[KATARIBE 31534] [OM04N] 小説『雪の夜』

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Date: Mon, 4 Feb 2008 23:52:32 +0900
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小説『雪の夜』
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本編
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 サクリ、と足を踏み出すたびに音がする。
 昼の間降っていた雪は既に止み、空には半月が浮かんでいた。雪は地面を覆
い尽くし、月の光を反射させて淡く白色に輝いている。
 通りを歩いていた烏守望次は不意に立ち止まると、息を一つ吐いた。
 彼は妻の屋敷に向かう途中であった。供は付けておらず一人である。
 周囲に人影はなく、何もかもがひっそりと静まりかえっている。
 彼はこめかみに手を当て何度か揉んだ。
「風邪を引いたかもしれんな」
 今朝から軽いものではあるが頭痛がしていたのだ。昨晩から急に冷え込んだ
ので、大方それが原因だろうと望次は思っていた。昼間は仕事に差し障りがあ
るほどではなかったが、今は少し気になる程度の痛みになっている。
 目の前に白くちらつくものが見えて、望次は空を見上げた。
「雪か」
 そう言って彼は顔を下げたが、すぐに顔を空に向けた。
 空には相変わらず月が浮かんでいる。星が光っているのも見える。雪を降ら
すような雲が空にかかっているようには思えなかった。
 だが、と彼は思う。おおよそ風に流されてここまでやってきたのだろう。雪
はゆっくりと望次の前で落ちていく。彼は手のひらを差し出して雪を受け止め
た。雪は手の上で少しの間留まっていたが、やがて小さな水滴を残してその姿
を消した。
 望次が再び歩き出そうとしたところで後ろの方からかすかに声が聞こえた。
足を一歩踏み出したところで動きを止めると、望次は振り返り、道の向こうを
じっと見つめた。
 明かりは持っていないが、月と雪のおかげで見るのにはそれほど困らない。
 やがて二人の子供の姿が目に入った。子供達は横に並んで走っている。
 こんな夜更けに子供だけとは、と望次は訝しんだ。彼は子供達が来た方を凝
視したが、他に誰かが彼らの後についているようには見えなかった。
「おっとう、行っちゃったよう」
「早く追いかけないと、怒られちゃうよう」
 子供達は望次を気に留めることもなく、彼の側を駆け抜けていった。すれ違
いざまに彼らの会話が耳に入った。望次はそのまま子供達の後ろ姿を目で追っ
ていたが、やがてその姿が見えなくなると腕組みをして彼らが来た方を見た。
 相変わらず人の気配はない。
「……ん?」
 望次はかすかな違和感を感じ首をひねった。
 地面にはまっさらな雪が積もっている。その中に彼が今まで付けた足跡が延
びている。そして、それ以外には何もない。
 そう。先ほど走っていった子供達の足跡がないのである。
 今降っている雪は粉雪で、できた足跡を覆い隠すほどの量は降っていない。
第一、それならば彼自身の足跡も消えてしまっているはずであった。
 先ほど見た子供達は幻であったのか? 彼はそう思ったが、すぐに首を振っ
た。幻にしてははっきりと気配を感じていたのだ。
 子供達は確かにいた。
 どういうことだ、と望次はしばらくその場で考えていたが、やがて苦笑いを
浮かべて軽く首を左右に振った。
「彼らが妖かしであれば何の不思議もない、か」
 彼の目は人が見ることのできない妖かしの姿を捉えることができた。その姿
が人とはかけ離れていれば一目で分かるが、そうでなければよく見ないと人と
区別が付けられない。子供達とすれ違ったのは一瞬だったので正しく判別でき
なかったのだろう。
 いつの間にか雪は止んでいた。
 望次は肩にかかった雪を手で払った。それから、頭にかかった雪を払うため
に頭を左右に振った。
 妻にこのことを聞かせたらなんと言うだろうか、と望次は思った。きっと
「どうして連れてきてくれなかったの」などと言うのだろう。そして、それを
聞いて彼は苦笑いを浮かべるのだ。そのことを考えて、既に苦笑いを浮かべな
がらその妻がいる屋敷へと向かっていった。

解説
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日常のひとこま。

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