[KATARIBE 31498] [HA06N] 小説『風邪の夜』

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Date: Sun, 13 Jan 2008 00:27:54 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31498] [HA06N] 小説『風邪の夜』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2008年01月13日:00時27分54秒
Sub:[HA06N]小説『風邪の夜』:
From:いー・あーる



ども、いー・あーる@夜になると風邪 です。
当然真帆も風邪引いてます(八つ当たり)

 というわけで。

****************************************:
小説『風邪の夜』
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登場人物
--------
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。真帆にはめっさ甘い。

本文
----

 年末から年始、一番忙しく動くべき時に、風邪引いた。
 動くべきだと思ったし……実際親に、年末ちょっと連絡したけれど(いつも
の如く、年末年始帰れない、とだけ)やっぱり『動けないなんて言ってられな
いでしょ、早く治しなさい』と言われたし。

 ……情けないな、と、思う。

          **

 げふげふ、と、喉の奥の痛痒さを吐き出そうとして、目がさめた。
 夢かと思ったら……本当に咳をしていた。
 一瞬自分がどこに居るかとか、どうやってるかとか判らなくて……ただ喉が
痒くて咳をしていたら、急にぎゅっと押し付けられるように抱き寄せられて。
 それでようやく……一人じゃないことに気がついた。
 一人じゃない、というより、ぎゅっと抱き締められた、その腕の中で咳して
たことに。

「……っ」
 慌てて起きた。そろっと腕を押して抜け出すと、案外抵抗なく起きることが
出来た。
 そのまま急いで台所に行って、コップ一杯の水を飲む。
 飲んでから、改めて、近くの塩をコップに入れて、うがいをしなおした。

 夜になると、咳が出る。
 小さい頃からそうだったから、苦しいのはともかくそのこと自体には慣れて
いるんだけど、尚吾さんは本当に心配する。
(大丈夫。お昼間の咳は減ってるんだから)
 そう、言うんだけど。

 何度か咳払いする。
 喉の奥、鎖骨から掌ひとつ分下の辺りが、しくしくと傷む。
 同時に、喉からその間が痛痒いのと、喉の辺りが膨れ上がって唾もひっかか
るような気がするのと。
 厭になるくらい、治るのが遅くなってる。


 年末、丁度仕事納めの翌日から熱が出た。 
 クリスマスは、今年は尚吾さんが休みで、だからその代わりに年末年始は出
ずっぱりになるよ、と、言われていたから……だからせめて、きちんとおせち
を作って、帰ってきた時にはゆっくりしてもらいたいなって思ってたのに。

(寝てなさいって!)
 黒豆みたいに気を使うのとか、なますみたいに包丁を多量に使うのは、流石
に危ない、だから、と、かずのこと筑前煮だけは作ろうとしてたんだけど。
(早く治すほうが先決でしょ?掃除なんていつでも出来るでしょ?)
 両手をぎゅっと握って、顔を覗き込むようにして。
(だから、そういう無理しない、ね?)
 
 結局……美絵子さんが、子供さんが居るのにおせちを二家族分も作って下さっ
て、大掃除はそれを届けてくれた六華が泊りがけでやってくれて、そしてうち
にも確かに新年は来た、のだけど。

 風邪だけが、治らない。

(なーんか……おばんでございます、とか言ってないかなこの風邪)
 莫迦みたいなことを思ってみても、実際とてつもなく情けない。
 ものすごく……情けない。

 ちょっと思いついて、お湯を沸かし、蜂蜜を溶いて飲んでみた。
 いがらっぽいのが心もち収まった、かもしれない。


 電気を消して、もう一度喉の調子がおかしくないかどうか確認して。
 咳なんてしないように……隣の尚吾さんが起きないように、もう一度咳払い
して。
 ……いや、一緒に寝ないほうがいいだろう、あちらの部屋で寝たほうがいい
と思う、と言った。というか主張した。咳うるさいから。眠れなくなるから、
って。
 でも。

(大丈夫だから、ね)
(いない方が眠れない)

 なんぼなんでも横でごほごほやられるほうが、うるさくて目が覚めるに相違
ない、と思ったんだけど。
 ……でも、起きてないよね。
 余程、疲れてるのかな……やっぱり。

 何度か咳払いして、喉のいがらっぽさが今のところ消えているのを確認して。
灯りを消して、部屋に戻る。
 ベッドに戻ろうとして、気がついた。

 尚吾さんの手が動いている。もそもそ何かを探すように。
 だからその手にぶつからないように気をつけながら、布団の中に戻ったら。
(……え)
 横になったところで、手が触れた。途端にぎゅ、と、両手が背中にかかる。
同時にほっと……まるで笑い声のような息が尚吾さんの口から漏れた。
 そのまま、ぎゅっと……抱き締められた。

「……うつらないかな」
 声に気がついた様子もなく、後はただ、すうすうと寝息だけが聞こえる。
 顔をあげて見やると、尚吾さんは安心しきった顔をして眠っていた。


 時折、自分は一体何なんだろうと思う。
 この人を見ていると、まるで本当に大切で滅多に居ない人間のような気がし
てくるけれど。
 実体は、風邪を引いて、年末年始に寝っぱなしになるようなだらしない人間
なのに。
(真帆サン、ほら寝てて寝てて)
 六華は楽しそうに掃除をしてくれて、年明けの時も一緒に居てくれた。
(いいの。一人で除夜の鐘聴くかと思ってたから)
 そうやって綺麗になった部屋で、ただ寝るばかり。ようやく出来たのはお雑
煮くらい、それも六華に手伝ってもらって、なのに。
 大切にされて、本当に本当に大切にしてもらって。
 でも実際は。

 すう、すう、と、やっぱり安心した寝息が聞こえる。
 明日も尚吾さんは、朝から仕事で。

(寝なきゃ)
 しっかり起きて、朝ごはん作って、お弁当作って。
 それくらいは出来るようになったんだから。

「……年頭から、情けない半分でごめんなさい」
 こっそりと言ってみた。
 無論返事はない……けれども、ふっと何だかそれで眠くなった。

 とろとろと眠りながら、思う。
 早く治りますように。
 この人の為に、何でも出来るように。

 早く治りますように。

時系列
------
 2008年1月はじめ。

解説
----
風邪っぴきの真帆のモノローグ。

****************************************
 というわけで
 であであ。



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