[KATARIBE 31435] [HA06N] 彼女の願い

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Date: Sun, 25 Nov 2007 23:41:15 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31435] [HA06N] 彼女の願い
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[HA06N] 彼女の願い
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登場人物
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 東堂幹也
 箕備瀬梨真


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「あ」

 仕事を終えて、スーパーに向かっていた幹也。その視線の先には、今スーパー
から出てきたばかりの女子高生が居た。手には、二袋ほど、買い物袋を提げて
いる。
 彼女には見覚えがある。毛先のふわふわしたロングヘア。そして丈の長いセー
ター。西日を浴びているせいか、オレンジ色にも見える。
 肩にはスポーツバッグを提げていて、学生鞄は持っていないようだった。右
手にはなぜか包帯を巻いているが、慣れた様子で、左肩を何度か動かして、肩
から提げたバッグがずり落ちないように、位置を直している。
 見知った顔を見て、素通りしたりするほどシャイでも気難しくもないから、
幹也は素直に近寄って挨拶した。

「よう」
「あ。東堂さんお久しぶり!」

 一度会っただけだが、覚えてくれていたようだ。確か彼女の名前は……名字
はよく覚えていない。下の名前が梨真で、りまりま、と二つ重ねて通り名になっ
ているのは覚えている。友人の御羽貞我──彼もオワタ、という呼ばれ方の方
が通っているのだが──の彼女だ。

「りまさんだったよな、買物帰りか?」
「うん、晩ご飯のおかず買ってたところ。っと、仕事帰り?」

 黒いスーツ姿を見れば、流石に学校帰りには見えない。

「まぁ、な。食い扶持が増えたもんだから頑張らないといけなくてね」
「え。増えるもんなんですか? アレ、もしかして同棲とか……」

 言われてみれば、突然増えたりするようなものではない。ましてや、あり得
る話としては、やはり結婚したとか、同棲を始めたとか、そういった話だろう。
その意味で、りまりまの発言は的外れではない。ただ、その興味津々といった
口調と視線は、幹也を焦らせるのには十分な破壊力がある。
 幹也は強い口調で否定しようとして、語尾を消え入らせた。

「ちげーよっ! まぁ、その、妹みてーなもんだ」
「妹みてーな……そんな年離れてるんですか……」

 今度は、うわ、聞かなかったらよかった、という、どこか遠慮するような、
気まずい視線。同棲相手は、年の離れた妹みたいな子、と素直に解釈したらしい。

「ちげーっつの」

 かなり加減を気にしながら、りまりまの頭にチョップを入れた。彼の左腕は、
常人と比べるとかなり膂力に優れている。

「あいたっ、冗談っスよー。親戚の子とかなんですよね」
「成り行き、って言えばそれまでだけどな。まぁそんな感じ」

 どうやら加減は成功だったらしく、ツッコミの範疇に収まったようだ。
 しかし、幹也の気は晴れない。同居人のことを思い出してしまって、思わず
ため息がついて出る。

「はぁ」
「……あんまり嬉しくなさそー」
「元々嬉しくない。ただまぁ、突っぱねて路頭を彷徨わせても夢見が悪い」
「……男の人って色々大変なんだ。そうだ、最近、オワタくんとは会ったりして
ます?」
「なんか勘違いされてる気がしないでもないが、オワタとはこないだ会ったよ」

 りまりまの誤解を解くのはひとまず置いておくことにした。実際のところ、
彼女もそれを信じ切っているわけでもない。ルナの姿を見れば、また変わって
くるだろうが、今は後回しだ。第一、りまりまの口から、二人が共有する唯一
と言っていい名前が出てきたのだ。
 ああ、あの時全力で殴っちまったな。
 そう考えていると、やはりりまりまは言及してきた。

「別に、男の人同士の、友情? っていうんですか? 殴ったりとか、そういう
のは文句言わないっスけど……一応、ちょっとくらいは、手加減してあげて
ほしいです」
「……悪い、つい」
「あ、別に怒ってるとかそんなんじゃないですよ、男の人ってそういうもんだっ
てわかってるし」

 確かに、あの時は全力で殴ってしまった。たぶん、翌日は顔を腫らしていた
ことだろう。いかに、その場の流れとはいえ、諍いの結果ではないとはいえ。
りまりまの不満はもっともだ、と思った。しかし、彼女は殴ったこと自体は、
全然気にしていないようだ。
 幹也はまだ知るよしもないが、彼女の家では、二人の兄の兄弟ゲンカが日常
となっているのだ。当人同士はどう思っているかはともかく、りまりまは、兄
二人は仲がいいからケンカして居るんだと思っているのだった。

「たぶん、カツ入れるとかそういうやつなんですよね」
「ま、そんな感じ。で、彼女の立場から見て最近のオワタはどうだ?」
「最近? うん、やっと元気出てきたかなって感じ。いろいろあったし」
「そうか、ならいい」

 殴った目的は果たせたと言える。一番そばにいる彼女がそう言っているの
だから、間違いないだろう。

「……あいつは守るもんが多いからな。あんたがしっかり支えてくれ」
「うん、それはちゃんとやるつもり……東堂さんって、オワタくんとは……
どれくらい仲いいんですか? 友達? 親友?」

 少しためがあってから、りまりまが疑問を口にした。確かに、ただの知り合
いであれば、支えてくれ、なんて言ったりはしないだろう。それに、守るもん
が多い、なんて発言もオワタの事情をかなり知っていないと、口に出来るもの
ではない。
 親友なんて言葉がすんなりと出てくるのは女の子らしいな、とも思った。女
子と違って、男子はなかなか親友なんて言わないものだ。

「親友……と言っていいかはわからないが、大事な友達だ。それだけは言い切
れる」

 否定はしない。ただ、親友の定義が幹也には少しわからなかったから、自分
で納得いく言葉で応えた。それを聞いて、りまりまは安心したようだった。

「じゃあ、一つ、お願いしてもいい? たぶん、東堂さんなら、オワタくんも
話すと思うし」
「俺で力になれるならなんでも」
「ありがと。もしかしたら……ううん、たぶん間違いなく、そのうち、オワタ
くん、東堂さんに相談事してくると思うの。その話、真剣に聞いてあげて」
「……わかった、そうする」

 元気はでてきてはいるものの、やはりまだまだ悩みは絶えていないようだ。
そして彼氏のことを案じているりまりまの姿を見て、幹也はどこかほっとした。
 たぶん、彼女はオワタのことを心配して、案じて、そしてオワタの状況をきっ
ちりと把握しているのだ。その上で、自分ではどうにもならない、力にもなれ
ない、手伝うことも出来ない問題がある。
 それでもどうにかしたいのだろう。自分で無理なら、誰か助けてくれそうな
人を探して、お願いして。
 幹也自身、生来のお節介体質だし、頼られて悪い気はもちろんしない。それ
に、大事な友人の困り事を手伝う、解決するのに遠慮するつもりもない。

「たぶん、オワタくんって、相談する相手とかあんまり居ないから……手のか
かること押しつけてるけど、お願いします」
「いいよ、大事な彼氏を殴っちまったんだ。それくらいのことはするさ」
「ありがと。そうだ、オワタくんのケー番とか知ってる? 教えとこっか?」
「あぁ、そういえば知らなかった。頼む」
「うん。はいこれ」

 包帯を巻いたままの右手をスポーツバッグに突っ込んで、携帯を取り出して。
少し手こずりながら画面を開いて見せる。
 番号とメールアドレスを、幹也は携帯に手打ちで登録した。残念なことに、
幹也の携帯には赤外線の送受信機能がない。

「よかった。東堂さん、いい人で」
「お節介なだけだよ。ありがた迷惑って言葉もあるだろ?」
「でも、オワタくんにとっては……頼れる男の人、なんだよ。たぶん、たった
一人の。だから迷惑、なんて全然思ってないと思うよ」
「そうか、だったらこっちも助かる」

 なんともまあ、よく分かっているものだ。幹也は感嘆しながら、携帯を胸ポ
ケットにしまった。

「うん。それじゃ、そろそろあたし行かないと。今日はありがと、よろしくね」
「あぁ、そっちもな」
「うん、またね、ばいばい」
「じゃあな」

 二人とも手を振って、別れる。りまりまは少々危なっかしい格好で自転車に
乗り、ゆっくりと去っていく。なるほど、あれじゃオワタが放っておくわけが
ない、と思った。不謹慎な意味ではなく、純粋に世話を焼きたくなったんだろ
う、最初は。

 今度会ったら、その辺聞きただしてやろう。
 などと考えながら幹也も袖を揺らしながら歩き出した。

 少し進んだところで、振り返ってスーパーへと入っていく。
 うっかり、晩ご飯の食材を買うのを忘れるところだった。


時系列と舞台
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 オワタ父の事件から二週間ほど経った頃。


解説
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 りま子さんはこの後、オワタくんの家で晩ご飯を作りました。


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Toyolina
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