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Date: Mon, 10 Dec 2007 00:22:02 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31446] [HA06N] 小説:『零課からの勧誘・2』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200712091522.AAA89550@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 31446
Web: http://kataribe.com/HA/06/N/
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2007年12月10日:00時22分01秒
Sub:[HA06N]小説:『零課からの勧誘・2』:
From:いー・あーる
ども、いー・あーるです。
続きです<端的な
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小説:『零課からの勧誘・2』
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登場人物
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相羽真帆(あいば・まほ)
:自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
銀鏡 栄(しろみ・さかえ)
:県警零課の一員。主に戦力勧誘、交渉を請け負う。
本文
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最近美味しくなりだした茸を玉ねぎと一緒にいためる。そこに、前もって焼
き色をつけた鶏肉を戻し、白ワインと水を注ぐ。
「っと……生クリーム」
さっぱりした魚介類が、尚吾は好物である。かといって、魚ばかりだと真帆
も献立が尽きる。それで出来るだけ、脂っこくない肉料理を考えるわけだが、
このクリーム煮ならば、まあ許容範囲に入るらしい。
とは、言え。
(……もっと好物にすれば良かったかな……魚と煮付けとか)
そこまで考えずに献立を考えたから、今日はこれに、茄子の揚げ浸しである。
揚げるといってもレンジを使うために、いわゆる『油ぎっとり』とはならない
ので、これなら大丈夫、と、一応お墨付きはもらっている、ものの。
(なんかこう……割に、ものすごく好きじゃなくてまあ好きくらいのお料理に
しちゃってないかな、自分)
今日は、多分相手が一番反対しそうなことを頼まなければならないのに。
**
吹利県警、零課。
少々前近代的と言えば言えるかも、と、彼女は笑った。
「前近代的?」
「って言うとアメリカとかから苦情が出そうですけど……要するに、賞金稼ぎ
がいるんですよ」
「へ」
真帆の顔がよほどすっとんきょうだったのだろう、女はころころと笑い……
そしてふと笑いを収めた。
「零課は、異能者たちの起こす事件を中心に扱っています。幽霊や怨霊、そう
いう類の起こす事件も。つまり」
「……相手の異能次第、なんですね?」
「そうなります」
それくらいは真帆にしても理解できる。異能というのは大概の場合生まれつ
き、だと思う(とりあえず自分の異能が誰かに教わったり訓練したりのもので
はないことくらいは知っているのだし)。そして、異能がある場合、普通の…
…異能者ではない人間は、大きなハンデがあるだろうことも。
「真帆さんにお願いしたいのは、情報収集です。それも事前の」
ぐるぐると真帆が考えている間に、女はどんどんと話を進める。
「危険が無い、とは申しません。ただ、貴女にそういう……何ですかね、肉弾
戦についての期待はしてないですし、返って守る必要があることは承知してい
ます。ですから、他の、ちゃんと警察としての訓練を受けた者と組ませる積り
でおります」
「情報収集……ですか」
「ええ。例えば……香庭愛の時に、貴女がなさったようなことですね」
さらり、と言われて思わず真帆は顔をしかめた。
「すみません。でもそれで相羽君は、豆柴君より早く、かつ確実に入手できた
わけですから」
「……」
貴女も豆柴君と呼ぶんですか、と言いかけて真帆は口をつぐんだ。
とりあえず……問題はそこではない。
「でも、そちらの……零課ですか?そこに私が判るくらいのことを調べる人は
居ないんでしょうか」
「いや、完全に居ないとは申しませんよ」
彼女はちょっと肩をすくめた。
「けれど、貴女の異能の場合、例えば霊が見えない人間にも、霊との交渉を可
能にすることが出来る。それに相手が死後、それなりの力をつけたとしても、
貴女の元では生前の姿に戻る」
「……」
「そういう異能者が情報を探ってくれると、実は相当経費削減になるんですよ」
にこっと笑うと同時にとんでもないことを言ってくれた相手に、真帆は首を
傾げた。
「さっきの、賞金稼ぎね。例えばこれこれの犯人を特定し、捕まえろという場
合と『これこれの犯人がここに居るから捕まえてくれ』ってのでは、それなり
に賞金が違うんですよ」
「……私を雇うほうが安いくらいに?」
「ええ、貴女を最高の非常勤の給料で雇うほうが相当安上がりなんですよ」
あっさり言われて真帆は思わず溜息をついた。
「でも、私は、警察じゃありませんし……その、そういう……何ですか、訓練
というか、心得ってのは無い、んですけど」
「ご謙遜を、というところですよ」
ひょい、と肩を竦めながらの女の言葉に、真帆のほうが少し首を傾げる。そ
れに女はまた笑った。
「貴女は結構長く、国立の機関で働いている。それもアルバイト扱い、決して
金銭的に報われるものじゃない。それでもそれを妥当と考えている」
「……それは……ええ、だって妥当と言えますから」
環境問題、温暖化問題。非常に耳目を集める仕事だが、その末端のかなりの
研究者が、『来年のことは判らない』状態で仕事を進めている。環境問題は金
にならない、その上で、でも必要なことだから仕方ない、と、ある意味居直っ
た面々でなければ、こんな仕事は続けられまい。
「そういう意味では、金よりも公を……ある程度までは優先してくれる、と、
こちらも安心出来るんですよ」
それは……恐らく大概の科学者が同じことを考えるだろう、と、真帆として
は思うのだが……しかし女はそれだけに止めなかった。
「それにね、何より貴女には、県警に残って我々に協力してくれるっていう根
拠がありますから」
「……根拠、ですか」
「ええ」
女はこくりと頷いた。
「何より、相羽君は県警で働いてますからね」
真帆はぐっと詰まった。
「私達は確かに、貴女に十分な賃金を払うことは出来ません。賞金稼ぎとして
貴女が働かれるのに比べたら、とてもとても金額としては低いと思います」
女の愛想のよい表情は変わらない。こうなると彼女の笑みは一体何を示して
いるのか、真帆にはわからなくなる。満足なのか勝利感なのか、してやったり
とほくそえんでいるのか。
「貴女の得た情報全てを、相羽君が使えるわけではありません。相羽君が欲し
がっている情報を必ず貴女が探せるわけでもないと思います。けれども」
すう、と、少し身をかがめるようにして、女は真帆を見る。視線を合わせ、
その目を見据えるようにして。
「貴女の集めた情報は……最終的には相羽君を利するものになります。それだ
けは私も約束できます」
それだけ言うと、彼女はすうっと背を伸ばして顎を引き……そしてふっと、
溜息のように笑った。
**
手伝えたら、と思っていた。
守秘義務をきっちりと、それこそ一分の隙も無く守る相羽は、どれだけ悩ん
でも、その内容を漏らすことはない。無論それに文句があるわけではなかった
けれども。
(真帆は近づかないよう……待ってて。)
自分が出会い、発見した事件を、結局相羽が解いてゆく。ここからは危険だ
から、ここからは手を出さないように、と。
守られ、護られている。うちで待っていて、きちんと片をつけるから、と。
ただ。
ドロシー・セイヤーズ描くところの有名な探偵、ウィムジイ卿。彼がある事
件で言ったことがある。女性がヒステリーを起こすのは無理はない。危険な出
来事が起こっているという時に椅子に座らされ、何一つ教えられず、ただ穏や
かにしていろ、後の始末は何一つさせて貰えない、となったら、それこそ男だっ
てヒステリーくらい起こすだろう、と。
護られ、守られている。そのことはいつも感謝している。
だけれども、その間、相羽は自分の身を本当に危険なところに置くことがあ
る。そうやって守ってくれたとしても、彼はそれを言うことすら無いだろう。
何かが起こっていることは確か。
危険な中に居ることは……多分確か。
でも、具体的には何一つ判らない。疑問だけが積み重なる。
無論、自分の調べた知識が、相羽の仕事を増やす結果になるかもしれない。
けれども今までのように、何の気無しに穿り返して、結果迷惑をかけることに
なるよりは。
(少しだけ、知っていることが多くなる)
『とりあえず、一日だけ試しにやってみませんか』
それでも、相羽が反対した、というのは事実である。ならば自分がそれを受
けるわけにはいかない、と、真帆は言ったのだが。
『それで、どれくらい危険な可能性があるのか、どんな心配があるのか、が、
まず真帆さんにわかると思いますから』
『……でも、私』
『ああ、相羽君がこちらで仕事している間にしときますよ。彼の待機の時に仕
事を押し付けることはしません』
目尻の笑い皺が、少し深くなって。
『貴女にお願いしたいのは情報収集ですからね。それに物理的に危険な場所は
極力避けようと思ってますから……そうなると、あんまりこう『急いで情報を
得なければ』って場面には投入出来ないと思うんですね』
うんうん、と頷きながらそこまで言い……そして女はくつくつと笑い出した。
『それに、そうでも言わなければ相羽君が納得するわきゃないですしね』
『…………』
多分それは本当だけれども、それをこうはっきり他人から言われると、何と
も気恥ずかしい。
「っと」
ぶくぶくと煮詰まりだしたクリーム煮の火を止め、ごま油を少しだけ垂らし
た茄子の輪切りをレンジに入れる。
「…………言ってみるしか、無いんだろうな」
先程の電話からもう20分。そろそろ戻ってくる。
レンジのドアを閉め、加熱時間を設定して『スタート』を押した時に。
「ただいま」
声が、聞こえた。
時系列
------
2007年9月後半から10月初旬
解説
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県警零課の勧誘に、やはりひきつけられる真帆。
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てなわけで。
ああ、先輩が……怖い(がくぶる)<おい
であであ
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