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Date: Sun, 16 Dec 2007 02:19:54 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31454] [HA06N] 良妻の贈り物
To: kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
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[HA06N] 良妻の贈り物
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登場人物
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蒼雅 渚
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クリスマスプレゼントを選ぶ。
それは大変楽しい行動なのだが、当然ある程度の悩みがつきまとう。
もらって喜ばれるもの。まず第一にこれだ。プレゼントであるからには。
贈る相手である蒼雅紫は……間違いなく、渚からのプレゼントなら、なんで
も喜んでくれると思う。渚自身、紫のプレゼントなら何でも嬉しいのと等しく。
何気ないプレゼントなら、いつものように、一緒にいるときに買って渡せば
済むけれど、誕生日とクリスマスだけは、自分一人で選んで決めたい。
文字通りいつも一緒にいる二人にとって、一人で居る時間はとても少ないから、
今この時に決めてしまいたい、そういう事情もあった。
ディズニーストアも見たけれど、どうもしっくりこなかった。クリスマスに
なると必ず並ぶ、サンタ姿のくまのプーさんはよかったけれど。
難しいなあ。うーん。
その流れのまま、隣のファンシーショップへと入る。どちらかというと、キャ
ラクターの色が確立しているものよりは、こういうあまり染まっていないもの
の方がいいように思えた。実際、紫にはブランドへのこだわりがあまりなく、
素材や作りをしっかり見極めている節がある。
(作りがちゃんとしてて、あと可愛くて、似合いそうなの……)
あえてクリスマス的なものは避けようと思って、奥に目をやる。
そこには眠そうな顔をしたカモノハシのぬいぐるみが、組体操のようにディ
スプレイされていた。カモノハシだとわかった瞬間、渚の足はそちらに踏み出
していた。紫は、いや蒼雅の家人は、どういうわけかそろってカモノハシが大
好きなのを思い出しながら。
(ほら、このカモノハシさまは、渚さまにそっくりです)
満面の笑みを浮かべて、渚の手を引いてカモノハシの像の隣に立たせて。
そんな初夏のひとときを思い出した。
一番上の一体を手にとって、顔の近くまで持ち上げながら、近くの店員さんに
問いかける。
「すいません、お姉さん、これなんですけど、そんなにうちに似てます?」
店員さんは、一瞬言葉に詰まっていた。無理もない。
似ているかどうか、なんて聞いてくるお客さんには会ったことがない。
それでも、さすがに接客業のプロだ。咄嗟に見事な切り返しを見せる。
「ど、どうでしょうか……その……で、でもすごく可愛らしいですよね!」
あえて何が可愛らしいとは言わない。
「こちらにもう一回り大きいのがございますよ。低反発クッションなんですけど」
渚が手にしていたのは、30センチほどの小振りなカモノハシさまだった。
店員さんは一瞬で、渚をカテゴリー分けした。
渚の身なりや振る舞いから、小中学生ではないと判断する。着ている服は、
それなりに仕立てが良くて、それでも大人び過ぎてはいない。お洒落な高校生、
か大学生、成人はしていないだろう。
店員さんがその右腕で指し示した先には。
それはそれはまるまるとした、大変肉付きのいいカモノハシさまが、ぼてっと
棚の一番上にいらっしゃった。紫がいれば、なんと神々しい!と感激して柏手
くらい打っているだろう。
渚からみても、その肉付きといい、大きさといい、かなりプレゼントとして
良さそうに思えた。
「ちょっと持ってみてもいいですか」
「はい、どうぞ。そんなに重たくないですから、持ち歩いたりとかも」
少し背伸びして棚から下ろして、渚に手渡す。
確かにあまり重くない。とはいえ、布地も縫い目もしっかりしていて、クッ
ションとしては上等に思える。
腕の中で向きを変えて、正面から相対してみる。
なんだろう。この既視感は。
気になって目を細めながら、カモノハシさまとにらめっこをする。店員さん
は、ああ、確かにそっくりかも、とちょっとだけ思った。
「この、糸目のカモノハシしかないんですか?」
「え、ええ、このシリーズはそういうデザインでございまして……」
似てると思っていたことを知られたらまずいな。そんな思いが微妙な語尾に
表れていた。
「実はほかに色々顔があって、カモノハシ大家族とか言ったりしません?」
「いえ、この子は……その、天涯孤独で、一緒に過ごしてくれるあなたを待って
います……だそうです」
タグにかかれている説明書きを読みあげる。なかなかに重い設定らしい。
メーカーが想定しているターゲットは、癒しを求めつつペットを飼えない事
情のあるOLさんとか女子大生なのかもしれない。
「ですから、お求めになったお客さまとか、すごく気に入られてるみたいで」
顧客満足度は高いらしい。
ちょっと対象年齢とは違うなあ、と思いつつも説明する。しかし、何か共感
するところがあったのだろう。渚は、何度かうなずいていた。
「……この子、もらっていきます」
「ありがとうございます、ラッピングはどうしましょうか」
「クリスマスプレゼントのでお願いします、あ、ちょっとリボンとか大きめに
してもらえると」
「かしこまりました」
渚の手から一端カモノハシさんを預かって、レジに向かう。ラッピングの用
意をしながら、財布を出している渚に店員さんが問いかけた。
「クリスマスカードもサービスでご一緒出来ますが、どうなさいますか」
「え。あ、えーっと……どんなんなんでしょ、デザインとか」
「こちらのカモノハシの子が飛び出すデザインで、吹き出しにメッセージを
入れる形になります」
冷静に考えると、なんとも微妙なクリスマスカードだ。糸目のやる気なさそ
うなカモノハシが飛び出すのだから。
店員さんもそう思っているから、セールストークの段階では何も言わなかっ
たのだろう。お買い上げが決まった段階で言えば、不要なら何もしない、で
済ませられる。
しかし、その飛び出すカモノハシを見た紫は。
間違いなく、心から喜んでくれるに違いない。それを思えば、自分の常識なん
て優先度が低いものだ。
「えーっと、そしたら、書きますから、ペン貸してもらっていいです?」
「はい、カードこちらになります。色とか結構あるんで、ご入り用でしたら、
遠慮なくおっしゃってくださいね」
「うん、ありがとう」
ちらりと、カードの文面が目に入った。
『大好きな紫へ クリスマスおめでとう』
さらさらと流すのではなく、丁寧に書かれている。
友達にあげるんだ、カモノハシ好きな友達なんだな。
深く考えずに、店員さんはカモノハシさまをお包みした。
大事そうに抱いて出て行く渚の姿を見て、少し胸がほうっと温かくなった気
がする。時計を見ると、閉店まで30分を切っていた。
今日はいい仕事したのかもしれない。
家に帰ったらカモ蔵くんをハグしてからご飯食べよう。
時系列と舞台
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12月中旬。
ルミナリエ行く前。
解説
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カモノハシさま大人気(一部で)
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
Toyolina
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