[KATARIBE 31538] [HA06N] 小説『零課仮勤務・3』

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Date: Mon, 11 Feb 2008 00:51:08 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31538] [HA06N] 小説『零課仮勤務・3』
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2008年02月11日:00時51分08秒
Sub:[HA06N]小説『零課仮勤務・3』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
少しですが続きです。

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小説『零課仮勤務・3』
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登場人物
--------
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
 川堀ひとみ(かわほり・−)
     :吹利県警婦警さん。22歳独身彼氏なし。サイコメトリの異能者。

本文
----
 どこかしょんぼりと、二人は歩いてゆく。自動車までの道を、どちらも口を
つぐんだまま。
「あ、真帆さん、ちょっと待ってください。鍵、今開けますから」
「あ、はい」
 その言葉もどこかしら、しおしおとしたままである。

 加奈が消えた後、二人は島内亜紀子の家を訪ねた。不思議そうに二人を見た
少女は、話を聞いて数瞬考え込んだ後、すぐに部屋へと引っ込んで、またすぐ
ぬいぐるみを抱えて戻ってきた。
「これですけど」
 地味な顔立ちにやっぱり地味な色合いの服。ただ、その目だけは聡明な光を
帯びてこちらを見ていたのを、真帆は覚えている。
「この中、やっぱり何か入っているんですか」
 確認のように尋ねられて、一瞬川堀が言葉に詰まる。
「やっぱり、って?」
 代わりに問うた真帆に、亜紀子はひとつ頷くと、そっと手の中のぬいぐるみ
を撫でた。
「ちょっとだけ、身体の部分が硬かったんです。だから、何か入ってるのかな
って思いました」
「中を見ようとはしなかったの?」
 川堀の問いに、少女は少し笑って首を振った。
「坂口さんが言わないのに、私が何かしたら駄目だって思いましたから」
 印象としては全く異なるこの二人の少女がどうして親しくなったか、との問
いに、亜紀子はやっぱり苦笑しながら答えてくれた。
「どちらも、こういうの作るの好きなんです。坂口さんはぬいぐるみが得意で、
私はあみぐるみが好き。だから」
 だから、これを出来るだけ切らないで欲しい、そうしたら自分で直せるから。
その言葉に二人は頷いて、ぬいぐるみを預かってきた。
「……宜しくお願いします」
 ぺこり、と、頭を下げた少女の、首の白さが目に焼きつくようで、真帆は思
わず目をそらした。
 
 この子と同い年の少女が、あの路地で未だに立ち続けている。

「……島内さん」
「はい?」
「一度……」
 言いかけて真帆は言葉に詰まる。加奈という子が亡くなった、とされる場所
は、彼女の今居る場所とは異なる。
 それでも。
「一度、ある路地に行ってみてくれる?ここからね、少し……ええと」
「えっと、坂口さんが見つかったところから、二つ先の……薬局の角を曲がっ
たところの」
「あ、はい」
 不思議そうに少女は首を傾げたが、すぐにこくり、と頷いた。
「そうします」

            **

 考えてみれば、真帆の異能を使う相手は殆どが死者、それも納得せず現世に
留まっている面々なのだ。その死に様々な理不尽やいたみが伴うのは当たり前
なのかもしれない。
(……反対された筈だなあ)
 ふと思ってしまって、真帆は苦笑する。この程度でそんなことを思っていた
ら、流石に相羽に笑われそうな気がする。
「次は、どこ?」
「あ……次は、簡単、というか」
 信号は赤から青に変わる。アクセルを踏み込みながら、川堀は苦笑した。
「ちょっと、お寺……というか、お墓に行きますね」


 簡単、とはよく言った、と、真帆はこっそり苦笑した。
「ですからね。確かに私はもう亡くなっておりまして、この世の人達に直接文
句をいうわけにはいかない。それは判っておりますの。了解しておりますの」
 ほっそりと細い首、品良く纏められた白い髪、地味な、しかし如何にも高価
そうな着物と指に嵌った深い翠色の石の指輪。如何にも、『深窓の令嬢がその
まま大家の奥様になり、年を取った』という印象の老婦人は、しかしその容貌
に反して……というか容貌に沿ってというべきか……くどくどと愚痴を言い募っ
ている。
「ですけれどもね。それならばそれで、この世の人々は少しは私達の眠りに気
を使って下さっても宜しいのではございません?全くもう……」

 早い話、古い墓の横を通り過ぎた人が、どうやら鞄をぶつけて墓石を少し歪
めたということらしいのだが。
「どういうことでございましょうねえ、ただ静かに眠っておるだけの者を、こ
のように叩き起こして豪も反省をなさらぬとは。全くもう最近の若い方々とい
うのは」

 一応、念の為……というか、その『若い方々』の為に言うと、確かに通りが
かりの女性が、墓石にぶつかって、石の位置を少しだけ変えたのは事実らしい。
(とは申しましても、その方も申し訳ない、と、すぐにこちらに知らせてくれ
ましたので)
 初老の僧は、困ったように言ったものだ。
(私達も……無論その方も手伝って下さって、ちゃんと元に戻した筈ですのに)

「それは確かに、直しては下さいましたよ。ええ、ぶつけた方もね……でもそ
れは最低の礼儀でしてよ?私の意見も聞かず、それにほら、ちゃんとここに苔
の為に線が出来ていましょう?それがずれているのがお分かり?」

「……ねえ、もしかして」
 とりあえず、きちんと今直しますから、一緒に石も綺麗にしますから、と、
バケツと雑巾を取りに行く途中で、真帆はこそこそと川堀に声をかける。
「あの人、生きてる時は相当の……鬼姑さんだった、とか?」
「一応、名家の奥様だったらしいですけど……息子さんがなかなか縁付かなかっ
たっていう噂ですから」
 川堀も小声で返す。
「……やっぱり相当、うるさかったのかもね」
「でしょうねえ」

 小一時間ほど愚痴を聞いて、墓石の位置を指示されながら(ああそこ、もう
少し右ね……いえ行き過ぎ。もう少し左、そこで止めて!……ああ遅い)正し
い位置に戻して、そして位置をきっちり決めたところで、ようやく彼女は頷い
た。
「ようございますわ。まあお手数をおかけして……でも時間もかかりましたの
ね」
 一言余計だよ、と、言いたかったものの、それを言えばあとどれだけ彼女が
喋るか判ったものではない。二人は黙って頷いた。
「さて、休みます。あとは宜しゅうに」
 言うだけ言うと、老婦人はしゅ、と、襟のあたりを指で整え、一度髪に手を
やって、そのまま消えた。
「……何か、もしかして、愚痴を聞けって奴だったのかしらね」
「多分、そんな感じでしょうね」
 はあ、と息を吐いて……二人は顔を見合わせて、笑った。



 近くの公園のベンチに座り、二人は昼食を取る。
「え、これいいんですか?」
「勿論」
「ほんとですか!?!」 
 うわあん嬉しい!と、ショートの髪を揺らして、川堀はお弁当に手を伸ばす。
「っても、たいしたものじゃないけど……」 
「だって、自炊なんてする時間ぜんっぜんなくて!いっつも簡単なコンビニ弁
当とかおにぎりとかばっかりでーー」 
「ああ、それわかる……っても、コンビニ弁当みたいに綺麗じゃないよ?」
「そんなの、比べるの変ですよ!」
 二人して、お弁当の蓋を開ける。
 入っているのは、定番の玉子焼きと煮物。茹でたブロッコリーにミニトマト。
それに。
「これは、何ですか?」
「れんこんをすりおろしてツナと混ぜて揚げたの」
「えー、れんこんってこんな感じになるんですか」
 初めてだ、嬉しいな、と、笑いながら、川堀はもくもく食べる。
「そんなに喜んでくれると、こちらのほうが嬉しいです」
「うれしいですよーー、だって相羽さんいつもお弁当おいしそうだーって評判
ですし」 
「…………へ?」
 真帆は一瞬無言になった。
「って、何でそんなことが評判になるの」
「だって、いつも絶対奥さんのお弁当で、おいしそうですねーっていうと、う
ん世界一うまいからって」 
 がく、と、真帆はのめった。
「……あのひとわ……」
 はあ、と、溜息をついて玉子焼きをつまみあげる。それを見ていた川堀が、
ぽつり、と呟いた。
 
「……そこまで言ってもらえるのって、いいなぁ」 
「い、いや、そうじゃなくって!」 
「そうじゃなくて、何でしょう?」
「ほら……一応、煮物系とか魚が好きな人だし、味付けも一応一緒に居たら何
が好きか判るし……だからあの人の舌に合うってだけのことだから……」 
 結構偏食気味の相手の好みにあわせてご飯を作る。もともと最初に親しくなっ
たきっかけの一つが、食事を作る、ということだったのだ。それなりに相手の
好みについては学んでいる。
「でも。そーやって、好みに合わせて色々献立考えてくれる人……いいな」
 ブロッコリーをつまんでいる図柄にしては、あまりに……何というか思索的
な表情だった。
「だって……やっぱり相手の喜ぶもの食べさせたいし」 
 お茶を手渡しながら、真帆は首を傾げた。
「それに……こういうと男女平等って言われちゃうかもだけど、献立考えるのっ
て、川堀さんのほーじゃないかな、誰かと付き合ったら」 
「……そーですよね、でも……あたしも、好きな人だったら、献立考えるのも
楽しい……はず」 
 ぱく、と、ブロッコリーを口に放り込んで。
「……いれば、なぁ」 
 溜息混じりに呟いた、ところで。
「うん、楽しいよ」 
 あっさりとした応え、なのだが。
「……(へぶっ)」 
 ボディに一撃を食らった、的な顔になった川堀に気づいていないのか、真帆
はご飯を食べながら呑気に言う。
「…………ですよね」 
「これはそう言えば喜んで食べてたな、とか、なんかこれはちょっと箸が鈍っ
てたけど今度はどうかな、とか」 
 実際のところ、相羽は結構はっきりと好みを言う。もう少し味が濃いほうが
いい、塩気が薄いほうがいい、等。単に好き嫌いではなく、どうしたら好きに
なるか、まで丁寧に言うから、真帆もやりやすいのだが。
「よーし、じゃあこうやったらいいかな、とか……楽しいよ」 

 さて。
 こういう……何というか家庭持ちの発言というのは、独り者にとっては時に
惚気にもなる可能性はある。
 というかどうやらこの場合、川堀にとっては惚気の連続攻撃に当たったよう
で。
「……い、いいなぁ……」 
 ナチュラルフルボッコ状態の彼女が、息絶え絶えにぼそり、と呟いたのに、 
「いいなあってか……いつも一緒に居るからね」
 最後の一言は相当の一撃となった模様であった。
「……川堀さん?」
 きょとん、と見やった真帆の横で、川堀はぱたぱたと手を揺らす。
「…………運命の人、あたしにもっあたしにもっ」 
「……運命の人?」
「あたしにもーっ」
 嘆かれても返答の仕様が無い。
 真帆は黙って玉子焼きを口に入れた。

時系列
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 2007年10月

解説
----
 間奏的に。二人目の幽霊とお弁当。

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 てなもんで。
 であであ。
 



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