[KATARIBE 31519] [HA06N] 小説『零課仮勤務・1』

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Date: Sat, 26 Jan 2008 00:46:00 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31519] [HA06N] 小説『零課仮勤務・1』
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2008年01月26日:00時46分00秒
Sub:[HA06N]小説『零課仮勤務・1』:
From:いー・あーる


というわけで、いー・あーるです。
もう、去年の書いてない話から、書いてゆきます。
のろのろと。

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小説『零課仮勤務・1』
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登場人物
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 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :ヤク避け相羽の異名を持つ刑事。嫁にはダダ甘だったりする。
 銀鏡 栄(しろみ・さかえ)
     :県警零課の一員。主に戦力勧誘、交渉を請け負う。
 川堀ひとみ(かわほり・−)
     :吹利県警婦警さん。22歳独身彼氏なし。サイコメトリの異能者。


本文
----


 その日は、二人で家を出た。

「じゃ、お弁当用意しておくから。お水はこのペットボトルね?」
「きゅ」
「それとベタたち、今のうちに食べておいてね」
 ぷくぱたと動き回るベタ達に……せめて朝食だけは、としっかり食べさせる。
家を出る直前に、ぽん、と、口の中に飴を入れて。
「じゃ、いってきます」
「きゅう!」
 真面目な顔をして、ばいばい、と手を振る小さな竜に手を振り返して、真帆
は静かに扉を閉め、鍵をかけた。



『それは助かります』
 許可が出たことを電話で知らせると、嬉しそうな声が返ってきた。
『じゃあ、次に都合の良い日を教えて下さい。ああ、それと、貴方と一緒に回
る子にも、引き合わせますから』
「はあ……あの、何て名前の」
『ああ、川堀といいます。川堀ひとみ』
「川堀さん……」
『相羽君は知ってると思いますよ』
 くつくつと笑う声が、真帆の内心を読んだかのように告げる。
『まだ若い子ですが、優秀な子です。きちんと訓練も受けているし真面目だし』
「はい」
 そこらは真帆も信頼している。かつていわゆる『日雇い公務員』的に働いた
ことがある身としては、彼らがどれだけ不祥事を恐れているかを知っている。
こうやってバイト身分で働くことになる自分に何かがあったら、それこそ手続
きだけでかなり面倒だ、と、見当がつくし……従って、一緒に仕事をする人は
自分の素人部分をカバーするくらいに有能なのだ、と、やはり推測できる。
 いつが良いかについては、既に相羽と話してあった。待機日ではないことが
第一条件、その他、幾つか条件を考えて決めた日を告げる。
『はい、その日ね……ええ、大丈夫です』
「宜しく、お願いします」
『いえこちらこそ』
 笑いながらの声が、何となく不吉なものに響いたのは、やはり真帆の不安の
せいだろうか。
『こちらもお待ちしてますね』
 その一言で、電話は切れた。



「じゃ、行こうか」
「あ、はい」
 返事をしてそのまま、とことこと歩き出す。
(何か……久しぶりだな)
 クリスマスからこちら、相羽はかなり長いこと忙しく、加えて年末年始と、
真帆が風邪を引いていたのもあって、結局かなり長いこと一緒に歩いても居な
かった。
「……あ、尚吾さん」
「何?」
 丁度斜め後ろから、ついて行きながら声をかけるのに、相羽はくるっと振り
返る。いつもと変わりない表情に、真帆は少しだけほっと息を吐いた。
「あの、今日、もし……もし時間が合ったら、一緒に帰っていい?」
「勿論」
「……良かった」
 ほっとした顔になった真帆に、にっと笑うとまた相羽は歩き出した。
(嫁と出勤、嫁としゅっきんかぁ……)
 真面目な顔のまま、何を考えているかといえば……まあそういうことである。
 ちょっと後ろを向く。真帆がとことこと、神妙な顔をしてついてくる。
(……いいね) 
 そんな風に思ったのは……流石に秘密である。

 互いに黙って、そのまま県警まで歩いてゆく。
「……ええと……」
「真帆はあちらね」
「あ、はい」
 廊下の分かれ道で、少しだけ足を止めて。
「……行ってきます」
「うん……気をつけて」
 真剣に……それこそ『気をつけて』を軽く十回くらいは重ねたくらいの勢い
で相羽が言うのに、真帆はこくり、と頷いた。
「しょ……あの、相羽さんも、気をつけて」 
「うん」
 じゃあね、と、手を振るのに、もう一度ぺこり、と頭を下げると、真帆はそ
のまま零課に向けて歩き出した。

「……さて」
 数瞬の間見送ってから、くるり、と相羽は踵を返した。その表情がさっと、
『仕事』のものになる。
「いってきます」
 そこからはもう、すっかりいつもの表情であるし、当然真帆が一緒だった、
とは他の県警の面々もほぼ見ていない……筈、なのだが。
「……微妙になんか、今生の別れだわね」
 例によって例の如く、県警随一の情報通、こと千尋の目だけは逃れられなかっ
た模様である。


「良くいらっしゃいました」
 デスクの前の定位置で、銀鏡はにこにこと笑っていた。
「宜しくお願いします」
「こちらこそ」
 どうぞ、と、手で示されて、真帆はそろそろと部屋に入る。と同時に、真帆
は、部屋に居るもう一人に気がついた。
(この人が?)
 その疑問を口にのぼせないうちに
「ああ、こちらが電話でお伝えした」
「川堀ひとみです、はじめまして!」
 ぺこん!と、それこそびっくりマークがつきそうな勢いで一礼すると、彼女
はにこっと笑った。
 まだ若い。多分、年齢としては大学を出たくらいだろう。ショートの髪の毛
が良く似合う。明るい、いい意味で『婦警さん』という印象の彼女に、真帆の
口元に思わず笑みが浮かんだ。
「相羽真帆と申します。宜しくお願いします」
「いえ、こちらこそ!」
 ぺこん、と、やっぱり勢い良く頭を下げる様が愛らしい。
「あ、それで……川堀さんの……」
 零課に居る限りは、やはり異能があるに相違ないが、それをどう言えば良い
か。流石に真帆も言葉に詰まったが、相手はすぐと察したようだった。
「あ、あたしは、サイコメトリなんです」
 ちょっと手を突き出すようにして、川堀が言う。
「そんなに強いわけじゃないんですけど」
「ただ、警察官としての訓練は受けていますから、大丈夫ですよ」
 にっこりと笑って銀鏡が補足する。
 確かに、その敏捷な動きは、何らかの訓練を受けたものかとも思える。
「じゃあ、早速。今日の仕事については、川堀から説明致します」
「はい」
「じゃ、行ってきます……どうぞま」
 言いかけてぴた、と、川堀は言葉を止める。『真帆さん』と言いかけて止め
たのだろう、と真帆は感付いて……そして少し笑った。
「真帆、でいいですよ。相羽だと呼びにくいでしょうから」
「いえ……どうぞ、真帆さん」
 ちょっと照れたように笑いながら、川堀は扉を開いた。

           *

「何件いけるか判らないんですけど」
 言いながら、川堀は丁寧に車を運転した。くるくると幾つかの角を曲がった
ところで気をつけて車を止める。
「そちらの、路地を入ったところなんです」
「……はあ」
 多少、あやふやな声で真帆が答える。
 その路地に居るのは、どうやら少女らしかった。ある事件の被害者であり、
また同時に……もしかしたら、ある事件の目撃者でもあるらしい少女。
「そこまで判ってるのに、どうして聞けないの?幽霊と話せる人くらい、零課
に居るでしょ?」
「あ、それは居るんですけど」
 運転しながら、川堀はちょっと困った顔になった。
「何か……とにかく無茶を言われるらしいんです」
「無茶?」
「ええ……」
 はて、と、首を傾げながら、真帆は路地に足を踏み入れた。


 高校生くらいの女の子だった。
 半袖にミニスカート。制服を如何にも今風(そもそも今風という言葉が、或
る意味時代がかったものかもしれない)に着こなした少女は、真帆が気がつい
た時には、きっとこちらを睨んでいた。
「まーた来たよ。莫迦じゃないの」
「え?」
「あんたアレでしょ。『見える人』とかであたしが見えるんでしょ?」
「いや。あたしは見える人じゃないですよ?」
 はぁ?と、顔中で表現してみせた少女に、川堀が頷く。
「この人は、ほんとに見えない人なの。でも」
「……でも?」
 真顔で説明する川堀を見ながら、少女の表情が少しずつ変わる。それに向かっ
て川堀は、こくりとひとつ頷いて言った。
「この人の周りでは、あなたは『見える』のよ」
「……え」
 意味が判らない……信用していないのではなく、純粋に意味が判らない、と
言いたげにきょろきょろと目を動かす少女の手を、真帆はひょい、と掴んだ。
「!」
「ね。こういうこと」

 幽霊実体化、と、自身で名づけた。彼女の周り半径5mで、幽霊達は実体化
し、生きている時に馴染んだ姿へと変わる。

「あと……これ、なめてみる?」
 ぼんやりと少女は手を伸ばし、真帆から喉飴を受け取った。
 くるくると包み紙を取って、そして飴玉を暫く眺め……そしてぽんと口に入
れた。
「……………ほんとだ」
 ふ、と、少女は顔を上げた。真帆に取りすがらんばかりの勢いで話しかける。
「ねえ、そしたら!あなただったら!」
「え?」
「ねえ、どうしてもやりたいことがあるの!どうしても!」
「……それをやってあげたら」
「手伝ったげる。全部話す。必ず!」
 真剣な顔で言う少女に、真帆はちょっと首を傾げた。
「うん、あたしに手伝えることなら、手伝ってあげる。だからまず話してみて」
「ね、いや、あなたなら出来る筈なの」
「でも、ほら……とにかく話してみて」
「うん」

 少女はごくり、と喉を鳴らした。

「……どうしても、どうしても、やりたいことがあるの。諦められないの」
「って……何?」
「……服」
「へ?」
「あのワンピース」
 真帆と川堀が、思わず顔を見合わせる。それには全く構わず、彼女はぐっと
右の手を握り締めた。その手を振り上げて、彼女は声も高らかに叫んだもので
ある。

「どうっしても!着たいの!」


時系列
------
 2007年10月

解説
----
 県警零課に仮勤務が決まった真帆の、一日。その始まり。

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 しかし、少しサボったら、てきめん文章がへたくそだよ。

 であであー



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