[KATARIBE 31522] [HA06N] 小説『零課仮勤務・2』

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Date: Sun, 27 Jan 2008 01:16:55 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31522] [HA06N] 小説『零課仮勤務・2』
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2008年01月27日:01時16分54秒
Sub:[HA06N]小説『零課仮勤務・2』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
長いです(おい)
……つーか、加奈ちゃんがごねてごねて……

***********************************
小説『零課仮勤務・2』
=====================
登場人物
--------
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
 川堀ひとみ(かわほり・−)
     :吹利県警婦警さん。22歳独身彼氏なし。サイコメトリの異能者。
 坂口加奈(さかぐち・かな)
     :第一件目の幽霊。

本文
----

 まあ確かに、昔から、古い着物……特に女性が大切に着ていたそれには、着
ていた人の念が残る、などと言われることもあったし、そういう意味ではワン
ピースもその線上にあるのかもしれないが。

「……ワンピースを着たい、ねえ」
 半袖ミニスカートは、今の季節には少し寒そうである。真帆が貸したカーディ
ガンを、少女は嬉しそうに羽織って歩いている。
「ほら、あれ」
 少女……加奈、と名乗った……は、不意に声をあげた。
 小さなブティックである。硝子の向こうに三つのトルソーが並んでおり、三
枚のワンピースが着せ付けられている。見たところは決して派手ではない。ど
ちらかといえば少し素っ気無いような色と形の三枚のワンピースのうち、右端
にあったものを、加奈はしっかりと指差した。
「……なるほどねえ」
 灰褐色というのだろうか。柔らかそうな少し毛羽立ったような布地は、柔ら
かな襞を作って裾まで流れている。ただ地味にも、野暮ったくもなりそうな色
は、絶妙な配分で、どこかしら軽やかな印象さえ与えている。しかし。
「って、あれ、ワンピース?上に……ええと上着じゃないけど」
「違うってば。あれがワンピース。あの長さのワンピースを、今ならタイツと
かとあわせるの」
「……はあ」
「おばさん、そういうの知らないんでしょ」
「うん、もうすっかり疎い」
 こっくりと真帆が頷くと、あはは、と、加奈は笑った。
「でも、多分あれ、相当高いね」
「あ、判ってくれる?」
「それはあたしも判るわ」
 川堀の言葉に、真帆も頷く。デザインどうこうを置いても、材質が良い。そ
れにデザイン自体も、確かに相当短い、というのを除けば、何でも無いのに可
愛らしい。
「……ねえ、あれ、着たい、のよね?」
「うん」
「でも、買えないわよ?」
「……うん、それは判る」
 彼女が死んだその日、部活で学校に行った帰り道に、あのワンピースは飾ら
れたのだという。一目見て、加奈はどうしても欲しくなった、という。
(だから……だから、夏休みだったから、急いでどっかでアルバイト見つけよ
うって思ったの。アイス食べる積りだったけど、それもやめたの)
 そのアイスくらいなら何とかなる、とのことで、今、彼女はソフトクリーム
を食べている。ぺろり、と、口の傍についたクリームを舐め取ると、加奈は存
外素直に頷いた。
「あれ、あなたが居なくなったら、落ちちゃう……ってか、あたしから離れる
んでしょ」
「多分ね」
「それをおばさんが着るってわけには」
「……あれの下にスカート重ねるなら考えてもいいけど」
「うわあ、だっさー」
 こら、と、川堀が苦笑する。真帆が笑う。
「あなただって、あたしが着てるの見たくないでしょうに」
「それはそう」
 肩を竦めて笑ってから、加奈は真顔になった。
「だから、欲しいとは言わない。だけど着てみたいの」
「うん」
「それなら、出来るでしょ」
「そう、だね」
 こっくりと頷いた真帆に、川堀が少し驚いたような顔をした。
「どうするんですか?」
「うん……あ、じゃあ……今だけ加奈ちゃんは、あたしの従妹。そんで加奈ちゃ
んの従妹がやすこ。いい?」
「……へ?」
 川堀が首を傾げたが、加奈のほうは喜んで手を叩いた。
「それでいい!それでやろう!」


 つまり。
 試着が出来ればいいのである。
「どう、おねえちゃん」
 試着室のカーテンを開いて出てきた加奈に、そのワンピースは確かによく似
合っていた。
「ふむ……ちょっと、くるっと回ってみて」
「うん」
 かなり短い丈のワンピースだが、彼女が着ると、すらっとした体型に良く似
合っている。真帆の声に頷くと、加奈は嬉しそうにくるくると回った。
 スカートがふわり、と揺れる。
「あら、お似合いですよ」
 店員がすばやく寄ってくる。真帆はそうねえ、と、首を傾げた。
「うん、加奈ちゃんには似合うけど……やすこちゃんだと、ちょっと……加奈
ちゃんより背がかなり高いよね?」
「うーん」
「あの、そちらのお嬢さんに……じゃないんですか?」
 少し不思議そうな顔をした店員に、真帆はさらさらと説明してのけた。
 曰く、我々の従妹が今度誕生日なので、ワンピースをプレゼントしたいと思っ
て探している、でも秘密にしたいので、彼女に着せてみている、と。
「加奈ちゃんに大きかったら丁度いいかなって思ってたんだけど……」
「あら……サイズはこれだけですしねえ」
 実際のところ、加奈は決して小さくない。並んで歩くと真帆より少し高いく
らいである。
「じゃ、ちょっとこれは無理で……すみません、お手数かけて」
「いえいえ」
 まあ仕方ないわね、と言いたげな顔になった店員をちろっと見て、加奈はく
すりと笑って真帆を見た。
「ねーでも、おねーちゃん。あたしにこれプレゼント、とか駄目?」
 悪戯っ子のような、如何にも『隙あり』と言いそうな表情に、川堀は慌てて
止めようとしたが、真帆はくくっと笑った。
「なーにいってんの。あんたの誕生日はこの前終わったでしょ」
「えー」
「えーじゃありません。来年になったら、また別の服がいいって言うんだから」
「ちぇー」
 ほらほら、着替えて、と言われて、加奈も苦笑しながら試着室に戻った。



「ねえねえ、あっちのファミレス入ろうよ。あたしおなかすいちゃった」
 そんなことを言った彼女は、早速パスタを頼んでもぐもぐと食べている。
「じゃ、約束よね。質問に答えて」
「いいよ、何でも」
「録音してもいい?」
「いいよ……って声残るの?ねえねえ、あとで聞かせてよ」
 楽しそうに食べながら、加奈は答える。
「じゃ、まず……貴方は、坂口加奈さんね」
「うん」
「で、何であそこに居るの?」
「なんでって……動けないんだもん」
「だけど」
「見つかったのは別のとこって言いたいんでしょ?……そりゃそうだよ、運ば
れたんだもの」
「……ってことは、やっぱり事故じゃないんだ」
「事故って言ってるわけ?……ふーん」
「いえ、事故じゃないって判ってるわ。ただ、今、『どちらが』ってとこで二
人してなすりつけあってるから」
「……へーえ」
 実のところ、真帆にはかなりちんぷんかんぷんではある。それに川堀も加奈
も、これが『殺人事件』の話だとわからないように配慮しているのか、直接的
な言葉を避けている。だが、それでも、加奈がどうやら『自動車事故』と偽装
された形で殺されたこと、遺体を動かされたこと、今のところ二人の容疑者が
いる、ということくらいは真帆にもわかった。ただ、その二人のことは判らな
いし、判らないままでいいのかなあ、と、思った、矢先に。
「えっとね、実行したのは親父。でもやれって言ったのはババアのほう」
「……義理のお母さんね」
「あんなんババアだよ」
 け、と吐き出すように加奈は言い、フォークに巻きつけたパスタを、ぐい、
と口に押し込んだ。
「でも、お父さんが?貴方のことを凄く可愛がってたって、評判じゃない?」
「だってあの親父、あたしといっしょに寝てたもん」
 さらっと……あまりにさらっと言われたもので、真帆はその言葉の意味を捉
えるのに数秒かかってしまった。
「……え?」
「あたし、かーさんそっくりなんだわ。だから中学くらいから?そういうふー
になっちゃってさ。でも親父バカだからババアと結婚して……で」
 口の中のコーヒーが、ひどく苦くなったように感じて、真帆はカップをテー
ブルに戻した。
 川堀は淡々と、表情を変えずに質問を続けている。眉根に微かに寄った皺だ
けが、彼女の不快感を示しているようだった。
「見つかっちゃったみたい。だからババア、親父に言ったらしいよ。やらなかっ
たら全部ばらしてやるって……そりゃ親父、そうなったら破滅だもん」
 もぐもぐと、パスタを食べながら話す内容か、と……思うわけだが、しかし
加奈は平然としている。……否、そう見える。
「で、親父がやって、でも指示したのはババア」
 きゅ、と、川堀は口元を引き締めた。
「……でも、そういったことは一切見つかっていないのよ」
「そりゃあ、そんなのあたしも親父も秘密にしてたもの」
 当たり前じゃん、と言われて川堀は溜息をつき、パスタを食べ終わった加奈
は、デザートを追加で頼んだ。
「いいでしょ?頼んで」
「ええどうぞ……そうか、困ったなあ」
 確かに、幾ら録音したと言っても、文字通りの『死者の声』である。効き目
が無いことおびただしい。
「何か証拠があれば、いいんだけど」
「証拠?……あるよ」
「え?」
 しかしこの少女、さっきから平然としたまま爆弾を次々投下している。本当
に無関心なのか、それとも振りなのか……と考えかけて、真帆は肩を竦めた。
 本当に無関心なら、そもそも彼女はあそこに残ってはいるまい。
「多分お葬式に来てくれてると思う。あっこ……島内亜紀子」
「しま、うち……ちょっと待って」
 かさかさと川堀が、鞄の中から書類挟みを取り出した。
「あ、この子ね」

 ミニスカートにした制服。染めた髪。多分クラスの男子にももてたろう。少
し派手めの顔に、綺麗に薄化粧をしているのが、加奈である。
 その加奈に比べて、写真の少女は如何にも地味だった。大人しそうな少女は、
長い髪の毛を一本の三つあみにしている。化粧の気配もない彼女は正直なとこ
ろ、加奈が『証拠』を渡すような子には見えなかった。
「……親しかったの?」
「うーん、ちょっと違う」
 丁度運ばれてきたケーキを、加奈は嬉しそうに受け取ってから、うーんと考
え込んだ。
「親しい、んじゃなくて……何てんだろ。絶対大丈夫、って感じかな」
「大丈夫……」
「親しい親しくない、以前に、何か頼まれたら絶対に裏切らないって子?」
「そうそう、そんな感じ」
 加奈はぱちぱち、と手を叩いた。
「あの子のとこにね、あたしぬいぐるみ作ってあげたんだ。その中にメモリー
スティック入ってる」
「じゃ、その中に」
「うん」
「……判ったわ」

 うん、と大きく頷いてから、川堀は少々情けなさそうな顔になった。

「ねえ、これだけちゃんと証拠があるんなら、どうして早く言ってくれなかっ
たの?そしたら」
「……だってあのワンピース着たかったんだもん」
 きっぱり。
「あたしがそういうこと言ったら、あんたら絶対『有難う、助かったわ』で終
わりじゃん。二度と来ないよ?」
「…………」
「だけど、それじゃ、あなたをそんな風にした相手が、全くとがめられないま
まで終わるってことだよ?」
 真帆が指摘すると、加奈はきょとん、としていたが、不意に目をぱちぱちと
またたかせた。
「……あ、そっか」
 がっくり、と、川堀が肩を落とした。

             *

 その後、その通りでの自動車事故のこと、また犯罪のこと、そしてその原因
は全く彼女に無いこと、を確認したところで、三人はファミレスから出た。
「……あーあ、またあたしあそこに戻るのかー」
「どう、なのかなあ」
「ねえ、真帆さん、だっけ。あたしあなたとずーっと一緒に居ちゃ駄目?」
「……それは困るわね」
「ひっどい。犠牲者を見捨てるわけ?」
「だってそんなのいいよって一人に言ったら……どうなる?うち、居候で一杯
になっちゃうよ」
「……ちぇー」
 加奈は不機嫌な顔になった。
「でも、貴方の心残りが無くなったら……その時は多分、あそこから離れてゆ
けるんだと思うけど」
「……心残りあるよ。もう一杯あるよっ」
「じゃあ……仕方ない、のかなあ」
「仕方ないって……っ!」
 不意に加奈は立ち止まった。ぎっと真帆を睨む。
「仕方ないじゃないよ!何であたしがこんな目にあうのよ!悪いのあたしなの?
違うじゃんね、親父とババアじゃんね?なんであんな連中が生きてるのに……
……もし捕まっても、あれだよね、死刑じゃないよね?!」
「……違うと思うわ」
 ためらいがちに言った川堀に、加奈は泣きそうな顔で言い募った。
「そんなん、仕方ないとかじゃ済まされないよ!心残りあるに決まってるよ!
あっちゃいけないの、あたし駄目なの?!」
「……そうじゃ、なくて」
 道の途中で叫んでいる女子高生と、大人二人。通りがかった人々は少しいぶ
かしげに三人を見ている。
「そりゃ、心残りは皆あるよ。でも……何ていうのかな、恨みとか、後悔とか
があんまり強いと……残っちゃうんだと思う」
「だから!それってあたしのせい?後悔したりうらんだりしてるの、あいつら
のせいじゃん!」
「だから!」
 言い募りそうな加奈の言葉を、真帆はその声でびしり、と止めた。ひく、と
息を小さく呑んだ少女に、ゆっくりと言葉を続ける。
「……だから。後悔したり恨んだりしているのを良く知っているから、川堀さ
んがこうやって頑張っているの。それで貴方が満足できるなんて思ってない。
でも、せめてと思うから、あたしも手伝っているの」
 せいせいと、大きく肩で息をしながら、加奈は真帆を睨みすえている。見開
いた目からぼろぼろと涙がこぼれている。
「恨みを、晴らせるわけがない。何をしたって足りない。でも……でも、せめ
てあだ討ちをしたいから、あたしは手伝っているの」
「…………」
 暫く、加奈は黙っていた。
 目を見開いたまま、泣きながら黙っていた。
「……ごめん」
 そして最後に、加奈は小さくそう言った。


「……ねえ」
「はい?」
「さっきのブティック、もう一回通ってみていい?」
「勿論」
 渡したハンカチでごしごしと顔を拭いて、あ、これじゃ化粧落ちちゃうじゃ
んね、と笑った加奈は、ゆっくりとまたもとの路地へと歩いてゆく。来た道を
引き返す途中、またあの硝子のところで、加奈は足を止めた。
「……ワンピースとか着てみたかった」
「うん」
「もっと別のこともしてみたかった」
「……うん」
「あのワンピース、やっぱ好き」
 真帆は手を伸ばして、ぽんぽん、と、加奈の頭を軽く撫でるように叩いた。
「似合ってたよ、さっき、すごく」
「…………うん」
 
 路地のところで、加奈はぱたり、と足を止めた。
「いいよ、ここで」
「……うん」
「また、アイス一緒に食べようよ」
「うん。それくらいならあたしも出来るから」
「…………」
 笑いかけた加奈の顔が、くしゃりとゆがんだ。
「……さびしいよ。あそこ一人で居るのいやだよ!……だけど恨んでるのなん
て、絶対やめられないんだよ!」
「あの、あたし、こうやって犯人教えてもらったから……この事件は、もう、
すぐに何とかなるからっ」
 一所懸命に声をかけた川堀に、加奈は噛み付くように言い返した。
「何とかなったって、あたし元に戻らないよっ!」
「…………」
 言われた言葉に川堀の表情が歪み、言った言葉に加奈自身が泣きそうになる。
 一触即発……でもないが、二人が黙った、ところに。
「あと少しだよ」
「……え?」
「さびしいからここを離れたい、が、恨んでるより強くなるのに」
 加奈はきょとん、とした。
「恨んでるのは当たり前だよ。だから、今は恨んでても仕方ないよ。だって、
まだ2ヶ月くらいなんでしょ?」
「うん……」
「じゃ、恨むよ。それ普通だよ」
 少し笑うようにして言うと、真帆はぽんぽん、と、また加奈の肩を叩いた。
「そのうち、でも、恨むより、さみしいからここを退こうって思うよ。だから
それまで」
 訥々と、少しずつ言葉を選ぶように真帆が言う。
「時々一緒にごはんたべよ?」
「…………うん」

 本当に、出来ることなど何もないのかもしれない。
 彼女の為に出来ることなど、ほんとうに数少ないのかもしれない。
 けれども。

「さっきのファミレスとかで……あと、どっか美味しいとこ探して、二人で行
こうよ……ね」
「うん……」
 小さく、本当に口の中で呟いてから、加奈は今度こそ顔を上げて、にっと笑っ
た。
「うん……待ってる」


 じゃあね、と、言って路地に入る。数歩進んだところで、彼女の姿が消える。
 ふぁさり、と、真帆自身もすっかり忘れていたカーディガンだけが、そこに
落ちた。
「あ……」
 拾おう、と、路地に入りかけた真帆をすっととどめて、川堀がカーディガン
を広い、手渡す。
「…………有難うございました」
 消えた加奈にとも、真帆にもとも、どちらに取れる口調で川堀は言い……
そしてぺこり、と頭を下げた。

時系列
------
 2007年10月

解説
----
 一人目の幽霊と、その一幕。

*********************************************

 てゆか。
 幽霊実体化の異能餅なんだから、当然真帆の関わる事件って
死人が出ている事件なんだなーと
……書いててしみじみ。
(先に考えておけとか言わないで下さい……その通りなんです)

 てなわけで、であであ。
 
 


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