Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage
Date: Thu, 13 Dec 2007 01:41:53 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31451] [HA06N] ふたりの 1
To: kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
Message-Id: <2f58daf20712120841w7e7193den93de87bdd3914fbf@mail.gmail.com>
X-Mail-Count: 31451
Web: http://kataribe.com/HA/06/N/
Log: http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31400/31451.html
[HA06N] ふたりの 1
====================
登場人物
--------
蒼雅 紫
品咲 渚
----
週末とはいえ、日中ということもあって、阪神高速はそれほど混雑していな
かった。大阪湾から瀬戸内海に至る海原を眺めながら、湾岸線をのんびりと走っ
ている。カブリオレはこういうときに、いい車だと改めて思う。制限速度を守っ
て走っている限り、寒さはあまり感じられない。むしろシートヒーターのおか
げで、ほんのりと暖かく心地良いのだ。
ハンドルを握りながら、渚は右の助手席をちらりと見る。両足を揃えて、両
手を添えて、お行儀良く紫が座っていた。ちらりと見ただけなのに、目が合っ
た。二人とも自然と表情がほころんでいく。こうして車に乗ってお出かけする
のも初めてではないし、目が合うことなら、一日あたりでも数え切れない程だ。
それでも、自然に。こうしてほほえみ合うのも数え切れない。
「渚さまと一緒なら、どこでもかまいません」
行きたいところがあるかどうか、聞くと大抵こう返してくる紫が、珍しいこ
とに。先月の中頃聞いたときに、ルミナリエに行きたいですと、少しもじもじ
しながら言った。
「思い出の場所ですから」
その言葉を聞いた渚は、去年と同じところはちょっと、とか思っていた自分
が恥ずかしく思えた。思い出の場所。渚にとってもそうなのだ。むしろ、特別
な場所とも言えた。二人の関係に、一度区切りがついた場所だ。そして、今の
関係の始まりの場所とも言える。
「去年は、電車すごく混んでましたね」
「うん、途中からぎゅうぎゅうになったよね。あの時、うち押されてコケそう
になっててさ、紫がぎゅーってしてくれてなかったら危なかった」
「だって、首根っこつかんででも、って渚さまがおっしゃってましたし」
「あはは、言った言った。うん、あの時はほら、紫ちょっと危なっかしい感じ
してたし……うちが離れたくなかったのもあったし」
えへへ、と笑いながら渚が本音を言った。
確かに、去年の今頃とは、二人の関係は大きく変わっている。紫に関して言
えば、元気なのは相変わらずだが、どこか空回りしている部分もあって、よく
転んだりしていた。しかし今は、ずいぶんと落ち着いて、その所作に優雅さす
ら感じられるようになっている。少なくとも、渚には。
渚はというと、紫の隣にいるのは同じだし、紫に恋愛感情を抱いていたのも
同じだが、保護者的な気分が少なからずあった。平たく言ってしまえば、紫を
渚が守っていた、守ろうとしていた、ということだ。
今はその関係が、かなり逆転しつつある。紫は渚を守ろうと思い、心を強く
持つようになった。渚は紫が強くなったことで、守ろうとする意識を、支える
方向に転換した。そして。渚にとっては不慣れながらも、心から甘えられる相
手を得て、無意識に身につけていた仮面が、少しずつ外れてきているのだった。
「手離したら、居なくなっちゃうかも、って、あの時本気で思ってたの」
「渚さま……」
「そんなわけないのにね。いや、去年のうちはほんま、アホの子やった」
紫が、渚の仮面に気づいたのは、二人で一緒に生きていく、そう誓ってから
のことだった。紫が憧れていた、渚の強さ。明るさや、決断の早さ。それがし
ばらくの間、まったく見られなかったのだ。当初戸惑っているだけだ、と思っ
ていたのだが、それは思っていたよりも長く続いた。少し落ち込んだように俯
いていることがたびたびあった。それでも、紫の姿を確認すると、すぐに顔を
あげて、いつものように笑っていたのだが──。
ある夜のことだった。二人でのんびりと、いつものように、レシピ片手にカ
クテルを作ったりして過ごす週末。いつもなら、紫が先に酔いが回って、うと
うとしてしまうのだが、その夜は違った。明らかにいつもよりペースが早い。
「渚さま、どうかなさったんですか……?」
そういう紫も、あまりお酒が強いわけではない。ただ、呂律がまわらないな
りに、かまないように気をつけて問いかける。
渚はゆっくりと顔をあげて、そのまま、紫に倒れかかった。それを慌てて受
け止める。右耳のすぐ側で、渚がなにか言っているのが聞こえた。少し集中し
て、聞き取ろうとする。途切れ途切れの渚の言葉は、不安を吐露するものだっ
た。
渚を抱きしめながら、紫はゆっくりとソファにもたれかかる。紫にとっても、
これほど弱っている渚は久しく見ていない。偶然、紫に気持ちを伝えてしまっ
たとき以来だった。
「渚さま、渚さまは……謝らなくてもいいんです。私はここにいて……どこに
も行きません。それに……私の指定席は、渚さまの隣で……渚さまの指定席は、
ここなんですから」
今、紫の目の前にいる渚こそが、渚の本来の姿なのかもしれない、と思った。
悩んで、迷って、そしてそれを打ち明けることもなかなか出来ずに。
今日のこの日まで、どれだけ一人で。いろいろなことに悩んで、迷って、そ
れを押し殺してきたのだろう。膝を壊した中学の時から四年間、ずっとそうし
てきたのだろうか。外では明るく振る舞って、心配事なんてないように振る舞っ
て。
腕の中の渚は細く、頼りない。今まで紫を守り導いていた腕は、ずっと震え
たままだ。それでも、明日になったら。また、紫を守ろうと頑張るのだろう。
それは、ずっとそうさせていくのは──
「……出来ません」
「え……? あ、ごめん、うち、なんかずっと愚痴愚痴してて……」
小さく顔をあげた渚の顔を。前に、去年そうしたように。両手で頬に手を添
えて、そっと唇を重ねた。
時系列と舞台
------------
12月中旬。
またルミナリエに行く途中。
解説
----
ドライブしながらなんとかかんとか。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
Toyolina
---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log: http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31400/31451.html