[KATARIBE 31453] [HA06N] 小説:『零課からの勧誘・3』

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Date: Sun, 16 Dec 2007 01:26:21 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31453] [HA06N] 小説:『零課からの勧誘・3』
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2007年12月16日:01時26分21秒
Sub:[HA06N]小説:『零課からの勧誘・3』:
From:いー・あーる


てなわけで、いー・あーるです。
なんかこう……砂糖吐いてます、ええ。

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小説:『零課からの勧誘・3』
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登場人物
--------
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :ヤク避け相羽の異名を持つ刑事。嫁にはダダ甘だったりする。

本文
----
 
 いつものように腕を枕にして横になる。
 いつもならば数分で眠りにつくのだが、横になって20分、真帆はまだ眠る
ことが出来なかった。
(これで不眠とか言ったら、怒られそうだけど)
 ゆっくりとした呼吸音が聞こえる。ゆったりとした、いつもの……と思うけ
れども。
(……寝てないのかな、尚吾さんも)
 眠れない原因は自分にある、と、自覚はしているものの。

           **

 予想通りというか予想していても足りない勢いというか。
「絶対駄目!」
「……でも」
「絶対駄目。零課なんて駄目。俺が心配だから駄目」
 泣きそうな顔になって、相羽が言い募る。予想していたこととは言え、その
表情には真帆もつられて泣きそうになったのだけれども。
「…………役に、立ちたいんだもの」
「真帆は、家で俺を待っててくれるのが一番役に立っててくれてるよ」
 ね、と、いつの間にか両手で真帆の頬を包んで。
「だから、それを一番にして」
 確かにそれはそうなのだと思う。それを真帆も揺るがす積りは無い。けれど。
「……でも、もし、手伝いしてなくても……なんだか実質、手伝ってるような
ことばっかりで……」

 香庭愛のことも、そして校舎に居た幽霊達のことも。
 ちゃんとそれが、何らかの手を打つべき相手である、と自分でわかっていた
としたら。最初からきちんと連絡し、誰かと相談するなり指示を聞くなりして
片付けることが出来たとしたら。

「……もしそうなら、尚吾さんに、仕事っていかないと思うもの」
 煙草の匂いでしか自分を表せなかった少女。彼女を助けたことについては、
真帆としても一切の悔いは無い。もし同じことがあれば今だって同じことをす
る。
 けれども。
「今だったら、あたしが気がついたことを尚吾さんに言うしかなくて……で、
大変なとこだけ仕事押し付けてるから」
「でも、真帆が気がつかなかったら、あの子はずっとあのままだったよ?」
「それは、そうなんだけど……だけど」

 互いに言いたいことは判っている。それでも自分が主張したいこともある。
 互いが判っているだけに、反応はどこかしらもどかしくて。

「まず最初、一日だけでも手伝ってくれないかって」
「一日って」
 一日で終わるわけが無いだろう、と、言いたげな相羽の表情に、真帆も口篭
る。
「……絶対危険なことはさせないって。尚吾さんがうちに居る時には、絶対に
仕事回さないって」
「危険なことさせないったって、そんなの絶対なんて言えない筈でしょ」
「や、だから、一緒に仕事する子をつけてくれるって。ちゃんと警察官として
訓練受けてる子」
 だから、と言いかけて……ふい、と言葉が詰まった。
「……駄目」
 ぎゅっと、抱きしめる腕。
「駄目。俺がわがままかもしれないけど駄目。真帆が危険になるのは駄目」
 どれだけ自分が大切に思われているか、そのことは判っている。今だって突
き刺さるくらいに実感し、体感している。
 でも。
「一度くらい、手伝いたい……っ」
「真帆」
 
 我侭を言っている自覚はある。それはもうある。けれども。

「尚吾さんを、手伝いたい、んだよ」

 言えないことがある。
 反対し、言い募る相羽に、真帆からは言えない言葉がある。
(だって)
(それだけ怖いって、危険って……これだけ条件をつけても思うってことは)
(尚吾さんの仕事は)

 どれだけ貴方は危険な仕事を毎日こなして帰ってきているのですか、と。
 ……訊けるわけが無い。

「少しでも、仕事の時間とか減ったらいいな……って」

(貴女の集めた情報は……最終的には相羽君を利するものになります)
(それだけは私も約束できます)
 銀鏡と名乗った女性の、その言葉に嘘は無かった。一癖も二癖もありそうな
口調と表情の持ち主の彼女は、けれどもそういう時に口先だけの誤魔化しをす
るようには見えなかった。

「情報集めるのが、主だって言ってた、し」
「だけど」
「尚吾さんが……前に持ってた情報網、駄目にしたのあたしだもの」
 一瞬ぐ、と、言葉を詰まらせる気配を、真帆は耳元で聞いた。

 おネエちゃん情報網については、結婚前に散々聞いたことがある。県警でも
有名だった……そして現に非常に役に立っていたらしい……情報網を相羽が使
わなくなったのは、確かに真帆に会って以降のことである。
(もう、使えないから)
 それ以降も、情報収集の手際が悪くなったとは思わない、が。

「……だから」

 大丈夫だよ、と言われる。
 必ず帰ってくるから、と。
 胃の腑がぎりぎりと引き締められるような痛みを、夜の電話の度に一瞬覚悟
する。今から帰るよ、と言われて、ほっとする時のほうが流石に多い、のだけ
れども。
 それでも常に、一瞬恐怖が先に立つ。もしかしたら史久からの電話ではない
か、倒れたという電話ではないか。

「…………だからっ……」

 何があっても、でもそれだけは言えないと思っている。真帆が心配している
ことは相羽だってよく知っている。
 それでも黙っていることがあり、それでも続ける仕事がある。
 その上で言ってしまえば、それは多分相羽が譲る。そこまで判っていて、そ
れでも真帆が口に出してしまった、その事実の重さに。
 ……だから。
「だから…………」
 それ以上のことを言えない。

 
 ぎゅっと、押し付けるように抱き締めている手が、ふっと緩んだのはそれか
らどれほどの時間が経った頃だったか。
 恐る恐る顔を上げると、じっと真帆を見ている目があった。
 何かを呑み込んだ目だ、と、思った。

 だから。

「あのね」
 こわばった喉に、息を通す。出た声はとても頼りなかったけれども。
「まず最初に、一日だけ」 
「……うん」 
 何度も何度も、頭も背中も、撫で続ける手。
「とにかく……やってみてから、どれくらい危険かとか、そういうの、判ると
思うから」 
「…………」
「……銀鏡さん、物理的に危険なことはさせないって言ってたから」 
「…………わかってる」 
 
 ごめんなさい、ごめんなさい、と、何度も思う。
 一番役に立ちたいだけなのに、と、自分でも思う。
 この人が少しでも楽になるように、少しでも危険じゃなくなるように。
 ……それだけ、なのに。

「……そしたら……」 
「……うん」 
 じっと見上げる真帆に、それでも苦笑して、頭をくしゃり、と撫でる。
 苦い苦い薬を口一杯飲まされた後のような表情で。

「いつも……何もいえないから、さ」 
「……え?」 
 一瞬意味を掴み損ねて、首を傾げた真帆に、今度ははっきりと笑って、もう
一度相羽は繰り返した。
「……いつも、仕事のこととか、お前に言えないから」 
 瞼の縁が熱くなる。身体が震える。
 ちゃんとこの人は、判ってくれている。
「だから……辛い思いさせてるから」 
 一度、言葉が止まる。言いたくない言葉を、それでも無理にでも押し出す、
その準備のように。
 だから、と、小さく、口が動いた。
 
「だから、行っておいで」 
「…………っ」 
 手を伸ばして、精一杯抱き締めた。
 安堵と申し訳なさと。
 そうやって……自分から手を離してくれる、この人を。
 今度は真帆から掴まえる、為に。
 
「……ありがとう……ごめんなさいっ」 
「いいよ」 
 何度も何度も、撫でる手がある。
 どんな危険からも、真帆を、護りたいと思っている手がある。
 だから。
「危ないことは、ほんとに避けるから」 
「うん、それだけは……守って」 
 出来る限り、大きく頷いた真帆の頭を、ぎゅっと。
 押し付けるように抱き締める、手。

             **

 どうしてだろう、と真帆も思う。
 どうしてだろう、一番この人に喜んで欲しいだけなのに。否、一番この人の
為になることをしたいだけなのに……と。

 寝返りを打ちそうになって、止める。一緒に寝ている相手は、真帆のほんの
少しの異常でもすぐ感付く。もしも眠っていたら絶対に起きてしまう。
 だから。

(…………怒ったり、してないかな)
 莫迦じゃないか、と、真帆も思う。怒られても仕方ないことをこれだけ頼ん
で主張して、あれだけ折れて貰っておいて。
(怒られるのは、いや、仕方ないけど)
 でも。
(……嫌われたり、してないかな)

 思うだけで、胸の奥ががらんどうになったような怖さが走る。
 あおぐろく、冷たい闇が喉からこみ上げてくるような。

「…………」
 ぐ、と、真帆が唇をかみ締めた、時に。
 
 頭の下にあった手が、ゆっくりと背中に回される。もう片方の手が頭を包む
ように伸ばされる。
 少し笑う気配と一緒に、ぎゅっと抱き締められた。
 
 何にも怖くない、と、思う。
 何にも怖くない、怖いことなんて何にもない、と。
 ほっと息を吐いて……そして真帆の目から涙がこぼれた。

「……おやすみ」
「…………はい……」



時系列
------
 2007年9月後半から10月初旬

解説
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 説得と合意と……それら色々。

**********************************************

 てなもんです。
 であであ。 
 



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