思うけど」 
 ある意味では、非常に健康的な嗜好の人に、非健康的なお料理を勧めている
形なのかな、とも……思わないではないけど。
「とんかつを年に一度くらい、美味しいなって食べられるよーになったらいい
なって思う」 

 こう……野菜炒めを作っても。
 野菜だけじゃない、そこにちょっとお肉を入れると……二人で食べてると、
どうもお肉がこちらに偏る傾向があるのは確かで。
 嫌いだから食べない、とは言わない。でも、そういうのを気にせずに食べて
もらえるようになりたいな、とも思う。
 
「うん、こう、しつこくなければ油ものでも食べれるし」 
 なんて考えてたら、尚吾さんのほうは何だか妙に嬉しそうに頷いている。
「じゃ、明日、やってみるね」 
「うん、楽しみにしてる」 
「ちゃんとメイド服着て、ちゃんと食べさせてあげるから」 
「うん!」

 嬉しそうに……本当に嬉しそうに頷くのを見ていると。
 もしかしてこういうの色仕掛けというのかな、とは少し思ったけど、それに
してはメイド服着ようが何しようが、あたしに色気があるわけじゃなし。

「スープ、お代わりある?」
「あ、うん」

 とりあえず、凄く嬉しそうな顔で尚吾さんがご飯を食べてるから。
 まあ……いいのかな。
 いいことにしておいて、いいのかな。


時系列
------
 2008年一月中旬

解説
----
 真帆、色仕掛けにて先輩の偏食を治そうとする……と言って、
まあ基本は間違いが無いかもしれない。
*************************

 てなもんで。
 ただ、色仕掛けとか書いてますけどね。
 真帆がメイド服を着ても、それって本気でメイドじゃん、って感じで、
全然色気が無いのはお約束なんですが。

 てなわけで、ではでは。
 
 


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