[KATARIBE 31450] [HA06N] 小説『しょうちゃんの企み』

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Date: Wed, 12 Dec 2007 23:52:06 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31450] [HA06N] 小説『しょうちゃんの企み』
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2007年12月12日:23時52分06秒
Sub:[HA06N]小説『しょうちゃんの企み』:
From:久志


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小説『しょうちゃんの企み』
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登場人物
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 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :ヤク避け相羽の異名を持つ刑事。嫁にはダダ甘だったりする。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。相羽の妻。すっかり母。
 縹(はなだ):雨竜の子。
 チロ&ペロ&花子:相羽家で買われていたベタの霊達。
 お店の人
     :かなりやり手とお見受けします。

密かな企み
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 ケーキ屋の白い紙箱を開く時の音、銀紙の擦れる音。
 いつ聞いても、心地よいものがある。

「ほら、取り合いしないの」

 ひらひらとつつきあう赤と青、その下に。
 テーブルの上に並ぶ六つの白い小皿。その上に乗った黄色いモンブラン。
今時の洒落たデザイン重視のスイーツといった風情の欠片もない、四角い銀紙
に包まれたスポンジと上に螺旋状に包む黄色いクリーム、てっぺんには半分に
切った甘露煮がちょこんと乗っている。
 よくある、昔からありふれたデザイン。
 だが甘党の相羽がケーキの中でことの他好きなのがこのモンブランだった。

「ちゃんとみんなの分あるんだから、ね?」
 レースのようなヒレを波打つように震わせて威嚇しあう赤と青のベタ。
「ほれ、ケンカしてると俺が食うぞ?」
 ちょいちょいと手にしたフォークをベタ達の前で回す。びゅんと、弾かれる
ようにケーキへとすっ飛んでいく赤と青を見て思わすくつくつと笑いがこみ上
げた。
 と、服の袖をつまんでちょいちょいと引っ張る手。
「きゅうー」
 四角い銀紙を鼻先で押しながらきゅうきゅうと泣く縹。
「ん、ああ、銀紙か」
「いいです、あたしがやりますから、尚吾さん先にどうぞ」
「そう? じゃあ、いただきます」
 かしゃかしゃと、銀紙をはがしてクリーム地をフォークで削る。

 口の中に広がる甘い栗の味。

 記憶の底。
 モンブランといえば父の手土産。
 父にとってケーキといえばモンブランで、父が白いケーキの箱を片手に帰っ
てきた日はそれだけで心が躍ったものだった。普段無口であまり表情を出さな
い父の精一杯の心づくしだったのだろうと、今になって思う。

「はい、どうぞ」
「きゅきゅー」
 顔のあちこちにクリームをつけてまふまふとモンブランにかぶりついて満足
げに目を細める縹。
「こら、クリームだらけにして」
「きゅぅ〜」
 小さい子のように目を細めて顔を拭われる姿が妙におかしい。

 あの頃の父も、そんな風に思っていたのかも知れない。

 ふと縹の顔を拭う手を見る。
 すっきりと荒れたところ一つない指。

 かるく目を閉じて、薬指にあの指輪がはまった図を思い描く。



「ふぅん……綺麗なフォルムだね」
「はい、とてもシンプルですが、この独特の柔らかいラインは飽きのこない
お勧めのデザインです」
「イニシャルと……日付も入れられるんだっけ?」
「はい、奥様のお誕生日とイニシャルの刻印、こちら一週間程お時間を頂きま
すがご都合はよろしいでしょうか?」
「うん、丁度いい感じかな」
「……イニシャルですが、ここはお客様のイニシャルとご一緒に刻印するのは
いかがでしょう?」
「俺の?」
「ええ、お客様から奥様へということで、きっと奥様もお気に召されるのでは
ないでしょうか? 例えば」
 さっとペンをとって、傍らの紙にさらさらと文字を書く。

 日付  イニシャル to イニシャル

「奥様用の指輪は、旦那様のイニシャルの後に奥様のイニシャル」
「ほう」
「……そして」
 小さく息を継いで。
「もし、旦那様用の指輪もお考えになった場合、奥様のイニシャルの後に旦那
様のイニシャルが入る形になりますね」
 言葉をきって自然に顔を上げる。

 瞬きをして、店員の顔を見るまで、きっかり3秒。

「……俺の?」
「はい、お考えになってみてはどうでしょう」
「指輪……ねえ」
 流石に考えもしなかった言葉に、思わず腕組みをする。
「こちらの指輪でしたら、男性の方でも自然におつけになれますし。お二人の
思い出を共有する記念の品として、お揃いの指輪にお互いのイニシャルを刻ん
で身につける……素敵ではありませんか?」
「……お揃いの……想い出の品か」
 ふと、手が襟元のネクタイに触れる。
 真帆と揃いでつけている、銀のエルサレム。

 お揃いの、イニシャル入りの、指輪。
 手にしたリングをもう一度、眺めて、自分の指を眺めて、顔を上げる。
「……サイズ、さ。知らないんだけど……自分の。測れるよね?」
「はい、もちろんです。どうぞ、お手を」



 ふわりと、舌の上に広がるマロンクリーム。
 あの後、左手薬指のサイズを測ってもらい、実際の指輪をはめてみて。
 結局……二人お揃いの指輪を買うことになり、既に引き換え表と引渡し予定
日は決まっている。
 当初の予算からすると少し、いや大分、いやかなりオーバーした感があるが。
暫く煙草の本数とコーヒーの量を減らすことで充分カバーできる範囲内である
ことは、計算はしている。

 なにより。

 三分の一程減ったモンブランをフォークで削り取る。スポンジ生地と中のカ
スタードクリームをちろりと舐めて。

 指輪を見て、真帆はどんな顔をするだろうか。
 喜んでくれるだろうか。
 指にはめる図を思い浮かべて、思わず笑みが浮かぶ。

「尚吾さん?」
「ん?」
 ことん、と。首をかしげて真帆が顔を見ている。
「ああ、お茶おかわりもらっていい?」
「あ、はい」
 ぱたぱたと湯飲みを持って席を立つ真帆の背中を見送って。

「早く、こないかね」
「きゅ?」
「こっちのこと」
「きゅうぅ?」
 んにに、と首をかしげる縹の頭を撫でて、笑いをかみ殺す。


時系列
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 2007年10月後半
解説
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 真帆に秘密で誕生日プレゼントを買った相羽。密かに楽しみに待つ。
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以上



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