[KATARIBE 31436] [HA06N] 小説:『零課からの勧誘・1』

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Date: Tue, 4 Dec 2007 01:40:52 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31436] [HA06N] 小説:『零課からの勧誘・1』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2007年12月04日:01時40分52秒
Sub:[HA06N]小説:『零課からの勧誘・1』:
From:いー・あーる


てなわけで、いー・あーるです。
少しずつですが流します。

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小説:『零課からの勧誘・1』
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登場人物
--------
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
 銀鏡 栄(しろみ・さかえ)
     :県警零課の一員。主に戦力勧誘、交渉を請け負う。

本文
----

「お断りします」
「おや、なぜ?」
 こつ、こつ、と音がする。デスクをボールペンでたたく音。
「幽霊校舎の件と葉島辰夫君の件。この2件で、彼女の能力は良くわかりまし
たよ。使い方を選べば相応に有効だってことも」 
「そういう問題じゃありません」
「それに、零課に入ったほうが、偶発事故は抑えられるかもしれませんよ?」 
 愉快そうな女の声の語尾に重なるように、がたり、と、立ち上がる気配があっ
た。
「だめです、あいつは俺の嫁です。あいつをこれ以上危険な事象に関わらせる
ことは、夫として了承できません」 

 失礼します、と、最低限の礼儀にぎりぎりひっかかるような口調で言い放つ
と、男はそのまま部屋を出て行った。
 くつくつ、と、小さく笑う気配が部屋に広がったのは、扉の閉まる音がして
から、暫し過ぎた頃だった。

          **

「というわけでね、直接お話したかったんですよ」
 その女性は、真帆よりも5歳がところ年上に見えた。
 その年齢まで第一線で働いてきた女性に特有の、どこかすっと筋の通った立
ち姿。こめかみのあたりから白髪が出てきているが、それが返って年季や経験
を連想させる。かっちりとしたラインのスーツを、ごく自然に着こなしている。
「電話を頂きましたので伺いましたけど……」
「ええ、貴方のご主人にはもう話しましたけどね」
 ばりばりと仕事をしそうな女性は、気さくな口調で話しかけてくる。
「え?」
「でも、何だか問答無用で断られちゃって」
「え……でも」

 それならば真帆としては、最初から聞く必要が無い。それをもう少し穏やか
な口調で言うにはどうしたら、と、言葉に迷っていた時に。

「でも、だからこそ貴方に直接お話したかったんですよ」
「それでも、相羽がお断りしたのなら」
「貴方の異能のことですよ」
「……」

 女性は、デスクの端に軽く腰をかけるようにして、真帆のほうを向いている。
少し細められた目が、またふっと柔らかくその線を揺らがせた。

「最初に気がついたのは……あれはまだ、相羽君が独りだった頃ですよ。三月、
まだ雪が残るくらいの時のこと……覚えてません?」
 言われて真帆は首を傾げる。
「……丁度その頃に、相羽に会ったばかりだと思いますし……でも?」
「こちらにね、仕事が入ったんです」
 県警零課。異能者達の起こす、異能による事件に対処するための課。そこに
ある人から通報があったのだと言う。
「ある路地に、危険な霊が居る。足を見つけてくれ、と声をかけ、見つけられ
ない相手を襲う……とね」
 すっと視線を上げて、女は笑う。
「思い出しました?」

 それはもう2年以上前のこと。
(……ちょっとこちらで試してみろ)
 そう、幸久にいわれて、一緒に行った先の……

「実は、我々もあそこに行ってみたのですよ」
 口元を吊り上げるようにして、彼女は笑う。
「そしたら……おや不思議、もともとあった筈の気配も何も無くなっている。
どうやらそのまま昇天したらしい、と、調べに行った面々から報告がありまし
てね」
「…………それで」
「ええ、調べました」

 ひらり、と、手の中の束ねた紙を、彼女はこれ見よがしにめくってみせる。

「その後も幾つか。殊に最近では……まず香庭愛の件、化け物校舎の件、そし
て……」
 ひらり、とまた一枚紙をめくって。
「……葉島辰夫の件」

 その件については、真帆も言い逃れのしようが無い。何といっても葉島貞男
……辰夫の父……の元に辰夫を連れてゆく際に、その許可を出してくれたのが
この女性……銀鏡栄、なのだから。

「こちらも多少調べさせて頂きました」
 二歩、三歩とあとずさる真帆に正対しながら、女はやはり笑っていた。
「あ、そういう異能がどうこうとか申しません。私もこれで、貴女と同様、異
能持ちなんですから」
 ただ、と、ちょっと首を傾げて女は言葉を続ける。茶目っけのある表情は…
…もしそれが芝居だとしても……妙に茶目っ気のある、裏の無い印象を与えた。
「でも、私達にしても驚いたんです。足の無い女の遺恨はあの場に一切残って
居なかった。寧ろ満足と安心だけがあそこに残っていた」

 部屋は、おおむねきちんと片付けられていた。
 おおむね、というのは大量にデスクの上に重ねられた書類のためである。部
屋の壁、二面をぎっしりと占めた本棚と、そこに重なる本。どれもこれも背表
紙は手ずれがしており、十分に読んだものである、と見当がついた。
 デスクの上の書類も、一応は大きさ順に並べられ、重ねられている。ただ、
やはりものを『片付ける』場合、ある程度は『場所』も必要になるわけで……
そういう意味では、片付け能力がどうこう、以前に、書類が多すぎるのだ、と
真帆は一人納得した。

「最近の3件もそう。香庭愛についても、彼女は貴女を恐れなかった。寧ろ見
ず知らずの貴女を頼りにしていた。化け物屋敷も同様」
「あ、いえ、あれは……子供達も一緒だったから」
「ええ、子供達についても、あれくらいで済んだんでしょうけどね」
 微妙なてにをはの違いで、えらい印象が違うじゃないか、と、真帆が言い募
ろうとした時には、もう彼女は次の話に進んでいる。
「何より……この前の事件」
 まとめた紙の縁を、女は軽く口元に当てた。少し上目遣いに真帆のほうを見
やる。
「貴女の異能は……あやかしや幽霊の実体化。それも生前の状態に戻すもの」
 ぐ、と、唇を噛んだ真帆に、女はにっと笑った。
「でも、それ以上に貴女は、実体化した面々を安心させる。元々は幽霊、この
世に未練を残していた筈の面々に、貴女は自然に好かれ、信頼される」
 これはね、と、やはりまとめた書類越しに、女は真帆を見据える。
「我々からすれば、大いに長所となります。特に彼らから情報を得る場合、ま
た……そう、彼らの居る場所を変えて欲しい場合。……いや、祓う場合だって、
貴女のように一旦親しくなり、ちゃんと理をもって説得することが可能になれ
ば」
「……警察としてはそのほうが良い、と?」
 ふっと口を開いた真帆に、女はちょっと目を丸くしたが、すぐに微笑みなが
ら頷いた。
「確かに私達は、多少荒っぽいことはしがちですけれども、でも一応これでも、
市民の味方の親切なお巡りさんを目指しているんですよ?」
 ですから、と、やはり微笑んだまま、しかし女はそこで目を少し細めた。
「相羽真帆さん。私達は貴女を、吹利県警零課の、非常勤職員として雇いたい
のですけれども」
 柔らかな三日月を描く目は、しかしその外見的な笑みの形にも関わらず……
酷く鋭い光を帯びていた。


時系列
------
 2007年9月後半から10月初旬

解説
----
 県警零課に勧誘される真帆。
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 てなもんです。
 であであ。
 
 


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