[KATARIBE 31465] [HA06N] 小説『心からのプレゼント』

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Date: Tue, 18 Dec 2007 00:03:06 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31465] [HA06N] 小説『心からのプレゼント』
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2007年12月18日:00時03分06秒
Sub:[HA06N]小説『心からのプレゼント』:
From:久志


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小説『心からのプレゼント』
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登場人物
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 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :ヤク避け相羽の異名を持つ刑事。嫁にはダダ甘だったりする。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。相羽の妻。すっかり母。
 縹(はなだ):雨竜の子。
 チロ&ペロ&花子:相羽家で買われていたベタの霊達。
 本宮史久&石垣冬樹
     :県警の相羽の同僚。もう駄目な子を見守る心境の様子。

いても立っても
--------------

 そわそわと。
 時間が経つのがもどかしい。

「じゃあ、お先」
 コートに袖を通して、まだ残ってる史と石垣ちゃんに軽く手を上げる。
「はい、お疲れ様です」
「どうも、お疲れ様です相羽さん」

 かつん、と。革靴の踵を軽く鳴らして、足取りも軽く。

 家までの道のり。
 さほど遠いわけでもない家までの道のりが、こんなに心躍るものとは今まで
思いもしなかった。

「さ、て。喜ぶかな……」

 ポケットにしまった指輪。
 コートの上からそっと手を当てて、抑えようと思っていてもついつい忍び笑
いが浮かぶ。

 家に着いて。
 玄関の戸を開けて。

「お帰りなさい、早かっ……」
「ただいま」
 ぱたぱたと歩いてくる真帆の手を引いて、そのまま引寄せる。
 抱きしめた腕の中、ほんのり暖かい。
「……え、あのえと……?」
 いつまでたっても、どこか慣れない真帆の様子がまた可愛い。
 もそもそと動く真帆の耳元に顔を寄せて。
「誕生日、おめでと」 
「あ…………」
 ぱちくりと目をしばたかせて、数秒動きが止まる。
 この反応から見ると、忘れていたんだろうけど。

「……有難うございます」

 ほんのり頬をそめて俯いて。
「……や、でも、今年はあたしも、殆ど何もしなかったからっ」 
「いいよ、いつも一杯もらってるから」 
 人間らしい自分がここに居るのも、何も振り返らずに走ることしか出来な
かった自分が、ゆっくり周りを見回して歩くことが出来るようになったのも。

 全部、お前のおかげだからさ。
 たぶん。お前のことだから……何もしてない、って言い張るんだろうけど。
何もしなくても、そこにいて、俺のこと待っててくれているだけで、充分なん
だよ。

 もそもそ、と。返答を言葉にし損ねたようにコートに顔を埋める真帆の頭を
撫でて。

「あの……ごはん、出来てるよ」
「うん」
 でも、まだこれからが、本番だけどね。
 驚く顔が、早く見たくてしょうがない。


お互いに
--------

 ぱたぱたとまとわりつく三匹のベタ達を軽くあしらって。
「こら、邪魔しないの」
 鮮やかな赤のヒレをばたつかせる奴、青いエラをこれでもかとばかりに膨ら
ませる奴、あいもかわらず髪を引っ張りつついてくる白い奴。
「ほら、メシだから。向こうで待ってな」
「おいで」
 ぱたくたと真帆についていく三匹に手を振って。

 部屋に戻って。ドアが閉じて真帆が遠ざかったのを確認してから、コートの
ポケットから小さな包みを取り出す。白いリボンのかかった淡いグリーンの箱
にひとつキスをして、ネクタイを緩めた。


 台所に向かう真帆の後姿。
 三つ編みの髪が時折ゆれている。

 後ろ手に包みを隠して。
 何事かとまとわり着くベタ達をそのまま引き連れて、真帆の後ろに立つ。

 こっそりおどかそうと思ったけど……正直限界。

「くくっ」
「…………へ?」 
 きょとんとした顔で真帆が振り向く。
「……あの……?」 
 ちらちらと、こっちの顔と背中に回した腕を見て。不思議そうに小首をかし
げる。
「……尚吾、さん?」

「真帆」 
「はい」 
「手、出して」 
「……え……はい」 

 何の疑問もなく。
 傍らのタオルで丁寧に拭いて、両手を差し出す。
 この無防備さと、なんの疑いのない目が、眩しい。

 差し出された手の上に、ちょんと白いリボンのかかった淡いグリーンの箱を
のせる。

「…………え?」 
 両手にのった箱をしばし見て、視線がこっちを見上げる。
「え………」 
「真帆、誕生日おめでとう。これは俺からのプレゼント」
「え」 

 ぱっと花が咲くように。
 頬が赤く染まる。

「あ、あの……ありがとう」 
「ほら、あけてみ」 
「うん」
 おずおずと白いリボンを丁寧に引いて、箱を開けて、中から出てきたのは。

 黒のビロード張りのリングケース。

「…………」
「ほら、中に、ね」
 かすかに震える手が、リングケースをそっと開く。

 中にはプラチナのリングが二つ。

「…………あ」
 目を見開いて、真帆が息を飲んだ。
「一つは俺のだけどね。結婚指輪、買ってなかったっしょ」 
「……っ」 
 声にもならない様子で、指輪とこっちの顔とで視線が行き来する。
「どうかな?」
 ぱくぱく、と。
 目を瞬かせながら、何度か口が動いた。
「…………あの」 
 ようやく時間が流れたかのように声が漏れる。
「ほら、貸して」
「……あ」
 すっかりなすがままの左手をとって、真帆の右手のケースにのったリングを
とりあげて、指に通す。
 引っかかることもなく、すんなりと薬指にはまった。

「おめでと」
 手の甲に顔を寄せて、軽く唇を当てる。
「…………」
 ぴくりと、一旦停止状態だった真帆が頬を染めてわたわたと口を開く。
「…………あのっ」 
「気に入らない?」 
 ぶんぶん、と。三つ編みを振り回さんばかりに首を横に振る。
「違うの、そんな」
 きゅっと手を握り返して。
「…………有難うございますっ!」
「ねえ、気に入ってくれた?」 
 こくこくこくこく、と。
 首振り人形になったかのように、何度も頷く。
「よかった」

 こうやって、喜ぶ顔が。
 なにより。

「じゃあ、俺のもはめて、ね?」
 左手を一度きゅっと握って、耳元にそっと囁いてから離す。
「……あの」
 耳まで赤くなったまま、おずおずとケースから指輪を取り出して。
「はい」
 真帆とは違う少しごつごつとした手をおずおずと手にとって、そっと指輪の
感触が伝う。

 真帆の左手と、自分の左手。
 同じ指輪のはまった、まるで似ても似つかない手。

 じっと指輪のはまった手を見て。

「どうしたの?」
「…………」 

 ぱた、と。
 手の上に落ちる雫。

「真帆?」 
 顎をつたう涙をそっと指先で拭って。

「真帆」
「……っ」 
 真帆の腕が伸びて。
「……ありがとう」
 首を抱くようにぎゅっと回される。
「うん」
 背中を何度も撫でて。

「おめでとう、真帆」 
「…………ありがとうございます」 


時系列
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 2007年11月8日
解説
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 真帆さんの誕生日。取って置きのプレゼントを渡す相羽。
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以上




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