[KATARIBE 31496] [HA06P] 彗の家出 12

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Date: Tue, 8 Jan 2008 22:53:33 +0900
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[HA06P] 彗の家出 12
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登場人物
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 途奥彗
 神終空音


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 彗      :「……決めた、一回、家にもど……行ってくる」

 言い直しながらも、顔をあげる彗。朝ごはんをいただいてから、しばらくの
間、俯いてじっとしていたのだが、これからのことについて考えていたらしい。

 空音     :「一人で大丈夫?」
 彗      :「……正直不安……」
 空音     :「じゃあもう少し休んでなさい」

 再び俯いてしまう彗。
 先日の様子から、何か行動せずには居られない、そう思っているのは明らか
だったが、まずはしっかりと立ち直ってからだ。空音はそう考えていた。

 空音     :「焦るな焦るな」
 彗      :「でも、もう学校始まっちゃうし」
 空音     :「どうする気なのか決まってるの?」
 彗      :「……決まってません……」

 顔を何度も上げたり下げたり。まるで小動物のようなしぐさをする。ふと、
先日、空音に指摘された言葉を思い出す。ゆっくり考えなさい、彼女はそう言っ
た。そうだ、もっと考えないと。そう思った矢先に、当の空音がにっこりと彗
の肩を叩く。

 空音     :「はい、それじゃあ今日は居間の片付けをお願いします」
 彗      :「は、はい、わかった!」

 神終の家は、そもそも本が多かった。
 家具の代わりに本がある、と言えるほどの量なのだが、家具もしっかりと存
在している。その周囲や上に本が積み上げられ、その隙間や周囲には、ゴミと
しか思えないものが散乱し、積み上がっている。

 手近なところから取り掛かるうちに、彗はだんだん片付けに夢中になっていた。
こういった細かい仕事をてきぱきとこなせる彗を、空音は尊敬していた。
 しかし、悩ませないよう、何かさせておこうと考えてのこととはいえ、神終
の家の物量は圧倒的だ。流石に気が咎めるので、結局空音は彗を手伝っている。

 空音     :「参考までに聞くけど、トオクは行ってどうする気だった?」
 彗      :「……行って……頭下げてこようかと」
 空音     :「勝算は?」

 頭を下げて、許しを請う。それはいい。そうすることで、彗が何を得るつも
りなのか、それは果たしてどれほどの確度で手に入るのか。

 空音     :「今までの話を聞く限り頭下げて態度改めるような人とは
        :思えないんだ」
 彗      :「頭下げるのは……箭内さんのことだけの、つもりだった。
        :それで、その後は交渉……って思ってたんだけど……い、
        :一応、機嫌いいときは、そんなに理不尽じゃないし」

 機嫌だのみということらしい。出たとこ勝負。やっぱり、考えてはいたんだ
ろうけど、糸口すら見つからないままということのようだ。

 空音     :「そっか。それじゃあ行くときは、親御さんもいるときが
        :いいね」
 彗      :「親……親は……うん、そうする」

 口ごもる彗の様子から、空音は親は頼りにならないと判断した。

 空音     :「一緒に行って欲しいかい?」
 彗      :「本音を言うと……来てくれたら、すごく心強いし……来て
        :欲しいって思う。でも、泊めてもらってるのに、これ以上……」

 案の定、迷惑をかけると思っているらしい。ここを何とかしない限り、彗の
未来は変わることはないだろう。問題は、彗もそれに感づいているということだ。
感づいてはいるが、だからといって、一緒に来てくれるよう口にするのも迷惑を
かける、と考えているに違いない。少し寂しさを感じながらも、空音は続けた。

 空音     :「つまらないことに拘り過ぎだよ、トオク。それともトオクは
        :私がそれほどケチに見えるかい」
 彗      :「ご、ごめん……ソラネは……ケチじゃない。どっちかって
        :いうと、太っ腹」
 空音     :「太っ腹……」

 思わずおなかに視線がいってしまう。
 冬休みになってから、それこそ曜日やら日付やらを忘れて、狩りに勤しんで
いたのだ。それが終わってからはゴロゴロしていたわけで、端的に言えば、不
規則のきわみとも言える生活をしていたわけで、16才の新陳代謝をもってして
も、休み前の体型を維持するのは難しかったのかもしれない。

 彗      :「ち、ちが、そういう意味じゃなくて……ソラネはやせてる!
        :スリム!」
 空音     :「いいの。正月に餅を食べ過ぎたのは事実。それは置いて
        :おこう、うん」

 空音は顔をあげる。あまり追求されたくもないし、彗の必死のフォローが和ん
でしょうがない。

 空音     :「じゃあ一緒に行こ。トオクはさ、心配しなくていいことを
        :心配しすぎなんだよ。それは必ずしも相手に対する思いやり
        :じゃないと思うよ」
 彗      :「……ありがとう、ソラネ……一緒に、きてほしいです。
        :あと、心配しすぎな件は……気をつける」

 この素直さがあれば、きっと大丈夫。
 彗の頭を撫でながら、空音は頷いた。

 空音     :「丁度よかった。私も一緒に行きたいと思ってたんだ」
 彗      :「……! ソラネ、ありがとう……ほんとに……ソラネ、
        :大好き!」

 思わず、空音に抱きつく彗。
 そうだ、自分は独りじゃない。たまたま、家に居場所がなくなっただけで、
それを独りだと勘違いしただけなんだ。自分には、居場所がちゃんとあって、
仲間も──大切な仲間が居る。
 何も聞かずに部屋を貸してくれた灰太。心配し、体を張ってくれた千沙紀。
いつも大切な言葉と力をくれる空音。
 大丈夫だ。
 きっと、じゃなくて間違いなく、大丈夫。
 ちゃんと言える。
 あの家を、15年過ごした家を、出て行くと。



時系列と舞台
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1月6日?


解説
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いろいろあったけど、あの家に帰ることはない。


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Toyolina
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