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Date: Sun, 18 Nov 2007 00:03:51 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31428] [HA06N] とある風邪の被害の一例
To: kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
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Web: http://kataribe.com/HA/06/N/
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[HA06N] とある風邪の被害の一例
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登場人物
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オワタ http://kataribe.com/HA/06/C/0718/
悪運が強いりまりまの彼氏。高2。
りまりま http://kataribe.com/HA/06/C/0717/
無防備で、えっちなふんいきの高1。オワタの彼女。
箕備瀬数馬 りまりまの下の兄。割とフレンドリー。
奇妙な光景だと思った。
その日の吹利県警は、どこか人気が少なくて、さらに居る人間も、一様にマ
スクをしていたり、咳き込んだり、くしゃみをしたりしているのだ。
そして、その日は、事件を担当していた刑事も居らず、りまりまは少し残念
な思いをして、県警を後にしようとした。
玄関を出ると、もう薄暗くなってきている。盆地の日の入りは早い。
早く帰らないと。そう思って下りの緩やかな階段を下りようとした。ぐらり、
と視界が傾く。とっさに手すりを掴んで、倒れそうになる身体を支えた。しか
し、肩にかけていた鞄がずれて、肘のあたりまで落ちてくる。
貧血かな、と思ったが、あまり貧血は起こしたことがない。となると、また
風邪を引いたのかもしれない。風邪以外はほとんど病気をしたことがないのだ
が、風邪だけはなぜか毎月のように引いて、一日は学校を休んでいるのだ。
ギブスで固定されたままの手を使って、どうにか鞄を肩にかけ直す。そして、
手すりにつかまったまま、視界の地面が水平を保つのを待つ。
一分ほどじっとしていると、どうにか視界の揺れも収まった。
よし。
念のため、手すりを持ったまま、ゆっくりと階段を下りようとする。
しかし、どことなく四肢が重い。
階段をゆっくりゆっくりと下りて、駐車場を抜けようとして。
普段、風邪をひいたときよりもさらに、足が前に進んでいかない。
全身から力が抜ける、というよりも。力が全然入ろうとしない。
その場で立ちすくむのが精一杯になりそうで、りまりまは手近なベンチにど
うにか座り込んだ。鞄から携帯を取りだそうとしても、うまく鞄が開けられない。
十秒ほどがんばって、どうにか携帯を取り出して。
電話をかけた。
「今どこ!? すぐ行くから!」
買い物帰りのオワタの電話が鳴る。彼女からの、普段はあまりかかってこない
時間帯の電話。少しひっかかるものを感じながら、受話する。
聞こえてきたのは、かすれた、小さな声だった。ただごとじゃない、そう直感
して、何か言ってるのを聞かずに、声を張り上げた。
「吹利県警の入り口の……ベンチ……入って、すぐのとこ……」
「わかった! すぐ行くから! 待ってて!!」
距離がどれくらいあるのかはわからないが、電話と買い物袋を両手に走り出す。
生卵や牛乳がないのが幸いだった。
途中、県警方面行きのバス停を見つけたのもラッキーだったし、数分でバス
が来たのも幸いだった。意識しているわけではないが、こういう場面で、オワタ
は何かと強運に助けられている。
十分ほどバスに揺られて、降りる。と同時に走り出して、りまりまが待って
いる筈のベンチに向かう。
りまりまは、両手を抱いて、震えていた。
「りまりま! 大丈夫か!」
「ごめん……だめそう」
ゆっくり顔をあげて、弱々しく、それでも笑おうとするりまりま。その口か
らは、強がりは出てこなかった。
「ほら、送るから……肩貸すから、な」
上着を脱いで、りまりまの肩にかけて、寄っかからせて立たせる。脇のあた
りに、柔らかい感触が押しつけられるが、オワタはそれを、あえて無視するよ
うにした。
「うん……なんか急に、かくーんってきて……」
「冷えてきたからかな……ほら、とにかく家までおくるから……」
「うん、わっかんないけど……流行ってるのかも。警察の人、みんなゲホゲホ
してたし……」
何度か息継ぎしながら言うりまりま。りまりまの鞄を、りまりまを支えてい
るのとは反対の手で持ち直す。
「そっか……ほら、りまりま風邪とか弱いだろ。辛かったら明日とかガッコ、
やすんでもいいから、ちゃんと体治せよ?」
「明日……うん、たぶんそうする……ごめんねぇ、面倒かけて」
足を動かすのがやっと、というりまりまを支えながら、オワタはりまりまを
たしなめた。
「……迷惑だなんて、思ってないから……ほら、その」
ちょっと視線が上を向く。目を見て話すには、恥ずかしかった。
「……心配だろ、彼女なんだし」
「……うん、ありがと」
寄りかかったまま、ぎゅっと抱きつく。バランスを崩して、二人とも倒れそ
うになったが、慌ててりまりまを正面から支えて、事なきを得た。
「ご、ごめん、力はいんないのに、へんなことして……」
「だ、大丈夫、ほら、その……ちゃんと、支えるから」
「うん……ありがと、うれしぃ」
正面から抱き合う形で、ごにょごにょ言い合う二人。
ここが県警の駐車場でなければ。たとえば、公園とか、海岸とか、部屋とか。
人気のない場所なら、もうしばらくこうしていただろう。しかし、オワタの理性
は大変強力だった。しがみついているようなりまりまを支えながら、どうにか
正面から隣に回り込んで、バス停に向かった。
それから二十分ほどバスを待つ。
屋根も、ベンチもない停留所だったから、りまりまは心底辛そうにしていた。
バスを待つほかの人の視線も気になったが、なるべく、オワタはりまりまが
楽に立っていられるように、支え続ける。
幸い、やってきたのは段差の少ない、低床バスだった。支えながらもどうに
か乗り込んで、出口に近い椅子に座らせて。駅経由で、りまりまの家近くのバ
ス停まで、迎えにきてもらうことにした。
バス停には、大男が一人、迎えに来ていた。以前、家に行ったときにも会っ
た、二人の兄の下の方。上の兄とは違って、まだ取っつきやすい面がある。
内心安堵しながら、オワタはりまりまを支えながらバスを降りる。
「……あ」
「あー、数兄ちゃん」
肩で息をしながら、りまりまが顔をあげて、小さく手を振る。
「どうも……」
「あー、オワタくん、ありがとね、リマ子拾ってきてくれて」
「いえ……急に寒気がしたって連絡があったんで……」
視線を気にしながら、りまりまを支えて、兄に預ける。
「だいじょぶか?」
「……たぶん……」
たぶん、の後は聞こえなかった。もっとも、大丈夫と言っても信じられはし
なかったし、無理、と言ったとしても、それならそれで手伝いが必要だ。
実際、答えたりまりまの顔は、すでに火照って熱そうだった。息も粗くなっ
ていて、支えがあっても立っているのが辛そうだ。
「オワタくんもちょっと手伝ってくれる? こいつ後ろに乗せるから」
後ろ、と言いながら顔だけ振り向いて見せる数馬。そこには、あちこちいじっ
てある大きなスクーターがあった。
「あ、はい」
数馬がスクーターを少し動かしている間に、オワタはりまりまを抱き上げて
いた。寝入った妹を布団に何度も運んでいるうちに、この姫だっこには慣れて
しまっていた。
「お、力あるねー。50キロあんのに」
「え? ああ、うちの妹も……寝入ったとき良く運んでましたから」
「……47だもん」
スクーターの後部座席に座ると、りまりまが少し不満そうに呟いた。ヘルメッ
トの影で、表情はよく見えなかったが。
「ほら、帰ったらちゃんとあったかくして寝るんだぞ?」
頭を撫でながら、言い聞かせる。後に、オワタは心底思った。下のお兄さん
が迎えに来ててよかった、と。
「いやホント助かったよ。今日、オヤジも兄貴も会合で居なくてさあ。ちゃんと
オヤジとかオカンにはいい風に言っとくから。お歳暮とか期待してて」
「はい、では」
「うん、じゃ、またね、おやすみ……」
「ちゃんと休めよ? りまりま」
頭を下げてから、もう一度りまりまの顔を見た。心配そうで、それでもどこ
か、それを表に出さないよう、努めているようだった。
熱でふらふらしているが、そんな表情を、りまりまは何度も見ている。だか
ら、少しでもオワタを安心させようと思ってこう言った。
「……うん、帰ったらすぐ寝るから。メールできなくてごめんね、ばいばい」
「んじゃ、ホント、ありがとうね。気をつけて帰って」
「はい」
ゆっくりと、りまりまを乗せたスクーターが去っていく。
角を曲がって見えなくなるまで、オワタはそれを見送った。
時系列と舞台
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オワタ父の事件から数日経った頃。
解説
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オワタ命拾い。
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Toyolina
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