[KATARIBE 31521] [HA06N] 小説『センター試験の翌日』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Sat, 26 Jan 2008 23:47:44 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31521] [HA06N] 小説『センター試験の翌日』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <20080126234744.c879eab6.hukira@blue.ocn.ne.jp>
X-Mail-Count: 31521

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31500/31521.html

聡君をお借りしました。訂正などよろしくお願いします>いー・あーるさん

**********************************************************************
小説『センター試験の翌日』
==========================

登場人物
--------
 関口聡(せきぐち・さとし):http://kataribe.com/HA/06/C/0533/ 
  片目は意思と感情を色として見、片耳は異界の音を聞く。

 高瀬夕樹(たかせ・ゆうき):http://kataribe.com/HA/06/C/0581/ 
  高校生で歌よみ。詩歌を読むと、怪異がおこる。

本編
----
 センター試験明けの月曜日。この時期にもなると三年生は自由登校となって
いたが、センター試験を受けた生徒は学校にやってきていた。自己採点やら何
やらの作業があったり、最終的にどこを志望校とするかを担任に相談したりす
るのである。
 聡も例に漏れず色々とやって一段落終え教室を出ると、ちょうど廊下を歩い
ている夕樹を見つけた。少し早歩きで近づいて、後ろから「高瀬君」と声をか
ける。
「ああ、関口君」
 夕樹は立ち止まって振り向いた。
 彼とは以前は創作部の裏部室でよく会っていたが、受験の時期が近づくにつ
れ勉強の方が忙しくなり会うことも少なくなっていた。
 廊下には数人で組となって話しながら歩いている生徒達がいる。二人は彼ら
の邪魔にならないように端へと動いた。
 周囲からは「センターの結果どうだった?」とか「志望校変えなきゃ駄目か
も」とか言う声が聞こえてくる。その話題になるのも当然であり、むしろそれ
以外の話題はないようなものであった。
「そうだ」
 と夕樹は言った。
「エドワード・D・ホックが亡くなったって知ってた?」
「へ?」
 聡は間の抜けたような声を上げた。
 もう一度繰り返すが、センター試験明けの月曜日である。聡もその話になる
だろうと半ば予想はしていたが、彼から聞こえた言葉はそれとは全くかけ離れ
ていた。
「えっと……」
 そう言って聡は視線を天井へと向け、その名前の人を思い出そうとした。
「サム・ホーソーンのシリーズの人、だよね?」
「うん」
 夕樹は頷いた。
「……ええっ」
 やっと話が理解できた聡は驚いた。それからがっくりと肩を落とす。
「あのシリーズ面白かったのに……」
「怪盗ニックの方は読んだことある?」
 夕樹の問いに聡は首を横に振る。
「そっちはまだ。あ、でも、アンソロジーに入っているのは、確か一つか二つ
読んだとは思う」
「あの人、千編近くの話を書いていたんだって」
「千編もかあ。短篇が主とはいえ」
「しかも、ほとんどがミステリ」
「すごいよねえ」
 二人してしみじみと頷く。
「でもさ」
 聡が言った。
「一体そのアイデアはどこから出てきたんだろう? アシモフさんなんか「ク
リスティやクイーンが殆ど書いちゃって空いてるとこもほとんど書かれてる」
ていう感じのことを言ってるのに」
「トリックなんてあらかた出尽くしている、なんて話は聞くよね」
 夕樹の言葉に聡は頷いた。
「それに今の日本みたいに携帯が普及してると、ますます話が書きにくくなる
だろうね」
「推理小説にお約束の嵐の孤島とか雪山の山荘とかでも連絡が付いちゃうし」
「携帯があったらホームズの話とか成り立たないよね」
 聡がそう言うと夕樹は苦笑いを浮かべた。
「携帯をどこまで普及させるつもり?」
「いや、まあ……」と彼は照れたように笑って辺りを見回した。
 いつの間にか廊下にいる人の数は少なくなっている。
 そういえばいつもは裏部室で会ってばかりで廊下で会うなんてあまりなかっ
たな、とふと聡は思った。
「あ、そうそう」
 夕樹が思い出したように言った。
「ん?」
 聡が彼の顔を見る。
「この前関口君に薦めてもらった『時の娘』って本読んだよ」
 それを聞いて聡は少し身を乗り出す。
「お、どうだった?」
「すごく面白かった」
 夕樹がそう言うと、聡は嬉しそうに笑った。本が好きな人間というのは、人
に本を薦めるのが好きであり、薦めた本が面白かったという感想をもらうとま
るで自分が褒められたかのように喜ぶものである。
「良かったでしょ?」
 うん、と夕樹は頷く。
「主人公が全く動いていないのに何でこんなに面白いんだろうって思った」
 二人はしばらくその本の話をしていたが、廊下に人がいなくなり辺りが静か
になったところで話を切り上げた。
「それじゃあ」
「うん、また」
 そう言って夕樹は軽く手を挙げると体を反転させて歩いていき、聡は鞄を取
りに教室へと戻っていった。

時系列と舞台
------------
2008年1月21日。学校にて。

解説
----
割とリアルな会話に基づいています。

$$
**********************************************************************
 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31500/31521.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage