[KATARIBE 31434] [HA06N] 小説『いまだ初々しく』

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Date: Sun, 25 Nov 2007 23:20:57 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31434] [HA06N] 小説『いまだ初々しく』
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2007年11月25日:23時20分56秒
Sub:[HA06N]小説『いまだ初々しく』:
From:久志


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小説『いまだ初々しく』
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登場人物
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 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :ヤク避け相羽の異名を持つ刑事。嫁にはダダ甘だったりする。
 県警総務女子の方々
     :適齢期だったり、夢を持ってたり、独り身だったり。

物憂げ
------

 十月初め。
 すこんと抜けるように晴れた空と冷たい空気に微妙な季節の替わりを感じる。

 吹利県警。
 九月末に起きた陰鬱な保険金目的殺人事件の捜査もひと段落つき、年末に向
けた警備の合間、普段激務に追われている県警面子はつかの間の平穏な時間を
過ごしていた。

「……ふぅ」
 軽く口をすぼめて細く煙を吐き出す。
 吹利県警一階にある休憩室、その片隅にある喫煙コーナーで相羽はソファに
腰掛け、指先に挟んだ煙草の灰を灰皿に落とした。
 当人にとっては、休憩中に煙草を吸う、ただそれだけの仕草ではあるのだが。

「ちょっと、押さないでよ」
「ね、邪魔だって」
 休憩室の入り口側、数名の若い総務女子職員達がソファに座った相羽を遠巻
きに眺めている。
「どうしたのかなー相羽さん。なんかすごく真剣な顔してる」
「ちょっと物憂げに見える横顔、やっぱりかっこいいかも」
 どこか物憂げに目を伏せて何事かを考えている姿に、比較的若い恋愛に夢見
がちな女性陣には大層魅力的に映っているらしい。

 実際のところ。

(真帆の誕生日プレゼント、どうするかなあ)

 相羽が仕事以外で主に考えていることといえば、大半が妻の真帆ことといっ
ても過言ではない。
 日頃から何かと仕事で遅かったり、何かと心配をかけている真帆の為に出来
ることがなにか、何が喜ぶことか。仕事の合間に考えてることはこの所プレゼ
ントのことばかりだった。
「ふぅ」
 煙がゆらゆらと天井へ細く伸びていく。
 何が欲しい?と聞いて、きっと真帆ならば素直に答えるだろう。そして概ね
その希望の予測もおおよそ予想できる。しかしできるならば不意をついて驚か
せたいという考えもあった。
 ソファに座って足を組んだまま煙を吐き出して、前髪を軽くかきあげる。
 一つ一つのパーツやスタイルで言えば、飛びぬけて美形ともいうほどではな
いのだが、どことなく湧き立つような魅力がある。

「なんか、何をしてるってわけじゃなくてもなんか、こう、湧き立つ色気?
そういうの、あるよね」
「あるある、ちょっと目を伏せて物憂げにため息つく姿とかー」

 本性を知らない若手女性連中がきゃあきゃあ騒ぐのも、県警でよく見る光景
の一つでもあった。

(メイド服にチャイナに、アオザイ……でも、また服っていうのもなあ……
水着もこないだ買ったし)
 しかしどれもこれも相羽の趣味以外の何者でもない。

「アレよ。色気のある男は池の蓮の花を眺めているだけで女を口説いてると
噂されるっていう」
「うわー、でもなんかそんな雰囲気あるある」

(一日休み……出来れば休みとって一日中ぺったりして過ごしたいけど……
そうも行かないしねえ)

 頭の中身が見えないということは幸せかもしれない。


ご相談
------

 いつの間にか、県警休憩室入り口には数名の女子職員達が鈴なりになって中
を覗き込んでいた。

「なに考えてるのかな〜相羽さん」
「なんか、こう、色気あるよねぇ」
「そそそ、若い子にはないというか、そういうのっ」
 総務元締め形埜大奥に見つかりでもしたらお小言確定のはしゃぎようである。

(何か、真帆が喜びそうな……参考になるものとか、あるかねえ)
 浴びせられる黄色い視線などさっぱり気にせずあれこれ考えていた相羽が顔
を上げた。
「あ、こっち向いた」
「ちょ、押さないでよ」

 慌てる女性陣の様子など気にした風もなく、ふと思いついたとでも言わんば
かりに声をかける。
「ねえ、君達さあ」
「は、はい?!な、なんですか、相羽さん」
「ちょ、ズルイ!」
「ちょっと、聞いてみたいことあるんだけど、いい?」
 小首をかしげて口元に笑みを浮かべる。ただそれだけの仕草なのに妙に色気
があるように見える。
「は、はーい!なんですかっ!」
「何でも聞いてくださーい」
 きゃあきゃあと押し合いつつ顔を出す女性陣に物思いの顔で言葉を続ける。

「例えばさ、誕生日の贈り物って、どんなものもらったら嬉しいかね?」

 さりげなく出された問いに、化学反応のごとく反応する女性陣。

「え、えー、ぷ、プレゼントですか」
「あの、相羽さん……誕生日……ひょっとして、奥さんの?!」
「相羽さんプレゼント買うんですか?」
「え?何がプレゼントですか?」
「え、え、奥さんにプレゼントですかっ」
 はしゃぐ女性陣に加えてどこから湧いてきたのか、わらわらと数名の女子が
相羽の周りに集まってくる。
「って、真帆さんにプレゼントですか?」
 その中に真帆と仕事で縁のある川堀の姿もいた。
「相羽さん、奥さんに今まであげたもの、って何ですか?」
「わ、気になるっ!」
 一気ににぎやかになった女性陣の様子に少し圧倒されつつも、今まで真帆に
プレゼントしたものをあれこれ思い返す。

「まあ……服とか、ね」
 流石にメイド服やアオザイをプレゼントしたなどと知れたら引かれるという
感覚はあったので、曖昧に誤魔化しつつ。
「ああ、あと銀のペンダントとか銀の櫛とか」 
「わあ、いいなーペンダント」
「うーん、そしたら指輪とかブローチとか?」
 顔を見合わせる女子達の前で、襟元を緩めて指先につまんだペンダントトッ
プをひょいと見せる。
「ほら、これ」
 小指ほどの大きさの銀細工のエルサレムの街並み。
「え?」
「それって……」
 目の前のペンダントみてぽかんと口を開ける女子一同。
「まさか……」
 視線を相羽の顔へと向ける川堀。
「……奥さんと、おそろい……」
「うん」
 まさか、といった風情の問いに事も無げに答える。

 しばし空白の時間の後、黄色い歓声が休憩室に響き渡った。
 頬を押さえてはしゃぐ者、隣を揺さぶって騒ぐ者、がっくりとうなだれる者。
「えーー!」
「きゃあぁ!」
「いーやー、おそろいってー」
「……ふ、ふふ……おそろい……おそろいって」
「川掘ちゃん、しっかりっ!これからよ!これから!」
「……うぅ……私、私……」
 きゃあきゃあとはしゃぐ女子一同を怪訝そうに見つつ。
「そんな驚くことかねぇ」
 当人、騒がせた自覚はさっぱりない。

「って、ことは、相羽さん、指輪は贈ったことないんですか?」
 ひとしきり騒いだ後、確認するように相羽の指を見る。
「ん、ああ……指輪は買ってないね」
「え、結婚指輪は……?」
 ようやく立ち直った川堀が指輪のはめられていない相羽の手をみて怪訝そう
な顔になる。
「え、結婚指輪くらいは贈ってるよねー?」
「おうちに置いてあるんですよね?」
「……買ってないね、そういえば」
「え?」
 沈黙。
「…………え、えええええええ?!」
 一斉にあがる声と避難の目が集中する。
「あれ……」
「そ、そ、それはだめですよっ!!」 
「そうですよ、それ基本ですよっ!」
 両手に握りこぶしで主張する女子達。
 適齢期の夢見がちなお嬢さん達にとって、婚約には誕生石のリングに結婚で
はプラチナの……などという天上の夢を余裕で持っているのだ。
「いや……特にいらないって言ってたんだ、けど、ねえ」
 流石に圧倒されてたじたじとこめかみをかく。

「……それです」
「そうです、決まりですよっ!」
 びしっと指差されて、しばし考え込む。

「指輪、か」


時系列
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 2007年10月半ば
解説
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 真帆の誕生日に向けて、プレゼントを考える相羽。
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以上



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