[KATARIBE 31483] [HA06P] 彗の家出 6

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Date: Tue, 1 Jan 2008 04:16:06 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31483] [HA06P] 彗の家出 6
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[HA06P] 彗の家出 6
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登場人物
--------
 途奥彗
 箭内海松


彗と海松
--------

 彗      :(これで全部……かな。忘れ物、もうないな)

 こっそりと、部屋に戻ってきて、忘れ物を回収する。携帯の充電器に、学校の
用意。そして。

 彗      :(ふと、机の引き出しを思い出す)
 彗      :(……一応持ってこ)

 机の真ん中の引き出しを開けて、自称サンタにもらった箱を鞄に入れた。

 彗      :(験は担がないと……)

 馬鹿馬鹿しいような話だが、魔女としての習慣がそうさせたのだった。
 思い当たる限り、忘れ物もこの部屋での用事もない。戻ろう、そう思って、
窓を開けようと思ったその時。
 あの香りがした。
 数日前にもかいだ香り。サンダルウッド。この香りの持ち主は、箭内海松。
姉のお供を務める、二つ上の女子高生。
 振り返っては、動揺を悟られる。そんな気がして、彗は平静を装った。箭内
は扉にもたれかかって、気だるそうに声をかけた。

 箭内     :「もう帰っちゃうの? つまんないなぁ」
 彗      :「……箭内さん……なんで居るの?」
 箭内     :「なんで? なんでって言われてもなあ、感づいたって
        :いうかさ、ね、わかるでしょ」

 うふふ、と何が楽しいのか笑う箭内。

 箭内     :「私と彗ちゃんの仲じゃない、冷たいの」
 彗      :(ぞく)「別に、仲良くないし。どうせ、あの人に言われてる
        :だけなんでしょ」
 箭内     :「一応あたってるけどぉ。個人的にもね……」
 彗      :「私は用事ない、そっちだってないんだし。あの人にも、
        :この家にも。それが答え」

 箭内の口調は、どうしてこうもまとわりついて、逆撫でするのか。彗は悪寒
を感じながら、精一杯強く言いはなった。
 箭内はそれを気にした様子もない。

 箭内     :「うぅん、そう言われるとなぁ。つれないの。そっか、
        :そっかそっか。逃げ出すんだぁ。そうだよね、お姉さん
        :怖いもんねぇ」
 彗      :(手が止まる)「逃げる?」
 箭内     :「だってそうじゃない? せっかく楽しみにしてたのに。
        :お礼参りとか、来るのかなって。ほら、今とかチャンスだよ。
        :お酒入ってるしぃ、あたしなんて、ねえ。ケンカ弱いし」

 確かにそうだ。
 姉と、もう一人のお供である北川、そして箭内。この三名のうちでは、箭内
がもっとも与しやすいのは間違いない。

 彗      :「……今日は、忘れ物とりにきただけだし……」
 箭内     :「そっかそっか。うん、わかった。いい子ちゃんだもんね、
        :彗ちゃんはぁ。家出とかしちゃってるけどねぇ。どうすんの
        :かなぁ、心配だなぁ」

 日頃、箭内に感じている不快感。そして、それを助長する箭内の口調。さらに
実力。姉には魔女としては敵わない。北川には、戦闘となった時点で一蹴される
だろう。だが、箭内なら。魔女としての能力なら、箭内に劣るとは思わない。
 その認識が、彗のたがを外した。

 彗      :「……いらいらするなぁ……いつも、そうやって、私のこと
        :おちょくってさあ……」

 振り返る彗。その目は据わっていた。しかし箭内の目には、それすら可愛ら
しく映る。

 箭内     :「わ、怒った? ごめんごめぇん。でも、怒ってる顔も
        :可愛いなぁ……うん、すごく」
 彗      :「……それがイライラするって言ってんの……バカにして……
        :あの人と二人して……」
 箭内     :「今の彗ちゃんの顔、お姉さんにそっくり……ドキドキ
        :しちゃうなぁ」

 少し頬を上気させながら、箭内は繰り返した。本気のようだ。冗談で言って
いるわけではない。それを悟って、彗はますます腹立たしくなった。

 彗      :「似てる? 私が? バカ言わないでよ。似てるわけない
        :じゃん。もういいよ、黙ってよ。じゃないと」
 箭内     :「じゃないと? どうしちゃうのかな? いい子の彗ちゃん
        :はぁ」

 ふと、目の前から、彗の姿が消えていた。

 箭内     :「あれ。ん……どっち……」

 箭内が言っているのは、幻覚か、姿消しのどちらか、ということだった。
 箒で空を飛ぶ際、見られては色々と都合が悪いため、魔女の多くは、箒を手に
している際、姿を消すことが出来る。
 それとは別に。彗がそれなりにハーブを扱う術を心得ているのも知っている。
その技倆がどれほどのものか、箭内は知らない。
 見極めかねていると、側頭部に鈍い衝撃が襲った。感触からいって、箒だ。
箒で、横っ面に殴りつけたのだ。
 メガネはもちろん吹っ飛んで、視界がとたんにぼやける。そこへ、振り下ろ
される追い打ちの一撃。箭内はなすすべもなく、床に倒れ伏す。

 彗@見えない :「……(黙って箒を振り下ろす)」
 箭内     :「いた、痛い、痛い、ごめん、ごめんって!」

 無言で、何度も振り下ろされる箒。
 枝のささくれが、箭内の体を何度もひっかく。
 頭を抱えて、なすすべもない箭内を見下ろして、彗は一息ついた。

 彗@見えない :(ふぅ)「聞こえないよ、変態」

 時折、許しを請う声が聞こえる。
 許すつもりはなかった。だから、何度も、それでも振り下ろす。
 彼女が黙るまで。それが一時でも、永遠でも構わなかった。とにかく、箭内を
黙らせないと気が済まなかった。

 彗@見えない :「いい加減もう死んじゃってよ」

 もう一度振り下ろす。その勢いに、体がつられて、泳いでしまう。
 受け身を取ることも出来ず、そのまま床に倒れ伏してしまった。それはわかる。
だから、立ち上がろうとして、力が入らないことに気づいた。

 彗      :「あ、れ?」
 箭内     :「……やっと効いた……もう……そういうところは、ホント、
        :お姉さんそっくり」

 視界の隅で、箭内が立ち上がるのが見える。

 箭内     :「あーあ、擦り傷いっぱい(いててて)。でも、鬼気迫る、
        :って感じで……すごくよかったよぉ、彗ちゃんってば」

 箭内の脚が、彗が手にしたままの箒を蹴り飛ばした。
 狙っているわけではないが、適当に目星をつけていたのだろう。握力もなく
なっている彗の手から、箒は離れてしまった。姿消しの術は、箒を手にしてい
ることが条件だ。彗の姿が現れ、箭内はあの、寒気のする笑みを浮かべる。

 彗      :「つっ……な、なんで……」
 箭内     :「いっぱい吸ってたもん。肩で息しちゃってさあ。力入ん
        :ないっしょ」

 彗の手を踏みつけながら、箭内は嬉しそうに言った。あのサンダルウッドの
香り。あれは、箭内の身にしみこんだものではなかったのだ。
 さほど手の込んだトラップではない。箭内は彗の意識を、窓から自分に向け
させて怒らせただけだ。窓を開けていれば、こうはならなかった。

 彗      :「いた……っ、痛い……」
 箭内     :「うぅん? 聞こえないよぉ、変態」

 さらに踏みつける足に力を入れてから、呻く彗をひっくり返す。

 箭内     :「さって、どうしよっかな。お姉さんに会いたい? それ
        :とも……もうちょっと遊ぼっか……」
 彗      :「……誰が……っ……痛い……」
 箭内     :「そぉ? でも私はぁ、彗ちゃんと遊ぶんだから」

 馬乗りになって、箭内は彗の首筋に指を這わせる。もう片方の手は、彗の頬を
撫でながら。

 彗      :「や、やだ……やめ……」
 箭内     :「だぁめ。お返しだもん」

 箭内の顔が近づいて、唇に柔らかい何かが触れた。何をされているのか、理解
すると同時に。頬を撫でていた手が、セーターの上から彗の体に触れ始める。
 身をこわばらせても、箭内の手は止まらず、スカートのファスナーを下ろして
セーターの中に入り込む。その時、部屋の外から。がさ、と何か動いたような音
がした。

 箭内     :「……?」
 彗      :「……い、や……」

 馬乗りになったまま身を起こす箭内。
 刺すような視線を背後に感じ、振り返る。背後にあるのは、扉だ。先ほどま
で、自分が居た場所。扉は少し開いたままで、その隙間から。視線はそこから
発せられている。

 箭内     :「……誰。なに、彗ちゃんの味方?」

 風が吹き込み、カーテンだけがはためいた。意識をわずかに、そちらに取ら
れる。視線を戻した刹那、先ほどから箭内を刺していた視線が、箭内の眼球に
張り付いた。それはそのまま潜り込み、痛みが眼窩を焼き、駆け巡った。

 箭内     :「っ……うああっ!(思わず両手で目を押さえる)」

 それでも痛みは治まらず、顔、いや、頭蓋の内側から箭内を襲った。のたう
ちまわる箭内。事態をよく理解しないまま、彗は這い蹲って、どうにか箒を手
に取る。
 箒を杖代わりに立ち上がって、窓を開け放つ。何気なくいつも開いていた窓
が、ひどく重い。それでも、体は最低限、言うことを聞いてくれた。
 びゅおう、と冷気が流れ込んで、部屋を埋め尽くす。
 彗は、全速力で箒を飛ばし、飛び去った。

 箭内     :「あああっ……く、ううっ……あ、ああっ!!」

 ゲホゲホと咳き込んで、顔をかきむしりながら、のたうち回る箭内の横を、
ウサギがのそのそと歩いていく。器用に、箭内の吐瀉物を避けながら、小さく
首を振って、窓から外へ出て行った。


時系列と舞台
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12月31日?


解説
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トオクさん超あやうし。
空音さんの呪い炸裂。


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Toyolina
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