[KATARIBE 31467] [HA06N] 小説『 2007 年のプレゼント・中』

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Date: Fri, 21 Dec 2007 00:11:55 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31467] [HA06N] 小説『 2007 年のプレゼント・中』
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2007年12月21日:00時11分54秒
Sub:[HA06N]小説『2007年のプレゼント・中』:
From:いー・あーる


てなわけで、いー・あーるです。
プレゼント話、真帆視点。
……大差ないじゃんとかゆーな(えう)

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小説『2007年のプレゼント・中』
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登場人物
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 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。真帆にはめっさ甘い。

本文
----

 実際この年齢になると、自分では確かに「ああ、今日がそういえば誕生日だっ
たな』と思うし個人的には記念するけれども、でも他の人に祝ってもらうのも
何だかな、という気分になるもので。
 だから、正直忘れているのが一番って気がする。
 というか、していた。

 の、だけど。


(あーもう、それならイクラか何か買っとけばよかったっ)
 というか……そうやって誕生日って言ってくれるなら、もう少しなんか考え
てたのになあ、とか思うんだけど。
 茄子と身欠きにしんの炊いたの。衣かつぎ。ブロッコリーの胡麻和え。それ
に、昨日残ってた肉じゃがをあっためたのと、あとは塩鮭をほぐして高菜と混
ぜたの。尚吾さんの好きな和食だとは思うけど、いまいち……ほんとに普段の
ご飯で。

 きうきう鳴きながら、縹とベタ達が尚吾さんを追っかけて台所から出てゆく。

「あ、大根大根」
 尚吾さんが大根大好きだし、縹もよく食べるから、買い置きはいつもしてい
る。衣かつぎに使った味噌を塗って、さっと焼いたら田楽になるかな、と、そ
ういえば思ってたんだっけ。
(煮えてるかな?)
 鍋の中の大根に、菜ばしを立てようとした、時に。

 くくっと、笑う気配がした。
「へ?」
 尚吾さんが、立っている。後ろに、さっき駆けていった縹とベタ達を従えて。
 いや、立っているのは別に普通だけど……何でまた急にあたしの後ろに居る
かな。
「……あの……?」 
 妙に……と言ったらアレだけど、とにかく上機嫌なのは判る。そして、なん
か後ろ手に持ってる……みたいなのも、なんとなく。
 だけど……

「真帆」 
「はい」 
「手、出して」 
「……え……はい」 
 一旦お鍋の火を止めて、タオルで両手を良く拭いてから手を出す。
 その上に、尚吾さんはひょいっと
 小さな、包みを。

「…………え?」 
 淡いグリーンの箱に、細い白のリボンがかけられている。艶々とした色合い
がとても綺麗な、小さな箱。
「え………」 
「真帆、誕生日おめでとう。これは俺からのプレゼント」
「え」 

(俺、もらう方がすきだし)
 からん、と、それこそ乾いた桶を放り出すように軽く言ったあの言葉。
 なのに今、この人は本当に嬉しそうに、目の前に立っていて。

「あ、あの……ありがとう」 
「ほら、あけてみ」 
 嬉しそうに……本当に嬉しそうに、尚吾さんが急かす。
「うん」
 白いリボンを丁寧に引いて、淡い緑の包み紙をはがす。丁寧に箱を開けて、
その中から出て、くる。

 黒のビロード張りの……小さなケース。

 何となく、うっすらと、予想した。
 手が、震えた。

「ほら、中に、ね」
 やっぱりわくわくと、楽しみに楽しみに待ち構える声に押されるように、あ
たしはゆっくりと、右掌の上のケースを開いた。

 黒い箱の中、上蓋の裏は淡い銀色の布張りになっている。下の、丁度針山の
ように膨らんだやはり黒いビロードの中に。

「…………あ」

 二つ、並んで。
 細い……柔らかな輪郭の。

「一つは俺のだけどね」
 嬉しそうな声と、嬉しそうな笑み。
 目の前で、尚吾さんは本当に……本当に嬉しそうにしていた。
「結婚指輪、買ってなかったっしょ」 
「……っ」 
 細い、単純なようで優しげな線を描く指輪が二つ。
 顔を上げれば、やっぱり嬉しそうに、こちらを見る目が二つ。
「どうかな?」
 どうかな、って。
 どう、なんてものじゃなくて。 
 どうかな、なんて、疑問符がなんでやってくるんだろうかって。

「…………あの」 
 だって。
 以前、豆柴君をからかっていたのを覚えている。別にその時『指輪を欲しい』
とは言わなかったし思わなかった。だからほんとにこんなプレゼントを貰えるっ
て思ってなかった。
 一緒に迎える誕生日の度に、この人は何が欲しい、と尋ねてくれた。
 その度に、色々答えた。
 だけど、色々答えた……その、全ての想像や願いなんかを、ぴょん、と高く
飛び越えたような。
 そんな、プレゼント。

「ほら、貸して」 
 何かもう……一瞬頭の中が真っ白になったというか、わーっと一杯になった
というか、とにかくぼうっとしていたら、ひょい、と尚吾さんが手を伸ばして
きた。
 ふわり、と、左手があたしの左手を包むように持ち上げる。右の手がすっと
伸びて、ケースの中から片方のリングをとりあげた。
 するり、と。
 細くひんやりとした感覚が左の薬指に触れる。そのまま指輪は、すべるよう
に指の根元へと落ち着いた。

 例えば自分の願っていたことを、それこそ何倍にもして与えられたような。

「おめでと」
 言葉と同時に、尚吾さんはふわりと身をかがめる。左手の甲に、そっと触れ
る、感覚。
 心臓がばくっと大きく鳴って……そして。
 ようやく、身体が動いた。
「…………あのっ」 
「気に入らない?」 
 何で何でそんなことがあるわけないっ……って、言ったら何だか声が上ずり
そうで。
 代わりに首を横に振る。絶対そんなことない、気に入らないなんて、そんな
こと考えても無い、思いつきもしなかった……って。
「違うの、そんな」
 指輪をはめて貰った手で、尚吾さんの手を握る。自分の中で嬉しいのと驚い
たのとが、破裂しそうに一杯になって。
「…………有難うございますっ!」
「ねえ、気に入ってくれた?」 
 覗き込むように……ほんの少しだけ心配そうにこちらを見る顔に、だから、
何度も頷く。

 気に入らないわけ、ないじゃない。
 気に入らないなんて、思うわけないじゃない。
 
「よかった」

 目の前で。
 本当に嬉しそうに、笑み崩れる顔。

 多分黙っていたらとても綺麗な顔だと思う。でも、こうやって表情が彩ると、
ただ綺麗じゃなくて……何ていうか、粋、というか、いなせ……っていうのか、
そういう風になる。バレンタインデーごとに大きな袋に一杯チョコレートを持っ
て帰るのも無理ないなって思うくらいに。
 
(真帆は俺の)
 
 何一つ衒うところのない、笑顔を見ている。
 混じりけ無しに喜んでいる顔を見ている。

 その顔が、ふっと近づいた。呼吸の音ごと、耳元に。
「じゃあ、俺のもはめて、ね?」 
 声と一緒に、左の手をぎゅっと握られて……離れた。
 ばくっと……心臓がやっぱり大きくひとつ打つのが判る。

 右の手の上のケースから、残った指輪を取り出す。ケースを近くのテーブル
の上にそっと置いて。
「……あの」 
「はい」 
 伸ばされた左の手を、そうっと取る。軽く開いた左の手の、薬指に指輪をそっ
とはめる。
 指輪はやっぱり、するり、とすべるようにはまった。

「…………」 
 両手で、その手をとって、眺める。
 指が長くて、関節がしっかりしていて。
 ぱっと見てすごく大きな手とは思わないけど、やっぱりこうやって両手で取っ
てみると、あたしの手よりも一回り大きくて。

 全然違う手に、でも一緒の指輪がはまっている。
 綺麗な白金の色が、薬指の根元に落ち着いている。

(真帆は俺の)

「どうしたの?」 
「…………」 
 
 嬉しいって、何かもうそんな言葉ではおっつかないくらい嬉しいこと。
 そして。

(真帆は俺の)
 何度もそう言われて、一瞬躊躇した。その言葉はとてもとても嬉しかったけ
ど、あたしがその反対を言えない、から。
 だけど。
 今なら。

 目の周りがわあっと熱くなって……そして気がついたら、涙がこぼれてた。
 ぱたぱた、と、尚吾さんの手の上に、落ちて。

「真帆?」 
 右の手がすう、と顎に触れる。そっと払うような仕草で、涙を拭ってくれる。

「真帆」
「……っ」 
 言葉で何度繰り返しても足りないと思った。
 何度言い続けても、今、破裂しそうに一杯になってる自分の中を表すのに足
りないって思った。

 だから。
 
「……ありがとう」
 覗き込むようにこちらを見る顔。その、首の周りに手を伸ばして抱き締めた。
 ひんやりとした、頬の感触。
「うん」
 後ろに回された手が、何度も何度も……背中を撫でる。

「おめでとう、真帆」 
「…………ありがとうございます」 

(真帆は俺の)
 最初に聴いたときには……ほんの少し納得出来ないものを感じた。あたしは
この人に所有されてしまうのか……って。
 そういうことじゃないって、無論頭では判ってたし、その後この人を知る毎
に、心でもそのことが判ってきた。
 だけど。
 あたしがこの人に同じことを言えるかといえば、今までは出来なかった。
 いや……この人には言えた。だけど、他の人に……多分尚吾さんが他の人相
手でも、断言してのけるくらいの強さ、では。

 だけど。

(尚吾さんはあたしの)

 今なら言える気がした。
 今ならば……
 ……たとえどれだけ、莫迦にされても。




時系列
------
 2007年11月8日
解説
----
『心からのプレゼント』の真帆視点。最高のプレゼントを貰った真帆。

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 てなもんです。
 であであ

 
 


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